秋晴れのパレオエクスプレス

(一九九二年)

 首都圏から近いところで本格的な蒸機が走る秩父鉄道のパレオエクスプレスには、前から一度乗ってみようと思っていたのですが、今シーズン最後の運転日の一一月二三日に、やっと行ってきました。

 乗車整理券は一〇日ぐらい前にJR某駅のみどりの窓口で買いました。窓口氏は「えーと、あれは列車の名前はなんていいましたかね。久しぶりなんで…」といいいながら自分で「ああ、パレオエクスプレスでしたね」と答え、端末を操作したあと、また「えーとあれは… なにしろたまにしか扱わないもので」といいながら「あ、これこれ」とゴム印を取り出し、「この券は乗車整理券です。座席指定券ではありません。」という印を押してくれました。

 七月始めにこの券の件でこの会議室で情報が出ていたのを思い出してログを見てみたら、しかるべきところに座るにはかなり前に行った方がよいとのこと。しかしなにしろ一族郎党6人の団体ですから小回りはきかず、乗換えのない池袋発のかなり接続の良い電車に乗ることにしました。

 今日は起きたら快晴。ゆとりを持って出かけるはずが、6人の中には仕度がぐずぐずして遅くなる者も約1名いて、池袋発八時五六分の高崎線にぎりぎりでかけこみました。途中、上野発九時〇分の「あさま」と抜きつ抜かれつをやった末、大宮で道を譲り、熊谷には一〇時〇六分着。

 秩父鉄道のホームに着くと、前から待っていた人がかなりの列を作っていました。一〇時一七分ぐらいにC58に客車を4両と補助の電機をつないだ列車が入線し、わが家は進行方向右側にボックスひとつプラス1人分をかろうじて確保しました。発車時にはちょうど席が埋まるくらいの乗車率でした。幼児がある程度席を使ってのことですから、熊谷発の整理券自体は座席より少なめだったのでしょう。

 一〇時二三分発。子どもたちは蒸機の汽笛の音や煙のにおいはもちろん、客車に乗るのも初体験です。私自身も、蒸機は遊園地の以外では二十何年ぶりでした。客車は、座席は狭いが、天井は高くて、気分としてはずいぶんゆったりした感じがします。車内販売でいろいろな「グッズ」を売りにきました。テレフォンカードや金めっきのしおりがかなり売れていました。

 日ざしは暖かいけれど、窓を開けていると風はやはりだいぶ冷たく感じます。列車は雲ひとつない関東平野を快走し、やがてしだいに山の中へ。寄居、長瀞、秩父などで乗客の出入りがかなりありました。長瀞の眺めは進行左側の方がよかったようです。途中、要所要所でカメラの放列があり、汽笛が鳴らされました。今シーズン最後だからか、見慣れていると思われる地元の人も車上の子どもたちに向かって手を振ってくれます。

 お花畑から、西武への連絡線を見て、さらに山の中へ進みます。高い鉄橋を渡るところでは車内から歓声がわきました。蒸機と蒸機の吐く煙の影が河原に映りました。終点三峰口には一二時二八分着。

 三峰口駅には「車両公園」があって、秩父鉄道の電車、貨車、凸型の電気機関車などが展示してありました(無料)。 そのそばに蒸機の転車台があって、一二時五五分ごろ、これでターンするのを見ることができました。

 今年最後の熊谷行きのパレオエクスプレスは、一三時四〇分、名残り惜しそうに何度も汽笛を鳴らして発車していきました。