ミステリーは好きですか?知る人ぞ知る作家アイラ・レヴィン。作品数は少ないけど、そのおもしろさと一作ごとのユニークさでは群を抜くグレートライター。(映画「ブラジルから来た少年」、「ローズマリーの赤ちゃん」、「硝子の塔」、観たことある?)
本読む人なら、「死の接吻」も原作を読むことをおススメ。だって映画では犯人が見えるけど、本じゃ見えないからわかんないの。怪しい二人のうち、どっちが危険なのかわかんなくて、超ハラハラ。一気に読んじゃうよ。
映画では、犯人はマット・ディロン。最初から分かってる。知らないのは主人公のみ。教えてあげたい。危ないよ〜って。彼女は「ブレードランナー」の美しいアンドロイドで一世を風靡したショーン・ヤング。カジュアルな格好ももちろんかわいい。
ある意味、原作より面白いこのミステリー、もしかしてラブストーリー?
二階の窓から外を見る少年。貨車が走ってく。近くの製鉄工場から製品を運び出してるのだ。少年はいつもいつもそれを眺めていた。野心を秘めて。今みたいなつまんない暮らしは嫌だ。いつか工場主になってやる。
製鉄会社の娘は、そんな渇望するような思いにかられたことなど一度もない。二人は出会い、彼女は彼を愛するようになる。お金にも愛情にも不自由したことがない彼女に、どこか影のある青年は魅力的だったのか。(その影こそ恐ろしい殺人者の素顔なんだけど。)そして結婚。これでハッピーエンドじゃん。彼はすべてを手に入れたでしょ?裕福な暮らし、揺るぎ無い地位と権力、名声、美しい妻。
なのに彼はちっとも楽しそうじゃない。どうして?穏やかな偽りの生活。彼女の心にいつしか不安の雲が広がる。そして不信が決定的になったとき、手から落ちるマグカップ、スローモーション・・・。一瞬にしてすべてが壊れる。今まで信じていたことのすべて。空が青いことも、陽の光が温かいことも、何もかもが幻想?
それでも彼女は彼を愛していた。真実を知りたかった。隠された本当の彼を愛したかった。自分が彼を救えると本当に思っていた。それは愚かなこと?
殺人事件なんてめったに起こらない。でもこういう苦い心の行き違いは経験するかも。誰かを信じて、ひどい裏切りに遭うこと。だけどそれは裏切りなのか。彼はもともと彼自身だった。心を閉ざした孤独な人。それでも出会ってしまえば愛さずにはいられないかもしれない。行き場のない愛が溢れてしまう。そういうことって起こりうるなあ。
ううん、これはおもしろいサスペンス。難しいことなんか一切無し。ただストーリーに乗っかって、ハラハラドキドキ見てればいいの。あぁーっ、あぶない!え〜っ、なんで気づかないの?ほら、早く早く!ってね。
そして少年は窓から外を見ている。線路を軋ませて貨車が通る。少年は未来を思い描く。なんて哀しい風景・・・。戻る