シホ様のペ〜ジへ


「え〜っでっでもさっき・・・」
「先程は物資の余裕が30%足りませんでしたからね」
「うぅ」
 シホ司令が頭を抱えてうめいた。
 まぁ、いつものことだけどね。
 私は頬杖をついて、前方の雲を眺めていた。
 普段のブリッジ内は、こんなもんである。
 シホ司令の勉強会が毎日行われる。要は艦橋にいる全員で、司令を鍛えるのだ。「出題」に参加できないのは私くらいなもんだ。
 私が何故参加できないかというと、経験不足そのものだからだ。
 私だけ司令同様新任なのだ。つまり。
「じゃあ向こうに着いたらシホちゃんに一晩おごって貰うということで」
「ここの面子だけだよぉ。今月はお手当はずんだからお小遣いがちょと目減りしちゃったんだから」
「・・・・・」
 その和やか(?)な雰囲気は、大抵、私の二つ向こうの女性通信士の一声で一変するのだった。
「緊急通信、入りました!」
 ほら、こんな風に。

 ってあら?
「輸送船団より支援要請!前方11時に距離・・・」
「ティーチェ、第1警戒体制へ移行」
 彼女の声に重なるように、司令の指示が出る。
「はっはい」
「敵戦力は戦闘艦2・・」
 初動の遅れた私は、慌てて艦内に警報を鳴らした。
「第1警戒体制へ入りました。各員速やかに配置に着いて下さい」
「第2で良かった?」
「いえ、結構です」


「じゃあMS出撃は無しね」
「そうですな。海上に落ちるだけですから」
 司令と艦長の会話に通信で割り込んできたのはハインツだった。
「シェンの奴、止めて下さい」
「え?」
 司令は、急な発言に面食らったような表情で聞き返した。
「こいつ、出撃すると言って聞かないんです」
「MSじゃ海上に落ちるだけよ。こんな所で落ちたら脱出も・・」
 モニタに向かい、シェンに話しかける。
「わかってます。敵艦上に降りれば済むことです」
「済むって・・・」
 ただの船ならば、それも可能かも知れないが、敵艦に、上空から降りるというのは、MSの事などわからない私にも、非常に困難なことだとわかった。
「腕試しにゃ、丁度いいですなぁ」
 不意に、中の一人が呟いた。
 それっきり、しばし艦橋には計器の音のみが響いていた。
 全員が、司令を注視する。
「出撃、許可」
 はっきりとそう言うと、司令はシートからモニタを切った。
「いいのですか?」
「部下が望むのなら、それを叶えるべきじゃない?たとえそれが・・」
 司令は艦長の方へ顔を向けてから続けた。
「彼への死の宣告であって、私自身の首を絞めることになっても。ね」


「シェン機放出後、本機は前方の目標を追尾。各砲座はブリッジの指示以後は各個に攻撃してください」
 私の指示の後、せいんとてぃるは一気に降下を始めた。
 ガウ攻撃空母は爆撃も出来るようになっているが、このせいんとてぃるは改装の結果、基本的に爆撃用の爆薬は積み込まないようになっている。その分、MSの格納・作業スペースや居住区が広く取られているのだ。
 爆撃に頼れないために、このような場合、かなりの低空まで降下しての交戦となる。


 そこから先は、まさに奇跡であった。
 飛び出た、シェンのザクの初弾は、見事なまでにまっすぐ、敵艦の1隻の後部に浴びせられたのだ。
 その一撃で、その船はあっさりと操舵を失うことになった。
 緩やかに、旋回を始める。
 そして、続く2連射目。
 既に逃げること叶わぬ船体の機関部へと、弾は吸い込まれていったのであった。


「見た?」
「見た」
「よくやるわよねぇ」
「・・ってシホさん、失敗したらどうするつもりだっ・・・」
「訊かないで〜〜」
 両耳を手で塞いでイヤイヤをして、司令は格納庫の方へと歩いていった。

 あの後、ガウで輸送船とシェンのいる船の方へと戻った。沈みかけているので、逃げる1隻を追い回しているわけにはいかなくなったのだ。
 ザクをワイヤーで引き上げるという荒っぽい方法で回収し、捕虜を輸送船とガウに移送した後、せいんとてぃるはもとの航路へと戻っていった。


  帰国後のニュース。部隊内新聞より。
  連載漫画作者急病により改題。
  新連載 「やったねシェンくん!」



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