1章
回想
その年は猛暑で、6月の末からもうセミが鳴き始めていた。
僕はカメラでこの季節の美しさというものを撮っていた。
このカメラは、中学3年生の時父に買ってもらった最後の誕生日プレゼントだ。
父によると、10万円以上したそうだがほんとかどうかはわからない。
でも、父の形見なので一生手放さないと決めていた。
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父は高校1年の夏休みに交通事故で死んだ。
僕は父があまり好きではなかった。
でも、父の死の知らせを聞いたとき、なにかが込み上げてきた。
それは涙というものによって形として表された。
そしてその涙は、いつになっても止まらなかった。
その日は、1日中泣いていた。夜まで泣いていたけど、いつのまにか寝ていた。
次の日になり、僕は近くの山に行ってみた。
そこは、小さい頃父と虫をとりに行ったところだ。
そこは変わっていなかった。
僕らの心や体は変わっても、そこは何も変わっていなかった。
小さい頃のまま、そこには木が立っていて、そして虫が集まっていた。
頂上まで登ってみることにした。
階段を上っていく途中、父が見えたような気がした。
父の大きな背中。
僕はいつも見ていた。
嫌いなようで実は必要としていたのかもしれない。
心の片隅では父のことを尊敬していたんだと思う。
なぜか素直になれなくて父に迷惑ばかりかけていた。
いまさら後悔してももう遅い。
でも僕は自分に腹が立った。
世界でただ一人の父、もういなくなった。
昨日死んだばかりなのに、妙に実感が湧いた。
頂上でイスに座り、空を見上げると灰色の雲が広がっていた。
今日は今年最高の暑さだと天気予報で言っていたのに、妙に涼しく感じられた。
むしろ寒かった。
灰色の空からは雪が降ってきそうだった。
そう思ってみていると、東の空に晴れ間が出てきた。
まぶしい夏の太陽が周りの家を、そして山の頂上を照らしていた。
家に帰ると御通夜がなんだとか、葬式がなんだとか重苦しい空気のなか、母が忙しく動き回っていた。
僕はw父の部屋へ行ってみた。
父の机が置いてあるだけで、後はもう物置部屋みたいになっている。
小さい頃僕が遊んだおもちゃがたくさん置いてある。
僕は小さい頃はよくここで遊んだ。
父がいて、とても楽しかった。
置いてあるものを見ると、小さい頃父とやったサッカーのおもちゃがあった。
いつからこのおもちゃを使わなくなっただろう。
いつからこの部屋に入らなくなったんだろう。
いつから父から離れていったんだろう。
そして、どうして今こんなに後悔しているんだろう。
父の机の上を見てみた。
そこには、僕の写真が飾ってあった。
小さい頃から。
僕が赤ん坊の時から、10歳ぐらいまでの写真が。
多分1年に1枚ずつここに飾っていかれたんだろう。
涙が流れた。
父はこんなにも僕のことを思っていてくれた。
でも僕はそれにこたえることはしなかった。
わがままばかり言って、父に迷惑ばかりかけて、そして恩返しすることなく、父はどこかへ行ってしまった。
そんな自分に腹が立った。
僕のわがままを聞いてくれることが当たり前だと思い、なにも出来なかったことが悔しかった。
そして、心の支えになっていた父がいなくなって、僕は心にぽっかりと大きな穴があいたような気がした。
これからどうしていけばいいのか僕にはわからなかった。