シホ様のペ〜ジへ


「でさ、「じゃあ僕と今晩」ってくるわけ。当然って顔してよ全く」
 MSの足下から、全くそぐわない声が聞こえてくる。
 妙に良く通る声だ。内緒話なんか出来ないに違いない。
 ハインツは一つため息をつくと、自分の作業に戻った。


 あの、部隊結成からほぼ1週間。
 ミナヅキ・・・いや、シホ中尉(普段はそう呼ばないと嫌がるのだ。何故か)は、基本的にMSのパイロットとして、シェンやハインツとの連携なんかで時間を費やしていたが、何かというと、基地のどこかしらに顔を出している。
 ちょっと暇になると、大抵どこかに出っ張って、そこにいる者に話しかけて回っているのだ。
 最初は、ただ単に皆と打ち解けようとしていると思っていた兵士達は、しばらくすると、それが彼女自身の「地」であることを認識するようになった。

 どう見てもお嬢様っつぅよかハイスクールの可愛いこちゃん程度だな。
 それが俺の実感だ。仕事柄そういうのはわかるつもりだが、「こういうの」は範疇外だ。

「その士官が物凄ぉ〜っく嫌みな奴でさ・・・・」
 段々情けなくなってきた。
 ひょっとして、俺は左遷されちまったんだろうか・・・。
 いや、しかしけっしてそうでもなさそうだ。
 ここの面子がそれを物語っている。
 どいつも、必ずどこかの戦線で活躍している、腕の立つ奴等ばっかだからな。パイロットだけじゃねぇ。整備なんかの面々。コックの腕までいいときた。ドズル中将直直に選抜したって話、必ずしも伊達と言い切るわけにもいかないだろう。マ・クベ大佐が中将が地上へ本気で乗り込んできたんじゃないかって危惧する気持ちもまぁわからんでもない。しかし・・・。

「ホ〜ントだってば。ハイスクールでも、一等賞取ったことあるんだから」

 駆けっこかい?
 肝煎りでこんな小娘送り込んでもしょうがねぇよなやっぱ。
 段々と考えが陰鬱なものに向かいかけたハインツを救ったのは突如基地に響きわたった。警報だった。

 下から、「あら」なんて場違いな声が聞こえるのを、聞こえなかったことにしてハインツはガウのメインブリッジへと回線を繋いだ。


「で、そのうち追撃から逃れた1機がこの基地の方角へ逃げてきていると言うわけです」

 ブリッジに呼ばれたパイロット達に、艦長が説明している。
 というよりはシホ嬢に対して講義でもしているようにしか見えない。実際、ハインツとシェンの二人は、まぁわかってはいると考えてのことでもあろうが、ほっとかれていた。



「で、基地のドップが迎撃に出ますので、司令と二人には、MSに搭乗、その敵機乗員等の捕獲をしてもらう」
「わかりました。では、こちらはよろしく。少佐」
「は。くれぐれもお気をつけ下さい」
「そうね・・・地球は初めてだし」
 ハインツが僅かに顔をしかめた。

 ドップ戦闘機が出た後、基地からもMSが3機、「出撃」した。
 ザク2機と、それを従えるドムとかいう試作MS。
 開戦以来、初めて見るザク以外のMSだ。わざわざ専属の技師班まで付いてきている。
 まぁ戦闘にはならんだろうが、それでもいきなり試作MSを使うとは、何考えてるんだか・・・・。

「ハインツ?ハインツさん?」
 !?
「何か?「中尉」」
「あ・・・いえ、先、歩いて頂けません?」
「は??」
「ドムのセンサー。半分使えないんです」
「・・・・・」
「そっ外は見えるから大丈夫・・・」
「へいへ」
 気も狂ってるに違いない・・・。


 基地から、直ぐに森へ入る。
 しばらく、ドップの後を追い続けると、通信が入る。撃墜地点の報告。
「ご苦労様」
 シホ嬢の返答が、こちらにも入る。
「後で、お手当出しますから、ゆっくりして下さいね」

 ズルッ

 MSの脚部を、不覚にも滑らせてしまった。
 なっなっ何なんだ一体!

