シホ様のペ〜ジへ


 大尉となって、シホが「飛ばされた」所は、オデッサと、ヨーロッパを結ぶ、丁度中間
当たりに位置する都市イワノフランコフスクだった。
 小都市ではあったが、川向こうにも、都市があり、連邦とジオンの勢力が均衡する地点
として、夏前からずっと戦闘が続いていた。
 幸い、川に掛かる唯一の船は、ジオンが手中にしている。が、それ以上にはどちらも進
むことは出来なかった。
「そこで」
 どちらかというと、単純そうに見える都市の参謀の一人が私に言った。
「大尉の戦力が加わったことにより、この膠着状況を打破する為に、一挙に攻勢をかけた
いと思います」
「で、その様子では私達には別動させたいようね?」
「は。参謀部の立てた作戦により、大尉には別個に迂回していただき、敵都市への長距離
攻撃を行い、敵手力の後方撹乱をしていただきます」
「参謀部ね・・・・」
 ここのトップは、珍しくもドズル派の将軍だった。
 しかし、その下は、全てキシリア派の者達で占められていた。
「わかりました。やってみましょう」


「随分危険な任務と思いますが?」
「まぁね。参謀部立案だし、本隊が崩れたら見放されちゃうけど、それはそれで構わない
わ。私はね」
「しかし、当夜が満月だとか」
「あら、そういえば」
「一応、こちらからも警戒しますが」
「ありがと。というわけでまたお気楽にやりましょうね」
 ベーグマン少佐の、軽い指示程度で、カンナヅキ隊のミーティングは簡潔に終わった。
 せいんとてぃる自身は、本隊に付随しての作戦参加となるので、私達MS部隊と直接
関係することはないからだ。
「それにしては司令、随分楽しそうですね?」
 ミーティング後、ベーグマンが声を掛けた。
「んふふ」
 私はいきなり、少々気味の悪い声を出して笑った。
「しばらくは、直接マ・クベに会わなくっても済むのよ?」
「なるほど」
 やけにあっさりと、納得する少佐。
 なんか・・納得出来ない。
 私は、ベーグマンを振り返った。
 が、すぐにその意味が分かって悪戯っぽく微笑んだ。少佐も少しは気が楽なのだ。なら
・・・・。
「そんなに面白そうにしてたら、艦長、後でもっと面白くなっちゃうかもよ?」
「いや・・それは勘弁願いたいですな・・」
「あら残念」
「ともかく」
 最後にようやく真面目な表情で、少佐は締めくくった。
「今回も司令は面倒な作戦参加ですので、充分お気を付けを」
「ありがと。少佐、カンナヅキ、よろしく」
「はっ」


 私のグフ、ハインツのザク、そして、シェンの支援MA、シムニポット。
 ポットはホバー移動が出来るが、今回は2機のMSと同じ速度まで落としての行軍とな
った。
 因みに、シェンのポットは、基本的に二人乗りで操手砲手を分担するもので、ジョン・
ヨシカワという伍長を同乗させていた。
「大尉がそうおっしゃるなら構いませんが・・」
「さて、あれが川ね」
 前方に、かなり大きな川が見えた。
「おい、こっからどうすんだ?シホ」
 と、ハインツ。
「そうね」
 僅かに時間をとってから、私は返した。
「川に沿って迂回してから、都市に向かいましょう」
「わかったわ」
「あいよ・・・・お?」
 シェン、ハインツの返答。が、ハインツは返事し終える前に、上空に光点を見つけた。
「偵察か?」
「こっちの予定にはないわね・・・」
「大尉、撃ち落としましょう」
「当てられて?」
「向こうが気付いていなければ、なんとか」
「じゃ、頼むわ」
 そのまま通信を切ると、私はハインツとともに、ポットより機体を離した。
 その、2つある砲身の内、巨大な砲を上空へ。
 続いて放たれた光跡は、綺麗な放射線を辿った後、一気に散る。そして、偵察機を巻き
込んで消えていった。
「なんか・・・凄いわね」
「だな。まぁ、どこまで実際に使えるか知らんが」
「使えないと困るわよ。ねぇ、シェン」
「ええ、これが今回の別動の理由なんですからね」


 その後、川を渡って、ジオン勢力圏を抜けた後は、より慎重に進み、全く見つかること
もなく、都市を望むことのできる高台へたどり着くことが出来た。
 そこから、川に掛かる橋の方面をハインツに確認させる。
 両軍の本隊の交戦の砲煙を確かめ、ハインツはシェンに都市攻撃の合図を出した。
 都市といっても、その脇にある広大な連邦基地が目標である。
 何の躊躇も要らなかった。


