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            MS搭乗員認識票
 認識No.01786581
 姓名   シン=ハインツ
性別 男
 階級 上級曹長(中隊最先任)
所属 地球方面軍東ヨーロッパ方面突撃機動第7大隊B中隊第6小隊長
備考 MS搭乗員養成学校第1期生
コールサイン”オーガー=ヘッド”


    東部戦線異状なし


俺がその戦車小隊の待ち伏せに気が付くのと、61式の150mm連装主砲が続けざまに火を噴くのとがほぼ同時だった。考えるより早くとっさに機体をひねり、右肩の専用ラッチにマウントしたザクシールドを前面に押し立てる。徹甲弾の一発は胸の超高張力鋼の装甲を削って飛び去り、もう一発はダーツの矢よろしくシールドに突き刺って止まる。
俺にここまで気づかせなかったカモフラージュといい、発射と同時に車体と掩蔽壕の周囲に仕込んだ発煙筒をふかして一瞬で隠れんぼを決め込む切り替えの早さといい、なかなかの手並みだ。こいつら、たぶんこれまでに何機かザクを食ってきてるんだろう。
 だが、今回は相手が悪かった。
着弾の衝撃が俺の体に感じられたときには、ザクを低く跳躍させて2、30m左後方へ飛びじさっている。そうしながら右腕に搭載した120mmマシンガンを照準。と、いうか奴がいるであろう所にレティクルを合わせる。敵機をロックオンしていないとブーたれる戦術コンピューターをーー何せ長い事酷使しているのでいい加減ボケてきているーー操縦棹の右小指に割り振られたセレクターを弾いて黙らせ、単射の徹甲弾2発で返礼する。
その俺の発した赤外線めがけて再び飛んでくる砲弾。その発射炎と、そしてもう1両は派手に後退して行く煙幕のせいでそれぞれの位置が知れた。かっきり5発づつ、今度は連射でたたき込んで縁を切る。
もう1両は。機体を横移動させながらモニターの映像と、その向こうの殺気を探る!上!?俺の頭上でかすかに光が瞬いた。とっさに注意を空に向け直す。
 やはり。
連邦空軍の主力戦闘爆撃機”空飛びエイ”の4機編隊。6連汎用ミサイルポッドを2基ぶら下げた前線支援装備の奴。航空機技術では、悔しいが我々よりも一歩以上先を行く連邦空軍の開発した機体だけあって、不格好な見かけとは裏腹に機動性と搭載能力は高く、足下の戦車どもにかまけている内にいつの間にか急降下してきていたこいつらに撃破されていったザクは数多い。そのため俺の機体も、こいつらの目を多少なりともごまかすため陸戦迷彩塗装を施してあった。
「気休めだけどな。」
案の定、そいつらの内の2機が俺を見つけてこっちに向きを変えてきた。残りの2機は俺の連れていた列機を狙う。
対空爆裂弾頭が欲しい、と心底から思いながら、『こいつらならヒートホークで撃破できます』と豪語してのけた戦術コンピューターを無視して、とりあえず手持ちの徹甲弾を空に向けてぶちまける。
幸い、先の戦車小隊と異なり、こいつらの練度はそれほどでもなかった。教本通りの急降下。見越しを取った通りの所に機体を持って来る。とはいえ、こちらも徹甲弾を撃っているのだから当てにくいことおびただしい。何とか命中弾を与えたが、それまでに1機がミサイルをバラ撒いていた。
後退しながら銃撃を行っていた俺は、とっさにペダルを踏み込みメインスラスターを全開、ついでに機体を前傾させて今度は前方へ飛び出す。唐突な過負荷に、脚部サスペンションが派手な悲鳴を上げた。
ロックオン不完全でとっさに放たれただけのミサイルと見ての緊急回避行動だったが、いかんせん数が多かった。機体周辺に、2、3発至近弾を食らう。<COUTION><DANGER>のサインがいくつか余計に点灯する。バランサージャイロの調子が悪い・・・のは元からだ。特に深刻な障害はない。
連続攻撃がひと段落したと見て列機2機の状況をチェックする。俺は思わず頭を抱え込んだ。
2番機マイヤー軍曹機は足下の泥に滑って無様に仰向けに転倒しており、3番機のオーフェステイン伍長機に至っては回避運動と称して闇雲に走り回ったせいで、『一見草地、実は深さ不明の泥沼』に膝まではまりこんでこちらも横転している。
振り返れば、さあ反撃だとばかりに大量の戦車や攻撃機がこちらをめがけて進軍してきている。それに対してこちらは、ここまで進軍してくるのに弾薬も推進剤もかなり消耗してしまっていた。俺は転んだ列機を助け起こしながら、やむなく後退を決意した。


