DV防止法改正のポイントと問題点 アジア女性センター

 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(配偶者暴力防止法、いわゆるDV防止法)」の2回目の改正が行われた。今年7月11日に公布され、来年の2008年1月11日から施行される。今回の改正のポイントの中で最も重要なのは、「保護命令制度の拡充」である。
 まず第一点は、生命・身体に対する脅迫行為も保護命令の対象としたことである。これまでは保護命令の対象は身体的暴力の被害者に限られていたが、身体的暴力が起きていない場合でも、接近禁止命令や退去命令を求めることができるようになった。これまでの保護命令制度では、生命身体に危険が及ぶ(つまり現実に血を流し、体に傷を負うような)行為でなければ、保護の対象とはならなかった。しかし「殺してやる」など電話やメールによって被害者を繰り返し脅す例は多く、被害者の恐怖心をあおって服従への圧力となっていた。ストーカー行為規制法に近い機能を果たすことができると考えられる。
 第二点は、被害者に対する電話やFAX、電子メールなど加害者による直接的な接近でない場合でも禁止の対象とされるようになった。接近禁止命令がより実効性をもつことを目的としたものであるが、これには「緊急やむを得ない場合を除く」や「午後10時から午前6時の夜間のみ禁止」という留保がついている。加害者からの直接のことばであれ、電話やメールであれ、それが脅迫的に作用するからこそ保護命令の対象としたのではなかったか。電話やメールが届く時間が問題なのではなかろう。その実効性に疑問が持たれるところである。
 第三点は、接近禁止命令の対象が、「本人と子ども」から、被害者の親族や知人、支援者へと拡大されたことである。このことでこれまで加害者からの攻撃の危険のある実家に戻ることができなかった被害者が自分の両親への接近禁止命令も併せてとれば、自立支援のオプションが広がることになる。しかし一方で、親族や支援者の保護命令を出す際には、その住所氏名を相手に伝えなければならず、支援活動するシェルターの存在を加害者に知らせるリスクも高い。
 このような保護命令の拡充にもかかわらず、それを無視して加害者が被害者や親族、支援者に危害を加える事件の報道も相変わらず後を絶たない。DV被害をなくすためには、被害者保護と同時に、加害者更正教育プログラムや処罰の強化などの積極的な加害者対策も重要である。しかし今回の改正には十分盛り込まれなかった。
 これらに加えてDV防止基本計画の策定を(努力義務ではあるが)都道府県から市町村にまで拡大し、市町村でも配偶者暴力相談支援センターの機能を果たす施設を置くこととされた。具体的な被害者支援の際に一番身近な市町村の役割が強化された。 
 暴力を受けた被害者が緊急に駆け込むのはまず警察である。その後の被害者保護と支援は市町村レベルに委ねられることが多い。そうした被害者保護と支援の直接の窓口が、いかに正しく「親密な関係のなかの暴力」というDV被害を理解しているかが、DV防止法の正否を決めると言ってもよいだろう。