「それにしても・・・」
「あん?」
 遠距離射撃の間、基地と本隊の双方から迎撃が来ないか監視して、一度迎撃に来た小部
隊を追い払っただけの二人は、少々戸惑いを感じていた。
「凄い威力ね・・・・」
 ポットの火力には、ただただ絶句するしかなかった。
 火力だけでなく、その正確な火線はまた基地の火薬庫や燃料庫なども直撃したらしく、
盛大に火災が燃え広がっていくのが、離れたこの場所からも分かる。
「同情したいな」
「全壊かも」
「かもじゃねぇよ・・・・・」
 溜息一つついて、橋の本隊の方を見たハインツは、そこで嫌な物を見た。
「げ」


 ひとつの火煙が、何故か橋向こうに起こった。
 そして、それに続くように、幾つも爆煙が、その周囲にも起こった。
「あら」
 私も、ハインツに続いて、気の抜けた声を上げる。
 と、同時に、本隊からひらのままの通信が来た。
「お前等、自力で脱出しろ〜」
 作戦を説明していた、参謀の声に聞こえたのは、気のせいではなかった。


「ほんっとに置き去りになっちゃうなんてね」
「あの戦力で負けるかぁ・・・?」
「支援作戦も水の泡ですね・・・」
「ま、私達の時間稼ぎにはなるけど・・・さて、川に沿ってまた戻りましょうか?」
「しかし大尉、そのまんま戻るのはな」
「夜まで待ってから帰還しましょう」
「ん・・・・・」
 イライラをぶつけることもできず、私達はそのまま川に入り、まず向こう岸へ進んだ。
 が、そこで、大きなエンジン音をセンサーが拾った。
「哨戒艇??」
 2機のMSは川岸の崖状になった所を上がろうとする所だった。
「シムニポットは・・そのまま機体をもっと沈めて」
「了解」
「シホ、こっちだ」
「何とかなる?」
「取り合えず機体は隠せそうだ」
 崖の影に、2機を寄せる。
 と、直に聞こえるようになったエンジン音が低くなった。
「降りた?」
「こっちも出るぞ」
 私とハインツは銃を持ってコクピットを出る。
 合流してから、私はハインツにそっと言い加えた。
「でも、出来れば撃ちたくないな」
「?」
「そのまんま、何も気付かず帰って貰えたら、この辺の捜索は抜けるでしょ」


「こっちなのか?」
「ああ、偵察機が落ちたらしい」
 どうやら、最初に出会いかけた偵察機の捜索に来たらしいが、戦闘の後でもあるせいか、
あまり熱心に探す気はないようだ。
 只、近くの丘に上がって、周囲を視察するだけで、また、戻って行った。
「ラッキーかな?」
「この様子じゃ、俺達の捜索は別みたいだな」
 実の所、あまりにシェン達の砲火がひどく効きすぎて、連邦基地からはその追撃どころ
ではなかったし、本隊はその砲撃を見ていないので、懸命の捜索も、1地域に絞ることが
出来なかったわけだが、その様なことは私達にに知る由もない。
 これ以上進んで発見されることを畏れ、そのまま、機体をカモフラージュして夜半にな
るのを待つことにした。
 ポットはそのまま、川に沈めたままに、MS2機を隠す。
 途中、ポットが、実は上空から丸見えに近い状況なのに私が気付いて、潜行し直させた
り、MSの方が角度によってははっきりくっきりなのにハインツが気付いたりして、慌た
だしい作業となったが、夕方になる前に綺麗に隠すことが出来た。


 そして、夜。
 ポットの中に缶詰の二人には悪いが、私とハインツは静かに川辺の風を楽しんでいた。
 そだ。
「へっへ〜」
 私は、ごそごそと、荷物の中を探った。
「なんだ?」
「ちゃんとお団子用意してあるんだな」
「・・・・・・・」
 危うく、ハインツは川面まで転げ落ちるところだった。
「あ〜あぁ、ったく」
 言って、急に丘の方へ歩き出す。
「何よぅ」
 私の不満の声には、しかし、答えずに、ハインツは草むらへと入った。
 が、直ぐに戻ってくる。
「あ・・」
 その手には、薄ではないが、似たような雑草が握られていた。
「ありがと」
「ふん」
 水面下の二人は、有線でしか伝わらない地樹の様子が理解できずに混乱していた。


 翌日、連邦の必死の捜索をあざ笑うかのように、お月見の痕が発見された。



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