Instant Believer

心が震えた気がして立ち止まった。君の言葉がナイフ。薄っぺらの私を切り裂いた。レンジで解凍、黒電話。ベルが鳴ったらすぐに出よう。啓示を待つ。


楽!

楽しくて死にそう、息つく暇もないのハイスピード、呼吸困難笑ってポーズ、何処行き列車の走る鼓動、ガタン・ゴトトン・ガタンゴトン!


渇望

生れ落ちたその日にかけられた呪縛は悪夢にうなされることなく今も解かれずにいる。長い雨が続いてようやく晴れ、今ならと思う最初の一歩はいつも泥濘。湿った風にさらさられる乾いた笑いは顔に張りついて涙は料金未納で断水状態。青い空の下で呪いの言葉は俺の口を縛り根を張ることの邪魔をする。天気のよい日、妥協は偽善を生み理想に向かって挫折する。現実は素敵な鏡、俺が拒否してそれに返してくる。
 

どうもこうもねえ。それでも俺はなじみたいんだ、晴れた空に風に風景に、俺はなじみたいだけなんだ。


君の肖像

割に整った顔立ちをしているくせに笑顔が醜くて、照れた顔なんて見れたもんじゃない。けれど、ひたむきだったり、何かに耐えるようなときの君の表情はとても美しく。心を揺さぶられる。美しさも醜さも、それを含めての君だから。


猿の腕

罪の意識と猿の腕。キャベツ畑、キャベツの中の蝶々。遠くて月に届かない私の腕は猿の腕、毛深く長く伸びた腕。ぶよぶよの空に当たって膜を突き破る。内臓を引きずり出して血塗れの空。それでもそれでも月に遠くて泣けてくる。ぐちょぐちょぐちょぐちょ空の中身を掻き回す。びちゃびちゃびちゃびちゃ血が落ちてくる。ああもう血で月が見えなくなった。あんなに透明だったくせに、空、塗り潰したみたいに赤。なんでだよう、なんでだよう、なんで邪魔するんだよう。月に届きたいだけじゃないか、ほんの少し触れたいだけじゃないか。

血塗れの空、一面のキャベツ畑、月が金属みたいな音で鳴く。それを合図にしたみたいに一斉にキャベツが開いて蝶々の群れ。赤い空に黒いひらひら。うわあん、うわあん、どうしてどうして赤に潰されないで羽ばたけるの。びちょびちょびちょびちょ雨みたいに血が降って体中べとべと。月に届きたいよ、月に届きたいだけだよ、泣きながら腕をめちゃくちゃに振り回しても空の内臓引っ掻き回すだけ。

ぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ届かない。

キャベツ畑、私はまるで血塗れ馬鹿。ううわん、空の馬鹿、月の阿呆。


銀色の蛇

枕を抱いて。皮膚の下を銀色の蛇が這いずり回る。夜の闇に呑み込まれてしまわないように、しっかりと抱いて。眠りなさい、今はただ。

君の慈悲も優しさも、今はただ君を疲れさせるだけだろう。意識を手放すことが君は怖いんだろう。触れなくてもいい、夢を見よう。大丈夫、ただしっかりと枕を抱えて、眠りなさい。銀色の蛇が君の中を昇りつめていく。君の残酷も無頓着も責めたりしないから。今はただ。眠りなさい、眠りなさい。


白濁ウサギ

夜空に星が瞬いて、白い息を吐いた僕がウサギになって言うんだ。
 

「ねえ僕はキミだけを愛すから」
 

下手な告白、僕の告白。吐いた息とともに白く濁って空に消え入って、嗚呼、曇り空。瞬く星々、綺麗な夜空もこれにて終演。さようなら。開演は二度とない一世一代の告白、これにて終演。さようなら。

白いウサギの赤いおめめで涙する。赤がとろとろ涙に溶けて流れて、僕はピエロの形相。口角を上げてますますそれらしい。キミの為には悲しむまい。ああ、ああ、溶けて混じって消え入ろう。


衝動、焦燥、消失

電灯の光。闇の蝶。肌の下を這いまわる。さらされて肌が痛い。赤の線。七秒に焦れる。喉がからから。顔がないよ、もう手遅れだ。


それは君だろうか、それは君だろうか

オブジェのように何千もの針が柔らかい脳に突き刺さった。眺めて笑っているのは君だろうか。綺麗な白い肌で笑うのは君だろうか。


夏の声

いつから君の言葉は曇ってしまったの、いつからその鋭さを失った。夏のじめじめする空気に負けて霞んでしまう僕の弱く惨めな声とは全然違う、あの纏わりつく空気にも重力にも負けない、対象に真直ぐに飛んでいっては刺さった君の声は。何度も僕を貫いた君のあの声は。ああ、残酷なのは君のそれを失ったこと、君自身のあの頃と何も変わらぬこと。
 

