語句説明(果樹)
あ
【アントシアン】
植物色素の中で、赤・青・紫・紫黒色などを呈する。果実の色、シソの葉の赤紫色などの原因となる一群の色素の総称。この一群の色素は本体である色素部(アントシアニジン)が他のフラボノイドと同様に糖と結合した配糖体(アントシアニン)として現れる。
果樹ではぶどう、いちじくなどの着色に関係する。
【イチジク果】
隠花果、嚢托果ともいう。偽果の一種。クワ科のイチジク、イヌビワ、アコウのように花軸の先端がふくらみ、中央部がくぼんで嚢状となる特殊な形態の花序から由来する果実。袋状の花托の内側に小花がつき、このつぼ状の花序の内側で受粉が行われ、1個の花序がそのまま1個の果実状の期間に発達する。
【いや地】
同一土壌に同じ植物が連続して生育する場合に、やがて生育不良になる現象。果樹ではモモやイチジクで見られる。いや地の原因として(1)生長阻害物質の発生、(2)病害虫が土壌中に増加する、(3)微量栄養素の欠乏、などが原因として考えられている。
【ウイルス】
ラテン語で毒を意味し、後に転じて病原体を意味するようになった。細胞内でのみ増殖し、潜在的に病原性を持つ感染性の実体。最近の研究で酵素を持つウイルス粒子や単独では増殖性を持たないウイルスも見出され厳密な意味では`DNAかRNAのどちらかを核酸として持つ感染性の偏性寄生性の構造体’という状態になっている。ウイルスが原因で発生する病害には、ぶどうでのリーフロール、コーキーバークなどがある。対策としては成長点培養により作出されたウイルスフリー株を使用する。
【永久しおれ】
永久凋萎ともいう。土壌含水量の減少のため、植物の水吸収がほとんど停止し、植物が弱い蒸散作用の下でも水を失う一方となり、しおれてしまう状態をいう。従って土壌に水を与えればしおれは回復する。土壌から水吸収が行われており、蒸散とのバランスで一時的にしおれが起こる一時的しおれや、水を与えても回復せずに枯死してしまう乾燥死と混同してはならない。
【永続型伝搬】
永続的伝搬ともいう。植物ウイルスの虫媒伝染の1タイプで非永続性伝搬の対語。この方の伝搬では、媒介虫が病植物を吸汁してウイルスを獲得してもすぐには伝染能力を持たないが、一定期間の潜伏期を経過するとその後は長期にわたって伝染能力を保持する。
【枝変わり】
芽条突然変異ともいう。植物体の一部に体細胞の遺伝子突然変異が生じて、他の部分と形質の異なる部分を生ずること。体細胞当然変異の一種。斑入りの葉や色変わりの花などはこの方法で生ずることが多いが、特に果樹類では、芽条変異した枝を接ぎ木して増やし、実用的価値の高い品種が得られることが多い。ナシの二十世紀、みかんの早生温州などはこれによるものである。
【液果】
多肉果、湿果ともいう。肉質で水分含量の高い果皮を持つ果実の総称。一般に受精の後、子房壁が肥大して果皮となり、成熟後も乾燥しないで柔らかな果皮を維持する。乾果に対する語。奬果・石果・ナシ状果・ウリ状果・ミカン状果はいずれも液果の一種で真皮の構造や果皮の分化の違いで区別される。
【ELIZA】
抗原ないし抗体に酵素を共有結合で結合させたものをプローブとし、抗体ないし抗原の存在を酵素活性を利用して検出する方法である。放射性標識等を必要とせず安全性が高い。
ウイルス検定に使用される。
か
【開心自然形整枝】
杯状形整枝を改善合理化したもの。主枝をまっすぐに伸長させて、亜主枝で杯状の下部の空間を埋める。空間の利用が立体的で、主枝・亜主枝は杯状形のように二分されず発育が良好で骨格が頑丈となる。かんきつ、もも、うめ、かきなどで行われる。
【夏季せん定】
緑枝せん定ともいう。花芽の成長、日光の透射等をよくするために、6〜7月頃(新梢の長さ20〜40cmくらいのとき)に行われるせん定。夏季せん定は数回行われ、果実の発育に大きな影響がある。
【隔年結果】