宇宙世紀0079年1月3日。ジオン公国独立戦争勃発。宣戦布告の放送とわずか3秒の差で、我々公国宇宙軍は各サイドにNBC兵器の使用を含んだ総攻撃を開始、連邦軍の拠点を各個撃破してゆく作戦にうってでた。
ミノフスキー粒子の発見及びそれに伴う物理学の再構築により、急速に発展したMSという全く新しい概念の機動兵器を、その存在はキャッチしていながらまともに取り扱っていなかった連邦軍は、その認識の甘さを開戦後1週間の間にいやというほど思い知らされることになる。
後にいわれる「1週間戦争」において、レーダー連動式の数少ないレーザー対空砲しか持たない連邦軍の虎の子の宇宙艦隊は、ザクとムサイ、そしてミノフスキー効果の前にあっけなく次々と轟沈の憂き目にあい、その勢力の大半を失うこととなった。
しかし、こちらの損害も大きかった。特に「ブリティッシュ作戦」ーーサイド2のコロニー”アイランド=イフィッシュ”を丸ごと一つ地球に落下させ、南米アマゾンに存在するといわれる地球連邦軍本部「ジャブロー」を破壊するーーでは連邦軍はありったけの残存兵力による反撃を行い、コロニー護衛のために張り付いていたベテランパイロット達はザクの最大の売りであるはずの機動力を制限され、次々と撃破されていったのだ。
それでも、コロニーがジャブローを破壊してくれていればこの戦争は終わっていただろう。だが、連邦艦隊の必死の艦砲射撃がコロニーを傷付けていた。そのため、ジャブローを吹き飛ばすはずのコロニーは大気圏突入の衝撃に耐えきれず四散、当初の目的は果たせずに終わった。
それならばともう一度やるだけだ、とサイド5に向かった我々は、レビル将軍率いる連邦艦隊との総力戦に入った。
我々は勝利した。レビル将軍の捕獲というおまけ付きで。しかし、ブリティッシュ作戦で失われたベテランパイロット達はこの戦闘でさらに半分以下にまで減少、この事実が連邦特殊部隊により救出されて南極条約の締結交渉の場に現れたレビル将軍に「ジオンに兵なし」の大演説をさせることとなる。それまで再度のコロニー落としをちらつかせて交渉を有利にーーつまり降伏させるーー進めていたジオン側に、もはやその能力がないことが暴露されたのである。結局、南極条約は両軍の交戦規定として締結され、連邦を降伏させることはかなわなかった。
我々は即座に地球降下作戦の準備に入り、1週間後には第1次降下作戦を実行した。
 1次降下作戦に加わった連中は、一応は開戦前に、改造されたコロニー内で重力下戦闘訓練課程を修了している者が優先して配備された。俺も、その中にいた。
しかし、俺達は知る由もなかった。
地球の大自然の荒々しさは、我々が受けた訓練の比ではなく、我々は文字通り「地球の歩き方」から作戦を始めなければならなかったのである!
特に、俺の配備された東ヨーロッパ戦線と、南アジア方面に行った奴らは酷かった。
まず我々を襲ったのは地球の自然環境だった。コロニー落としによる気象条件の激変、そしてそうでなくとも、地球環境に対する我々の理解の甘さが、兵員の間での疾病の流行を招きーー中にはたちの悪い疫病で、大隊がまるごと全滅した例も報告されているーーそして十分な温度対策を施されているはずのMSの駆動系は、埃っぽい陸戦環境下において装甲内部にかみこんだ夾雑物によってその防御を破られ故障を続発した。さらに、訓練よりもはるかに変化に富む地形は我々の行軍を度々停止させ、停滞している間に仕掛けられる奇襲攻撃によって、あっさり撃破されるザクが続出した。目的地に着くまでに!
特にサンクトペテルブルグ攻防戦では、俺の属していた中隊は、なんと俺を残して全滅、その他の中隊も生き残ったのは1機2機、全滅も珍しくないという有り様で、この段階で我々はまともな継戦能力を失っていた。
それでも4月までかかって、何とか体勢を整えた我々は再度侵攻作戦を行った。今度もボロ負けした。理由は凍り付いていた大地が春の陽気で解けだし、MSが歩行不能になるほどの一面の泥濘を作り出したせいである。泥濘地に強い連邦の戦車部隊は動けない我々を文字通り射的の的にしてくれた。おかげでこの時期を生き延びたMS乗りは、どこに泥濘地があるかを、モニターに映る地面の状態と、MSの脚部に伝わる大地の感触から識別出来るという特技を身につけてしまった。
 それ以後、戦線はほとんど膠着状態に陥っている。
 我々は陸戦のノウハウを蓄積して作戦能力を向上した代わりに、連邦軍も対MS戦闘における有効な戦術をいくつか確立した。そうして3カ月が過ぎようとしている。戦局の打開は、未だになされていない。


