BETRAYER-1     Written by Emurus

目が覚めた。
激しい雨の音だけが聞こえる。
手探りで近くのはしごを探し、上り始める。
重いふたを開け、外の空気を吸う。
名前はコウキ。14歳の少年。
マンホールでの生活は今日で3日目になる。






3日前の朝。3月の中旬といったところだろうか。
コウキはいつもより少し遅めに学校へ向かった。
だからといって急ぐわけでもなく、コンビニで立ち読み。
その後、タバコを2箱を買い、橋の下へ向かう。
そこにはコウキのような不良スタイルの仲間が数人。
通る車にタバコや爆竹をを投げつけている。
3年生が卒業して以来、かなり調子に乗っている。
朝はマリファナ。昼は校内で喧嘩。夜は遊び放題。

実際、コウキは普通に戻りたいと思っていた。
このままじゃ夢も希望も持てないと感じていた。
今からでも遅くはない。
最低でもM高校にはいけるようになるはずだ・・・。
いや、別にそんなことは頭になかった。
ただ、好きな子がいるだけだ。
でもその子は今のままじゃ怖がって半径3m以内には近づかないだろう。
そうじゃなくても、その子の周りの友達が干渉して遠ざけるだろう。
だから普通にもどって、ごく普通に付き合いたい。
ごく普通に扱われたい。
ごく普通に生きたい。
しかし仲間達を裏切りたくもない。
なんだかムシャクシャしてきた。

 「コウキ。またボーっとしてんのか。」
仲間の一人が言う。
奴の名前は大場海斗。がっしりとした体系で、喧嘩が強い。
学校の教師でも竹刀を持って二人でかかってやっと勝てそうな相手だ。
 「お前マリファナ吸いすぎて頭イッちまったか?」
 「バカ。まだ8本しか吸ってねぇよ。」
 「十分だよ。でも最近多いじゃねぇか。欲求不満で妄想でもしてたか?」
と言って、ガハガハと笑う。
不規則にならんだ歯が見える。
 「てめェと一緒に住んじゃねェよバカ。それよりそろそろ学校行こうぜ。」
 「待ぇよ。もっとマぃファナ吸ぉふぇええぇひゃひゃひゃ」
こいつは長谷翔太。小柄でやせていて、ボサボサの髪をしている奴だ。
シンナーの吸いすぎで呂律が回っていないらしい。
少し前までは普通の奴だったが、コウキとほぼ同期でグレ始め、この有様だ。
「コウキ、なんでまた学校なんか行くんだよ?あ?
大してカワイイ子もいるわけじゃないしさぁ〜?町に出てナンパに行きてぇよ俺わ。」
「行きたきゃ勝手に行けよ谷川。俺は学校に用がある。
それだけだ。一緒に来る奴はいないか?」
誰も立ち上がらない。
コウキは電信柱にタバコを押し付け、その場を後にした。

学校についた。
一人でやって来たここまでの道のりは、
話し相手がいないと結構長いものだ。
校内に上がると、誰もいなかった。
・・・授業中か。
これはいい機会だと思った。
仲間もいないし、教師もいない。
自由に動けるということだ。
さっそく、3階の2組へ向かった。

教室の窓からそっと覗く。
すると一際目立つ、目の大きくて色白の女の子が目に入る。
そのまま30秒ほど自分の世界に入ってしまう。
名前はまだ知らない。なんせ、数日前にすれ違っただけだ。
教師が質問を言った。なんと彼女が手をあげた。教師が名前を言う。
コウキは全神経を耳に集中させた。
 「はい、坂下さん。」
 「はい、ワルシャワ条約機構です。」
なるほど。坂下・・・名前はなんだろうか。
コウキは壁に貼ってある名簿を見ようとした。

やばい。足音が近づいてくる。
今のコウキには先生には誰一人見つかってはならない。
教室へと連れて行かれる可能性が高い。授業なんてクソ食らえだ。
しかし坂下さんを見るためにこの要塞に忍び込んだのだ。
男子トイレに隠れた。
足音は通り過ぎていった。
ほっとして外へ出た。

が、早く出すぎたらしい。
あの教師が完璧に角を曲がる前に出現してしまった。
「おぉ中本じゃないか。教室行きなさい。」
山仲だ。確かコウキのクラスの担任だったはず。
コウキはこの教師を一番嫌っていた。
時代遅れの髪型に、時代遅れの格好。
説得力のない話し方に、トロい口調。
なんかの神様とかなんとかいって信じるものは救われるとか
分けの分からん奴でしかもすぐに器物破損届を書かせるのだ。
しかも昔学校にいた昔いた臭くてムカつくインド人に似ている。
インド人にもいい奴はいると知っているが、こいつは死ぬほど嫌いだった。
「そういう先生はどうしてここに?
どうせまた職員室に忘れ物してたんじゃ?
一番仕事できないタイプッスよね?」
「そういうことを言うんじゃないぞぉ君。
それよりシャツをしまいなさい。」
「図星ですか?」
「ちょっとは目上の人への話し方を覚えたほうが
いいんじゃないのか。」
誰が目上だボケ。
「何生徒に対してムキになってるんすか?バカじゃないスか?」
「バカとはなんだ!それが先生に対する話し方か!」
「トイレ行きたいんですけど?あと静かにしてくれません?」
「人の話をまじめに聞きなさい!」
コウキは廊下の角を曲がり、その場を去った。

近くのの廊下の壁にもたれかけ座り込んだ。
タバコを一本出して、ライターで火をつける。
現実を見た。自分は不良。彼女は優等生。
付き合うなんて、絶対に無理だろう。
コウキは女子に関してはかなりの不器用だった。
しばらく天井を見上げ、口から出る灰色雲を眺めていた。

思いにふけっている間に腹が減ってきた。
給食まで待つなんて面倒だ。
第一、学校の給食なんて誰が食べてやるか。
家に帰って出前でピザでも頼むか。
タバコを床にねじつけ踏み潰し再び立ち上がった。

「キーンコーンカーンコーン」

授業が終わったのか。ずいぶん長いこと座ってたな。
一年生の教室の前の廊下を歩き始めた途端、
突然そこらじゅうのドアから人が飛び出す。
廊下から見ると、結構奇妙なものだった。
一瞬、止まった。
ほとんどの生徒が目をあわせ、そして逸らした。
コウキは無視して、廊下のど真ん中を間を切るように歩いた。
人々が避けて、道ができる。
それは決して敬意からではなく、明らかに恐怖からである。
周りからささやき声が聞こえる。
かなりの悪評。目に見えるようだった。
いらだちと言う電撃が走る。
こっちを見てきた奴全員に眼(ガン)を飛ばしてやった。
多くの一年生が教室へ入っていった。


家にいつの間にかついていた。
コウキは足を止めた。
大型のトラックが向かい側の家の前に止めてあった。
引越しでもするのだろうか。そんな話は聞いていないが。
いつも持っている鍵をドアの鍵穴にさす。
ん?空いている・・・。

意識的に音を立てないようにドアを開けた。