果樹類において果実の稔りが多い成り年と、結実のきわめて少ない不成り年とが隔年に交代する現象。その程度は果樹の種類・品種によって異なる。カキ・クリ・柑橘類は一般に隔年結果が現れやすく、リンゴ・ナシ・モモなどにはほとんどこの現象は見られない。
原因としては花芽分化が果実の発育中に起こるので、結実が多い場合は養分がその発育に消費されるため花芽数の減少又は花器発達の不完全を来して、そのため翌年の結実が悪くなりその年はこれに反して、同化養分は枝に多く蓄積され花芽の分化がよく、次の年にまた成り年となるというのが常識的な説である。
実際の場面では、結果過多によって着果枝と不着果枝の数の上でのアンバランスが生じたとき、隔年結果が起こりやすい。回避・軽減するためには、せん定や摘果などによって着果枝と不着果枝の割合を適正に保つことが重要である。
【果樹】
くだものとして食用にする果実の生産を目的として栽培する、主として木本植物の総称。その理論と技術を研究する学問は果樹園芸学(pomology)である。
【間伐】
果樹の密植栽培を行うと、樹が成木に達したとき日射及び通風不良となり、樹の発育を阻害し、果実の生産が不良となる。これを改善するために適当な間隔で伐採をする必要がある。これを間伐という。
【偽果】
仮果ともいう。子房とともにしべ、花托、花軸等の付属物中の一つが肥大発達して果実の一部を形成すること。ナシ状果では果実のまわりに花托が発達して全体が果実状になる(ナシ、リンゴ、ビワ)。イチジクの偽果は花軸が壺状となり一個の果実のように見える。
【キセニア】
種子や果実の形質に花粉(雄親)の影響が現れる現象に与えられる名前だが、今日では胚乳に影響が現れる場合のみをいい、胚乳以外の母系の組織に現れる場合をメタキセニアとして区別している。
クリでは、受粉樹による果重の違いや、チュウゴクグリにニホングリの花粉を掛けると渋皮の剥皮性が悪くなるなどの現象が知られている。
【車枝】
幹や主枝のだいたい同一のところから枝が放出している状態をいう。果樹栽培の場合、枝の結合が弱くて裂けやすく、また、主枝の場合には各主枝が同一面に並ぶために、結果面が平面的になって狭くなるなどの問題があるため、せん定などで調整する。
【結実不良】
結実不良を招く要因としては、不良な自然環境が直接影響する場合、あるいは不良環境が樹体に作用して間接的に影響する場合、さらに純粋に生物学的要因による場合等が考えられる。
不良環境要因が結実に対して直接影響を与える例として、低温による花器の障害や花粉発芽や管伸長を抑制、高温による落花、開花期の降雨による開やく阻害や柱頭粘液・花粉の洗い流しによる受粉阻害などがある。
不良環境が樹体に間接的に影響して結実不良をもたらす例としては、冬季の低温不足や早春の高温、樹体の栄養条件のアンバランスなどがある。また、果実の収穫期を遅らせたために樹体の養分蓄積が十分でないために、翌年の花の品質が低下して結実が悪くなる例もある。
生物学的要因としては、キウイフルーツなどのように雌雄異株である場合や、核果類のウメやモモのように花粉が全くない場合や花粉に稔性がない、受粉樹の割外が低すぎる、雌雄の開花期が異なる、自家及び他家不和合性での受粉樹の選択による場合などがある。
そのほかにも、スリップス類による花の食害や開花期の農薬散布なども結実に影響を与える場合がある。
【結果習性】
枝の上に形成される花芽の位置とその後の萌芽発達に伴う開花結実及び果実が着生する状態を一括して果樹の結果習性という。
芽には花芽と葉芽があるが、花芽にはさらに純正花芽と混合花芽に分けられる。純正花芽とは開いたときに花のみで葉枝を含まないものであるのに対して、混合花芽は花と葉枝を共に含むものである。
純正花芽を持つ果樹(モモ、ウメ、スモモ)は、先端に花芽だけを残して切り返すと、着果しても果実の発育・肥大に必要な養水分の供給が悪く、結実不良になったり、枝が枯れ込んだりするので注意が必要である。