俺と列機は、執拗な連邦空軍の追撃を振り切りつつ何とか基地まで帰還してきた。なにが悲しくて、味方基地の勢力範囲に入ってからまで連邦機の爆撃を警戒しなければならないのかとも思うが、ドップ戦闘機のエアカバー能力の貧弱さーー小さな機体に無理矢理大型のエンジンと、さらに姿勢制御スラスターまで搭載したため、航続距離を大幅に制限される結果となったーーはジオン最大の悩みでもある。連邦が我々の勢力を最も効果的に殺いでいるのも航空隊の攻撃である事を考えると、対空装備の開発が行われてもいいはずなのに、そういった話は聞こえてこず、そのかわりとして弾薬の共通性が無く、信頼性の低い「新型の」ライフルや、機体をそっくり改造しなければ取り付けられないような「画期的な」装甲材が送り込まれたりしてくる。
 現行の機材を運用するのに必要な物資をよこさず、評価試験も済ませていないような試作品ばかりをよこす開発局の人間は、前線の兵士の間では「快適なオフィスで理論とお遊びしている愚かな夢想家」でしか無く、たまに「実地調査」に来た彼らはたいてい「前線におけるMSの運用」に関して、徹底的なレクチャーを受けさせられた。それとは対照的に、ガタガタのMSを奇跡のように稼働状態に持ってゆける熟練した整備兵は自腹を切って酒を飲む必要は全くなく、パイロット達からは文字通り神のごとく扱われていた。
しかし、最近そう行った熟練兵達の引き抜きが相次いでいた。ついこのあいだも、偵察航空隊の、コールサイン”ホークサイト”がどこかへ転属していったし、その前はうちの基地からも腕利きの整備員達がごっそり引き抜かれた。おかげで俺のジャイロはいっこうに直らないと来ている。さらにガウ攻撃空母隊の連中も練度の高い奴をよそへ取られたとぼやいているのを聞いたことがある。特務部隊の編成がされている、という噂があったが、その目的は全く謎で、前線ではそのために全体としての練度が急速に低下しつつあった。
コクピットの中で思わず低く悪態を付きながら俺は機体をハンガーに固定した。作戦報告に司令部へ出頭しなければならない。勝てた訳ではないのでーー正直言えば負けているーー気が重いが、実はこの肩の重さにはもう一つ原因があった。


