『復古外記 東山道戰記 第十三 明治元年閏四月五日』
　五七九-五八三頁

〇是ヨリ先、徳川氏ノ臣、小栗忠順上野介、舊幕府勘定奉行、其采邑權田村上野、ニ據リ、不軌ヲ圖ルノ聞アルヲ以テ、督府、高崎、安中、吉井三藩ニ命シテ、之ヲ緝捕セシメ、原某、保太郎、長門藩士、豐永某貫一郎、土佐藩士、ヲ遣シテ、三藩兵ヲ監督セシム、是日、某等權田村ニ至リ、忠順及ヒ共臣屬數人ヲ捕ヘテ之ヲ斬リ、其首ヲ梟ス。 　小栗上野介、近日其領地上州權田村ニ於テ、陣屋等嚴重ニ相構ヘ、加之、砲臺ヲ築キ不容易之企有之趣、諸方之注進心難聞捨、深ク探索ヲ加候處、逆謀判然、上ハ奉對、天朝不埒至極、下ハ主人慶喜恭順之意ニモ相戻候ニ付、追捕之儀、其藩々ヘ申付候間。爲　國家同心協力可抽忠勤候、萬一手ニ餘リ候ハ、早速本陣ヘ可申出候、先鋒諸隊ヲ以テ一擧誅滅可致候事。
　四　月
右之趣、被仰出候間、御達申入候、急々儘力可有之候也。
　　　　　　　　　　　　　　東山道總督府
　　　　　　　　　　　　　　　　　　執　事
　四月廿二日
　　　　　　松本右京亮殿　板倉主計頭殿　吉井鐡殿

右囘覧之上、右藩申合セ、追捕可致者也。總督府諸達留、大河内輝聲以下各家家記

　〇本條、諸達留載スル所、各家家記卜小異アフリ、今、家記ニ從う。

〇新田俊純從軍事蹟ニ云、四月下旬、舊幕臣小栗上野介事、上州州三野倉村へ引籠、追々要地ニ寄リ、砦相構候模樣、其上大小砲多所持、諸浪人等召抱、官軍ニ抗シ候景況此有之由、證書ヲ以注進者御座候ニ付、其段不取敢總督府ヘ相伺候處、右追討可被　仰付候得共、一先巨細ニ探索可仕旨、被　仰付候ニ付、探索ヲ遂ケ、委細異才繪圖面ニ致シ御届奉申上候處、追討之義ハ大河内右京等ヘ被　仰付候事。

○總督府日記ニ云、後四月三日、先頃上州權田村小栗上野介ヘ、高崎、安中、吉井ヨリ出兵應接ニ付、原保太郎、豐永貫一郎爲監察使罷越ス、
同十日豐永貫一郎、原保太郎歸府ス、小栗上野介並子又市首級及器械等護送シ來ル。

〇大河内輝聲家記ニ云、東山道總督府ヨリ依御差圖、閏四月朔日、板倉主計頭、吉井鐡丸、幷右京亮人數、．上州權田村へ差出、小栗上野介、同又市糺問之上、所持之大小砲、其外器械請取之、三藩ヘ御頂被　仰付、同四日夕、總督府御使豐永貫一郎、原保太郎、幣藩へ相越、右権田村ヘ出兵之儀被相達候ニ付、夜半、俄ニ隊ヲ出兵、翌五日、於三之倉村軍議、半隊上野介宿所後山手ヘ相備、半隊ヲ以、表門ヨリ繰人、保太郎糺問ヲ遂ケ候上、上野介主從四名、三之倉地内ニオイテ斬首、從者三名ハ同村外ニテ梟首、小栗又市幷從者三名ハ、兼テ弊藩内ニ手當致置候處、御差圖ニ依テ、同七日斬首、從者三名ハ城外ヘ梟首申付、上野介父子首級及武器等ハ、總督府へ護送仕候。

○安中藩記ニ云、御總督府ヨリ依御差圖、閏四月朔日、大河内右京亮、吉井鉃丸、主計頭人數、上野國權田村へ差出、小栗上野介、並忰又一所持之大小砲其外請取、三手家來へ御預被仰付、同四日、御總督御使豐永貫一郎、原保太郎、右京亮城下へ被相越、右權田村へ出兵之儀御達ニ付、兵隊夜半繰出、翌五日、於三ノ倉村軍議議、主計頭人數、上野介宿寺へ繰入、保太郎御糺問之上、於三ノ倉村内、主從四人斬首、家來三人ハ同村外ニテ梟首、忰又一並家來三人ハ、兼テ高崎表ニテ手當仕置候處、是又依御差圖、同七日斬首、家來三人ハ於高崎城下外梟首申付、上野介父子首級、並武器類共、御總督府ヘ護送候、又云、閏四月五日、上野介爲追討、出兵人數貳百貮拾貮人、外士分銃隊貳拾人、歩卒二小隊、同月廿五日歸藩仕候。

