元中国残留孤児井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の退去強制問題報告
―福岡高裁での第4回口頭弁論報告

  中島真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

1、控訴審のこれまで経過

 2003年3月30日の一審敗訴後の福岡高裁での控訴審では、2004年2月23日の第4回口頭弁論で結審が予定されていました。しかし、控訴人らの入国申請時の提出書類に「日本人の実子」の偽装がなかったことを示す井上鶴嗣さんの戸籍謄本など新証拠を提出し、文書提出命令の申し立てを2004年1月30日に行なったところ、2月23日の口頭弁論期日は取り消されました。そして、高裁の裁判官が控訴人の申し立てた文書提出命令の必要性を事実上認め、拒否する被控訴人に提出を促し命令を出す寸前で被控訴人が任意提出してきたため、文書提出命令申し立ては目的を達したとして今年7月に取り下げました。そして、高裁からは、8月末までに新たに提出された証拠に基づく主張を準備書面として提出すること、次回第4回口頭弁論は、10月18日(月)午後1時30分とすることが決まりました。同年8月下旬に提出されてきた被控訴人(入管)の準備書面4では、「本件裁決処分は広範な自由裁量が法務大臣に認められていること、大阪入管が在留特別許可を認めた事案と本件を単純に比較することは無意味である。原審判決は正当であり、本件控訴に理由がないことが明白であるので、速やかに弁論を終結し、本件控訴を棄却するべきである」との従来どおりの主張を繰り返してきました。これに対して、控訴人らは準備書面8で、新たに提出された証拠をもとに「控訴人らに処分の前提たる偽装行為がなかったこと、大阪入管の在留特別許可が認められた事案と比べて、差別的取扱いをすべき合理的理由がなく、本件処分は裁量権を濫用・逸脱した違法なものである」という主張を提出しました。そして、9月上旬に、2004年の通常国会(第159回)の衆議院と参議院の法務委員会での入管難民認定法改定の上陸許可取り消し処分についての入国管理局長の答弁の掲載された議事録を新証拠として提出し、2001年11月5日の控訴人らの摘発の根拠となった上陸取り消し処分の違憲―違法性と、その処分を前提に一連の手続きとしてなされた法務大臣の不許可の裁決や主任審査官の退去強制令書発付処分が違法である」と主張した準備書面9を提出しました。
 9月24日の進行協議では、10月18日の第4回口頭弁論で、控訴人が準備書面の陳述とともに、証拠として提出したMBSのビデオ(大阪の尚姉弟さん家族の問題を特集したニュース報道)と、FBSのビデオ(井上鶴嗣さんの家族の問題を2001年11月から12月下旬の提訴までの1ヶ月間を特集してニュース報道した)各8分間程度の法廷での上映を要求したところ認められました。また、控訴人の準備書面9への反論を被控訴人が10月初旬までに提出することになりました。被控訴人は速やかな結審をもとめ、裁判官も証人採用をせず、次回11月29日で結審したという意向を示しました。これに対して、10月初旬に提出される被控訴人の準備書面への反論を提出する意向であり、結審の場合には、最終準備書面を作成して提出したいので、次回10月18日の結審に強く反対しました。その結果、次回では結審せず、次々回として11月29日が予定されることになりました。この準備書面9に対して、10月1日に被控訴人から「上陸許可処分は合憲―合法なものであること、上陸許可取り消し処分の瑕疵は、本件裁決や本件処分に継承されない」と主張する準備書面5が提出されてきました。これに対して再反論する準備書面10と、本件処分の前提となっている上陸取り消し処分の要件や根拠などに関する文書の提出命令、及び福岡入国管理局長の証人調べを求める上申書を10月15日に提出しました。また、被控訴人の準備書面5で引用されている2001年11月5日に収容された後での入管職員による井上菊代さんや井上由紀子さんの供述書などへ反論する準備書面11を10月18日午前中に提出していました。