せん定を行う場合には、もっとも大切な花芽を切除してしまうことがないように、結果習性を熟知した上で作業を進めることが必要である。
【休眠】
植物では、主に芽・種子・胞子などに、その完成後一定期間自然休眠が見られる。休眠期間中は水・温度などの環境条件が発芽に適していていも発芽しない。芽、種子などの休眠期間は、一時的な化学的刺激あるいは芽の部分的障害によって著しく短縮できることがある。これを休眠打破という。果樹のハウス栽培で、シアナミド処理などが休眠打破の手法として実用化されている。
【魚毒性】
水に溶解または浮遊した農薬などの化学物質が魚貝類など水生動物に障害を与える性質またはその程度をいう。判定にはミジンコとコイ稚魚による48時間後の半数致死濃度が用いられる。農薬では、A類、B類、Bs類、C類、D類の5種類により分類され、A類が一番影響が少なく、D類がもっとも影響が大きい。
【茎頂培養】
茎頂分裂組織あるいはこれを含む茎頂部を分離して無菌的に培養すること。植物組織培養のなかでも古くから研究された方法で、ブドウなどの無ウイルス植物の育成に利用されている。
【減数分裂】
2回連続した有糸分裂から構成され、その結果、染色体数が半減する核分裂をいう。主に生殖細胞形成の時に起こる。染色体の減数ということは、ただ染色体数が半減するだけでなく、各相同染色体が分離することを意味する。
【抗生物質】
ある生物の分泌物が他の生物に有害性を持つ場合にこれを抗生作用という。普通には微生物の発育を全般的に阻止する分泌物質の作用をいい、その物質を抗生物質と呼ぶ。細菌性病害の治療に用いられる。日本では、モモのせん孔細菌病にストレプトマイシン剤などが農薬登録されている。
さ
【雑種強勢】
ヘテロシスともいう。雑種第一代が、ある形質たとえば大きさ・耐性・多産性などの点で、両親の系統のいずれをもしのぐことをいう。この現象の機構は(1)対立遺伝子の相互作用、(2)両親に含まれていた異なる優性遺伝子の共存、の二つの要素から現れると考えられている。
【自家不和合性】
雌雄同花で両性の生殖器官が同時に成熟するにも関わらず不和合性で、受粉が行われても花粉の不発芽、花粉管の花柱への侵入不能、花粉管の成長速度の低下又は停止などによって受精が正常に行われない現象を言う。
これに対し、異株間とくに特定の系統間などの不和合性を他家不和合性又は交雑不和合性という。
自家不和合性は果樹では、なし、おうとう、うめなどでみられる。
【雌雄異株】
単性花をつける種子植物のうち、雄花と雌花を別々の個体に生ずる場合をいう。雄花のみをつける株を雄株、雌花のみをつける株を雌株という。果樹ではイチョウ、キウイフルーツなどが雌雄異株である。
【収穫期判定】
収穫適期は果実の品質、流通、貯蔵など総合的な観点から判断し、それぞれの用途にもっとも適した熟度で収穫する必要がある。
収穫期の判定指標として様々なものがあるが、主観的な基準で決められることが多いので、いくつかの客観的な指標を組み合わせて判断することが望ましい。通常、果皮等の着色度(カラーチャートによる判定)、果実硬度、枝からの果実の離脱のしやすさ、果実成分(とくに糖、酸の含量)などの果実形質を指標とする場合が多い。種類によっては暦日や満開後の生育日数で十分指標になりうる場合もある。
【受粉樹(ポリナイザー)】
自家不和合性(花粉を欠いたりあるいは雄花をつけない)の果樹を単植するばあい、親和性のある花粉を供給する樹を間に適当に植えなければならない。これを受粉樹という。受粉樹としては、栽培品種と親和性があり、開花期が同じで、健全花粉を多量に有し、かつ、相当経済的価値のある品種が必要である。
【生理落果】
