たとえば「ファイトクラブ」だって、「ボーイズンザフッド」だって、とにかくかっこいー指導者が魅力的なんだ。そこで「タイタンズを忘れない」のブーンコーチ。(デンゼル・ワシントンがニグロヘアで熱演。)
70年代の自由と平等の風潮の中、理想と現実は遠かった。理想を説けば暗殺されてしまうような時代。マルコムX、キング牧師、そう、人種差別の問題。でもと〜っても楽しくて爽やかなアメフト映画。(ディズニープロ制作だから?)アメフト好きのかわいい少女が出てきて、ほんとズケズケ言うの。(当たってるけどね、大人は口にしないだけで。)試合見てるときのオーバーアクションもすごく楽しい。
さて、白人のハイスクールと黒人のハイスクールが統合されるという。マジかよぉ、そんなこと誰が決めたんだ、ジモチーは誰一人として望んじゃいない。プラカードにデモ、ヒステリックな怒鳴り声、一触即発のテンパった田舎町。少女の父、ハイスクールのアメフトコーチはまもなく殿堂入りになろうとしている。そんな矢先、統合されたら黒人コーチブーンのアシスタントコーチになれと言われる。黒人と関わるなんてまっぴら。あいつらは違う人間だ。もとはといえば奴隷じゃないか。そんな奴らに使われるなんてこんな屈辱はない。これ当時の常識。時代遅れの浅薄な考え方と言うなかれ、なんせ四半世紀前の田舎の話。だけど自分がコーチをやめると言うと、チームのメンバー全員がやめると言う。それでは自分が彼らの才能をつぶし、人生を狂わせることになってしまう。
信頼されてるって辛いなあ。泣く泣くブーンコーチの下につく。ところが、彼は超ワンマンのスパルタ式。最強のチームを作るためとはいえ、水と油の2つの人種を仲良くさせるためとはいえ、カンベンしてよぉー!生徒はとっくに音を上げている。
厳しすぎる。ついにアシスタントコーチは言う。「ここは軍隊じゃない、高校なんだ。やりすぎなんじゃないか?」それに答えるブーン。「君が彼をかばったのは、彼がかわいそうだからか?もしあいつが白人なら情けをかけたりしなかっただろう。世間は厳しい。ましてや黒人にとっては。優しくすることは彼らの生きる力を奪うことになるんだ。」そっか、そうなのかあ。単に性格悪くてみんなをいじめてたじゃなくて、そこまで考えて厳しくしてたんだ。
これは人種問題に限らない。人に優しくするより厳しくすることのほうがずっと難しい。たとえば家族に障害者がいれば、どうしても気にかかる。手助けしてしまう。本人の自立への強い意志がなければ、それを振り切ることは難しい。生きていくことは厳しい。誰にとっても。自分自身を強くしなければ…。ブーンのシゴキは、その場の感情ではなく、生徒に対する深い愛情と信念に基づいた行動だった。ううっ、尊敬!もちろんアシスタントコーチもちょっとだけブーンを見直す。(肌の色だけでコイツ下だと思ってたけど、下手な白人より筋の通ったこと言うじゃん…って感じ?)
戦場の跡地に連れて入ったシーンも印象的。生徒たちは朝の3時に起こされ、とにかく走れ走れと真っ暗闇の森の中を走り続け、もうこれ以上走れないとへたばって、いつしかあたりが白々とし始めたとき、目の前には朝靄に煙る無数の墓標。そのときのブーンのセリフ、ここに書いてしまうのもったいない。ぜひ味わって下さいね。
ブーンの指導の下、チームは肌の色を超えて一つになる。しかしこれは合宿という世間から隔離された閉鎖的な場だけでのこと。学校に戻れば相変わらず完璧な対立状態。家族の反対、ガールフレンドの拒絶。自分の思うまま、自由に行動するってなんて難しいことなんだろう。
一つ一つ壁を乗り越え、近づこうとするチームメイト、ハードな練習、勝利へのステップ。とまあ、かっこよく書いてますが、実はめっちゃおもしろいの。こいつらふざけた野郎でね、どこにいてもすぐに歌が始まっちゃう。タイタンズのテーマ曲まで作っちゃってね、ユニホームにヘルメットのごついカッコで入場するときの踊り、おバカ〜!これから始まるのは何?ミュージカルコメディ?って感じ。
でも、当然ながらブーンに世間の風あたりは強い。おまえには感情がないのか、とアシスタントコーチにまで非難される。「俺は間違ってているのか?」思わず弱音を吐くブーンに、妻は言う。「あなたの言動でいろんなことが変わったわ。あなたのような人が必要なのよ。」いい奥さんだなあ。
と、まるでブーンコーチの一人舞台のような書き方をしたけど、彼の出番はわりと少ない。主人公はチームメイトの一人一人。(カリフォルニアから来たサンシャイン役のキップ・バルデュー、「ドリヴン」ではカーレーサー役で大活躍。)
これは人種がらみの青春スポコンドラマ、挫折と成功の物語ってゆーか、なんと実話なんだって!ま、ドキュメンタリーじゃないからどっかでデフォルメしてるんだろうけど、それにしたってキャプテンの話はものすごいよ。これが本当にあったことなんだと思うと、胸を打ちます。観てね。