2、第4回口頭弁論

 退去強制令書発付処分等取り消し訴訟控訴審第4回口頭弁論が、2004年10月18日午後1時30分より、501法廷で始まりました。第3回口頭弁論が2003年12月でしたから、実に10ヶ月ぶりの裁判の再開となりました。この日は元中国残留孤児井上鶴嗣さんの家族、友人、支援者、遠く奈良県や大阪府など関西からの支援者の方々も含めて約70名が傍聴に来てくれました。福岡裁判所司法記者クラブの撮影許可申し込みを裁判所が許可し、午後1時20分より10分間法廷が閉鎖され、FBSが裁判の冒頭2分間(いわゆる頭撮り)撮影を行いました。第4回口頭弁論では、まず石塚裁判長が、10ヶ月ぶりの審理の再開となること、この間に提出された控訴人側、被控訴人(国)双方の主張の書面の提出を確認しました。そして、控訴人代理人の弁護士が二人分担して、控訴人から提出した準備書面8−10で記載されている「被控訴人井上菊代さんと井上由紀子さんの入国時の提出書類に井上鶴嗣産の実子を偽装した事実がなく、入国経緯に違法性がなかったこと、2001年11月5日に控訴人7人が摘発―収容された上陸許可取り消し処分が違憲―違法なものであり、原審判決は取り消されなければならない」という内容を、また準備書面11で記載されている「井上菊代さんと井上由紀子さんの実子を偽装したと認める供述調書や同趣旨の井上鶴嗣さんの供述は、取調べに当たった入管職員の誘導と作文であり、供述調書の信用性がないこと」を主張する反論内容を陳述しました。被控訴人は、「提出した準備書面を陳述した」という一言で終わりました。
 次に、石塚裁判長は、これまで双方から提出されている証拠の確認を行い、その後9月24日の進行行協議での合意に基づき、控訴人が提出したビデオテープ2本の法廷でのスクリーンを使っての上映がおこなわれました。まず、最初に大阪のMBSのビデオ(大阪の元中国残留孤児吉岡勇さんの再婚した妻の子である尚姉弟さん家族の問題を特集した2003年3月12日放映のニュース報道  約8分間)が、続いて福岡のFBSのビデオ(井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の問題を2001年11月の収容から仮放免、12月17日在留特別許可不許可処分までの約1ヶ月間を特集して2001年12月下旬放映のニュース報道 約8分間)の上映がおこなわれました。ビデオテープの証拠採用だけでなく、法廷での上映が認められたことはきわめて異例ですが、大阪入管から2003年6月に在留特別許可が認められた元中国残留孤児吉岡勇さんの再婚した妻の子である尚姉弟さん家族の問題と、井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の問題が全く同じ問題であり、前者には在留特別許可が認められ、本件である後者は不許可にされることの理不尽さがあらためて浮き彫りになりました。高裁の裁判官3名も真剣に見入っており、井上さん家族の絆の強さや家族としての実体があることや入管のズサンな審査内容など、書面や証言では表現できない映像の力を印象付けられました。そして、今後について石塚裁判長は、「裁判所としては。これまで法務大臣の裁決(在留特別許可不許可)処分に裁量権の濫用があったかどうかが本件の重要な争点と考えてきましたが、控訴人から提出された2004年10月15日付準備書面により、2001年11月5日の上陸許可取り消し処分の問題も本件の重要な争点であると判断しています。この新たな争点に対する2つの見解を、被控訴人に対して裁判所として求めます。一つは、控訴人の準備書面で述べられている2004年の入管法改定により新たに設けられる在留資格取り消し制度と、これまでの上陸許可取り消し制度との両者の法律的関係がどうなっているのか、2点目は、本件での2001年11月5日時点での上陸許可取り消し処分の手続きがどのように行われたのかについてです。裁判所としては、当初は11月29日の次回で結審する予定でしたが、被控訴人の裁判所から求めた2点についての見解の回答をまって、今後の審理をどうするかを決めることにします。控訴人から申請のあった文書提出命令や4人の証人申請についても、その後に判断することにします。なお、裁判所としては、被控訴人への回答への控訴人からの反論などもあるかと思いますが、次回11月29日の第5回口頭弁論で結審する予定は、すべて撤回したわけではありませんので、これまでの主張や証拠でまとめられるものについては、最終準備書面を準備しておいてください。」と宣言しました。次回11月29日で、当然結審となると思い込んでいた被控訴人の訟務検事(女性)は、裁判官の言うことが理解できないようで、あわてて「次回までに何を回答すればよいのですか、もう一度いってください。」と確認していました。そして、次回の第5回口頭弁論は、11月29日午後3時30分からと決まり、被控訴人はその2週間ほど前の11月15日までに裁判所からも求められた2つについて回答してくることになり、この日の法廷が1時間15分ほどで終了しました。