「おお〜い、ハインツぅ。」
作戦報告をすませて指揮所を退出した俺を呼び止める声。俺は怒りと脱力を半分づつ顔に浮かべて後ろを振り向いた。人の良さそうな丸っこい顔をした男が、にへらと笑って俺の後ろにいた。こいつが俺の気を重くしていたもう一つの原因である。
「聞いたぜぇ、今回も結構な撃破したそうじゃあないか。」
「まあな。」
「さっそく仕上げたんだ。まあ見てくれよ、今回のはちょっとばかり自信作だぜ!」
言ってそいつの右手でひらひらしている細長い紙。見なくてもその正体は知れた。
『それ行けハインツ君』
部隊内新聞に連載されている4コマ漫画だ。
何でもこいつの信条が『逆境にこそ笑いが不可欠である』とかで、春先の閉塞的状況の中でこの連載を始めたのだ。で、適当なネタがないかと探し回った結果、方面軍の英雄に祭り上げられていたーー戦争には士気高揚のための”英雄”が付き物なのは古今東西変わりが無いーー俺にねらいを付けた、というわけだ。
これがいまいましいことに人気があると来た。気負い込んだままで戦争なんぞやれはしないし、その意味では効果的なのだろうが、やはりネタにされる人間としてはあまりうれしい物ではない。
「なあ、お前さんよ。たまには俺以外の奴をネタにしようとは思わんのか?他にもネタ になりそうな奴は何人か転がってるぞ。」
しかし、この説得が無駄であることは口を開く前から分かっていた。案の定、
「いやあ。でも最初が強烈だったからねえ。」
そう。こいつに目を付けられてしまったのは、実は俺自身が原因なのだ。
あれは侵攻が行き詰まった3月頃。休息はもはや遠い過去の話となり、皆が過労状態だった。それはMS乗りといえども同じ事で、作戦任務以外にも橋梁工事の補助にまで駆り出されて、間違いなく1日の2/3以上はMSのシートに座っていただろう。当然ミスは増える。俺と同期の熟練兵がMSを転倒させたりもしていたのだ。その中でも、俺のやらかしてしまったことは・・・でかかった。
その時俺は37時間連続で土木工事を続けていた。いい加減、過労が両肩を動かなくさせてゆく。目がかすむ、頭が重い、意識が薄れてゆく・・・・。
 時間にすればおそらく3分無かっただろうが、いきなり前のめりに倒れたままぴくりとも動かない俺のザクに、中隊長以下かなりの大騒ぎになったらしい。呼びかけにハッと気が付いてあわててザクを立たせる。
そう。俺はコクピットの中で熟睡してしまったのだ。その失態を、制御系の不調による物である、とごまかしてくれたのがこいつだったのだ。
こいつは俺に見返りを求めなかった。少なくとも通常の兵士が要求するような物は。
 その代わりにこいつは漫画を書いた。それが『それ行けハインツ君』の連載第1回となったのだ。
弱味を握られているのはこちらなのでどやしつける訳にも行かず、身ぶりだけで追い払って、俺は自室に引き上げた。
 頭の中身は、先ほど伝えられた1週間後の総攻撃の前に部下をどうやってもう少しましなレベルに鍛えるかに、無理矢理切り替えられていた。
しかし、連邦は1週間も我々を放っておいてはくれなかった。


ヴゥーーーーーーッ、ヴゥーーーーーーッ、ヴゥーーーーーーッ
その3日後、早朝。散々酷使された挙げ句、すっかりハスキーヴォイスになったラウドスピーカーが、やけくそ気味に空襲警報のサイレンをがなり立てた。
それ自体は珍しいものでも何でもない。ほぼ毎朝のように鳴っているものなので、寝坊をした兵士の目覚まし代わりぐらいのものだ。が、今朝は少し様子が違った。
「連邦軍の大規模な混成攻撃部隊が進行中!目的地は不明なるも本基地を通過するコースをとっていることから、各MS及び各戦闘機隊は緊急発進!これを迎撃せよ!」
素直にここが的だと言えんものか。
ちらっとそう思いもしたが、俺の脚はすでにMSハンガーめがけて走り始めていた。

MSの起動という奴は戦闘機とはまた異質の煩雑さがある。チェックリストの確認だけでも3倍からの分量があるのだ。その間に、右胸に搭載されたミノフスキー=イヨネスコ式熱核融合ジェネレーターをタキシングさせ、必要のある場合には整備班が機体の兵装の変更を行う。
基地所属のドップ戦闘機隊が大慌てで次から次へと発進してゆく。だが、すでに上空は足の速いセイバーフィッシュに押さえられかけている。
「本気で来たかな?」
「だな。」
整備班長に答えながらチェックリストに目を通す。オールグリーン!・・・最後にそうだったのはいつのことだろう?チェックパネルに並ぶリストは実に18%のシステムが何らかのトラブル、もしくはその因子を抱え込んでいることを示している。こればかりは流石にいつもの事、とはいいがたい。ジェネレーターの起動も遅い。しかし今更降りるわけにも行かない。
2重構造のコックピットハッチを閉鎖し、搭乗用キャットウォークが取り除けられたときには、すでに敵第1波攻撃隊の投下した爆弾が滑走路に大穴をあけていた。

