シホ様のペ〜ジへ


 ガウ攻撃空母。
 ジオン軍の地球上での最大の基地と言ってもいいだろう。
 この、亜細亜に無数にある基地の、一つ。
 そこへ新たに増強されたのも、そのガウだった。

 ねぇ。君どっから来たの?
 運良く、僕は女性の隣に座れたのだが、その女性が僕に声をかけてきた。ちらっと見ると、中尉である。
 黒髪が綺麗だ。しかし後頭部で纏めている割に、前髪が多くて顔は横からじゃあんまり見えない。それでも、彼女の耳障りのいい声は小声でも十分に堪能できる。
 そ、16バンチかぁ。そういえばあそこ、MS開発局のおっきな支局あったよね。あそこにいたの?

 そう、僕は支局でMS開発計画の調整に当たってたんだ。ホントはMSを作るはずだったのに、気が付くと事務的なことをやらされてたんだ。
 ここに「飛ばされて」良かったよ。

 そう小声で言うと、彼女はちょっと困ったような顔をして、でも「そ、よかったじゃない」
と言ってくれた。
 ここにいる全員がどうやら別々の場所から転属させられたらしい。
 なぁ、ねぇちゃんはどこからだい?
 僕の後ろに座っている男が彼女に話しかける。

 あたしはね・・・。

「諸君、静かに。私がこの艦の艦長となる、ゲルハルト・ベーグマン少佐だ。これよりこのガウのMSパイロットを紹介する」


 シェン・カイは地球の住民、いわゆる不法居留者である。
連邦による強制移住に反発して、ジオンへ参加したのだ。
 そして。
 その日、突然、転属を告げられたのであった。


 シン・ハインツ上級曹長。
 開戦前から、モビルスーツパイロット養成校に入り、第1次地球降下作戦によって地上に降りた兵士。
 彼の同期も、生きているのは僅かである。
 ヨーロッパ戦線で彼の名を知らぬ者は居ない。

「諸君も知っていると思うが....」
 下士官がハインツの紹介を始める前に、既にこのミーティング・ルームはざわついていた。

 僕と、彼女が不思議そうにしているのに気付いて、さっきの男が囁く。
 知らねぇのか?ああ、宇宙(ソラ)から落ちてきたんだったな。それじゃ流石に知らんか。
ここの面子はどうやら全員地球の部隊にいた奴等ばっかりなんだが、技術屋さんは違うってか?
 ほら、聴いてな。

「彼が「あの」ハインツ君だ」

 ざわつきが何か笑いを含んだものに変わる。見ると、ハインツ自身も苦笑している。
 何なんだ?

 と、ハインツ自身が艦長の後を継いで言った。
「俺が「その」それゆけハインツ君だ。まぁこれからもそう変わらんだろ」
 それゆけ??

 ほらよ。
 彼が寄越したのは、戦線で出回っている部隊新聞だった。
 いきなり1面にあるのは、4コマ漫画だった。

  「それゆけハインツ君」

 ・・・・・・・。
 横で、彼女も凍り付きかけていた。

「え〜オホン。静かに!」
 ざわめきも一瞬で消え去る。
 が、しかし、艦長は少々目をさまよわせた。
「それから・・・、この艦の司令を紹介する」

 司令?艦長と別に?何だ?

「いや、その前にこの艦の特命をきちんと知らせておこう。この艦は特務艦なのだ」

 何だって!
 みんな再びざわめき始めた。

「特務というと語弊があるかもしれん。別に特攻命令を帯びていたりはせんからその点は安心しろ。要するにこの艦は独立部隊だと思って貰えばそれで構わん。」

 何を言っているんだ。艦長は。

「この艦は、ミナヅキ家専属艦なのだ」

 ミナヅキ?
 一瞬、僕はその名が何を意味するかわからなかった。みんなも同じようだ。だが、次の瞬間、その名の意味がはっきりと頭に染み込む。
 ミナヅキったらサイド3でも屈指の財閥じゃないか!

 しばらく全員を見回して、
「そういうことだ。そして、その指揮は直接司令がお執りになることになる。司令?」

 艦長が入り口の方へ振り向く。

 し......ん。

 ざわめきが一挙に静まる。

 と、突然、隣の彼女が立ち上がった。
 へ?

「ゴメンね、少佐、先に入らせて貰ってたの」

 へ?へ?

「司令・・・、しょっ諸君、紹介する。シホ・ミナヅキ中尉だ」

 艦長の声に、彼女は柔らかい、しかし良く通る声で話した。

「シホ・ミナヅキです。ま、ミナヅキの一人娘と言っても、ここでは一介の中尉ですから、そのつもりでお願いしますね」

 場の雰囲気が、そこはかとなく、やんわりと、失望感を漂わせる。
 そんな、なんか怪しいじゃないか。
 早死にするのも時間の問題だな。

 彼女もその場の雰囲気を察したのだろう。しかし、そっと微笑みを浮かべて、
「そのうち「ここにいて良かったぁ」って言わせるから安心してね」
 そう言うとポンッと僕の肩を叩いて、前へ出ていった。

「そういうわけだ。諸君、よろしく頼む。起立!敬礼!」

 全員の敬礼と同時に、前に出た彼女は髪を舞わせて振り返り、敬礼した。
 一通り見回して、片目を瞑りながら言った。

「ま、暫くは下請けだけど、我慢してね」


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