映画横丁16丁目

「タナカヒロシのすべて」

私の友人で、映画を見ていて主人公が逆境に陥りめげていると、見るのをやめてしまう人がいる。痛々しくて、彼女にはとても見ていられないそうだ。
また、別の友人は、「7月4日に生まれて」の、トム・クルーズがベトナム戦争で下半身不随になりショックを受ける場面以降は見ていないそうだ。この作品は実話で、その後主人公は不自由な体にもめげず反戦活動家になるのだが、彼はそのプロセスを見たくなかったのか?
この二人の行動は、彼らの感受性が強いためということもあるだろうが、映画の主人公に近い位置にいるせいかも?二人の今までをそのまま映画化してもゼンゼンOKの、波乱万丈でドラマチックな人生なのだ。

それに比べて、われらがヒーロータナカヒロシ君はどうなのよ?とても彼らには感情移入できないよ、しょぼくて?たしかに、その辺にゴマンといるだろうサエない独身男の話・・・かな?かな?
しか〜し、一目見れば忘れられないかりあげ君風ヘア&牛乳飲む前の日本男子そのままの体型、インパクトでは負けてない?!ヒロシ君の日常は、さざえさん一家のごとく平和でありきたりなくせに、どっか変〜!
しょっぱなから懐メロコーヒールンバが流れ、通りにはカフェならぬ喫茶店、バンダナならぬネッカチーフを頭に巻いた女性、セピアな時代の物語かと思いきや、んん?昼休みの弁当屋?マチコ巻き(あ〜っ、死語だあっ!)の時代に弁当屋はないよなあ。
ヒロシ君がはずみで入ってしまう、○○とナントカの会!ん〜、このナントカもちょっと前話題になった・・・と(PCもDVDもプレステも出ないけど)時代は現代らしいのだが、なんとも魔可不思議な世界。ほんの少しズレてる。このズレ具合がたまらない。はまっちゃいましたあ!

タナカヒロシ君は、ただ成り行きまかせに生きてる。(そこんとこが、平成のプーやニートの絶大な共感を得ている所以である。ほんまかいな?)
努力なんて文字辞書にはないし、目標がないから挫折もしない。何も起こらないまま大人になって、何も起こらないから特にがんばる必要もなく、のほほんと両親と猫と暮らしている。そう、世界のあちこちで血が流され、飢えた人々もいて、悲惨な状況で生きてる人たちは多いけど、日本は平和だ。多くを望まなければ、そこそこ幸せ。

そんな日本でだって、アンラッキーな人は歯をくいしばり、かつ明るく笑いながら生きているのだろう。が、ヒロシ君はそうじゃない。お気楽人生まっしぐら!ある日、人並みの不幸が訪れるまでは・・・。
さて、どうするよ?ヒロシ君。今までいきあたりばったりだっただけに、アタフタ、オロオロ。いや〜、だいじょうぶ??頼りないったらありゃしない。てか、まるで自分を見てるような・・・トホ。
とはいえ不幸自慢の物語じゃない。ヒロシ君に訪れる、ささやかな至極のひととき。このときのヒロシ君の無防備な表情!キモいっ!!いや、こ〜ゆ〜のが今トレンドの「キモかわいー」か?鳥肌実は最先端らしい。

コメディとはいいたくないが(こんなのコメディとは呼べないか)、ふざけてるってゆーか、すっとぼけってるってゆーか、これぞオフ・ビートの笑いってやつ?
平凡で地味〜なタナカヒロシ君、本人は何もしてなくても、お見合いすすめられちゃうよ、宮迫寄ってきちゃうよ、変なサークル入っちゃうよ、かわい〜コに好かれちゃうよ、変な客やってきちゃうよ、マジヤバいよ、笑っちゃうよ。

ルーブル美術館を駆け回らなくても、チョコレート工場に招かれなくても、クレイジーケンバンドのメイ曲シャマールに乗って、映画は異空間に飛べるのだ。観てね♪


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Last update: 2007/02/25