シホ様のペ〜ジへ


「死ん・・・・だ・・・・」
「皮肉な話で悪いけど、彼は死んだわ」
 シェン・リー。
 そう、シェン・カイの生き別れの姉。
 父方に引き取られた弟が、地球にいる。
 弟を捜し続けていた彼女は、それを知って、すぐさま地球転属を願い出た。
 通常よりも早くに転属が叶えられ、早速地球へと降り立った彼女は、その時、弟も軍に
いたことを知った。
 そして、、皮肉にもその弟の死によって自身の転属が早められたことも。
 彼女の前に立つ士官・・・大尉だ・・・は、淡々と事実のみを述べた。
 シェン・カイの生前の様子を。
 そして、最後に、
「それでも私に従って貰えるかしら?何ならあなたの好きなところへ配属してあげられる
けれど?」
 その表情からは特に感じさせるものは無かったし、また、見せないようにしている。が、
その瞳には・・・・・・。
 その悲しみを感じられたのは、正面に立つシェンと、せいんとてぃるの乗員だけだった
ろう。


 せいんとてぃるは、久々に北米へと降り立っていた。
 パイロット補充と共に、MSの補充も必要である。オデッサでは、納得できる補充は出
来ようはずも無く、ただ、大尉の肩書きだけを受け取ってこちらへと向かったのだった。
「根本的にもっと共通化出来ないのかしら?」
「技術者ってそんなこと考えないものでしょ?大抵」
「そうねー。でも、このまんまじゃ信頼性がどうもね」
「大尉、このプランは?」
 周囲が思ったよりもすんなりと、シェン・リーはすぐに打ち解けることが出来た。
 シホは彼女の着任時こそ堅苦しさを留めたが、その後はいつもと変わり無くやっている。
 北米はガルマの配下とはいえ、そこに降り立ってまでシホは自分をさらけ出すようなこ
とはしなかった。
 しばらく時間はある。
 シェン・リーはMS設計に携わる事の出来る知識を持っていた。
 さらにはミナヅキの力、北カリベースの資材など、MSの改修に何等不自由はなかった。
 その材料はようやく配備の開始が決まったグフ。
 しかし、この機体は基本的にザクの改良であるとはいえ、ザクの基礎設計を割り増しに
したような造りになってしまった結果、性能に基礎が追いつかない箇所がいくつも見られ
た。
 また、その整備にも、ザク以上に精度が求められる。
 結局、シホは2機を別パターンで改修することにして、多数の技師に当たらせた。
 1機は上手く当初の目的を達したが、もう1機は、少々目的と外れてしまい、結局シホ
が完成機に乗ることにした。
「でも、シェンはどうするの?」
「ええ、ここの技術部が面白いモノを試作していて・・・・」
 長距離砲を搭載した、移動砲台とも言うべきザメル。
 その基礎設計となるものが、此処に存在していた。
 長距離支援型MAという目的での設計を評価して、その試作に入ったものの、この基地
では空襲があるでもなく、全く使用されずに放置されている。
 シェンはその機体を貰い受けることにした。
「で、この失敗グフはどうしますか?」
「そうねぇ・・・」
「乗り心地だけはいいんですがね」
「乗り心地か・・・・そだ」


 グフの改修が終わるまでにはシホの怪我も完治し、2機のグフとMAはせいんとてぃる
に載せられた。
 まぁ、後半はシホも勝手にしていた。
 昼間はベース中を走り回ってあれこれと「余計な」事をしていたし、夜は夜で各種パー
ティに忙しかった。
 更に、「暇な」時には南米への空襲に手を貸しに行ったりした。
「要するに、人気取りですか、司令」
「何言ってんのよ。それがあたしの仕事じゃない」
「・・・・・確かにそうではありますが・・・」
「不満?」
「出来れば戦果で今回のように勢力を増していただきたいものですが」
「戦果ってもね。あたし達の戦果程度じゃ、昇進取れればいいってものでしょう?マ・ク
ベの元ではね。それなら、先に此処で地固めして、少しず〜つ向こうに根を張るっていう
のは?」
「お年の割にのんびりしたお考えですな・・・」
 少佐の言葉に、少々むっとしながらも、シホは先程とは違って小声で続けた。
「そのうち、オデッサなり・・・此処なり・・・どっちかが崩れる。そうなった時、地上
のジオン軍は一つになるでしょう?その時、きちんと我を通すことが出来ればいいんじゃ
ない?」
「我・・ですが」
「そ」
「しかし、オデッサが残った場合は・・・」
「え?そりゃ・・・」
 更に、声を潜めて、シホは言った。
「残存をまとめて、ソロモンまでっていうのはどう?」


 後に、このシホの考えは、それよりも更に過酷な状況で、手を掛けることになる。


 それはさておき。
 せいんとてぃるは、戦力を向上させた後、オデッサへと舞い戻った。
 直ぐに、マ・クベの元へ。
 大佐の司令室より、彼を連れ出しながら、シホは外へと付き添って行った。
「少々時間が掛かってしまい、申し訳有りません」
「いや・・・貴公には先の戦いでのこともあったからな。なに、構わんよ」
 マ・クベののたのたした喋りはシホが最も苦手な所だ。しかし、暴れ出すわけにもいか
ず、彼女は言葉を続けた。
「ありがとうございます。それから・・・」
 シホは一通の手紙を取りだした。
「ガルマ様よりの新書です」
「ほう。それはご苦労であった」
「それから、ガルマ様より贈り物が」
 丁度、司令部より出たところで、シホは切り出した。
「何かな?」
「北米にてグフを改修致しましたので、マ・クベ様にお届けしろと」
「ほう・・・・」
 妙にぎてぎてと、装飾を施した、グフが、そこにあった。


「いいのですか、司令。また、このような・・・」
「い〜のよ。大体、マ・クベ大佐、随分気に入ってたじゃない」
「まぁ・・・しかし・・・」
 ベーグマンは未だ納得出来ないようだった。
「失敗作だと思って?」
「はい」
「そうでもないわよ。マ・クベが乗るというだけならば、その基礎性能が少々落ちたって
ことよりも、乗り心地がいいに越したことないでしょう?装甲が薄くなったわけじゃない
んだから」
「一理あるかもしれませんが・・・」
「あたしがマ・クベの立場だったら、ああいうのに乗っちゃうわよ?」
「・・・・・・・」
 ベーグマンは、沈黙した。
「なっ何よ」
 そのだんまりに、少々慌てたかのように、シホは訊き返した。
「司令ならば、あのような機体には乗りますまい」
「どっどうしてよ」
「どんな地位になっても、司令は必ず先頭に立ちたがるのではありませんか?」
 それを聞くと、 シホは赤くなって付け加えた。
「そ・・・そう思うなら、あなたが止めてよね」
「分かっておりますが、難しいでしょうな」

 いいもん。
 とばかり、シホはベーグマンを置いて早足で艦へと戻って行った。



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