2001年度 2年 大石プロゼミナール論文

『情報化と社会に関する一考察
―インターネットの難問―』

拓殖大学政経学部 経済学科 2年

 04647番 吉田 英俊

   【目次】
   

   はじめに
   

   第1章 情報化社会
       第1節 情報化による企業組織の変化
     第1項 個人主義と情報化
     第2項 情報革命
     第3項 自己啓発の必要性
       第2節 インターネットの普及
     第1項 IT(Information Technology)化の利便性 
     第2項 インターネットの始まり

   第2章 海外の情報通信について
       第1節 韓国
       第2節 台湾
       第3節 東南アジア
     第1項 マレーシア
     第2項 シンガポール
     第3項 二極分化による格差
       第4節 カナダ
       第5節 フィンランド

   第3章 情報利用
       第1節 海外に対する日本の情報基盤整備
     第1項 情報スーパーハイウェー
     第2項 高度情報化の始まり
       第2節 IT化によるインターネットの利用
     第1項 商用利用による成功例
     第2項 ネットワークでの情報提供の無料化
     第3項 ITに踊る日本のマスコミ
     第4項 インターネットにおける言語
     
   第4章 情報化社会のアキレス腱 ―高度情報化社会に向けての課題―
       第1節 情報通信システムの脆弱性と社会・経済的影響
     第1項 IT化の困難性
     第2項 情報システムの途絶により発生する社会の混乱
     第3項 情報化と雇用 ―失業への不安―
     第4項 法的な障害
       第2節 心身への悪影響、プライバシーの侵害、情報格差
おわりに
【参考文献】


はじめに

   「情報化とはなにか」という問いに私は興味を持ち、このテーマを調べようと
決めた。
   情報化とは、社会的において情報が物質やエネルギーと同等以上の資源と
みなされ、その価値を中心にして機能・発展することを指している。この「情報
化」により大量の情報をより安く流通させる技術手段であり、異地点間の商品取
引コスト(情報コスト+運送費)を削減し、その結果モノの移動範囲を広める効果
を持ち、これは原理的に人間社会にとって貨幣的取引関係の持つ意味を増大
させる。
   以上の例は一例であるが、情報化の問題点について提起していきたい。

   第1章 情報化社会

       第1節 情報化による企業組織の変化

     第1項 個人主義と情報化

   企業とは一定数の人間の「協働体」と考えることができる。後述の「共同体」と
して市場的取引でお互いの労働サービスを交換せず、ある特定の「組織」の中
で非市場的結びつきをしている。ここに「取引コスト」が関係している。情報化に
よってさらにコストが下げられこれらの関係はさらに発展している。
   日本の企業社会はあまりに集団主義的で 大人たちが「会社人間」となって
会社のことしか頭にないのに比べ、若者たちにとって社会は生活の一部であっ
て、遊びや旅行や自己啓発といった個人生活の分野でやりたいことがたくさんあ
り、「新人類」と呼ばれている。こういった変化は極めて積極的である。
   古来より日本は伝統的な農業社会を持つ「共同体」としての性格を持ってお
り、これは個人主義の発展を抑圧してきた。共同体とは、貨幣を媒介としない財
やサービスの授受を基礎としていて、農村共同体においては入会地の手入れ
や消防、結婚紹介、葬儀執行などの共同事務は共同体成員の無償労働によっ
てなされていた。これらすべて、お互いがお互いに与えあう関係によって成り立
っていた。すなわち共同体という「集団」を優先するという価値観を長い年月をか
けてこの社会に定着させたのである。
   古い共同体的な人間関係の解体という意味でのみ「情報化」を位置づけて
いるが、この新しい関係はさらに各人の個性を発揮するという意味でも特に価値
づけられる必要がある。社会主義のように着るべきものを与えられ、住むべき家
を与えられ・・・というように自ら捜し求める行動をとらなければ、個性が発揮され
ることはない。先に挙げた「共同体」的考えでは発展は望めない。市場も同じこと
が言える。こうした自己の個性は探し出し、発見して初めて確立される。そして、
この新しい市場的人間関係とは「個性」の基礎であり前提条件である。

     第2項 情報革命

   情報化によって集中的・集権的組織を古いものとし、企業構成員の情報格
差の縮小を促進している。個性の開花にとって不可欠な企業組織の小規模化
にとって「情報化」は決定的な役割を果たしつつあるのである。また、今までの繁
栄の技術的条件は他社より先に、大規模に拡大しておけば後の競争が非常に
有利になっていたが、現在では、この「規模のメリット」が情報化により揺らぎ始め
ている。例えば、造船や鉄鋼などの従来型産業の主要生産設備(作業ロボット 
etc…)はそれぞれの製品の製造にしか役に立たず、生産物が変わると使えなく
なってしまっていたが、情報通信産業の主要生産手段であるところのコンピュー
ターは、そのソフトウェアを転換するだけでほかの産業で利用が可能となる。し
かも、このコンピューターを保有している企業は他産業に参入できる能力を潜在
的に持っていることになり、また、逆に同能力のコンピューター郡を持つ他業種
企業の参入に常に脅かされることになる。つまり、情報化は規模の小さいベンチ
ャー企業にも大きなビジネスチャンスを与えている。また、上記の「規模のメリッ
ト」に代わり、情報通信手段の条件を満たしていれば極端な話、大型コンピュー
ターのリースなどを利用し、商品イメージが頭に浮かんだら、商品開発業に新商
品の具体化を委託し、加工はメーカーに発注し、広告宣伝費は広告代理店に
頼み、卸売業に販売を委託する。人が必要ならば、人材派遣業から人材を派遣
してもらい、貸事務所を借り、必要な道具はレンタルを利用する・・・といったよう
に、一人でも一定規模の事業をすることができる状態を連想できる社会がやって
きている。「情報化」はこの意味でも大企業体制を脅かし、個性発揮の可能性を
与えているのである。

