- 梅迫駅の下車は一人だけだった。於与岐(およぎ)まで車道を歩いている途中で弥仙山が見えた。
- 集落の最奥に近づくと、車道にも雪が残っていた。配達途中の郵便局員が、わざわざバイクを止め、「弥仙山に登るのか。ごっつい雪あるで」と私の姿を見ながら不安そうに言った。あわてて「大丈夫です」と答えた。集落終点で除雪は終わっていた。行く手の林道には足跡すらなかった。ワカンを付けていたら、民家の住人に「この雪の中を登るのか」と驚かれた。
- トレースの無い林道歩きは、なかなか標高がかせげずつらかった。ワカンをつけていても15cm位はもぐった。一汗かいた頃に水分神社に着いた。神社から少し林道を進んだ鳥居のところに登山口があった。
- 谷に沿って植林帯を登って行った。途中で間違えて上に登ってしまい、20mほど引き返した。雪面はころどころ丸くへこんでいて、上から雪のかたまりが落ちたらしかった。そこだけは雪がかたくもぐらないので選んで登った。於成神社手前は急坂だった。階段なのかも知れないと思ったが、すべては雪の下だった。於成神社の軒下でおにぎりを食べて休憩した。
- 於成神社から少し登ると登山道は全く分からなくなり、地図で方角を定めて適当に登った。雪のかたそうな所を選んで登ったが、30cmくらいもぐることが多かった。
- 目標地点の小鞍部に出た。植林帯は終わり明るい雑木林になった。右に曲がり斜面を登って行った。雪が柔らかで足を大きく持ち上げて踏み込んでも一歩で5cm位しか登れなかった。残り標高差70mで、すぐ上に山頂部の針葉樹が見えているのにちっとも進まなかった。真上に進むのは足がもぐりすぎて困難なので左に回り込みながら登っていった。振り返ると舞鶴の海が見えた。
- 最後の勾配のゆるい針葉樹林帯を抜けると山頂神社の裏に出た。正面に回ると半分近くまで埋まった赤い鳥居が有った。積雪は80cm位だった。息が上がる中、残りのおにぎりを食べポットのお湯を飲んで休んだ。
- 帰りは雪を蹴散らしながら軽快に下った。勾配が緩くなると、自分の足跡が残っているとは言え、進むのに苦労した。集落に着いたとたん、ワカンに足がもつれて転んでしまった。結局、山中では誰にも会わなかった。
- 集落を駅に向かって歩いていたら、「弥仙山に登ったのか」と2回声をかけられた。一人はわざわざ駆け寄ってきて、「明日、初日の出を見るための登山を計画しているが、雪が深いのでやめようと思っている」と話してくれた。何人もの人たちに声をかけられ、弥仙山は地元に愛されている山なのだと思った。