君の声は青く溶けていく。あまりに空が広くて眩しくて、僕たちは逃げるようにして校舎の中へ進入する。かつての学び舎はただただ懐かしく、思い出は瞬時に美化され苦しみさえも今となってはいい思い出であったと僕は頷くのだ。

日のあたらぬ校舎の廊下は冷たく、素足に気持ち良い。時折窓の隙間から入り込む風に君がその長い髪を押さえる。思い出の中をそろそろと歩いていく君の横顔は、本当にあの頃と何も変わらぬ。けれど君はもうその力を失ってしまったのだ。僕やみんなを刺し貫き、多くの者を魅了したあの残酷で美しい無知の傲慢を。君は若く、そして美しかった。君はあの狭く閉ざされた世界に確かに君臨していたのだ。
 

君は忘れていく。どんどん忘れていく。狭く歪んだ甘美なあの空間を君は忘れていく、力を失っていく。心は成長していく。思い出の中だけでいい、どうか君よ僕を忘れないで。囁く僕の声もまた、夏の空気に溶けていく。


ちるくるわのはぜまじて

ちるくるわのはぜまじて。僕の声、君の声。闇に月。格子戸の向こう。あるまじき、行・為。枕の夢。散る来る輪の爆ぜ雑じて。


びゅーん

どっか行っちゃうよ。 少し揺れて空が晴れてなんか浮かべそうで体がふわふわするから、だから、このままどっか行っちゃうよ。とめてほしいわけじゃないよ、笑って見送ってね。シーソーで、向こう側、重い重い君の気持ち、がつんと乗っけて、僕はそのままびゅんと飛んでいく。さよならみんな、さよなら。


付随する盲目願望

唾棄したものはなんだったのか。今となってはもう思い出せない。過去に置いてきてしまったもの。ああしかし両手に抱え持つは薔薇の花。君の為の花束。舐めて掬って甘いお菓子。愛に長けた君を呑み込みたい。


望遠鏡を覗く

望遠鏡を覗かなくちゃ。高台に上って覗かなくちゃ。何かを捨てなきゃ選べない。裸足で立って望遠鏡を覗こう。たとえ何も見えなくてもね。それならそれが真実。そしたら笑って高台から飛び降りるよ。見わたす限りの草原の、青い青い空の下の高台、そこから私は私で望遠鏡を覗くから。そしたらきっとそれが真実。


法則

蝶々みたいに綺麗な羽ね。ひらひら舞ってる。君の体には重さなんてないみたい。重力を感じさせないね。秋の空、君はひらひら。僕の涙は重力に引っ張られて地面に小さな染みをつくった。


負け犬

余りにも理想主義な体に疲れて手をついた。誰かが何かを言っていて、僕には価値がなかった。いっそ洗脳されてしまいたい気持ちで手をついた線路沿い、綺麗な夢ばかりで音を立てて壊れた。自分の無価値にさえ気づいていなかった僕は歌を歌っていた。泣きながら歌を歌っていた。歌の中では不可能もなく、綺麗なメロディが無責任に背中を押し、不自然で現実的でもない矛盾だらけだから夢は綺麗で、ただ綺麗で、僕は壊れたように歌っていた。イコールで結べないたくさんのものに体が千切れそうだった。目の前を通り過ぎていく電車の音に自分の声が聞こえなくなってしまいそうで馬鹿みたいに大声で歌い続けていた。本当はただ叫びたかったのに、勇気がなくて歌を歌っていた。僕には歌を歌うことしか出来なかった。


密着の忘れがたき温度

体育座りで背中合わせ。僕の背中に当たるその背中は誰のもの? 僕の骨が曲がっていく。どんどんどんどん曲がっていく。ごめんね、骨が当たって痛いでしょ。逃げていいよ、もういいよ。君がいなくても僕は倒れたりなどしないから。今までどうもありがとう、さようなら。


理由

君はいつか見た星空が見たい。だから目を瞑る。君は目を瞑る。


鮮夢

夜に眠る。夢の中の色は鮮やかすぎて少し怖い。きたないものも、とても綺麗に映って、だから起きて複写できない。


区別のない世界

誰かの代わりになりたかった。語弊があるなら言い直すよ、誰かのようになりたかった。あざとさに負ける、私が私以外の誰でもないだなんて、歪んでいるなんて気づくのはいつも終了した後だよ。明日と明後日もまた今日が来ればいい。昨日と今日と明日の区別がつかない毎日であればいい。
 

