芝生

去年、家を建てた後で、駐車スペースの地面をどうしようかという話になり、奥さんはコンクリートで固めてしまうことを主張した。僕が芝生にしてはどうかと提案すると、芝生は手入れが大変だという。僕が手入れをするというと、奥さんは半信半疑ながら芝生にすることを承諾した。そういう経緯があるので、我が家の芝生は僕が責任を持って管理している。

駐車スペースには枕木も並べてあるので、芝生は全部で畳二枚分くらいしかない。ほんの飾り程度の芝生だ。なんで芝生にしたかったかというと、ただ何となくコンクリートより芝生の方がいいような気がしただけである。つまり、気分の問題だ。僕は気分のためには手間がかかっても仕方がないと考えている。

3月の初めに造園業者が芝を貼ってくれた。それから2ヶ月間は養生のため人も車も立ち入り禁止である。その間に芝生の手入れに関する本を何冊か図書館で借りて読み、一番気に入ったのを本屋で買った。それから園芸店で道具を買い揃えた。芝刈り鋏、雑草抜き用鋏、小さい熊手、それに肥料と川砂。音楽でもスポーツでも料理でもそうだが、何か新しいことを始める気になって入門書を読んだり道具を揃えたりするのはとても楽しい。

はじめは冬枯れで緑の全くない芝生だったが、暖かくなると新芽が出てきて日に日に緑が濃くなっていくのがわかる。毎日芝生を見るのが楽しみになってくる。根っこが乾かないようにしっかり水をやる。芝生が生え揃うまでは道具の出番もないので、本を繰り返し読む。園芸の本によると、芝生を刈るのは見栄えのためではない。芝生は葉を刈られると新しい芽を出して分岐する。そうすることで、芝生が密になっていくのだそうだ。知らなかった。

5月になると芝は青々としてきた。日当たりにムラがあるせいか、場所によって伸び方が違う。よく伸びたところを探して芝刈りをしてみる。昔ながらの両手式の鋏は腰に負担がかかりそうなので、バネ仕掛けの片手鋏を買ってある。刈りカスは取った方がいいらしいので、チリトリでカスを受けながら刈る。チョキチョキと芝を刈っていると、草の匂いがして気持ちがいい。

しゃがみ込んで芝を刈っていると、小さな雑草の芽が出ているのを見つける。立っていたら見えないくらいの小さな芽だ。雑草が空き地に生い茂っているのを見るのは好きだし、庭の片隅に生えるのはかまわないのだが、僕の芝生を荒らしてもらっては困る。そいういうわけで、小さな草の芽を見つけたら即座に抜いてしまう。

だんだん暑くなってくると芝もよく伸びるようになり、毎週のように芝を刈る。時々水をやり、たまに肥料もやる。僕が使っている肥料は尿素である。ジョウロに尿素の顆粒を入れていると、突然30数年前の記憶がよみがえった。僕が小さい頃住んでいた家の庭に芝生が植えてあり、水やりをする時にジョウロに白い顆粒を入れたことを思い出したのだ。あれは尿素肥料だったのか。

梅雨になると芝生全体がきれいに生え揃い、雨上がりには鮮やかな緑に輝いた。しかし梅雨が明けると、あまりの暑さにところどころ黄色く枯れてしまった。あわてて水をやると大体はしばらくして回復するのだが、完全に枯れた部分も広がってきた。車の下、特にエンジンの下がダメなようである。それに気付いてからは、車を一旦家の前の道に停め、車が冷えてから芝生の上に入れることにした。

うちの芝生はコウライシバなので冬になれば枯れる。昔の甲子園球場のグラウンドもそうだった。10数年前から、甲子園の芝は一年中緑を絶やさないようになった。コウライシバの上に、寒さに強い西洋シバの種を播いて一緒に育てたからである。このテクニックをオーバーシードという。西洋芝の種が手に入ったら僕の芝生もオーバーシードに挑戦したい。

(02.9.14)