植物体内に生理的に誘起される原因によって花柄に離層が形成され、果実が離脱すること。暴風雨や病害虫などに起因する落果に対していう。受粉後の落果の頻度は波状に変化し、受粉直後、受粉1〜2か月後(早期落果)、成熟後(後期落果)にそれぞれ高まる。早期落果は雌ずいの不完全だった花、完全でも受精しなかった花、受精しても胚または子房の発達が不完全なものに起こるが、必ずしも不完全な果実のみとは限らない。果樹では柑橘類、カキ、モモなどで見られることが多い。
【人為受粉】
自然に放置して行われる自然受粉に対して、人為的に行われる受粉をいう。放置しては受粉しない場合や、特定の個体間で受粉を行わせる場合に使う。花粉用の花からやく、雄ずい、あるいは花全体を採り、結実させる花の柱頭に花粉を付着させる。
果樹栽培ではリンゴ、キウイフルーツなどで行われている。
【生物農薬】
農作物の病害虫や雑草などを防除するために、防除すべき対象の生物の天敵に当たる生物をそのまま利用する場合、これを生物農薬という。くりのクリタマバチ防除に利用されるチュウゴクオナガコバチや、柑橘のヤノネカイガラムシ防除に利用されるヤノネキイロコバチなどが代表的な例である。
【石果】
核果ともいう。液果の一種で、中心部に一個の堅い核を持つ果実。サクラ、ウメ、モモ、クルミなどの果実がその例。外果皮は薄く、中果皮は多肉で細胞液に富み食用に共しうるが、内果皮は堅い石細胞により成って核となり、その中に1個の種子を持つ。また石果のうち特に小さいものを小核果又は小石果といい、キイチゴ属の果実は小核果の集合したものである。
【先祖戻り】
帰先遺伝ともいう。現在は一般に見られない形質が、先祖の形質としてある個体に偶然のように出現する場合をいう。突然変異又は共同する形質の欠如が満たされたためと説明されている。果樹では、芽条突然変異などで作出された品種を栽培している場合に、新梢の一部に親の形質が発現する場合をさすことが多い。
【選択毒性】
薬物が別々の生物に対して異なった強さの毒性を示すこと。とくに、殺す必要のある有害種に対して毒性を発揮し、生存させねばならない有益種には影響がほとんどない生物活性をいう。
天敵昆虫などを導入した場合には、その天敵を保護するために、薬剤防除を行う際に選択毒性の有無や特徴を把握して行う必要がある。
【桑果】
多数の果実が集合して形成する多花果の一種で、1花軸のうえに多数の花がつき、成熟して肉質でみずみずしい果実の集合体となるもの。パイナップル、クワなどの多果花がその例。
【霜害対策】
果樹が春先に生長を開始する頃しばしば遭遇する。移動性高気圧の接近により日中の気温が低下し、夜間無風状態となると強い放射冷却が起こり、地表近くの気温が著しく低下し氷点下まで下がる。
生長開始直後の果樹の芽の組織は氷点下の温度に弱く、この時期に霜にあうと著しい障害を受ける。特に、開花期の早いウメ、スモモ、オウトウなどは晩霜にあう危険性が大きい。同一種類でも開花期の早い品種ほど霜害を受ける危険は高まる。
霜害回避対策としては、(1)開園に当たって冷気の停滞しやすい場所を避ける。(2)開花期の遅い品種を選択する。(3)環境条件を操作して霜害を回避する。などがある。環境操作として一般的な方法には、防霜ファン、煙霧、加温、散水氷結などがある。
た
【高接ぎ更新】
品種更新の手法として、既存樹のうえに新しい品種の穂木を接ぎ木する方法をいう。漸進後進は旧品種の枝を大部分残したまま比較的少数の接ぎ木を行い、新品種の枝の生長、拡大に伴って旧品種の枝を切除していく方法である。一挙更新は既存品種は骨組みだけ残し、その全面に多数の接ぎ木を行う方法である。
ウイルス感染などの危険があるため、穂木は無毒の母樹からとったものを使用する。一挙更新の場合は主枝や亜主枝に日焼けを生じやすいので、炭酸カルシウム剤等を塗布するなどして防止する。
【脱渋処理】
カキには甘ガキと渋ガキがあるが、渋ガキは出荷するまでに脱渋処理をする必要がある。脱渋には種々の方法があるが、市場流通する渋ガキは炭酸ガスもしくはアルコールで脱渋される。
