ナイジェリア人夫の退去強制令書発付処分取消訴訟
〜福岡高裁は、原判決を取り消す逆転勝訴判決を言い渡しました〜
中島 真一郎 コムスタカー外国人と共に生きる会


1.逆転勝訴判決が言い渡されました


 2007年2月22日(木曜日)午後1時10分に、福岡高等裁判所502法廷で、ナイジェリア人夫の退去強制令書発付処分取消訴訟控訴審判決公判がひらかれ、福岡高等裁判所第一民事部 (丸 山 昌 一裁判長)は、「主文 1、原判決を取り消す。2、被控訴人、福岡入国管理局長が平成17年3月15日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民民定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出は、理由がない旨の裁決は取り消す。3、被控訴人福岡入国管理局主任審査官が平成17年3月16日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。4、訴訟費用は、第1、第2審とも被控訴人らの負担とする」と控訴人逆転勝訴の判決を言い渡しました。
 長崎県大村市内や長崎県内から、控訴人夫婦、その支援者、福岡県内や熊本県内各地から約20名ほどが傍聴に集まりました。裁判長は、開廷後、判決主文を読み上げて閉廷を宣言し退出しましたので、その間3分間ほどでした。「原判決を取り消す」との最初の言葉を聞き、勝訴できた喜びをかみしめながら、傍聴者は静かに聞いていました。閉廷後、控訴人夫婦、控訴人代理人の弁護士、支援者らで逆転勝訴の喜びを分かち合いました。そして、福岡県弁護士会館2階会議室で、報告集会を開きました。


2.これまでの経緯

 日本人女性と交際していたナイジェリア人男性は、婚姻に反対する日本人女性の父の警察への通報により、旅券不携帯の容疑で2005年1月に熊本県警に逮捕されました。日本人女性は、逮捕後数日して婚姻届を提出し受理されました。その後、同年3月上旬にナイジェリア人夫には、入管法違反の刑事裁判有罪判決が確定し、身柄を福岡入管へ移送されました。
 日本人妻との婚姻を理由に在留特別居許可を申請しましたが、二人の交際期間が数ヶ月と短く同居もしていないことなどから、在留特別許可が認められず、同年3月中旬には退去強制令書が発付されました。そして、福岡入管の収容施設から長崎県大村市の大村入国管理センターに移送されました。
 ナイジェリア人夫は、2005年4月に福岡地裁に退去強制令書発付処分取消訴訟を提訴しました。原審(福岡地裁)は、2006年1月に「原告の請求を棄却する」という原告の敗訴判決となりました。原告は、この判決を不服として福岡高裁へ控訴しました。同年2月に大村入国管理センターが3回目の仮放免申請を許可し、逮捕から13ヶ月、大村入国管理センターに移送されてから11ヶ月ぶりにナイジェリア人夫が仮放免され、仮放免許可の条件下ですが、夫婦が同居して暮らせるようになりましたが、妻の病気が悪化し、自殺未遂を繰り返すようになりました。
 控訴審では、これまで5回の口頭弁論がひらかれ、妻の病状や夫の退去強制の妻への影響が最大の争点となり、控訴人が申請した2人の証人(妻の医師、妻)と控訴人本人の証人・本人尋問申請が裁判所から認められ、同年9月に証人調べ等が行われました。そして、同年10月の第4回口頭弁論をへて、同年12月の第5回口頭弁論で結審しました。


3.控訴審判決の意義と影響

(1)控訴審判決の意義
 控訴審判決は、被控訴人の主張する「行政処分の違法性判断の基準時は当該処分時であり、本件裁決後の事情は考慮されるべきではない」という行政法の判例や通説で定着している「処分時」説を斥け、婚姻関係の実体の評価を処分後の事情も含めて評価すべきとしたこと。
(ア)(判決)「必ずしも婚姻期間の長短、同居の有無が婚姻関係の真摯性を判断するための決定的基準となるものではないし、また、上記事実を持って直ちに保護に値する夫婦としての実体が備わっていないということもできない。
 のみならず、本件裁決後の事情とはいえ、既に、9ヶ月余り同居し、又、婚姻期間も約2年近くなるものである」
(イ)(判決)「しかしながら、憲法24条は、婚姻は、夫婦が同等の権利を有することを基本として相互の協力により維持されなければならないと規定し、また、日本政府が締結・B規約 23条も、家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有し、婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻し、かつ家族を形成する権利は認められると規定していることに照らせば、日本国の国民が外国人と婚姻した場合には、国家においても当該外国人の在留状況、国内・国際事情などに照らし、在留を認めるのを相当としない事情がない限り、両名が夫婦として互いに同居、協力、扶助の義務を履行し、円満な関係を築くことができるようにその在留関係についても相応の配慮をすべきことが要請されているものと考えられる」

(2)控訴審判決の影響
 控訴審判決は、2007年3月9日被控訴人が、最高裁への上告を断念して確定し、3月15日控訴人に、日本人配偶者等の在留資格が付与されました。現在、逮捕や摘発後に婚姻届を提出し、同居期間が無いか短いために在留特別許可が得られず、日本人配偶者等が存在するにもかかわらず、退去強制令書が発付され、入国管理センターなど入管の収容施設で長期収容されている外国人が数多くいます。これら同様な問題を抱える外国人にも適用の可能性が強まり、入管のこれまでの在留特別許可の判断基準や運用、退去強制令書発付処分後の裁決の見直しの運用基準に大きな変更を迫っていくものと思われます。