- 快晴にもかかわらず、やけに山が霞んで見えた。タクシーの運転手によれば黄砂との事だった。タクシーを下りてウグイスが盛んに鳴く林道を歩き出した。
- 林道終点には立て札が有り「長年放置されて来た残置ザイルの撤去をしました。よって登山ルートはザイルが必要です」と書かれていた。いやでも緊張が高まった。入山届の記載所が有ったので記載した。
- 新しい堰堤をいくつか越えると涸れた沢の登りになった。踏み跡は分かりにくく、テープやロープが有るとほっとした。水場で下山してきた登山者と会った。「今日、人に会うのは初めて」と言っていた。左側に立て札の有るところからは沢を離れて灌木の茂る小さな尾根の急登になった。ムシカリが咲いていた。
- 稜線に出たところが天狗峰の東の肩だった。狭い場所で反対側をのぞき込むと絶壁になっていた。右の天狗峰の方へ岩を一つ乗り越えて進んでみたところ、その先はハーケンが打ち付けてあるだけの岩の壁が有るだけだった。恐らく立て札に書かれていた放置ザイルを撤去した場所はここだろうと思った。登攀具が無いと登れそうになかった。
- 東の肩に戻り、東峰へと向かった。縦走路は木の根を掴むような急な上り下りが続いていた。稜線通しの道は崩れているところがあり、40mも下を巻かなければならなかった。
- 東峰に近づくと稜線は緩やかになった。足元には黄色いスミレが多くなった。東峰からは360度の展望が得られた。振り返ると天狗峰が怪異な姿を見せていた。
- 下りは高森側へ向かった。今までが変化に富んだ道だったので、下りは平凡な道に感じてしまった。尾根の右側は逆光の中に新緑がきれいだった。
- ふもとまで下りると牧場が有った。振り返ると根子岳がきれいに見えた。中原からバスに乗るつもりだったが、停留所の時刻表が色あせて不安を感じたので休暇村まで行ってバスの時刻を再確認してから乗った。この日、山中で会ったのは一人だけだった。