ベートーベン交響曲原典版


B-statue  ご存じのとおり、ベートーベンは計9つの交響曲を作曲している。そしてそれらについては数々の録音がなされ世に出ている。しかし、以前から現在市場に出回っている譜面は、ベートーベンが実際に記した譜面とは異なったものであると言われており、実際にベートーベンが譜面に記した(といわれている)ものを忠実に再現したものは幾度となく演奏されてきた。しかし、この「ベートーベンが譜面に記した」ということ自体が実は不明確で、出版の最終稿になるまで出版社のみならず、本人も手を加えているので、どこまでが本人が当初意図したものなのかは難しい。この辺についてはここが非常に詳しい。とはいえ、音楽は感性のものだから、極端に言えば作者自身も前日「こうだ」と思ったものが翌日は「いや、やはりこうだ」となるようなことも十分ありうるのではないか。だとすれば、あまり細かいところにこだわりすぎる必要はないかもしれないが、やはり作者以外(写譜者や出版者)が手を加えたものに関してはファンとしては受け入れ難いという感情もあるだろう。
 さて、先日CD屋でお目にかかったベートーベン交響曲原典版全集は目を引いた。なんでもジョナサン・デル・マー編集のベーレンライター原典版によるベートーベン交響曲の演奏だそうだ。実はベーレンライターという出版社は私は初耳だったのだが、とにかくベートーベン直筆の譜面をもとに様々な資料を駆使して忠実に再現することを目的に1996年から2000年にかけてこのベートーベン交響曲原典版を全て出版する予定だそうだ。で、このCDは出版に先駆けた演奏で「世界最初の新ベーレンライター版による演奏」が歌い文句である。演奏はこれまた初耳なのだがデービッド・ジンマン指揮トンハレ・オーケストラ・チューリヒという楽団である。しかし購入にあたっては歌い文句もさることながら、5枚組2690円という信じられないような価格設定に大いに魅かれたことを白状せねばなるまい(一枚づつだと980円だった)。
 しかし聞いて見るとこれが非常にいい演奏なのである。しかも、今まで聞いていたベートーベン交響曲とはまさに一線を画した演奏である。スコア片手に聞いて見ると、ベーレンライター版だからこう聞こえるのではなく、従来通りの譜面にありながら聞こえていなかった音というのが随所に聞こえるのだ。そのへんは弦楽器と金管楽器の音量のバランスが非常にいいためか。8番の第4楽章に至っては別の曲かと思わせるような演奏である。とにかく非常に新鮮で久々にいいCDに巡り会ったというのが極めて個人的な感想である。
 ところがここに非常に詳しいのだが、これは厳密なベーレンライター版の演奏ではないというのが真相で、むしろ「ベーレンライター版ベースのジンマンが解釈した演奏」というのが正しい表現らしい。が、しかしそれでも私はこの演奏をすごく評価したいし、なんといってもこのあまりに低い価格設定の何倍もの価値があるCDだと思っている。
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