格納庫の近くにいたのでは、やられる。
機体に伝わった着弾の振動から、かなり大型の爆弾が投下されていると判断した俺は、格納庫をせめてもの遮蔽物にするのをあきらめ、思い切って開けた場所へ飛び出した。
その判断を呪う。
砂塵の向こうに見える連邦陸戦部隊の中に、通常の戦車よりはるかにシルエットの巨大なガンタンクーーまあ、こちらでは”できそこない”としか呼んじゃいないーーの姿が見えたからだ。しかも4機も。
 機動力が鈍く、図体がでかいといえば的以外の何者でもないが、こいつの搭載する120mm主砲は貫通力と射程に優れ、一撃の恐しさがある。近距離に弱い機体のため、接近戦に持ち込むことが出来れば勝てるのだが、最近ではこいつらは、近距離射程をお互いにカバーしあえるぐらいの距離を持って戦闘に参加してくるようになった。つまり多少やりにくくなったと言う訳だ。まあ、やり方はいくらでもある。
 幸い、基地のMSは何とか全機出撃が間にあっていた。12機いれば、まだなんとか迎撃は出来るかもしれないとは思える。
「小隊ごとに散開、各個に敵を撃破せよ!」
中隊長の指示が各機に飛んだ。
つまり好きにやれと言うことだ。
 俺の機に向かって飛んでくる砲弾をーー方面エースともなれば、やはり敵も狙ってくる。その代償に多めに砲弾を補給してもらってはいるのだがーータップを踏むように複雑な回避動作を織りまぜて前進し、連邦の砲手どもの照準を翻弄する。そしてその間に6両の戦車をまとめてロックオン、目標選択。選んだ目標に自動的に誘導される照準レティクルを、自分の動きと相手の機動、重力による弾道のドロップを修正、短くトリガーを引く。
「中隊、できそこ・・を叩く・」
ミノフスキー粒子の雑音の向こうから中隊長の指示が来た。
「・・援車両が煙幕を展開・・戦車は基地が支えてくれ・・くぞ!」
その台詞と同時に、俺の後方から大量のロケット弾が前線に殺到する。着弾と同時に前線は濃い煙幕に包まれた。ついでにさらにM粒子を撒いたらしい。モノアイの画像にもかすかにノイズが走る。これで旧式の61式の電子系統は、ほとんど無力化されたと考えていいだろう。
 だが長くは持たない。これでおそらく、基地の煙幕弾はあらかた使い果たしたはずである。戦車の目がつぶれている今のうちに”できそこない”を叩けなければ、こちらに満足な二の手はないのだ。
 俺は反射的にスロットルペダルを蹴飛ばした。


            ドゥドゥドゥドゥドゥ・・・・・

              グゥアッッ!

             ゾフッッッッッ!!

