戦争が始まってしまった。アメリカ軍の侵攻。新しい世紀にまた歴史は繰り返すのか。今の兵士の父や祖父たちの時代、アメリカはベトナム戦争で深い痛手をこうむっていたはずだ。当時の映画は暗い。予定調和のハッピーエンドは期待できない。「ディア・ハンター」もそう。ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープがやけに若い。でも不思議と2人ともあまり変わってない。もともと老け顔だったってこと?
ペンシルバニアの田舎町、鉄鋼工場で働く鹿狩り仲間の6人。その中のマイケル(デニーロ)、ニック、スティーブンは出征し、スティーブンは入隊前に結婚する。6人は最後の鹿狩りに出かける。その後結婚式の陽気な騒ぎ。のどかな田舎町の華やいだひととき。でも花婿の白いシャツにわずかにこぼれ落ちるワイン、ほんの少し暗い予感。
次のシーンはベトナム。彼らを待っていたのは、熱帯のじとじとした暑さと、人を殺すことが日常である別世界。偶然3人は一緒に捕虜となり、そこで地獄を見る。捕虜の檻はジャングルを流れる川にあって、檻の上に小屋があり、見張りのベトナム兵がヒマつぶしに賭けをしていた。捕虜にロシアンルーレットをさせる。リボルバーに銃弾を一発こめて、こめかみに銃口を当てて撃つゲーム。弾が出れば頭は吹っ飛び、出なければ助かる。だが、その後は?新しい相手がテーブルにつき、またゲームが始まる。どこまでも勝ち続けることはできない、死へのゲーム。わからない言葉で強制され、泣き叫びながら自ら頭を打ち抜いていくアメリカ兵。その叫び声と銃声、はやしたてるベトナム語、血の匂い。すぐ下の檻には筒抜けだった。次にあのテーブルにつくのは自分なのか。恐怖の極限に追いつめられる。すでにスティーブンは正気を失っていた。デニーロはニックに言う。「奴らをやっつけよう。このままではどっちみち殺られる。次のゲームは俺達がやるんだ。弾を増やして。」おいおい、それ、どう考えても無謀だよ。ありえないーっ!だが何もしなければ死が待っている。2人はロシアンルーレットのテーブルにつく。周りには銃を突きつけたトナム兵数人。こっちは2人。弾はわずか4発。ん〜、これがシュワちゃんのアクション戦争映画なら、安心してハラハラできるのに、マジで怖い!どーしよぉ。
早くやれと罵声が飛ぶ。どうせ死ぬならやるしかない。腹をくくったデニーロの発砲で不意を突かれたベトナム兵を撃ち、銃を奪ってまた撃つ!!!!!
銃声と叫び声の嵐が過ぎると、血にまみれたベトナム兵の死体、死体、死体。奇跡の銃撃戦。壮絶すぎる。とても20年以上前の映画とは思えない。
と、感心してる場合じゃない。ここから早く抜け出さなければ。デニーロは2人を連れて脱出を図り、川を下る。スティーブンは放心状態。足手まといになるだけ。でも友達を見捨てることができない。ヘリが3人を発見。ロープで引き上げられるその時、なんとニックが川の中へ。ほっとくな、私だったら。だってしゃーないでしょう、この場合。なのにデニーロは川に飛び込む。あ〜っ、なんてヤツだ!かっこいーのか、馬鹿なのか?でもしょーがない、そういう性分なんだ、きっと。助けたニックをトラックに預け、自分は歩いて行く。
時が過ぎ、デニーロは帰省する。スティーブンは両足を失い入院中、ニックは行方不明。そのニックの彼女メリル・ストリープとの再会し、一緒に暮すようになる。デニーロはずっと彼女が好きだった。友達の恋人だから言えなかったけど。
そして鹿狩りの名シーン。山々に木霊するデニーロの名ゼリフ、ここは観なきゃ!
ふつう、この見せ場が感動のラストシーンでしょう。ここで終わっても誰も文句はいわないよ。ところが、この先もっと恐ろしいことが・・・いえ、ホラー映画じゃないんだけど。
殺戮の戦場が遠くに感じられる、つつましく幸せな日々。でもある日デニーロは彼女の悲しみを見てしまう。職場のスーパーマーケットの裏、商品の箱の間で彼女は泣いていた。「気にしないで」と言ったけど。彼女が待っていたのは自分ではない。わかってたはずなのに・・・。急に友達に会いたくなり、病院のスティーブンを訪れたデニーロは意外な事実を知る。戦場から送られる差出人不明のお金・・・ニックは生きている!
だからってまたベトナムに行くかあ?ランボーじゃないんだから。やめてよーっ!って止める私の声も当然届かず、デニーロはニックを探しに行ちっまったよ、まったく。そしてロシアンルーレットの悪夢が再び・・・。あ〜っ、こわいよぉ!
この映画は戦争の狂気と不毛、人間の残酷さ、愚かさを世に訴えたのではなかったか?ベトナム戦争はたった一世代前の話。アメリカはもうあの傷を忘れたのだろうか?あのときLove & Peaceを叫んだ人々はどこ行っちゃったの?
・・・なんてピースフルなこと言っちゃったけど、この映画は単なる反戦映画ではない。戦場にこそ行かなかったけど、私たちも彼らと同じ。あの結婚式のパーティの日、何もこわいものはなくて、友達も恋人も永遠に思えた。それから時が過ぎて、いろんなことがあって、そりゃあ楽しいこともたくさんあったけど、見たくない人の醜いとこも見て、信じられないような酷い目にもあって、自分も友達も恋人もいつのまにか変わってしまって、無邪気に笑ってられなくなって・・・だけど。あの頃はもう二度と戻ってこないけど、たしかに存在した。いつもはぽかっと忘れてるけど、ちゃんと心のどっかに残ってる・・・
いやいや、そーじゃなくて!そんなセンチメンタルじゃ終わらせないよ、デニーロのポジティヴさは。そう。心のどっかに残したまま、前に進もう、行くしかないでしょ、と、そんな映画じゃないかなあ。どんなもんでしょ?観てね。