作品集メンタルオブジェ/MENTAL OBJECT 1998
作品1-15(WORK1-15)

作者/渡部広明  発行/スタジオウドンゲ
1SET/15枚 SIZE 420mm×295mm
30部限定出版(クロス張りタトー函)
定価/50000yen

序文/メンタルオブジェ/MENTAL OBJECT1998

鳥の目。鳥の視覚。植物の知覚。有機体の形。無機物の魂。物質の記憶と再生。
そこにある知覚の対象と非対象物。膨張する気温、あらゆる気孔の中に浸透し。
ていく湿度、意思を持った気圧のモード。身体を通過する風と花粉の狂気。
神経のフラクタル気象学。メンタルオブジェ。手の犯罪。夢の体験と烏との対話。
つぎはぎに縫い合わされた赤い皮膚。大空に張りめぐらされていく樹木の根。
体中に飛び散ったオルタナチィブな種。。
内部と外部の逆転。消えた足長蜂。六角系の頭脳。青い物質。蒸発と凝縮。クロム酸鉛、
プチルセロゾルブ、セロソルブアセテートホルモン剤。水の神。犯される生命体。非自己。
緑色をした使者の呪い。甘い匂いの窓。結晶化した蜂と蟻。胸腺からしみだした樹液。
白く縁取られた風景のリアルな愛憎。食べる黒と食べられた黒。
表現というよりは、ただ、そこにある物質を感じたいと思った。
ただ、そこにあるものをおいて見る。そこにあるのは、たぶん有機体としての植物。
緑の生命体。無機物の植物。死骸の物質。無化する物質。生命を内包した種子。
破片。断片。切り取られた宇宙。あらゆる形に奥行きと時間が刻まれていて、
変化している。記憶された遺伝子は、その形の中に、非連続的に連続し、
ある力によりまったく違う世界を現出する。あるバランスからくずされまったく
違うバランスへ移行し視点のないバランスへ移行していく。無限の変化と展開の
中に投げ出されて、唯、そこにいる。そこに開かれた現象があるだけ。変化し流れて、
とどまることのない開かれた視界がリアルにある距離を保ちながらどくどくとした
リズムを内包して複雑に深く広がっていくような体験。中間的なものやことは、
見えない知覚の中で体験される。同時に、見える知覚の中で体験される。存在する
もののすべてのつながりの中で一つの変化が、微細な変化がまったく違うリズムを
打ち始め知覚したことのない新しい世界を生みだしていく。存在のコアは、凝縮され、
圧縮され他次元の扉をやぶりどこかえ飛び去っていくようだ。生命のあるものは、
超越した存在の関係性の中で物質的バランスを生きていて、そのほんの
0.0000000・・・・・・1の変化が、世界の方向性を決める因子を生みだしている
のかもしれない。
鳥と出会うことは、僕と鳥の未来の運命を決めているのかもしれない。鳥は、
じっとしてその気配の中ですべての有り様と、変化を読み取ろうとしているようだ。
緊張のあの一瞬は、かけ換えのないリアルな未来。
ところが、植物は、もっと原初的で、始源的ではるかに多くの時間と記憶を生きてきて
いるはずなのに、その遺伝子は無限に圧縮されているようだ。植物の宇宙世界の、
拡張と収縮という生存の基本的活動の連続性の中に秘められたものは、その進化や変容が
あたかもそれ自身の内部に深く取り込まれているようだ。
原形的有機体は、それ自身の中に多様な形態を帯びる能力を持っていて、
その時々に応じて外部環境世界のさまざまな状態に最も適した変化をするようにも思える。
内部に取り込まれていることと外部に現われている現象としての知覚できる形として
の植物と、そしてその死骸、あるいは、存在の無形化。存在の表出と自己否定的変容。
そうした内部に意思と意識さえも内包している植物や無機物。緑の色は、始めて見る
色のようで、とてもエロチックだと思う。破片は、さまざまに神経を刺激してくる。
その形は、存在の謎や神秘を予感させながら一瞬にして無化していくある真理を宿し
生きてるようだ。
July/4/1998 渡部広明

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