互いの火線が交錯する。
マシンガンから放たれたタングステン製の徹甲弾芯が、その凶悪な運動エネルギーで”できそこない”の重厚な装甲を続けざまに削り飛ばす。タンクからの砲撃は、直撃こそされていないが、その的確な射撃は俺のザクに近寄る隙を与えず、ポップミサイルの至近爆発は着実にダメージを蓄積してゆく。 
 こちらの強みはザクの優れた機動力。火器は少々力不足だが、手数と取り回しにおいて敵に優れている。
”できそこない”の強みは絶望的なまでに強固なその装甲と、こちらを一撃で撃破し得るその火力。ただし機動性は戦車と同レベルに過ぎず、その火器は照準にコツを要し、取り回しに劣る。
お互いに自分の強みと弱点をよく把握したパイロット同士。腕も互角と見た。この戦いは、先にミスを犯した方が死ぬ。”彼”もおそらく同じ事を考えているはずだ。
『奴を殺るのは、俺だ。』
暗黙の了解の一騎打ち。
間合いの、呼吸の読み合い。”彼”の心理を覗く一瞬。
 共感?似ているかも知れない。多分違うだろう。
”彼”の機体が一瞬炎に消えた。収束砲撃!
 とっさに機体を沈み込ませ、砲弾の固まりをきわどく回避。
 しゃがんで重心の低くなった機体をそのまま倒れ込むように傾け、脚部に目一杯動力をぶち込む。モニターの映像が斜めに流れるやつを、スラスターもふかして急速反転!
G!!
脳が白くなる、肺の空気が叩き出される!
ターンする一瞬の呼吸を見抜かれた。想像以上に、デキる。
 それならば。
マシンガンの下にマウントしたランチャーからグレネードを発射し、左手は腰のラッチから取り出したクラッカーを、そのどちらも地面を抉るように叩き込む。爆ッ!!
間髪入れず爆風を突っ切り、敵機推定位置に突入!即製の煙幕を突っ切った先に・・いた!この近距離では対応できまい、ヒートホークで終わりだ!
ガガガガガガガッ!?
やられた!とだけ考える余裕があった。反射的に機体を飛びじさらせる。な、何だ!?
回答はタンクの頭部の左右からたちのぼる煙だった。あ、あんな所にヴァルカン砲か!
突撃に失敗し、体勢を乱して離脱する俺を、容赦なく”彼”の主砲弾が追撃!避けきれないッ!!
 何とか受けとめたシールドが粉微塵に粉砕され、もう一発は直撃を食らう。装甲が吹き飛び、内部の複雑な機器がオイル混じりの鉄くずに変わる。チェックパネルが鮮やかに赤く塗り替えられる。戦術コンピューターはショックですっかり惚けてデータ処理を投げ出し、補助コンピューターに強制的にリセットされる。
何とか状況を変えなければ・・目眩ましでも・・・そうか!
ザクの左腕をバックパックの上に回す。左手のセレクターを弾いて補助装備の項目を呼び出す。その中に・・・あった!
バックパックの隅が開き、小さな筒が爆薬で打ち出される。それは空高く飛び上がるところをザクの鋼の掌に受けとめられ、その中で燃焼を続けた。閃光信号弾。
それをタンクに投げつける。果たして一瞬の爆光が閃いた。
「マイヤー!突入する、支援!!」
 対空砲撃に忙殺されているオーフェステインは置いておいて、マイヤー機とともに突入をはかる。彼とは同時突入、マシンガンで支援してもらって相手の攻撃を分散できれば、と考えていた。
だが、そいつのとった行動は、
「はっ、最先任殿!マイヤー軍曹、吶喊します!!」
「なっ、馬鹿、お前では無理だ!支援砲撃さえしてくれれば!」
言ったときにはもう遅い。左手にヒートホークを引き抜き、マシンガンをやたらにバラ撒きながらまっすぐ一直線に”できそこない”に突っ込んでいく。
 くそっ、軍曹が生粋のジオン党員ーー”ヒートホーク一本ででも連邦戦車隊になぞ勝てる!!”連中。出来るものならやって見ろーーなのを忘れていた!戦意が旺盛で、冷たく不味くて泥混じり、とどめに少ない飯にも文句を言わない根性は立派だが、それだけでは”彼”に勝てるはずもない。
「回避するんだ、軍曹!!」 
その叫びを聞いた様子は、なかった。
そして、予想通りになった。
闇雲な射撃の2、3発が当たるのなど無視し、冷静に狙いすまされた主砲弾2発が、哀れなザクの装甲を紙切れのように引き裂いた。軍曹が最後に見たのは、主砲の発射炎だけであろう。ぶざまに倒れ込むザク。
が、その機体が突如、すさまじい閃光に包まれた。核動力炉への直撃か!
チャンス!
これが最後!と機体を突撃させる。ただし、まっすぐ”彼”に対してではない。タイムロスを承知でザク2機分、いったんコースを横に逸らす。予想通り、俺の横を砲弾の雨が通り過ぎた。
 本来、こういう場合には先に撃った方が不利となる。それをあえて撃ってきているのは、閃光に紛れて自機の苦手とする近距離に突入されるのを恐れたからである。それに備えて、俺がいるであろう範囲ーーこれまでの戦闘で、お互いに相手の大体の癖は把握しているはずだーーに扇状に搭載火器を放ち、こちらの足を止めにかかった。
 だが、こちらはその予想より、もう少しだけ横にいた。俺はタイミングを、少しだけ、ずらした。 そして、方向も。
機体をジャンプさせ、”彼”の背後に回り込む。機動性の差。必死に移動したのだろうが、ほとんどその位置は変わっていない。まだ残る閃光の中、無骨極まりないシルエットが見えた。ロックオン。”彼”の上半身は振り向き切れていない。
いかに強固な”できそこない”の装甲も、背面はそれほどでもない。
マシンガンの長い連射は”彼”の命を、絶った。


