第二章 牛肉の話
    
    前章でも簡単に触れましたが、「牛肉」について詳細に見ていきましょう。まず、牛という


   動物は、専門的に言いますと「哺乳網偶蹄目ウシ科」に属します。仲間には、意外に思うかも


   しれませんが、羊も山羊も入ります。


    人間の勝手な分類でいきますと、力仕事を専門にする水牛系、搾乳が専門の乳牛系、肉を取


   ることを専門にする肉用専種の三つになります。
 
 第一節 牛の簡単な一生
    
    まず、雌牛に人工授精をさせます。自然交配は、リスクが大きいため、ほとんどありません。


   牛の平均的な妊娠期間は、280日間で分娩します。この子牛の種類によって肥育期間が異な


   ります。ヘレフォード、アンガス(米国)マリーグレイ(豪州)などの肉用専種は、12〜


   14ヶ月でと畜されます。ブラック・アンガスだけは、日本の黒毛和牛と似た性質があり、


   対日輸出用として16〜18ヶ月肥育をして、穀物肥育でサシ模様を入れることができます。


    乳牛が乳を出すためには、妊娠をしていなければなりませんので、期間がくれば分娩になり


   雌なら搾乳用として再利用可能ですが、牡の場合ですと価値がありませんので、去勢して肉用


   に転化させます。国産牛といわれるホルスタイン種が、これにあたります。平均肥育は18〜


   20ヶ月です。これも穀物肥育をしますが、もともとが乳牛種のため、サシの入りは甘いです。


    和牛種には、褐毛と黒毛とおります。日本での褐毛は、熊本・岩手・青森で飼育しているぐ


   らいです。20ヶ月肥育ですが、サシはあまり期待できません。次に黒毛ですが、肥育期間は


   平均24ヶ月です。そこそこサシが入りますが、驚く程ではありません。


    最後にブランド牛といわれる牛がおります。松坂牛・神戸牛・近江牛・前沢牛等が全国的に


   有名です。これは30〜36ヶ月の肥育期間です。こうした牛は、国内生産の内の1%未満で


   しかありません。
    
 第二節 牛から牛肉になるまで
 
    と畜場でと畜された牛は、内臓摘出・剥皮・背割りされ、枝肉と呼ばれる状態になります。


   この時点で肉として提供できるかどうかの検査をうけます。冷蔵庫で24時間の冷却を経てか


   ら格付けされ、セリにかけられます。セリ落とされた牛は、卸業者の手により脱骨され、大き


   な部位別の部分肉になり、箱詰めされます。ここでは、13〜31までの部位に細分割するこ


   とができます。


    牛肉の旨味を増すために、エイジングという行程を入れる業者もおります。これは簡単に言


   いますと、枝肉もしくは骨付き部分肉の状態で冷蔵庫に2〜4週間放置しておきます。当然、


   腐敗が進行しますが、低温状態の場合では肉のタンパク質が変質していき、アミノ酸が多くな


   ります。また、脂質も変質し芳香成分が増大していきます。(これ以上は専門的すぎると思い


   ます。)高級部位しかこうした作業は、行いません。


    一般的には、ボックスミート(箱詰牛肉)をスーパーや肉屋に持ち込み、さらに整形し手切


   したり、スライスしたりして消費者に販売することになります。



 第三節 焼肉店での仕込み作業
   
    現在では、ほとんどの店舗がボックスミートを使用しています。大手のチェーン店舗(安楽


   亭、食道苑、叙々苑等)は、センターに搬入されたものを自店用に整形・カットし凍結します。


   フレッシュでは、鮮度が一定化できないので、これはしかたがありません。


    中小の店舗では、肉屋から直接仕入れます。このレベルの店での使用部位が、関東と関西で


   は大きく違います。関西は、肩ロースを主体にアイテムを作っていきます。カルビが中心なの


   はどこでも一緒ですから、バラも仕入ます。このため、前に言いましたが、ロースのレベルが


   上がっていきます。関東は、カルビ用にバラ、ロース用にシンタマ(モモの一部分)を仕入ま


   す。極上以上には、リブロースを仕入れます。何時の頃からはわかりませんが、関東では肩ロ


   ースからアイテムを作れる調理人が、いなくなってしまいました。


    このへんの牛肉に対する思入れの差は、風土の違いではないかと思います。肉と言った時、


   関東では豚肉になるが、関西では牛肉になるといったところから、くるものと思います。


    ここまでは、曲がりなりにも和牛の話ですが、現在では多くの店が輸入牛肉でアイテムを


   作っているのが現状です。このようになってきているのも、米国のブラックアンガスのレベル


   が上がり、チルド流通が可能になり、さらに細かい分割が可能になったため、大手ハムメーカー


   がこれを積極的に販売していることが、理由のようです。


    バブル時代に調理人の確保が難しかったことや牛肉自由化による価格低落が相俟って、一気


   に進展してしまったようです。