炭酸ガス脱渋は、密閉した貯蔵庫に果実を入れ、炭酸ガスを注入する方法で、平核無Mサイズを20℃で24時間処理した場合、3日後に脱渋が完了する。
アルコール脱渋は、段ボール箱などに果実を詰め、30〜40%のアルコールを果実15kgあたり100〜200mlほど振りかけてふたを閉めておくと1〜2週間で脱渋する。
炭酸ガス処理はカキ本来の食味が発揮されにくい、アルコール処理は日数が掛かり果皮の汚れが生じやすいなどの欠点を補うために炭酸ガスとアルコールの併用法も開発されている。
【棚したて】
棚を作り果樹をそれに水平に誘引・整枝すること。ぶどうなどのつる性の果樹に用いられる場合と、なしのように棚面に結果母枝を誘引して結実促進や栽培管理省力化を図る場合がある。
【単為結果】
単位結実ともいう。被子植物で子房だけが発達し、無種子の果実を生じる現象。多くの植物で見られるが、同一種でも系統により単位結実能力には強弱がある。花粉の発達が悪いため受粉はするが受精できないもの(温州みかん)、花粉は正常でも自家不和合性のために受精できないもの(パイナップル)、開花期の低温度によるもの(ナシ、リンゴ)、個体が老衰期になると単為結実を起こすもの(カキ)などがある。
ジベレリン処理により人為的に単為結果を引き起こす方法もブドウで実用化されている。
【中間台木】
果樹の接ぎ木苗が系統不良である場合に、この樹にさらに新系統を接ぐことがある。この場合、最初に接いだ穂木を中間台という。かんきつ類で多く行われ、中間台の種類によって、穂部の収量及び樹勢に相当の影響を与える。
【潮風害】
海岸線に近いカンキツ園などで、台風時に海から吹く強風とともに塩分が運ばれ、樹体に付着して落葉を招くこと。対策としては6時間以内に5mm以上の散水を行い塩分を洗い流す必要がある。
長期的な対策としては潮風害に強い防風林の設置も有効である。
被害樹では落葉、枝の枯れ込みなどが見られるが、果実の被害は少ない。このため、落葉の多い場合は全果実を摘果して新梢の発生を促す。施肥は即効性の化学肥料を少量施用する。
【頂部優勢性】
果樹等の同一母枝上においては、えだの上部、頂部の芽の方が生育が盛んで、下部の芽は弱くなる。基部にいたっては発芽しないで潜芽となる。これは早期萌芽の養分吸収とともに伸長によってできた抑制物質が基部に影響を与えるために起こる現象である。
【追熟】
果実を完熟前に収穫して一定期間貯蔵することによって熟度を進め、その果実特有の味覚を引き出すことをいう。セイヨウナシやキウイフルーツはある程度未熟なときに収穫され、その後追熟することによりはじめて食用となる。
キウイフルーツでは11月頃から収穫されるが、この季節の常温では追熟は難しいため、適温(15〜20℃)で25日前後の追熟を行う。セイヨウナシでは収穫期の熟度の違いにより所用日数が大幅に異なるため、冷蔵処理やエチレン処理により日数を一定にすることが必要である。
【低温要求性】
落葉果樹が休眠から脱して生長が開始するためには一定期間低温に遭遇することが必要とされる。この性質を低温要求性という。この低温要求が満たされなければ、萌芽・開花の遅延や不揃いを招き、さらにはその後の結実や果実生長に悪影響が出る。
ハウス栽培などで休眠打破に必要な低温要求量を満たすことができない場合、化学薬剤処理により休眠を打破する必要がある。たとえばぶどうでは石灰窒素を水に溶かした上澄み液(シアナミドH2CN2を含む)や、肥料資材であるメリット青などをせん定後に塗布する方法が用いられている。
主要な落葉果樹での低温要求を満たすのに必要な7℃以下の時間数は、リンゴで1200〜1500時間、モモで1000〜1200時間、日本ナシで1200〜1500時間、カキで100時間以下、イチジクで数時間となっている。
【摘果】
