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 U.C.0081.04.21.

 それは全くの偶然だった。
 地球圏を離脱したティルトのザンジバルは、直後に、真っ正面で起きている戦闘に出く
わしたのだ。どうやらティルト達を出迎えに来たシャルム大佐のチベが運悪く捕まったら
しい。
「チベは機関部損傷の模様!」
「全速。補給は気にせんでいい」 「確認される稼働艦はマゼラン1、サラミス3」
「MSは出せる?」
「射程内まであと220!」
「大佐の艦とは粒子が濃くて未だ繋がりません」
「ノーチェ曹長とソノエ伍長のゲルググは戦闘記憶パネル他、換装していますが他には・
・・」
「ノーチェとわたしが出る。手すきは砲座」
「少佐!」
「クルップ、悪いが艦橋は任せる。主砲射程に入る8秒前に全砲門はマゼランに」
「射程前ですか?」
「それで指揮系をつぶす」
「いけますか?」
「あののろい連邦なら十分だろ」
 言いながら、ティルトは艦橋を走り出ていった。

「ノーチェ、やってもらうよ」
「はっはい」
「ブリッジ」
「何か?少佐」
「マゼランにぶつける気で進めろ。至近距離で撃たせるな」
「了解」
 返事を受けるのもそこそこに、2機のMSは飛び出した。


「ノーチェは対艦攻撃戦は初めてだっけ」
「はっはい」
「余り緊張しなさんな。落ちますよ」
「っっ少佐!」
   ゴンッ
 全速で機体を進めながら、ティルトはノーチェの機体に接触した。
「何故お前を地球まで連れていったと思う。動きが柔らかいからだ。そんなに硬いと艦砲
で落ちるぞ」
「はい」
「それに、曹長が落ちると、みんなが悲しむよ。独身で一番人気なんだからね。君は」
「ティナ少尉に内緒でそんな話してていいんですか?」
「いいんですよ」
 そこで、一息区切ってから、ティルトは叫んだ。
「ティナちゃん愛してる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あ・・・・」
 ノーチェは毒気を抜かれて僅かに機体を揺らした。
「はいはい、分かりました旦那様」
「MS、マゼランはほっとけ。一気に敵艦の間に滑り込め。常に艦とMSの位置を利用し
てやるのを忘れるな」
「了解・・・でも・・・」
「え?」
「通信パネル、艦と繋いだまま・・・・」
「・・・・・・さっきの無し!」
「手遅れじゃないかなぁ・・・」
「ええぃ!」
 いらだちをぶつけるかのように、ティルトが初弾を放ったのはその時だった。


「後方より敵機!!」
「索敵なにやってた!」
「すっすいません。まさか後方から・・」
「言い訳する間に弾幕張らんか!」


「機種不明・・・いや、ゲルググです!味方です」
「ティルトが間にあったか?」
 その返答は、艦橋を吹き飛ばされたサラミスの閃光であった。


 二人で続けざまに2隻のサラミスを沈黙させた頃になって、ようやく迎撃のMSが接近
した。
「ノーチェ」
「は?」
「あんな動きはしてはいけないよ」
 言うと、ティルトは近づくMSの懐に、一挙に飛び込んで、1機を脚で踏みつぶし、そ
の勢いで次の1機の真後ろに付き、そのままシールドで頭部をなぎ払った。
 後に続くノーチェも、1機をライフルで片づける。
「巧い巧い」
 声にノーチェが振り向くと、ティルトは先程のジムを押しやって、1隻のサラミスの主
砲にぶつけて射撃を止め、一気に艦橋へ張り付いた。
 「降伏しろ!時間はやらんぞ!」
 ノーチェも近づくと、艦橋で連邦の人間が大慌てしているのが良く見える。
 その時、遂にザンジバルの砲撃がマゼラン1隻を狙って降り注いだ。
「・・・曹長」
「はっはい?」
「ここを頼む」
「少佐?」
 ノーチェ機が艦橋に取り付くと、ティルトは即座にチベへと飛び去った。


 チベのMSと交戦していたジム部隊は艦隊の異変に気付いて戻ろうとしていたが、そう
なるとチベ護衛のMSに後ろから叩かれることになる。
「くっくそぉ!」
「隊長、振り切るのは・・・」
「第3小隊は殿軍をやれ!他で艦隊援護!」
「それは困るなぁ」
「何!?」
 突如、連邦の正規通信コードで割り込んできたのは、目指す艦隊の方角から飛来するゲ
ルググだった。
「・・・降伏した方がいいと思うよ」
「黙れ!」
 そのゲルググは、ライフルをラッチに戻して、ビームナギナタを構えていた。
「こんな遭遇戦なんかで命を張ることは意味無いんですよ・・」
「見逃すわけに行くか!」
「見逃す?誰を?」
 微かに笑いを含んだ通信が終わる時には、既にゲルググはこちらのMSを3機、切り裂
いていた。
「ばっ馬鹿な・・・」
「撃ち尽くしたのは別として、わたしはこっちも得意だからね」
「何故当たらない!」
「下手とは言わんが・・君の腕じゃ無理だ。降伏したまえ」
「出来るか!」
「じゃあ・・・・捕虜だ」
「!?」
 ジムの放つ閃光を尾のように引きながら、流水のようにその目前に迫ったゲルググ。そ
れに最後の照準を合わせた瞬間、衝撃と共にコクピットのモニタが死んだ。
「い・・・・一体・・・・」
 その小隊長には、まだ自分のMSに起こったことが判らなかった。


「マゼランにサラミスか・・」
「ノーチェ曹長には助かったよ。ありがとう」
「そんな・・・自分は少佐の・・」
「私からも礼を言わせて貰おう。曹長」
「大佐・・ありがとうございます」
 結果、残りのジム部隊は隊長を捕らえられて降伏。
 ザンジバルに威嚇されたマゼラン1隻が停戦信号を出したのはほぼ同時だった。
「敵艦より、艦長が来ます」
「よし、こちらへ」
「了解」
 と、シャルム大佐は、ティルトが急にそわそわし出したのに気付いた。
「少佐?」
「あ・・ちょっと向こうに顔見せるのはまずいんで・・・」
「そうか。・・そうだな」
「いや、そういう意味ではなくて」
 ティルトは右手で髪を梳きながら、言った。
「あのサラミス、自分の母艦だったもんで・・・」
「なるほど。では、どうする?」
「人手が余っているわけじゃないですからね・・・1隻を貰って、残りに連邦兵を乗せて
放すといった所ですか」
「ふむ。その辺りは損傷度合い等を見てから決めるとしよう。では少佐は先にザンジバル
に戻ってやれ」
「は。では、後ほどご報告に」


「とはいえ・・」
「何ですか?少佐」
「やっぱあの通信はまずったかな」
「さぁ?・・・まぁ、ティナ少尉もああいう方ですから」
「ああいうって・・・」
 と、二人の乗るゲルググに通信が入った。因みにティルトが乗っていたソノエ機は、拿
捕した連邦艦の警戒に加わっていたので、ノーチェ機にティルトが便乗しているのだ。
「何か?」
「少佐もそこで?」
「う・・」
「おのろけ放送で、艦の硬さがとれて助かりました」
「そっそうか」
「因みに・・・」
「・・・」
「整備班から、班長が備品壊す前に戻ってきて下さいとの伝言が」
「はは・・・・」
「私を見たって駄目ですよ少佐。余計こんがらがっちゃうじゃないですか」