クローン人間(97/5/31)
科学雑誌Natureに報告された世界最初のクローン羊Dolly(このネーミングもまたおかしいが)の作り方は世界に衝撃を与えた。当面は不可能なはずの哺乳類のクローンが現実のものになったからである。その後の各国の反応は早く、クローン研究に対して補助金カットなど、ものすごいプレッシャーをかけた。もちろん表向きであろうが。それではクローン人間はそんなに「恐ろしい」ものなのか?
クローン人間を語るとき必ず引き合いに出されるのがヒトラーやサダムなどの独裁者によるクローン技術の乱用である。しかし、クローン人間はパーマンのコピーロボットのように「もう一人の自分」を造る技術ではない。あくまでも一卵性双生児のように「極めてよく似たもう一人の人間」を造るだけである。しかも赤ん坊の。影武者を造るのには適してない。考え方としては自分と全く同じ「跡取り」を造る、という意味合いがあり、いわゆる形を変えた不老不死−「サンジェルマン伯爵」のようなものだろうか。
しかし現時点ではこの考え方に落し穴がある。クローン動物は分化が進み、ある程度成熟した細胞を使って造る。つまり、遺伝子の寿命が若くなるわけではない。遺伝子は時間がたつと老化するもので、老化した遺伝子を卵子に埋め込んで造った動物がはたして長く生きられるかどうかはまだ誰にもわからない。Dollyのその後の成長に関心が集まるのはそのためである。また、現時点では成功率も低くDollyの場合277分の1の成功率で、その他は奇形だったり、早く死んでしまったりする。まだまだ技術としては確立していないのである。人間にまで応用がきくようになるのは(ニーズがあるとしても)かなり先かもしれない。
手塚治虫の漫画「火の鳥」にでてくるクローン人間の話はかなり不気味で、ある種の問題提起がなされている。さすが医者である。このご時勢には一興の読み物である。
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