2007年 移住労働者と共に生きるネットワーク・九州 福岡ブロック政策提言
岩本光弘
以下は、2007年10月22日北九州市、同年10月30日に福岡県と福岡市に提出された政策提言です。
はじめに
私たち、移住労働者と共に生きるネットワーク・九州は、日本に在住する移住(外国人)労働者とその家族の人権擁護、生活面での支援を目的に活動する九州内のグループや個人によるネットワークです。このネットワークの福岡ブロックでは2003年から政策提言をさせていただいており、そのいくつかについてはすでに実施していただいていることに感謝申し上げます。
さて、多く外国籍の人々が働くため或いは日本人の配偶者として日本で暮らすようになり、日本の人的な面での国際化は大きく進展してきました。しかしこれまでの行政の制度及び施策が、原則として日本人のみの存在を前提としてのものとなっており、外国籍の人々の定住化等による社会の多文化化の状況との間にギャップが生じてきています。この結果外国籍の人々においても認められるべき諸権利が、尊重されない事態が数多く出てきています。私たちは、日々の支援活動の中で個別の取り組みを行ってきましたが、このような取り組みだけでは限界があり、行政制度や施策面での改善が必須との認識を持っております。今後は外国籍の人々も同じ“地域の住民”として明確に位置づけ、その人権を保障するシステム作りが必要です。このためには、これまでの自治体での国際化施策を「交流」や「イベント」から「共生」と「地域での協同」に軸足を移すとともに、外国籍市民の視点に立った取り組みが必要であると考えます。
この様な認識の下、今回も私たちの活動の中から見えてきた改善すべき事柄について、提言を提出させて頂きます。この提言については、十分な検討をして頂きますようお願いします。なお今後の貴市(県)の取り組み及び考え方については文書にて回答下さるようお願いします。
福岡県に居住する外国籍住民等への施策に関する政策提言
1.多文化共生課又は国際人権課の設置
自治体全体の外国籍市民の生活と人権とを守り、多文化共生の地域社会を作るための施策の立案・調整を行うため、総務部局に多文化共生課又は国際人権課設を設置する。
【説明】 現在、外国籍市民に関わる諸施策は、それぞれの事業実施部門の縦割りの形で行なわれており、整合性がとれていない状態となっています。このため外国籍市民を『市民』として認知しその人権と生活の保障を基底に据えた多文化共生の街作りの基本方針を策定し、施策を立案していく部署の設置が求められます。またこの部署では基本方針の下、全庁各部局での外国籍住民に関わる施策を総合的に調整し、指導する権能を持つことが求められます。
2.外国籍市民人権相談・救援窓口の設置
外国籍住民への個別の人権侵害事例や直面する諸問題等に対しアドバイス、勧告・仲介等の解決方策を行うため、多文化共生課又は人権啓発担当課に外国籍市民人権相談・救援窓口を設置する
【説明】 外国籍の住民は入居差別を始めとする様々な差別的取扱いや、ビザの取得や渉外戸籍の問題など外国籍故の困難な問題に直面することが多くあります。このような問題を解決していくために行政による相談窓口の設置が求められます。ここでは単に相談を聞きアドバイスをするだけでなく、一歩踏み込んで必要な場合には問題の事案に介入し、あるいは弁護士等に依頼して仲介に入ってもらうなど問題解決のため積極的に対応する、実効性のある窓口である必要があります。
3.職員に対する外国籍市民の人権等に関する研修の実施
外国籍住民と関わりのある職務を行なう職員や学校の教職員を対象に、外国籍市民の人権に関する研修を行う。
【説明】 外国籍市民の置かれた状況やその意識は、言語の壁により一般の市民に比べなかなか行政に伝わりにくくなっています。このため外国籍市民と関わり接することのある部門においても、その存在を無視した形で行政施策が行なわれることが多くあります。このような事のないよう、幹部職員をはじめ、特に外国籍市民との関わりがある部局の職員や学校教員に対して外国籍市民の人権等に関する研修を定期的に実施する必要があります。また定期的に行われている職員の人権研修においても、外国人の人権問題について取り上げる割合少ない現状なので増やす必要があります。
4.地域防災計画上への外国籍市民への対応の位置付け
自治体が策定する地域防災計画において外国籍住民への対策に関する項目を盛り込む。
【説明】 災害の発生時において、外国籍市民は災害の状況や避難等に関しての情報の掌握が困難で、被災を防ぐための特別な対応が必要です。しかしながらこれまでの地域防災計画においてはこの点の認識が不十分で、計画に反映されていないといえます。今後行なわれる地域防災計画の改訂においては、外国籍住民への対応に関する項目を設けるなどし、外国籍市民の存在を十分に斟酌した計画とする必要があります。
5.児童生徒への日本語指導体制の整備・充実
教育委員会への「国際教育係」の設置を含め、外国からの転入児童生徒への日本語指導の体制の充実を図るとともに指導者への支援体制を強化する
【説明】 中国帰国子女や海外からの転入児童生徒に対しては、外部講師による日本語指導と、少数の学校への支援教員加配がなされていますが、指導時数や配置教員数の面で非常に不十分であり、日本語がわからず授業について行けない状態となる児童生徒が出てきています。このため抜本的な日本語指導のための増員、増時間が必要です。また、指導担当教員に対しての指導方法等の研修も少ないのでその充実が必要です。さらにこのような外国籍児童生徒等への指導やケア、教育課程においての「共生」に関する教育を担当する「国際教育係」の教育委員会への設置が求められます。
6.外国籍児童生徒等に対する母国文化、母語指導の条件整備
日本への「同化」を進める教育ではなく民族的アイデンティティの保持を図るため、外国籍児童生徒等に対する母国文化、母語の指導のための条件整備をする
【説明】 外国籍の児童生徒等においては、日本語・日本文化の指導しか行なわなかった場合、日本への「同化」を求める教育となり、ともすれば出身母国への誇りやアイデンティティが損なわれ、自己嫌悪感や劣等感を抱き、ひいては学校や社会への不適合を招くこともおこってきます。このため民族的な誇りやアイデンティティを持ち続け、各人の個性を発揮することができるよう、外国籍児童生徒等に対する母国文化、母語の指導や習得のための手立てを様々な場面で講ずる必要があります。
7.公立高等学校入試における特別措置の要件緩和
公立高校入試で実施されている帰国子女、外国籍生徒への特別措置について、「小学校4年生以降の来日者」という要件を緩和する。福岡県においては帰国子女等特別入試の実施校を増加する
【説明】 公立高校入試で実施されている帰国子女、外国籍生徒への特別措置(帰国子女等特別入試、帰国子女等推薦入学、一般入試における特別措置)の適用においては、「小学校4年生以降の来日者」という要件がつけられています。しかし小学4年以前に来日した生徒においても、高校の一般入試に通用する日本語の習得は非常に厳しく、実際にはその進路は大きく制約されているのが実状です。そのため特別措置における来日時の年齢制限を緩和することが必要です。
なお、福岡県においては現在4校で実施している帰国子女等特別入試については、機会均等を保障するとともに通学の便を考慮しため、校数を増やし、少なくとも各学区ごとに1校で実施することが必要です。