太陰太陽暦の周期

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序章

●太陽と月の周期
 太陰太陽暦は「太陽の公転周期」と「月の周期」の関係の無い周期に、 なんとか折り合いを付けようとする暦です。

 双方の周期の関係を表す分数が発見されれば完全な暦ができあがるのですが、 両方とも周期が無限小数になるので、現在に至るまで周期を表す 「完全な分数」は発見されておりません。


近似分数

●太陽と月の周期
  • (1)1太陽年は平均365.242194・・・日
  • (2)1朔望月は平均 29.530589・・・日

    太陽年は地球が太陽の回りを1周する時間。朔望月は新月から次の新月までの時間と 思って頂いて良いでしょう。これを割り算してみます。

     太陽年 365.242194
     _________=12.36827.........
    
     朔望月 29.530589
    

     何処まで行っても終わらない小数が並んでおります。でもこの数をなんとかしなければ、 太陰太陽暦は作れません。現在の太陽暦と比べて太陰太陽暦が難しい原因はここにあるのですね。

  • ●近似分数
     12.36827...ではなんともしようがありませんので、この小数になるべく近い 分数を見つければ使いようがあるかもしれませんね。

     では12.36827.........になるべく近似する分数を探してみます。

    整数部の12をとって(12.36827-12=)0.36827の逆数を求めます。2.71538.....ですね。
    今度は2.71538整数部の2をとって0.71538の逆数を求めます。1.391748....
    今度は1.391748整数部の1をとって,,,,,,これを繰り返します。
    結果とった整数部だけ独立させて「連分数」の形で表してみます。

                1
     12+ ----------------
                 1
          2+--------------
                      1
               1+------------
    

    と続きます。これを逆数で戻していきます。

                              1
     (A) 12+(2の逆数)=12 + --- =12.5
                             2
    
    

    12.36827......でしたので12.5(25/2)ならば大部近づきましたね。ではもう1つ先へ。

             1                                              1
      (B)2+ --- =3(1は逆数にしても1)   3が得られたので3の逆数を足して , 12+---=12.3333
             1                                              3
    

     37/3となり先ほどより近づきました。これを更に進めて得られる数は

    25/2 37/3 99/8 136/11 235/19 4131/334 4366/353となります。


    八年法

    ●八年法
     古代ギリシアの初期(BC433頃までか)では、上記の分数の内99/8が使われていまして、 八年法と呼ばれております。もう少し具体的に見てみます。

  • (1)8太陽年 365.242194*8年=2921.937522日
  • (2)99朔望月 29.530589*99月=2923.538311日

    このように8年で約1.6日の誤差で太陽年と朔望月が折り合いを付けることが出来ました。

  • ●閏月
     8年*12ヶ月=96ヶ月ですね。99朔望月と折り合いを付けるのですから、 8年間で3回閏月を入れると約1.6日の誤差に戻ることになります。

    しかし80年で約16日、つまり半月ずれて行く事になります。どうやって折り合いを付けましょうか(^^;

    160年経ったら約32日ですので、1月閏を入れれば良いのですが、段々煩雑になりますし、 その間ズ〜トずれたままですね。太陽と月は元の位置に戻ってくれませんし(^^;
    端数は残ったままですし(^^;

    えい!暦が悪いんです。改暦しましょう(^^)/


    メトン周期

    ●これぞ基本
     メトン周期はギリシア時代に「19太陽年は235朔望月(新月から次の新月まで)にほぼ等しい」と メトンさんが発見しましたのですね。上記の235/19を使ったのですね。

  • (1)19太陽年 365.242194*19年 =6939.601686日
  • (2)235朔望月 29.530589*235月=6939.688415日

