第22巻

 傍聴記 2020/03/16

 『裸に虱なし』宮武外骨 著

 三-四頁
 官報と官僚(専制時代の遺物)

 舊態の革新を欲しない保守主義と云ふ思想も、或事物に就いては必要であるが、苟も一國の政治は、其時代の進運に伴随して改良革新を企圖せねばならぬのである、然るに我國政府の施政?態を觀察するに、明治維新後には改革の行われた事も多々あつたが、爾來四十餘年間殆何等の見るべき事も無い、偶ま立憲政治の制は布かれても、其實は官僚専制に外ならない、我輩は其事象を政府發行の『官報』に就て證明し得ると思ふ
 試みに明治十六年七月二日に初めて發行した『官報』の第一號と、現今發行せる一萬以上のものとを對比して見るに、其體裁形式、内容記事、文體挿畫等、些の進境□認め得ない、一般社会の文運と技術は日に月に進歩し、凡ての刊行物は面目一新の發達を遂げて居る、されば同時代に發行せる新聞雑誌と今日の新聞雑誌とは、月鼈雲泥の差であつて、迚も較べ物にはならないが、獨り『官報』のみは毫も改良革新の點なく、依然たる舊物其儘である、専制時代の遺物、明治二十年前の刊行物を見たくば、現在の『官報』を見るがよい
 これ確に我國の政治界に繼續せる官僚思想の代表である、施政方針の是非善悪論は辯疏曲解の餘地もあらうが、此現實たる有形物體の對比論に就ては「官報には改良革新を要せず」と云ふの外、何ら辯解の途は無いであらう、故に曰く、官僚思想には改良革新の要もないが、「政治には改良革新を要す」と知れである

註:□(印刷等不明一字分)

「明治十六年七月二日月曜日官報」「令和2年3月16日月曜日官報」の対照画像は引用者が各資料に基づき作成した。

引用・参照

『裸に虱なし』宮武外骨 著 (文武堂書房, 1920)
「官報. 1883年07月02日」
(国立国会図書館デジタルコレクション)

「令和2年3月16日官報」国立印刷局
(インターネット官報:https://kanpou.npb.go.jp/)

(独立行政法人国立印刷局 事業年度評価の項目別評価シート(1))
官報の発行部数(各年度4月現在)
15 年度 16 年度 17 年度 18 年度 19 年度
30,031 27,866 25,211 22,676 20,618

官報対照画像