鯉のぼりの季節

鯉のぼりとは何か。鯉のぼりの核家族と一緒にフキナガシが泳いでいるが、鯉のぼりも吹き流しの一種である。吹き流しは風の吹き具合を見るためのものだ。では、何で風を見るための吹き流しがサカナの形をしているのだろうか。それはきっと、昔の誰かが吹き流しを見ていたらサカナに見えてしまったからだ。

吹き流しがサカナに見えるというのは分からなくもない。サカナがいつも流れに逆らう方向を向いているように、吹き流しはいつも風上を向いている。吹き流しが風で身をくねらせているところは「泳いでいる」という表現がぴったりである。それにしても、サカナの形の吹き流しを実際に作るというのはちょっとシュールだ。

吹き流しがサカナに見えた人はきっと気持ちが良かったのだ。それで、自分の気持ち良さを吹き流しに投影して「吹き流しが気持ち良さそうに泳いでるなあ」と思ったのだろう。吹き流しは生き物の形をしていないが、気持ち良さそうに見えるのだったら生き物の形にした方がぴったりくる。だから、その人は吹き流しをサカナの形にしたいと思ったのに違いない。

吹き流しが風に泳いでいるのを見て気持ち良かったということは、その人も自分の肌で風を感じていたのだ。さわやかで気持ちの良い風が吹く季節は、初夏である。だから、その人が吹き流しを見たのは初夏だということが判る。だから今でも鯉のぼりは初夏の空を泳いでいる。鯉のぼりは初夏の風の心地よさを表現するためにあるのだ。

僕は鯉のぼりが好きなので、吹き流しをサカナの形にしてしまった人の気持ちは良く分かる。息子が生まれてからは毎年嬉々としてナイロン製の「ベランダ用鯉のぼり」を揚げている。5月が終わる頃、季節外れのような気がしてきたらいつも渋々片づける。

(99.5.21)