前方を行くのは軍艦6、輸送艦6からなる、この時期にはまとまった艦隊であっ
た。
2人は見つからない様、ゆっくりと近づいた。
しかし、前進は止めなかった。ゴチェフが言った。
「もう限界だ。ただ退却するだけのようだし、そろそろ戻ろう。」
「いや、まだだいじょうぶさ。」
ケインは前進を止めなかった。ゴチェフも流されるように続いた。
敵艦の射程に入った頃、ようやく気付いたジオンMSが接近してきた。
「......。!!」
ゴチェフがはっとして戦闘態勢に入ろうとしたその時。
そばで発光信号が上がった。
「なっ....?? ケイン!?」
その信号弾は間違いなくアレックスから上げられたのだ。よく見ると、アレック
ス
はBライフルほか、全てラッチに戻し、素手となっていた。
「俺は....。いや、僕はここに残るよ。どうするゴチェフ?」
ゴチェフには何が起こっているのかいまだにわからなかった。
「なんで....なに.....を......」
「これから僕を必要としてくれるのは連邦じゃないだろ?」
痺れた頭に、しかし、ケインの言うことがわかってきた。
「僕達は連邦じゃエースパイロットになっちまった....。」
「もう戦争なんか終わっちまうじゃないか!それを負ける....」
「そうだよ。終わったんだ。だから連邦にいてもしょうがないんだ。もう連邦
じゃ
あ研究に戻れないだろう。」
ゴチェフは、ケインはV作戦に参加していたのを思い出した。その後、招集さ
れ、
ここにいるのだ。それはゴチェフも似たようなものだった。
「いまじゃパイロットでも食っていけるようになったけど、連邦ではパイロット
と
技師を両立させては貰えないだろう.....。」
パイロットをしながら、上層部にMSの設計を提案するのがどんなに難しいか
は、
この1年近くともにいていやというほど分かっていた。MSの改修でさえ、かなり
の
時間がかかるのだ。
「それにね....」
ケインの声が変わった。〈お肌の触れ合い回線〉に変えたのだ。
「また逢えるんじゃないかな。アナハイムにもいくつもりだしね。」
ケインの声はどこか楽しげだった。
「しまったなあ。ゴチェフに料理習っときゃよかったなあ。こっちにうまいコッ
ク
がいればいいんだけどな。......。
どうやら来てくれそうに無いな。僕は死んだ事にしてくれ。もちろん隊長にも
な。
マイエル艦隊司令なんかはともかく、艦長なんかが知ったら2度と立ち上がれな
く
なるだろうし、ジュンが知ったら病院送りかも知れないしね。」
なぜ、隊長がいないこの場所で行ってしまうのか分かったような気がした。
「わかった。俺は戻る。」
一言、言うのがやっとだった。
「アナハイムに手紙出してくれたらつながるかもね。........。僕は結
局
スペースノイドなんだ。」
ゴチェフには、ケインの連邦への不満も分かっていた。
それは自分の不満でもあるのだから。
「報告、ポッフィー・ティルト・ケイン少尉戦死。2階級特進で大尉。
......佐官に届かなかったなぁ」
軽い衝撃と共にアレックス=青いガンダムが離れていく。
まわりのジオンMSが動かないのを見て、ふと自分達がどれだけジオン兵に知ら
れ、
恐れられていたかを思い出しておかしくなった。
「こちらゴチェフ中尉。損傷で帰還できない。回収を請う。なお、ケイン少尉の
ガ
ンダムは大破、共に行方不明」
ゴチェフはザクレロを自爆させ、救援を待った。
この知らせを受け、マイエルは真っ青になった。最高機密のつまったガンダム
を、
敵宙域で失ったのだ。しかも、パイロットは自分が連邦議員になる為に利用してい
た
第3突撃中隊のメンバーだったのだ。この時点で選挙の均衡はやぶれるだろう。ソ
ロ
モン戦以来、過労で寝込んでいたトキオ艦長は再び寝込んでしまった。
ジュン大尉はなにも言わず、船室に引き籠もった。
チベの艦内では、艦長とケインが会っていた。艦内にケインを知るジオニックの
者
がいた。そんな者がいなくても、ケインは自分で設計したアレックスを持込んでき
た
のだ。また、パイロットとしての戦果も申し分ない。
第3中隊と当たって逃げ延びたパイロットはいない。先ほどのビグロのパイロッ
ト
だけなのだが、この艦隊には幸か不幸かいなかった。
人材不足のジオン艦隊は、ケインを技術少佐として迎え入れた。
その後。
ジュン大尉の場合。
わずかな休暇の後、ジオン残党狩りのMS部隊を任されていた。
兄ゲンイチの連邦議員選挙の活動も熱心である。
兄のライバルであったマイエルと、
「エースパイロットとしてにっこり握手」してしまったつぐないでもある。
しかし、マイエルの当選はまずないだろう。
すこし戦死したケインに感謝している。
後に後悔するだろうか。
ゴチェフの場合。
部隊解散で大尉に昇進。地球のアフリカ戦線に志願。
しかし、ここはのんびりした戦場である。すっかり力を持て余していた。
昼間は整備兵をどなりつけ、夜は得意の料理で部下を親しくするためにもてな
す。
アメとムチの世界であった。
しかし、ムチの方は利きそうにない。
ケインの場合。
運の良いことに、艦隊の輸送船には60機余りもの新品のMSが積んであった。
運の悪いことに、未整備で。
しかも、パイロットも使える者は2−3名しかおらず、新兵合わせても30に届
か
なかった。
彼らの訓練はパイロットに任せ、ケインはMSの組み立てを続ける。
しかし。
こちらも素人ばかりであった。
「少佐、パネルがつきません!」
「コンソールの主電源はいってねーの!」
「少佐、ビスが合いません。」
「そりゃザクシールド用!それくらい覚えてろ!」
「少佐〜ドムの左小指が動きません〜」
「配線繋がってないの!」
「少佐!完成したリックドム動かないんです。流れてますぅ〜」
「プロペラントはいってない!回収してやって!」
「少佐いってください〜ゲルググしか動かせないんです。ザクしか動かないです
〜」
「で〜い!」
「少佐。実は.....」
「何なの!!」
「このMSまだ受領書出してないんです。」
「じゃあ書きゃいいだろ!」
「書式わかんないんです。お願いします。」
「........。」
知っているから書いてしまうケインであった。
それでも。
連邦にはない活気が、不思議と、おもしろい。