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最終決断の価値

 サイド1に、戦後としては大規模な艦隊が編成されつつあった。
 マゼラン級2隻、サラミス級6隻。
 その旗艦は大幅に改造されたものである。
 ジオン残党に、すでに2艦隊も全滅されたのである。
 これ以上負ける訳にはいかなかった。
 地球から、月から、多くの将兵があつめられた。
 その中にはヨシオカ、ゴチェフの2人の姿もある。

 しかしながら、それらの情報は既に流出していた。


 「ティルト少佐、出撃どうぞ!」
 1隻のチベ重巡洋艦から、MAビグロ(改)が、単機で離れていった。
 [情報]の確認の出撃。
 連邦艦隊と、MSの実力確認にすぎないが、他の機体はつかなかった。


 MAは正面から乗り込んだ為に、すぐに哨戒ポッドに発見された。
 いや、それを望んでいたのか。
 発見と同時、いち早く1機のMSが飛び立ち、後にも遅れて数機がつづく。
 それは、ジムであったが、かなり改良されているようであった。
 ジムがビームライフルを構える。しかし、MAの方が先制した。
 ジムでは届かない距離から強力なビームがとんで来たのだのである。
 しかも、その閃光はジムの頭部を正確に射抜いた。
 他のMSが着く前に、ジムは早くも大破していた。
 恐れをなしたのか、それらのMSは前に出ようとしない中、1機が出てきた。
 それは、ガンキャノンのようであったが、大幅に改造されていた。
 ゴチェフの重MS、「ミーシャ」である。

 ミーシャとMAの戦闘も、しかし、MAの勝利に終わろうとしていた。
 MAの動きが速すぎ、連邦のMSの射程には遥か彼方。圧倒的なのだ。
 だが、なぜかMAはとどめを刺さず、急速に戦場から離れていった。


 「やはり持ちませんでしたねぇ」
 ビグロの中でティルトは右半分が真っ黒になったヘルメットのバイザーを拭った。
 組み立てが完全ではなかったのだ。ティルト1人の腕だけでは未熟な整備兵のカバ
ーは、しきれない。
 「装甲へのダメージは軽微だな...。でもこれが響いたかな」
 その口調は軽かったが、人がいれば、それが真剣な声であることに気付いただろう。
 (さて、2人に逢ったらどうするか.....)
 ぼんやり考えながら、コクピット壁面を剥がして回路を確かめ始めた。
「せめて移動の時くらい休みたいですねぇ」


 「っ、少佐!」
 整備兵達がビグロに駆け寄った。
 コクピットハッチが開くと同時に、煙が吹き出てくる。
 「帰還するまでに点検終わらせとけよ!」
 幸い、出てきたティルトに怪我はないようだ。ティルトはそのままデッキのコンソー
ルから、ブリッジへ回線を開いた。
 「艦長、帰還した」
 「御苦労。大丈夫か?」
 「ああ、ありがとう。しかし、あれは次に使えないな」
 「そうか....どうする少佐?」
 「まあ、205使うからいいさ。ソマール中尉に回せなくなったのは痛いがね」
 「あのMA アセンブラ か!もう使えるのかね?」
 「掛かりっきりだったからな」
 「何より無事で良かった。...しかしティルト、随分強引な偵察じゃないか?」
 「わたしは連邦で`強襲偵察部隊`にいまして。正面から敵を確認して帰ったり、
  そのまま撃破したりさ」
 「どうりでその腕なわけだ。では、帰還までゆっくりしてくれ」
 「どうも」
 ゆっくりできるのはパイロットとしてであった。
 回線を切ったティルトは、そのまま通路の奥へと流れていった...。

 「少佐.....」
 部屋の前には、ティナ少尉が待っていた。
 「おいおい、整備に回ってくれよ」
 ティナは疲れた声を笑ってごまかしながら言った。
 「で、お友達には会えましたの?」
 「まあね。.....もう少しで落とせたんだが」
 僅かな間、ティルトの目が宙をさまよった。
 そのまま、ティナから視線を外して言う。
 「少尉、大佐の艦に移れ」
 「なぜですか?」
 「この戦い、引き分けられればこちらの勝ちだ」
 「そんな.....」
 「そういうもんですよ。ほら、行った行った」
 ティルトは少尉の頭を ポンッ と叩いて部屋へと入っていった。


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