イギリスのテレビ番組


BBC BBC2 HTV
当時のBBC Wales放送(左)BBC 第二放送(中)と民放Harlech Television (右)のロゴ
 私は70年代後半にイギリスに滞在していたのでいささか旧聞に属する話であるが以下に記したい。
当初イギリスは日本と比べるとテレビ後進国じゃないかと思った。国営のBBCが二局、民放が一局の三チャンネルしかなかった。当時日本(都心部)ではNHK二局、民放五局、UHF地方系放送局と圧倒的に多かった。しかもBBCでは午前10時頃から昼まではお休み、つまり放送はしていなかった。新聞のテレビ欄が一ページの1/4に収まっていた(しかも地方系列局の内容も含んで!)のがなんともお粗末な印象を受けた。よくよく思い返してみると日本との違いが浮かび上がってくる。例えば:
 かといって放送される番組の質は低いかというと、むしろ非常に高かった。ドキュメンタリーや報道、コメディー等、実に質が高かった。テレビ後進国と思っていたのは単に量的な問題で質的には、はっきりテレビ先進国と言ってよかった。
 例をあげるとドキュメンタリーでいえばJames BurkeのConnectionsという科学技術史を扱った番組は当代随一の傑作であった。驚いたことに20年近く経った今でもこの人はScientific American誌で同じタイトルで科学技術史を扱ったコラムを書いているので興味のある人は参照されたい。コメディーではMonty Pythonの一員John Cleese脚本のFawlty Towersが逸品で、さすがにこれは英語圏各国で放映されてたいていの人間が見ている。日本でもポニービデオから「フォルティタワーズよれよれホテル」と題して出ているのでこちらも参照されたい。
 そのイギリスでもやはり元祖テレビ先進国アメリカの番組は無視できなかったのだろう。大量のアメリカ番組が放映されていた。やはり大衆娯楽番組は量・質ともにアメリカにはかなわない。特に刑事もの(スタスキー&ハッチ、コジャック、コロンボ、キャノン、その他)は対抗できる番組はほとんどなかったし、やはり金のかけかたが違うことがありありとわかった。やはり世界的に見て当時からアメリカは群を抜いて豊かだったのだ。
 気になる日本の番組はというとこれが当初全くといっていいほど放映されていなかった。私は日本のアニメ番組などは アメリカのアニメ番組に比べても決してひけをとらないと思っていたので放映されていなかったのが不思議だと思った位だったが、まあ当時のイギリス人の感覚からすれば日本という国は存在しないに等しかった。もちろん「日の出ずる国」として教科書には出てくるがまさに日の出ずる国でおしまい、それ以上の認識はなにもなかった。ところが待っていると少しずつ日本の番組が放映され始めた。'76年頃に「海底少年マリン」(チューインガムをかむと海中で呼吸ができる少年の冒険もの)が放映されていた。'78年位になるとアメリカ経由で一部修正がなされた「ガッチャマン」(科学忍法特捜隊という斬新な趣旨の人気アニメ)が放映された。同じ頃「宇宙戦艦ヤマト」も劇場公開されていたが、イギリス人の好みとは合わなかったのだろう、酷評されていた。
 実写ものでは'77年頃「水滸伝」(Water Margin)、'78年頃「西遊記」(Monkey)が放映されたがそれ位である。それにこれらはもともと中国が舞台の物語である。当時のイギリス人の認識は東洋人イコール中国人であった。なにしろどんな辺鄙な田舎町に行っても中華料理店は必ずあった位なので中国という国ははっきり認識されていた。華僑のすごさを物語っているのだが、とどのつまり日本の番組はイギリス人にとって中国を理解するために使われたのである。とはいえやはり毎週ゴダイゴのテーマソングとともにMASAAKI SAKAIとかSHIROH KISHIBE...と オープニングで出てくるシーン がイギリス全土のお茶の間で見られていると感じたときはうれしくなったものである。
 余談であるがイタリアはその点全然違ったようだ。イタリア人の友人に聞いたところによるとイタリアでは日本のアニメは大量に放送され、実写ものも相当放映されていたらしい。驚いたのはコメットさん(大場久美子のではなく初代の白黒版)が放映されていてあこがれたこともあった、と語っていた。アメリカ、ブラジルでも同様なのだがそれに関しては別途述べたい。
 とは言え、考えてみるに当時たった三局しかないイギリス放送界の中で上述の番組が放映されたというのはある意味快挙なのかもしれない。70年代末には大分日本の認識度が上がってきたと見えて「Inside Japan」という日本を紹介するドキュメンタリー(確か5回シリーズだった思う)が組まれ放映された。よく出来た番組だと思ったが不満があった。それは家族が食事をする場面が頻繁に出てくるのだが、どこの家庭でも申し合わせたようにすき焼きを食べていた。想像するにBBCが取材にくるというので気負って(当時の)ご馳走であるすき焼きを用意しての撮影と相成ったのだろうが、これではあたかも日本人はすき焼きばっかり食べてるかのような誤解を招かないかと心配になったことである。

 '90年代になって本格的な衛星放送時代が到来して何百というチャンネルが空から降ってくるような時代になりつつある今となってはうそのような話だが、本来は人間にとってテレビやコンピュータ以外の娯楽が多い方が豊かなのではないかと感じている。スイッチひねれば娯楽が飛び出すよりはお金や時間をかけて人や自然とふれあうほうが贅沢かもしれない。と、いいつつ私は今日もコンピュータのキーボードを叩きながら思い出話に興じているのである。(96/10/12)

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