他の果実の発育を助長するため密生の甚だしい部分を除去し、樹勢に適応した果実を付着させる目的で行う。また、病害虫、植え換え、その他の事情による枝梢の発育不良の場合に、果実を除去して樹勢回復をはかるためにも行われる。
摘果の方法には、手作業による摘果、機械摘果、薬剤摘果の3通りがある。
手による摘果はもっとも確実であり広く行われているが、多大な労力を要するのが欠点である。実際には袋掛けなどと兼ねて幼果を摘果する場合が多い。
機械摘果は欧米のような粗放的な大規模経営のところで、試みられている。
薬剤摘果は、蕾や花に障害を与えることにより脱落させる系統のものと、ホルモン作用によって離脱させる系統のものがある。リンゴでのデナポンや温州みかんでのフィガロンなどが実用化されているが、処理時期の温度で効果に振れが出るなど栽培上の欠点もみられる。
【天敵昆虫の利用】
天敵昆虫の利用には、土着天敵の生息密度を高め、自然の制御作用を人為的に大きくする方法と、天敵昆虫を移入して永続的に防除を行っていく方法、天敵昆虫を移入して短期的に防除する方法などがある。
土着天敵活用の例として、アブラムシ類に対するナミテントウなどがある。導入定着型の天敵には、クリタマバチに対するチュウゴクオナガコバチや、ヤノネカイガラムシに対するヤノネツヤコバチなどが成功例として挙げられる。
また、ブドウ施設栽培でのハダニ防除にチリカブリダニの利用が実用化しつつある。
天敵の利用に際しては、天敵が活動しやすい条件整備が重要となる。
【摘果剤】
薬剤で摘果を行う手法は古くから研究されているが、実用化されているものはきわめて少ない。石灰硫黄合剤、硝安、尿素、界面活性剤など、蕾や果実に刺激を与えることにより脱落させる系統のものと、NAA、エセホン、エチクロゼートなどホルモン作用により果実を離脱させる系統のものがある。
リンゴに対してデナポンや、温州みかんに対してフィガロンなどが摘果剤として実用化している。また、温州みかんの全摘果としてフィガロンとエスレル10の混用処理も行われている。
【共台】
穂と同一種の台木を使用すること。もしくは、その台木そのものを指す。かきの接ぎ木にもっともよく用いられる。共台は単に開花、結果を促進する目的だけの接ぎ木に行われる。
な
は
【花振るい】
果樹、特にブドウの花のように、花芽が分化してこれが開花しても、そのときの樹の生理的条件、気候条件、栽培管理等によって受精が行われず、従って結実もしないことをいう。交配不親和性の強い品種ほど花振るいが多いと言われている。
【花芽】
展開すれば花となる芽をいう。一般に花芽は葉芽と比べて太く丸いので区別できる場合が多いが、芽が相当に若いときには芽を解剖して雄ずい、雌ずいの原基の分化を確かめなければ分からない。花芽の成長点はふつう葉芽と形態を異にし、その分化や形態形成の機構も葉芽とは違う。
【花芽分化】
開花結実する段階に達した果樹では、普通開花前年の夏季に、新梢又は短果枝上に発育する芽の中で花の原基を形成する。この原基の形成を花芽分化という。
一般に花芽分化には二つの段階があり、栄養生長時には円錐状を呈していた芽の頂端分裂組織が急速に肥厚し平坦上になる誘導段階と、その後の花芽内での原基の発達段階とである。
大多数の温帯果樹は開花前年の夏頃に花芽分化するが、柑橘類(キンカン、カラタチを除く)は冬季1〜2月頃に分化する。またクリ、クルミなどのナッツ類では雌雄間で分化期が異なり、雄花は開花前年に分化するのに対して、雌花は開花当年の春になって分化する。
【微量要素】
土壌中にきわめて微量に存在していて、植物の生育に欠くことのできない元素。マンガン、ホウ素、銅、亜鉛、モリブデン等があげられる。
【プラスチックフィルム包装貯蔵】
ポリエチレン等のプラスチックフィルムで果実を包装して貯蔵する方法で、果実からの蒸散防止、腐敗菌の伝染防止、簡易CA貯蔵効果などを目的として行う。
