W杯記念・オリバー・カーン騒動


 どこに載せようかちょっと迷ったのですが、ここに置いてみることにいたしました。

 日韓共催の2002年FIFAW杯開催中のことである。
 6月も末、夏休みにはまだ間があり、そろそろ授業に疲れていた私は、我らが門番殿(←掲示板にて命名)ことオリバー・カーンをネタにして教材を作り、ナニゲに息抜きをすることを思いついたのであった。
 カーンを題材に選んだのは、私が知っていたドイツ選手であり、また私はいまいちアイドル系が好みではない、という全く恣意的な理由である。

 白状すると、このW杯で私がTV観戦した試合はそのほとんどがドイツ戦である。

「せんせ〜、今日、日本対ベルギーあるよね〜?見る〜?」
「う〜む、ドイツ×サウジ戦が終わったら気が抜けた・・」
「なにそれ〜、おかし〜(爆)」

 そうかな?やっぱり?(^_^;)

 時期的には、そう、ドイツが1次リーグ突破を決めたカメルーン戦の後くらいのタイミングである。その時点では、まさか彼が時の人になるとは思わなかったのであるが・・。

 教材というと何だか大げさであるが、要するにカーン選手の顔写真、それと出生地・生年月日・所属チームなどを示し、これに対して Wie heisst er? Woher kommt er? クラスによっては Wie finden Sie ihn? と感想を書いてもらう、極めて単純なものである。→参照
 会話のことを考慮している教科書だったら、例えばFreiburg出身でBerlin に住んでいるPeterくんについて、以下の問いに答えなさい的な問題が必ず載っているであろう。そのリアル人物版である。

 写真を付けたのは、知っている人はそれで誰だか分かるだろうし、知らない人も何かしらのイメージを持てるであろう、と思ったからである。そういう意味では、かなり特徴的な人であったので(^_^;)
(言うまでもなく、いちおう「サッカーの選手でドイツ代表云々」の解説はしておいた)
(画像をインターネットからダウンロードして使うのは、ちょっとナニがある可能性もあるが、まあ教材用ということで・・)

 さて、そのプリントを配布し、辞書でもなんでもクラスによってはサイトでも(パソコンを一人一台持たしている学校もある)見てもよいから、と言って答えを書かせ、あとで集めて添削した。

 すると、妙なことに気がついた。Er kommt aus 〜 のausが抜けたりするのは、仕方ないな〜(^_^;)と思っただけであるが、Wie alt ist er? (彼は何歳ですか?)という設問に対する間違いが多い。
あらかじめデータとして 15. Juni 1969 というのを示しておいたが、2002年6月20日過ぎの時点で、カーンは33歳になったばかりである。なのに、何故か34、もしくはvierunddreißig と記入している人が少なからずいた。
 今時数え年でもあるまいに(というかそのドイツに数え年はないと思う・・)、何故簡単な計算を間違うのだろう? 大学生の学力低下、というが、一応「いい大学」も含まれているぞ?
(32歳、という答えはまだ理解できた。Juniが分からなかったのであろう・・)
(もう一つ、15歳、というのもあった。日付の読み方が分からなかったのであろうが・・そりゃないって(^_^;))

 ある日突然、疑問が氷解した。
 何気なく姉と会話していて、

「カーンさん、うちでも人気だよ。とても34歳に見えないって・・」
「ちょっと待てい!!」

 カーンは2002年6月末現在、33歳ではないのか?

「え?カーンさんて34歳じゃないの!?だって、こないだの試合で、アナウンサーが、『今日、34歳の誕生日を迎えたオリバー・カーン』って言ってたでしょ?」

 そうだったのか・・。むむむ、やられた・・。
(なお、私はこのアナウンサーの言葉を聞き漏らしていたか、記憶からすり抜けていたか、どちらかである)

 それじゃ、この問題をやることで、誤った情報を訂正できたかな?(何の価値もないような・・)

 ところで、本務校なしの非常勤講師である私は、あちこちの非常勤講師室に出没する。
 必然的に、カーンの顔写真つきのプリントおよびその元原稿を持ち歩くことになる。
 すると・・。

