ピアニスト中村紘子
中村紘子は不思議な人物である。実は海外ではこの人の名前は聞いたこともなかったが、日本ではやたらと有名である(CM効果?)。実際の演奏はどうかというと、はるか昔に聞いた印象ではピアノの音は高音が際立ったような、女性にありがちな音で(もっともこれはピアノの調律で調整できるはずなので本人の好みなのだろう)オーソドックスな演奏である。この人はルックスでは演奏会映えするタイプで、今で言うと仲道郁代とか熊本マリとかそういった系統の人だったように思う。
彼女のマスコミの活躍ぶりと、演奏実績が必ずしも結び付かなかったので不思議だったのだが、最近になってそれがわかってきた。TVで彼女の話を聞いていると面白いし、彼女の著書(チャイコフスキー・コンクール)を読むと文才もある(確か夫君は作家だった)。要するに彼女は「政治家」なのである。ここでいう「政治家」とは本人の実務能力よりも折衝能力、管理能力、表現力等の方が優る人物の総称を指すが、そのタイプであろう。経歴を読むと「慶応義塾中等部三年在学中、日本音楽コンクールにおいて史上最年少で第一位特賞を獲得。(略)天才少女としてデビュー。以後、日本を代表する名ピアニストとして活躍する。」とある。本の経歴なんてものはたいてい自分で書くか、あるいは他人が書いても必ず本人のチェックが入るものなので、その中で自分を「天才少女」と形容する(させる)ところにその辺が現れていて面白い。そういった意味では全てを含めて「非凡」な人ではあるかもしれない。
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