     これは約6940日で周期が同じになるわけです。上記小数でも約2時間の差ですね。

     太陽暦に言い直しますと 例えば今日2/25日が満月とすると、19年後の2/25日も満月となります。 喜寿の誕生日に月を見ると、生まれた時と同じ月が見えるというのは、 このメトン周期のことです。19年*4回=76年・・・大体数えで77歳。ですね。 (数えでは生まれた時が1歳で正月に年をとりますでしょ) ただし端数が積もりまして4回ぐらいでずれてきます。

     それで陰暦では19年で閏を何日入れるか計算していた訳です。 これは陰暦の根幹となる周期なのですね。中国では全く別に発見されていて「章法」と言います。 大の月125回。小の月110回のパターンになります。

  • ●カリポス周期
     1年を端数処理して365.25日とすれば19年で6939.75日。小数点が出るので4倍すればなくなります。 365.25日*19年*4倍=27759日と切りが良くなります。

     76年=940月=27759日となり、これをカリポス周期と言います。 メトン周期はBC432年に、カリポス周期はBC330年に導入されております。

     中国では大初暦や四分暦などの方法です。 。 

    ●ヒッパルコスの修正
     カリポス法に古代ギリシアのヒッパルコス(190-120BC)が修正を加えました。

    先ほど1年を365.25日としましたが、ヒッパルコスはそれより短いことを発見しました。 回帰年は365.25日より1/300短いので、カリポス周期の更に4倍の304年で1日短くしました。

     304年=3760月=11035日となります。

    ●その他
     これより長いのがアレキサンドリア流で 7*76年=532年周期ですね。

    このように後の時代になればなるほど、端数問題で合わなくなってきますし、 観測技術も上がり、また長年の観測資料が蓄積されますので、 中国や日本など太陰太陽暦を使いつづけた国々などは、 更なる改暦の必要が出てくるのですね。


    古代バビロニア

    ●古代バビロニアの粘土板
     今までは平均値を使っておりましたけれど、平均値は出来るだけ多くの 正確な観測地があって出るものですね。

     古代ギリシアよりももっと古い古代バビロニアの粘土板には
    11,3,9,28,25,15,47......とありました。

     前回計算しましたメトン周期12.36827.....を60進法に直しますと
     12+22/60+6/60^2+18/60^3+......

    1年の長さを朔望月(1/30単位)で表すと
    11,3,9,28,25,15,47......

     となりメトン周期は古代バビロニアでも使われていたようで、 19年7閏は、どうも「感」でやっていたようです。  いずれにしまても、19年の周期に気が付くまでは相当な年月がかかったと思います。


    あとがき

    ●1年の長さ
     1年の長さや1朔望月の長さは実は一定ではありませんし、軌道も変化します。 そのようなことが更に太陰太陽暦を難解にします。

     例えば平均値で表しました年月は少々項目を付け加えますと

  • 平均朔望月29.53058885+0.00000022T(Tはユリウス世紀[36525日])

    このように変化していきます。これでも高次式が省略されている形ですので、 もっと難しい複雑な変化をすることになります。

  • ●あとがき
     これで陰暦の構造が大体判明したと思います。 更に閏を何処に入れるか、春分点や夏至点などはどうするのか、 年初はいつにするのかと、大変な訳です。

     力を持ち、知識を持ち、長年の観測結果を持つ権力側が「こうだ!」 と決めないと、何ともならなかったでしょうね。

    今の太陽暦に慣れていますとなかなか想像できないですよね。

     現在では正式に太陰太陽暦を採用している国はないようですが、 宗教暦や慣習などで太陰太陽暦は世界各地に残っております。 日本でも旧暦で正月とか、お盆ですなどと言いますね。

    ●参考文献
    1. 時と暦・青木信仰著・東京大学出版
    2. 暦(日本史小百科)・広瀬秀雄著・東京堂出版
    3. 暦のはなし十二ヶ月・内田正男著・雄山閣
    4. 現代こよみ読み解き事典・岡田芳朗/阿久根末忠編著・柏書房
    5. 暦を作った人々・デイヴィッド.E.ダンカン著/松浦俊輔訳・河井書房新社

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