果実をフィルムで密封すると、始めは自身の呼吸量がフィルムの空気透過量より多いので、フィルム内の酸素が減り炭酸ガスが増える。そのため果実自身の呼吸量が減少し、フィルムの透過量と平衡に達し、ガス濃度はほぼ一定の値となる。この値が果実の好適CA貯蔵条件になることにより、貯蔵条件が改善される。
ブタジエン、低密度ポリエチレン、塩化ビニールが透過性がよくガス障害が少ない。近年は多孔質資材などが実用化されつつある。
【変則主幹形】
円錐形整枝と杯状形整枝の欠点をのぞいて利点だけを取り入れた樹形で、初めの数年間は円錐形で仕立て、後に芯を止めて外側へ開かせる。柿などに適用される。
【防ガ灯】
果樹に被害を与えるヤガ類は、成熟果に口吻を刺して、刺傷部分をスポンジ状にして腐敗させる。ヤガには多くの種類があり、果樹、地域によってそれぞれ異なる。健全な果実に吸収口を刺して果汁を吸汁する一次加害種と、病害虫果や一次加害種が溢れ出させた獣疫を吸汁する二次加害種がある。防除対象となるのは一次加害種である。
ヤガ類の防除には、防虫網の設置のほかに、黄色蛍光灯による防除が行われている。黄色蛍光灯はヤガ類が一定以上の光条件下では活動しない性質を利用したもので、果実着果面で1ルックス以上あれば効果がある。日没後から日の出まで終夜連続点灯する。
黄色蛍光灯による防除はモモ、ナシなどで行われている。なお黄色蛍光灯はカメムシ類に対しても効果が認められている。
【暴風害】
8〜9月の台風によって、落葉、落果、枝折れ、倒伏などが発生する。また、風の程度によっては果実と枝葉とがこすれあうために生傷が発生したりするなどの被害が出る。
暴風対策としては、防風林や防風ネットの設置が一般的である。防風林の場合、平坦地では防風樹の高さの10〜15倍が有効とされている。
暴風害により倒伏した樹はすぐに起こして、支柱を立て、根にも覆土する。裂けた部分は切除して癒合剤を塗布する。根の切断が多い場合は地上部を適当にせん定し、養水分吸収のバランスをはかる。
ま
や
【葉分析】
植物の葉は、土壌中の養分の状態をもっともよく反映するので、複雑な土壌分析によらなくても、葉を分析することで土壌中の養分の状態を知ることができる。その方法をいう。
【葉面施肥】
無機要素の葉面散布は、何らかの原因により要素欠乏が生じた場合の応急処置として用いられる。土壌施肥対する補助的な役割を果たしている。とくに、土壌要因の悪化により微量要素が欠乏しやすい状態になった場合、その欠乏を矯正するには葉面散布の効果が大きい。散布に対する反応は迅速であり、過剰害を起こすことは少ない。ただし、葉面散布の欠点はその効果が一時的で翌年に持ち越されることはほとんどないため、根本的な解決とはならない。ブドウのホウ素欠乏対策としてホウ酸の散布などが行われている。
また老化樹や衰弱樹では根の生長が劣りますます弱っている場合がある。そのような樹では摘果を強く行い葉果比を高めるとともに尿素系の葉面散布をたびたび行うことにより樹勢の回復や果実品質の向上を図ることが可能である。例としては、温州みかんマルチ栽培で夏の樹勢維持のために尿素散布などが行われている。
葉面散布処理が慣行の薬剤散布と混用できる場合には労力的な負担が少ないが、薬剤と肥料要素の相性が問題となる。
【有効受粉期間】
受粉された花粉が花粉管を伸長させて胚のうの卵装置に到達してはじめて受精が行われる。その期間は果樹の種類や温度条件によって異なるが、普通数日から1週間程度必要である。
しかし卵細胞の寿命は限られており、その間に受精が行われるためには受粉の時期が重要となる。実際には卵細胞の生存日数から花粉管が胚のうに達するのに要する日数を差し引いた期間となる。
また、胚のうの卵装置は通常開花と同調して完成する場合が多いが、種類によっては開花後数日経ってから完成するものもある。このようなものは有効受粉期間が長くなり、結実率が高くなると考えられる。
ら
わ
【わい性台木】
