| stigma-2 Written by W.I.イェーツ |
―――空は今日も不機嫌だ。
青空という単語は化石のように色あせて、この灰色が日常の物だと誰もが疑わない。
僕らが無表情な空を造り出した理由は、スコンと抜けた争点の白々しさに嘲りを覚えたからかもしれない。
僕も相変わらず町から町へと流れてこの空と同じ、不安定で無機質な日々を生きる。
僕が過去を無くした理由もやはり、自分自身への嘲りだろうか。
―――捨てられた空の青さの様に?
「いたぞ。逃がすな!!」
ふと、後ろのほうから声がした。しかし僕はさして気にもならなかったから振り向かなかった。
気が付けばいつも足元ばかり見ている。
過去と目が合うのを恐れているのか。
それとも何処かに落とした『僕』を探す為?
・・・・・ただ判っているのは、空の低さと地面の近さ。
歩いていたら足元に綺麗な色をした何かが落ちていた。
・・・・・『トリ』の、羽根?
「―――おじさんどいて!!」
空から声がした。空を仰いで見ると、何かが降って来た。
ぼすっ
僕は咄嗟に受け止めていた。
「―――さんきゅっ」
・・・・・久しぶりに仰いだ空からは思いがけない物が降りてきた。
空の青さと共に、この世界が失った『鳥』という生き物のように。
空から降ってきた少年。
過去を何処かに落としてきた僕。
やがて少年を追う男達が姿を見せた。
思わず手を引いて二人で逃げたのは、少年のその笑顔の後ろに、無くした筈の青い空が見えた気がしたから。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「つかれた――!!」
男達はもう追ってこない。ようやく逃げ切れたようだ。
落ちてきた羽根は少年の物だった。
この時代にそれはとても貴重で、だから追われたりしたのだろう。
「オレ、テイトって言うんだ。オジサンは?」
僕は名前を持っていない事を告げた。
僕が何も聞かなかったように、テイトは何も聞いてこなかった。
テイトは、双眼鏡で空を眺めていた。
「―――何か探しているのか?」
「鳥だよ」
「鳥?」
「オジサン見たことある?」
「いや・・・・絶滅したんじゃないのか?」
「うん。皆そう言ってる」
「・・・・それでも探すのか?」
「だっているかもしんないじゃん」
「・・・・・・」
「俺の名前もね、鳥から付けたんだって」
「―――オジサンは?」
「え?」
僕は何を聞かれたのか判らなかった。
「探したい物とかないの?」
この言葉で意味がわかった。
「・・・・そうだな。あるかもな」
「じゃあ、一緒だね」
テイトは嬉しそうに言って、僕にまたあの笑顔を見せた。
無くした筈の物というなら青い空も、鳥も、僕の過去も確かに同じかもしれない。
―――それでも求めずにはいられない。
テイトは唐突に口を開いた。
「オジサン名前ないんでしょ?じゃあ俺が付けてあげる」
「ん――とね・・・」
『ストーク』
「何の名前?」
「コウノトリ。」
そう言ってテイトはまた笑顔を見せた。
「―――ストーク!!」
「・・・・何だ?」
色の無い空の下、僕らは無くした物を探して歩き出していた。