色と色と色で境目が曖昧になる。体温と平衡してほしい、区別がつかないように。そしたらあなたもあなたも私でしょう。完結した物語であってほしい。解釈の違いは少し胸にしまっておいてね。しゃべらないことだけが寛容さのしるしみたいに。


遮断、遮断、遮断、そして

夕暮れの空に音楽がとけていく。視界と思考に入ってくれるな夜に打ち上げられた海岸の一切よ。なんてことだ、すみませんが空に分厚い雲を張ってくれませんか、今は遮断がほしい。

地図に白紙、暗示にかかる七秒後のために今、火をつけた。


依存極値

臆病で、傷つくことが何より恐怖だから、心はとても、頑丈です。

気持ちよくなる場所を探す人は正直で、ひた向きです。私は愚かなくせに、一番傷つかない方法を知っています。真摯な声、魚の皮を剥いでいく、私は落とされた皮それにくるまれていく、何重にも何重にも。隠されているのは体です、手と足です、感情だけが、露悪的に。傷つきたくない心がそうさせる。

首吊り人形は首に縄をつけたままで下ろされた。今は部屋のすみで蹲っている。不憫でかわいらしくて髪をなでる。

誰か私をとろとろに溶かして型に流し込んでほしい。伸びていく髪が心がかたちを知らないで、散らばる。知ってしまったことが臆病にさせる、傷をつくることを躊躇わせてしまう、傷つくのが怖くてたまらない、だから、悲しくなんてならないから容赦をしらない力で真摯な声で私をずどんとぶっ刺せぶっ殺せ、自分でつける傷なんて手加減だらけで惨めで愚かしい、あわれだ、両の手で私の首を絞めろ、苦しくて嬉しい、私の手と手は誰かと誰かに繋がる、穏やか。


成長線

闇に引き裂く雷鳴を、待ち望んでいたものの代理にして、薄く笑う自分を感じた。君がそれを嘲る、僕が恥じ入る。素敵ですね、素敵でしょうね、君のその瞳に映すものは、さぞ素敵なんでしょうね。僕のささやかな抵抗とばかりの嫌味を君は一笑に付す。敗北感のようなもの。君は別に勝利などと。ああ時間が間延びする。僕はかつての幼い自分を心のうちに思い起こす。あの頃は、大人になるということの、その行程に思いを馳せていた。子供から、大人になるということは、何かそこに劇的な変化があるのか、三段飛ばしで階段を駆け上がるようなものか、二階の窓から飛び降りるようなものなのか。それとも、一分一秒の、途方もない時間の、ただ積み重ねなのか。永遠に続くかのような、ただ間延びした時間の。僕は君の声が少し遠くなるのを感じて、睡魔に襲われるのを確認した。ああそうか、ああそうか、だから人は眠るのだな。君も眠るがいい。僕は少し眠るよ。


ピクニック、ピクニック

本当のことが言えないのはね、単純に恐れているからだよ、恐怖心の塊みたいな君。
 

いいからおいで、空が晴れたら炊飯器持ってピクニックさあ、コンセントは蕾開いてごらん、そこかしこ。三合炊きじゃ駄目だよ、五合炊き、しゃもじでもって君の口に山盛りしろごはん、詰め込んじゃうったら。おいでおいで、口あけておいで、あつあつのしろごはん、おかずは花でいいさあ、デザートも花でいいさあ、しろごはん以外はみんな花で間に合っちゃうよ。お花畑でしろごはん、君の口ふさぐ、ぎゅうぎゅうに詰め込んで詰め込んで、花で彩り添えて詰め込んで、君の体のなかをいっぱいにする。苦しいかい、苦しいかい、そうだろうそうだろう、苦しくて気持ちいいだろう。まだまだ、ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう、いっぱい。
 

口ひらいた、君。青空、炊飯器、花。花! 恐怖心でてった? それともとじこめた? いいよ、答え、勝手に君が出して。詰め込んだげるからさあ、君は口ひらいてりゃいいよ。ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう。あのさあ、あのさあ、嫌なら抵抗してよね。馬鹿馬鹿しくて泣いちゃう。


君に繋ぐ

少し遠ざけていたけど音楽にまた手を伸ばしてみたら予想外に奥に奥に差し込んできた。心が目に見えて硬さを感じられるものだったらいいのに。共感の液体がとろとろ空から降ってくる、思っているほど乾いてもいないけれど染み入るね、許容量を超えて湿って潤って涙がこぼれる。手を繋いでいて、手を繋いでいて、ぐるりと輪になっていて、遠くで誰かが悲しんでいても、手のひらと手のひらを通して伝わって痛みを知ることができるように、幸せな誰かを知ることができるように。


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