「あの・・中尉」
 あまり喋らないシェンが、恐る恐るという感じで隊長機に話しかける」
「はい?」
「お手当って・・・あの・・・・・」
「ああ、気にしないで頂戴。わたしの私費だから」
「そっそうじゃなくて!」
 俺はたまらず、割り込む。
「あ、もちろんあなた達にも出すわよ。安心し・・・」
「違う!」
 更に、心ならずも声を荒らげてしまう。
「え・・・あ、もちろん基地のみんなにも出すつもりだけど・・・」
「あんたいちいち小事でも起こるたんびに出すつもりか!」
「そりゃぁ・・・だってわざわざ追加仕事になるんだし」
 それが本職じゃないか。
 急にどうでも良くなる。
「もういい・・・・・」

 MSの足でもそこから5分少々で、目的の墜落現場へと到着した。
 シェンはもちろんだが、シホ嬢もちゃんと俺のスピードで付いてきたのにはちょっとだけだが感心した。それとも新型の性能がいいのか?
「あら・・・・」
 シホの、気の抜けた声が聞こえる。
 偵察機のそれは、少々被弾しているものの、不時着に近い降り方をしていた。
 ひょっとすると、ドップが振り切れなかったので、無理に降りたというのが本当の所か。既に乗員は逃走したか?

「ハインツ、援護お願い」

・・・っておい!
 いきなり外に出る奴があるか!

 シホは器用にMSの装甲を伝って、あっさりと地上に降り立った。ライフルか何かを持っているが、使えるようには思えんし。くそっ、こんな所で死なれちゃこっちの首が危ねえじゃねぇか!

「シェン!お前はそのままザクで警戒続けろ!」
「了解」

 返事を受けるのもそこそこに、俺も慌ててコクピットから降りた。


 既に、墜ちた機体の側にいた。
「あのな。中尉」
 なんだか子供に聴かせるような口調で、俺はシホに話しかけた。
「あと二人」
「え?」
「一人、死んでいるわ。これって3人乗りでしょ?」
 確かに、それは3人乗りの機体だが、よくわかったな。
「シェン!、直ぐに捜索!急いで!」
 俺をほっぽって、シホは走り出した。
「早く!」
 俺は感嘆と落胆をを顔には出さずに、一言告げて走り出した。
「中尉、連邦の勢力圏はこっちだぞ!」


 しばらく走る。
 シホも、息を切らせてはいるが、乱れてはいない。俺と同じように走っている。
「勝手に出るな。アブねぇだろ?」
「あ・・・うん・・・・そうですね」
 他人事みたいな返事が返ってくる。
「でも・・・・」
「あん?」
「こんな任務で・・・いきなり失敗するわけに・・・いかないから・・・それくらいわかる・・・」
「ほぉ・・・・」
 それきり、俺達は捜索に集中した。


   ピピ
 俺の無線機が鳴った。シホはコクピットに置き忘れていた。
「おぅ」
「居ました。そこからすぐです」
 シェンからだった。既にザクで俺達の前を進んでいる。
 流石に短時間では、向こうも機体から遠くへは行けなかったのだ。
 まだ、駆動音が良く聞こえる距離だ。
 爆音も。

 足を早めた。
 シェンのザクは、脚部に損傷があって、既に動けなくなっていた。
「シェン!」
「すいません。向こうに向かいました」
 そのまま、シェンを連れて進む。シホは既に見えなかった。


   パンッ
 足下で銃弾がはぜる。
「もう逃げられんって。諦めな!」
 しかし、俺の声は飽きもせずに銃での返答を受けた。
 いらいらいら。

「シェン」
「は」
「俺が突っ込むから援護しろ」
「了解」
「っじゃ・・・」
 俺が飛び出そうとする刹那。

   ずさぁっ
「ぐ・・・」
 向こうの木陰の一人が、倒れ伏す。
「何?」
 その声は、俺、シェン、そして、もう一人の敵兵のものだった。


「ごくろ〜サマ」
 俺とシェンで、負傷した敵兵二人を捕捉して戻ると、割と細っこい木の上から、シホ嬢の声がした。
 ガッツポーズ。
 その後、ぐらっとして慌てて幹にしがみついてたりするが。
「よく当てたなぁ」
「だって得意だもん。大体ハインツったらあたしのこと置いて行っちゃったんじゃない」
 ちょっとふてくされて言う。
「得意って・・・・」
「ハイスクールじゃ一等賞なんだから」
 そう言って振るライフルは、マイユセルのいい奴じゃねぇか。金持ちはわからん。
「そりゃ・・・良かった」
 何か言ってやろうかと思ったが、めんどくさくなってやめる。
「んなこたぁどうでもいいからさっさと降りてこい。帰っぞ」
 ひく。
 シホ嬢の顔が僅かにひきつる。
「あの・・・」
「あん?」
「下の枝、折れちゃって降りれないんだけど・・・・」
「・・・・・・・・」
   どげしぃっっ
「え?え?えええ??っきゃあぁ〜〜〜」



シホ様のペ〜ジへ
トップ!