「あ、先生、この人、あのドイツのキーパーさんですよね?」
「良くご存じですね(^_^)」

 何故か、頻繁に声をかけられるようになった。
 そして、これはどのような問題なのか、とか質問されたりしたのである。講師室の相互コミュニケーションに役立ったらしい。

「へえ、いいですね、こういうの」

と外交辞令を言ってくれた人に対して、

「いやあ、W杯やっているし、普通の授業するの飽きちゃって」

と、ドイツ語教育の研究に命をかけている人がいたら、その場でパンチングくらいそうな発言を呑気にしていたのである。

 さて、実際に教室でプリントを配布してみると。
 教室は一瞬どよめき、眠たげな学生がばちっと目を開けた。
 うん、この人ってインパクトあるもんね・・。へえ、案外知名度あるんだな・・。
 この時点で私は、まだオリバー・カーンを舐めていたのかも知れない。
(私の印象では、日本のマスコミ等でカーンが取り上げられるようになったのは、せいぜい準決勝の韓国戦前くらいからだと思う。日本チーム以外では、ベッカム様やアン・ジョンファン、ブラジルの3Rが話題の中心であっただろう)

 このような時事ネタを授業に持ち込むのは、ある種の賭けである。
 ドイツ語教師の中でも、授業でW杯の話をしようとしたら、学生に首を横に振られ、露骨に興味ない、との意思表示をされた人もいたらしい(汗)
 まあ、いいんですけどね・・。

 幸いにも、私はそれほどあからさまな拒絶はされずに済んだ。
 学生たちの協力よろしく、習っていない単語はもとより、文法項目についても自分で調べ、考えて作文して来た学生も何人かいた。形容詞の格変化(!)も駆使している人がいたのである。
 講師室に持ち帰り、ふんふんと添削してると、

「せんせ〜、これ、何のプリントですかあ?」

と、中国系の先生たちも寄って来た。

「もし、あまってたら、もらって行ってもいいですう?」
「ええ、どーぞ(^_^)」
「わたし、この人、すきですう〜(^o^)」

 未使用プリントが手元に残ってももて余すだけなので、持って行ってもらう。
 しかしながら、ドイツ語に無縁な人が見て、面白いのだろうか?まさか、写真とか・・。

 学生のコメントを添削していると、どうしてもネイティヴ・スピーカーに聞いてみたいことが出て来る。(私だけだろうか?)
それで、

「え〜と、学生はこう書いているんですけど、こう書く方がいいですよね?」

 などと質問に行くと、ネイティヴ(女性)の先生、最初は、そうそう、これはこうしないと、とこちらの疑問に答えてくれたが、一段落すると、

「きゃ〜っ、Oliver Kahn!!!もう最高〜っ!!!」

 う〜ん、しびれるぅ〜っ、って感じだろうか(^_^;)
 この写真はどこから?これはHPなのか?これはあなたが作ったのか?などと質問攻めにあっているうち、あまってたら貰えないか、と言う。
 その時は、白黒コピーではなく、元の印刷原稿しか余裕がなかったので、ついつい八方美人な日本人としては、どーぞ、後でまた印刷しますから、などと言って、元原稿を手渡してしまった(/_;)

 この「カーンプリント人気」はもちろん、決勝戦に向けて高まって行ったのである。もちろん、ここに書いているのは一例で、私は何枚ものプリントを、非独語系の先生およびネイティヴさんに献上したのである。持ってけど○ぼー、とはこのことだろうか(汗)
 ドイツ語系の人たちは・・何やってんだこいつ、と思っていたのでしょうねえ(^_^;)
(もっとも、ドイツ人の人名について、と称して、Kahn, Bierhoff, Ziege,,, とつぶやいていたドイツ語教師もいたとの話であるが)

 ところで、授業中に添削したプリントを返却して、説明していると、

「せんせいっ!」

 いきなり学生が手を上げた。

「ぼく、先週休んだので、貰ってないです!」
「・・・ここに置くから持って行って、って言わなかったっけ?(^_^メ)」
「あはは、全然話聞いてないっすね」

 いつもは休んだ時のプリントなど、気にしてないのに、わざわざ取りに来てくれたのは全く遺憾、いや光栄である。
 カーンのおかげということなのだろうか・・。

 ここまでドイツ関連時事ネタで盛り上がれたのは、やはりドイツチームと門番殿のおかげであろう。その意味で多大な影響があったと思っている。
 これで当分、少なくとも2006年のW杯ドイツ大会までは、ドイツ語教育の灯火が消えずに済んだかな・・?(と期待・・)

(2002/07/07)

kisodoitugo-k
これが噂(?)の表紙がカーンの基礎ドイツ語(2002年4月号)
やはり中国系の先生たちにも人気でした(笑)


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