”彼”には勝った。が、戦闘はそれで終わった訳ではない。”できそこない”は2機が損傷は酷いものの健在であり、さらに煙幕が晴れてしまって戦車隊の攻撃も復活してきた。こちらも必死に反撃するが、俺の機体は状態も弾薬残量もかなり厳しい。中隊の機体が1機、また1機と倒れてゆく。そしてついに俺のザクも脚部動力系を破壊された。 鋼の巨人が、大地に膝を屈する。
戦車隊が迫る。
(ここまでか・・・。)
覚悟を決める。中隊の他の面子は良いとして、俺が南極条約通りに扱われる保証は無い。『機体から引きずり出したら死んでいた』とでも言われれば終わりである。
と、モニターに映る連邦戦車隊が、急に引き揚げを開始した。
(?)
カメラをパンさせるが、それは戦線全体にわたっての状況であった。
その俺の無線機に、激しい雑音混じりで声が届いた。
「こちらA中隊。B中隊、まだ生きてるか?生きてる奴は返事をしろ!!」
後方の基地で補給中だった部隊が、前線の破れる寸前で駆けつけたのだ。
「こちらハインツ。動けないが生きている。悪い奴等を蹴散らしてくれ!」
彼らはその通り、実行してくれた。


その1週間後。
 再編成された俺の中隊は、前線へと向かうガウ級攻撃型空母の中にいた。俺のザクは回収の後、後方の基地で修復されーーとは言っても相変わらずジャイロの調子は悪いのだがーー持てるだけの弾薬と推進剤を与えられていた。
「しかし、1回の総攻撃で基地の物資が空になるって言うのはどういうモンだか!?」
言っている間に降下時間が迫った。艦首MSハッチが開き、激しく乱気流が吹き込んでくる。
モニターに東部戦線の平らな、うんざりするぐらい平らな大地が広がった。遮蔽はなく、泥濘に足を取られ、機体は重力に拘束され大地を這いずる。地上から、上空から、次々と襲いかかる連邦軍を必死に振り払い、ただその瞬間、己の命をつなぐためだけに銃爪を引き、見も知らぬ「敵」の命を奪い去る。それがかなわなければ、対価とされるのは自らの命。
 凄絶な殺し合いの果てに見える物が何であるのか、戦闘中にそんなことは考えていられない。実現されるのは、総帥の言うようなスペースノイドの理想なのかも知れないし、そうでないかも知れない。ただ、俺が戦う理由は一つ。
『連邦はいけすかねぇ』
それだけだ。
すでに戦端は開かれ、眼下には激しい銃火と爆煙がパノラマのように展開されている。
降下指示シグナルがグリーンに変わる。
「小隊、降下!」