○吉井信謹家記ニ云、四月廿九日、上州權田村小栗上野御追捕ニ付出兵百十人、下室田村ヘ繰上(出カ)、同所無量院ヘ宿陣、閏四月朔日、三藩説得方、權田村上野介陣屋普請中、東善寺ト申ニ罷在候ニ付、此所ヘ相越應接、上野介御不審之兼々申達候處及伏罪、大砲二門、小銃五挺差出、同人謹慎、忰又市ヲ以御總督府ヘ謝罪旁爲申開差出、三藩之衆共々御歎願被成下候樣申立、同二日、又市並家來、塚本眞彦、踏掛藤五郎外壹人ヲ三藩ニテ警衛、高崎宿ヘ相越候處、同四日、御使員原保太郎属、豐永貫一郎属被相越候ニ付、前歎願之旨一應申立候處、右上野ハ逆謀判然タリ、依テ父子共速ニ召捕可申旨御沙汰、翌五日、右御同人ヘ屬、當藩兵隊東善寺ヘ操入溥ぎへ操人、上野介並家來三人、御使員御糺問之上捕縛、三ノ倉御本陣ヘ引立、所持武器類同樣御本陣へ差送、雜具ハ取集、夫々御兩員御封印之上、三藩ヘ當分御預ニ相成、申合番兵相勤候事、同六日、三藩隊長御本陣ヘ出張立會糺問之處、右上野介伏罪ニ付、即三ノ倉河原ニ於テ、上野並家來荒川雄藏、渡邊多三郎、大井磯十郎三人斬首被仰付、上野首級、館林御本呻ヘ被差送候ニ付、御達左之通、
　此廻章、各藩御承知之上、不及返納候、
一 小栗上野介首級護送之者各藩、　 伍長　一人
　　　　　　　　　　　　　　　　　兵士　二人ツヽ
　器械附屬之者各藩、　　　　　　　伍長　一人
　　　　　　　　　　　　　　　　　兵士　二人ツヽ
　權田留守之兵各藩　　　　　　　　伍長　一人
　　　　　　　　　　　　　　　　　兵士　二人ツヽ
右之通、各隊長ヨリ御差圖候テ、餘ハ悉解兵歸城可被致候也。
　　　　閏四月六日
　　　　　高崎　安中　吉井　隊長御中

右御達之通、人數等夫々相殘置る同七日、總軍下室田村迄引揚、翌八日歸陣致候事、同八日、於高崎、又市並家來三人斬首被仰付、同日父子首級並器械類、館林御本陣ヘ護送、九日館林表ヘ到着、翌十日、則首級機械類、御本陣ニテ御使員ヘ引渡、同日大音龍太郎屬ヨリ小栗上野介父子首級並器械、慥ニ請取候ニ付、勝手次第歸陣致候樣被申、依テ三藩歸陣致候事、十二日、權田村ヘ大音龍太郎屬被相越候ニ付、兼テ御預之雜具類、御引渡申候事。

　〇
　　　　　　　　　　　　　　　　　　小栗上野介
其方儀、奉對　朝廷叛狀明白ニ付、令蒙　天誅者也。
　　　　慶應戊辰閏四月六日
　〇
　　　　　　　　荒川雄藏　渡邊多三郎　大井礒十郎
其方共儀、主人之惡ヲ逢迎シ、共ニ働奸逆候條明白ニ付、加　天誅令梟首者也。
　　　　慶應戊辰閏四月六日　以上大河内輝聲家記 安中藩記
　〇
　　　　　　　　小栗又市
其方儀、父上野介ト共ニ逆狀明白ニ付、令蒙　天誅者也。
　　　　戊辰　閏四月
　〇
　　　　　　　　小栗上野介家來
　　　　　　　　　　塚本眞彦　踏懸藤五郎　多田金之助
其方共儀、主人上野介ヲ助ケ企叛逆候條明白ニ付、加　天誅令梟首者也。
　　　　戊辰　閏四月以上高崎藩記

引用・参照・底本

『復古記 第十一冊』太政官編纂 東京帝國大學藏版 内外書籍株式会社發行
昭和五年三月八日發行
(国立国会図書館デジタルコレクション)