1章
道
「いまどの辺走ってる?」彼女が言った。
僕は地図を見て、
「多分もうすぐ長野
道。」
彼女は何も言わない。
僕はその時嫌な予感がした。
なぜかは分からないがこのまま時
間が止まって欲しいと思った。
この輝く日々がもうすぐ終わってしまう気がした。
目
の前が真っ暗になった。
夢。それは夢だった。「夢でよかった。」と心の中で思った。
でも夢ではないという
気持ちがあった。この夢は、いつか見た現実だった。
忘れかけていた思い出がいま夢
で出てきたのだ。
ふと気が付くと僕は泣いていた。
僕はただの思い出に押しつぶされ
そうになった。
きっと心の中で思う「ただの」は現実にはとても大きなものなのだろ
う。
長野道。僕が見た地図に書いてあった。
でも行ったことがない。
あれからすべてがあたらしく感じられた。
ブレーキの音。
強い衝撃。
となりを見てみると真っ赤、いや、
黒かった。真っ暗で何もなかった。
そして、消防車や救急車などのサイレン。
初めて
聞いたような気がした。
警察に話しかけられる。
その服は、神秘の服だった。
大破し
た車は人を殺す道具にしか見えなかった。
僕は新しく生まれた知的な生き物みたいに
周りのものを見ていた。
あの場所へ行くことにした。
長野道へ続く道を走っていた。
事故現場。今は何にも変
わらないただの道路だ。
長野道まであと3km。あと3kmだった。
でも僕は、その
3kmが永遠に続く道に見えた。
まっすぐな1本の道。そこには靄がかかっていて
ゆっくりにしか進めない。
この靄が晴れることはない。
それどころかだんだん濃く
なっていく。
途中で人とすれちがう。
その人たちは目や鼻がない。
口だけを動かすが
何も聞こえない。
しばらく行くと、ブレーキの音が聞こえてくる。
そして目の前は
真っ赤になり黒く染まっていく。
そんな道を考えているうちに長野道に入ってしまっ
た。
どうせ来たのなら長野の山を上ろうと思い、
その辺の山の入り口に車を止めた。