音楽紀行(楽譜屋編)


FFM  時は変わって98年、この時の訪問は少し密度が濃い。最初の滞在地はフランクフルトだったが、ここは楽譜出版の老舗 Edition Petersの本店があるということなので訪ねることにした。というのは、この出版社では色々な種類のピアノ編曲集が出ているので(1970年代当時の話だが)、いくつか手に入れようと思っていたからだ。なにしろ輸入楽譜は日本で買うと法外な値段になっているし(このご時勢に!)事前にインターネットのページでカタログを検索してみたが希望のものは見つからなかったが「なに、本店に行けば在庫はあるだろう」と思い、出かけた。地図で場所を確認するとフランクフルト中央駅からそれ程遠くなかったので歩いて行った。20分位歩いただろうか、家番号を頼りに近くまできたが、どうも店らしき建物は見つからない。変だと思いつつ、道を渡って目的の家番号を見つけたがそこはどう見てもただの民家である。首をかしげながら表札をみると、確かにC.F. Peters Musikverlagと書いてある。しかしどう見ても店には見えない。これはただの事務仕事をやっているオフィスなのかな、と思いながらも、ここまで来たからには確かめるしかないな、と入って行くと後ろの庭は結構広く裏口には本の束や飲みものの自動販売機が置いてあった。玄関のベルを鳴らすと自動ロックがブザー音とともに開いたので中に入った。中もただの家のような雰囲気で2階から女性がおりてきた。
「何でしょうか」
「じつは楽譜を買いたいのだが、ここでは買えないのですか」と聞くと少し困ったような顔で
「ここは卸ですから小売はしないんですよ。ちょっと待ってください。」と言って事務室(らしき部屋)に入って責任者らしき人を呼んで来た。人のよさそうなオジさんが出てきてにこやかに
「せっかく来たのだから、なんとかしましょう。カタログを差し上げますから欲しいものを選んでこちらの紙に書いて渡してください」と言って居間に通してくれて「ゆっくりしてって下さい。」といってビスケットの置いてある机の上に案内された。
ん〜、言ってみるもんだな〜、となんだか田舎の小さな家族だけでやっているような店に入った気分である。そこでしばらくカタログを眺めていたが、欲しいものは見つからない。10分程探しただろうか、また事務室に戻って例のオジさんをつかまえて
「じつはこれ以外のピアノの編曲の楽譜が欲しいのだが」と聞くと
「あ〜、それならもう廃版でさぁ。もうここにはありません」というお返事。
この世界でも廃版があるのだなぁ、と改めて市場原理の冷たさを実感してしまった。
「ま、このカタログはぜひ持ち帰り下さい。」といってカタログをそのままくれた。今度来るときは古本屋まわりかな…?

画像:駅からマイン川にかかる橋を渡って店へ向かう途中


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