30歳成人説(または29歳変動説)

作家の田口ランディさんが29歳変動説というのを唱えていた。ランディさんは編集者としていろいろな人に取材した経験があるのだが、29歳前後に転機を迎えている人がびっくりするほど多かったというのである。それで「人間は29歳に転機を迎える」という法則を見出したというわけだ。僕はナルホドそうかと思った。なぜナルホドと思うのかというと、小脳論的価値観におけるヒ−ロ−である村上春樹も奥田民生も29歳で転機を迎えているからだ。しかも、彼らはそのことをハッキリと意識している。

村上春樹さんは20代をジャズ喫茶のマスタ−として過ごした後、29歳で小説家としてデビュ−した。村上さんは「30歳成人説」というのを唱えている。「自分が本当にやりたいことなんかそう簡単に判るものではない、30まではいろんなことをやって30になってから人生の進路を決めればよい」というような説である。田口説とほとんど同じである。

奥田民生さんの方はユニコ−ンというバンドのボ−カルだったが、ユニコーン解散後29歳でソロデビュ−した。それで「29歳転機説」を唱えているというわけではないが、ソロとして最初に出したアルバムのタイトルが「29」なのである。しかも、ソロ2作目のタイトルは「30」で、そのあたりの年齢に対して特別な思いがあることが明らかだ。僕は田口説を読むまで奥田民生がなんでそんな年齢にこだわっているのかがピンとこなかった。

最近になって気付いたのだが、ジョン・レノンがソロになった(つまりビ−トルズが解散した)のもジョンが29歳の時なのだった。また、僕がここ数年愛読している橋本治がイラストレイタ−から作家に転向したのも29歳だったようである。今年からメジャ−に挑戦してイキイキとプレイしている新庄剛も29歳である。

では、僕が29歳の時には一体どういう転機があったのかというと、結婚して家庭を持った。しかし、これは何の取り柄もない転機である。何しろ、その年に結婚した日本人男性の平均年齢は29歳だったのだ。