俺にも例の転属の指示が来たのは、この5日後のことだった。




と、言うわけでこんにちは。友人Yです。本人です(笑)。
私のことに関しては、すでにうちのサークルの広報担当である天穂氏がいろいろに書いてくれているものと思います(^^)。ま、バーサーカー扱いされても仕方の無いようなことをさんざんやったのは(特に初心者の頃は)事実ですし、いろいろ考えてキャラクターを造る割にはやってることは・・・。
考えてみれば、ダイスまかせにいろいろな伝説を打ち立ててしまいました。
『クトゥルフの呼び声』第1部では、PC達が分捕った軽戦車の砲手となり、わずか20%の命中率しかないはずの76mmキャノンを瞬間最大風速75%、平均50%の確立で命中させてのけた(ちょーしに乗って、同乗していたNPCのお坊さんに「ゲラゲラゲラ!おう坊主、弾よこせや!!とわめいた・・・)とか、異界神の従者の能力が一部入って再生能力を手に入れてしまい人外魔境に突入したとか、同第2部では神様と接触して、今度はAPP値が人外魔境に突入したとか(大爆笑)。
しかし、一番ダイスが大暴れしたのはガンダム第1部(連邦側)の時です。そう、あのジュン=ヨシオカ大尉をやっていたときです。「7回墜ちても生き延びた」「戦車小隊を率いてザク小隊を追い返した」「サラミス級の主砲3発でチベ級重巡を撃沈した」「艦砲射撃でビットを2機叩き落とした」「同じく艦砲でニュータイプの乗るMAを撃墜した」「海軍対潜攻撃機隊と空軍戦闘機隊の混成部隊を功績点まかせに編成、ユーコン3隻撃沈、水中用MS30機入り掩蔽壕撃破に成功。ジオン黒海海中艦隊壊滅」etc,etc・・・。一体どれが本職やら(^^;。
ま、ゲームならではの大暴れなんですけどね。

さて、ストーリーの方のお話を少し。このお話は、天穂氏の書いている「ガンダム=センチネル0079RPG」第2部ノベライズバージョンの少し前、私のPCであったシン=ハインツ上級曹長がカンナヅキ小隊に配属になる以前のもの・・・のはずです。 本来GMがやりたがっていた、そして私たちも求めていた地味でちまちまとしたお話になる予定だったシチュエーションを少し再現してみたいなあ、と考えて書き始めたのですが。
『何者やねん、お前。』
これが私の正直な感想。お前、そんなに腕よかったっけ?確かに泥沼はほとんど判定なしに見つけられたけどさ。しかもMSの中で居眠りだあぁ!?
うーむ。勝手にやらせたら勝手に暴れとるな。
『お前がやらせとるんだ、お前が。』
なにを言う。俺の思いつくこと=お前の思いつくこと。俺はお前のやっていることをゲーム盤の上に再現しているに過ぎんのだぞ!?
『・・・開き直るか、てめぇ。』
こわい顔すんなよ。直接殴り合ったら勝ち目無い・・・。
さて、じっくり内容見直すというと・・うーん、戦闘シーンを描き込んでみるかなー、と思って書き始めた割に、キャラの内面描写ばっかり・・・。何なんだ、これは。
 ま、あんまり小説自体を長々と書いても、天穂氏の方でやりづらくなっても困りますしね。全体的なお話は彼の小説の方で読んで下さいな(^^)。
さて、人に頼んでネットに乗せてもらうという無茶なまねをしてしまいましたが、私も近々モデムを購入する予定を立てています。ただ、なあ。卒論で専門書とか仕入れてたら、貯金があらかた無くなってて破産しかかってたりするんですな、これが。ううう、収入やーい(;;)





 ふふふ天穂です(笑)
 小説になったら美化300%(笑)
 実際のプレイ中は彼のキャラは2枚目気取りなのはよいのですが大抵・・・笑わせてくれます。
 ハインツももっとニヒルぅ〜なキャラで、危ない奴なんですが、プレイ中は隠密行動が何故か艦内大騒ぎのお笑い行動になってしまったり・・・。
 あ、ティルト第1話でジュン大尉が何故か艦内でライフル持ってて兵士に「離してくださいよ〜」なんていわれて大恥だとか、あの辺ののりが普通・・・(^^;;)
 シホの方ではあんまり絵にならないので割愛したのがありますが。

 異常だらけの戦線ですが、シホの勧誘(?)で、崩壊していく様も少しは入ってますね・・。
 Y自身、えらくメールを心待ちにしているので、感想なり、「シホ様にいじめられてかあいそうに」なり、なんなりと送ってやって下さい。
 しかしアドレスがないので、天穂の所に送って下さい。
 ハインツ宛〜とか友人Y宛〜と書いていただけたら、彼に渡しますので。

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