BETRAYER-4     Written by Emurus

いつの間にか寝ていたようだ。
手足がすっかり冷たくなっていた。
飛行機内は思っていたよりもずっと寒く、
突然嘔吐が襲って、さっと体を毛布に包んだ。
顔を左に向けると、森下はうつむいて、寝息をたてていた。
シャツの左の胸ポケットにペンが数本と財布が入っていた。
心臓の鼓動が早くなった。

震える手を左手で押さえ、息を殺しながら
財布を・・・そっと・・・そっと・・・。

うまく抜けた。

素早く、しかし音を立てないように開いた。
身分証明書は入っていなかった。
その代わり、写真が入っていた。
茶色い、薄くぼけた、一枚の写真。
そこには校門の前に戯れる8人の少年が学生服姿で並んでいた。
どうやら森下の昔の友達の写真かなんかだろう、
現在の彼と同じような不気味なオーラを放つ男子が
右端のほうで、タバコを吸いながら写っている。
真ん中の眼鏡をかけている目つきの悪い男子は・・・

親父だ。
今と見分けがつかないほどだ。
大人びて写真の中にいる。

森下は横浜で親父に会ったと言っていた。
しかしこの写真の年号を見てもだいぶ古い。
おかしい。矛盾している。
なぜ嘘を。
分からなかった。
こんな小さな嘘をわざわざつく意味が。
あんな作り話まで作って。
いや、深く考えすぎかも知れない。
この写真の中にいる人物が本当に誰なのかは、
まだ分かっていないんだ。
コウキは財布を丁寧にたたみ、そっと森下の胸ポケットに入れた。
とりあえず体力をつけるため、寝ることにした。
でも心臓の鼓動はいっこうに遅くならなかった。



耳が少し変になる違和感と騒音に目が覚めた。
ローラーが地に着くのが少しずつ伝わってくる。
どんどん減速していくのにつれ、安心感が沸いてきた。
アナウンスが入った。
「えー・・まもなく目的地の・・・デトロイト空港
到着します。お忘れ物のないようにお気をつけください。」

・・・は!?

「行きの時のアナウンスを聞いてなかったのか。」
コウキの驚いた顔を見て、森下がため息をついて言った。
「なんでデトロイトなんだよ!アメリカじゃねぇか!」
「いいから早く降りる準備しろ。詳しいことは後で話す。」
頭の中をトルネードが襲ったように、ぐちゃぐちゃになった。


空港は多種多様の人種でいっぱいだった。
目に新鮮なものが次々と飛び込んできて、
胸が高鳴ると同時に不安を感じた。
英語の授業なんて2年の途中まで習ったような
実用性2%ぐらいの英語力しかない。
なのにこんな場所へ来てよかったのだろうか。
しかしよく考えてみればメキシコへ行ったって同じだし、
まずしゃべる機会はほとんどないだろうと思った。

「トイレへ行く。ついて来い。」
森下が唐突に言った。
コウキは眉間にしわをよせた。
「オッサン、便所にまだ一人でいけないのか?」
トイレに入ると、森下は突然コウキの背後へ行き、
何かを上着の襟から抜き取り、それを便器のふもとに投げた。
そして耳の近くでつぶやいた。
「人が全員出るのを待て。」
「今投げたのは何だよ。」
森下がにやりと笑った。
「発信機だ。今俺たちを追跡している白人の女が一人いる。
航空機内の会話は全部録音されていたようだな。」
左手の黒いウォークマンを軽く振って、トイレの水の中へ投げ捨てた。
「荷物を取り出すゴタゴタの中でスッてやったけどな。」
「じゃあ飛行機で話してくれた話は・・・?」
「あーすまん。全部嘘だ。身元がバレたら親戚も殺されるかもしれんしな。」
会話をしている間に人は皆消えていた。
「いいか。今から言うことをよく聞け。
俺はもうこれ以上一緒にはいれない。
他にも救出しなきゃいけないガキがいる。
西にある駐車場の3階に白い車を手配した。
そこに新しいお前のガードがいる。
名前はサプマ。背の高いアフリカ系アメリカ人だ。見れば分かる。
それよりお前ずっと前にサバイバルナイフに刺した封筒持ってるか?」
「ムカついたからゴミ箱に捨てた。」
懐から新しい封筒を取り出して、渡してきた。
「そこに今の現状が全て書いてある。
お前の使命は何か。お前がなんで狙われているか。
お前の親父は誰なのか。
もう分かっていると思うが今日から
お前は普通の生活はできない。
親父と同じ運命を辿ることになる。」
コウキは封筒を強く握り締めた。
「最後に」
森下が黒い中ぐらいの袋を取り出した。
「これを持って行け。健闘を祈る。」
その袋は、見かけ以上に重かった。