     第3項 自己啓発の必要性
   

   はじめに「個人主義」について強調して書いているが、先進国で個人主義が
一般的で、後進国で集団主義が一般的であることは資本主義と社会主義の差
のように思えた。わが国は伝統的な農民社会(共同体)の殻を破り、古い共同体
的な人間関係の解体が情報化によって合理的な社会発展が遂げられ現在に至
っている。ますます多様化する社会で、われわれは情報を得て、自分流を探し
出すことによって自己啓発を行う必要性を感じた。
   資料を探しているとき、高木産業株式会社というユニークな会社を見つけた。
この企業は、本来はガス給湯器などの住宅関連設備機器メーカーとして知られ
ているが、近年、パソコンの製造・販売も手がけるようになった。もともと持ってい
た電子制御技術をパソコンに転用しパソコン開発のノウハウとして活かしている。
先に述べたコンピューターの転用により他の市場にも参入できる可能性を開花
させた例である。こういった潜在能力を持つ企業は他にもたくさんあるはずだ。こ
のように、情報化の可能性は多様性に富んでいることがわかった。

       第2節 インターネットの普及

     第1項 IT(Information Technology)化の利便性
       

   人類の有史以来、人は何かを発明することによって暮らしを豊かにしてきた。
その中で、現代で発明されたコンピューターは今までの進歩の速さの数十倍で
次々に富をもたらした。膨大な多さのデータベースを紙に書いて保管するよりも、
コンピューターにデータとして記録すればコストも減り場所もとらずに済む。様々
な設備をコンピューターに管理させ、人を雇用するよりも安いコストで運営するこ
とで合理性を図ってきた。さらに、インターネットの発展により自宅にいながら買
い物や情報を得ることができるようになった。

     第2項 インターネットの始まり

   インターネットの始まりは、冷戦時にアメリカ国防総省が来るべき(?)ソ連との
核戦争に備え、非常時にも断絶しない高速通信システムを作ることだった。1969
年に開発し、冷戦も終結したので軍事通信システムとして囲い込まず、産業界
や大学の研究機関にこのシステムを開放し、熟成され1980年代にインターネッ
トとして広く一般に利用されるようになった。しかし、核戦争に備えてつくられた
通信ネットワークを用いて、書籍を買ったり、株を売買したりすることができるよう
になったというのは、考えてみれば不思議なことである。「何を手に入れたのかわ
からない」という点も似ている。
   実際、われわれは、現在に至るまで、まだインターネットの使い方を確立して
いないのである。

   第2章 海外の情報通信について

 わが国の情報通信基盤について提起する前に、わが国と比較できるように、海
外の状況を幾つか挙げておくことにする。

       第1節 韓国

   高度情報社会に対応するために韓国政府は、Korean Information 
Infrastructure (KII)計画を1995年に発表した。高速TV会議、動画通信、遠隔
教育、遠隔医療を実施する計画で、最終的に、高速情報通信サービスを一般
家庭に提供、映像情報サービスや各種情報提供サービスなど、市民生活に対
応した、高度情報通信サービスの提供を画策している。これらの計画は、2015
年を目途に完成を予定している。
   近年、インフラ整備が進み、インターネットゲームの人口が軒並み増加する
傾向にある。ゲームの分野だけではなく、例えば、インターネットによる証券取引
人口は、約500万人いる。現在日本では約200万人。韓国も99年4月の時点
では、証券取引の16%を占めるにしかすぎなかったインターネット取引というもの
が、現在は80%を超えている。日本は15%程度と推測される。ほとんどがADSLに
よる中速の接続になっている。主なサービス体系としては、1Mbpsで月額約2千
円を切る程度、ハイクラスだと10Mbpsで2万9千ウォン、月額3千円を切る程
度のようで、日本を追い越したとも考えられる。

       第2節 台湾

   台湾においては米国でのNII(注1)構想と同時にAPROC(アジア太平洋地
域オペレーションズセンター)構想を推進しており、このAPROC構想とは、アジ
ア太平洋地域における台湾の役割の重要性を強く認識したもので、立地条件、
すなわち大陸や東南アジア諸国または日本との物流の拠点としての役割や文
化的交流の媒介としての役割を発展的に見直し、総合的なアジア太平洋地域
におけるオペレーションセンターとして成長を成し遂げようとする構想である。
 さらに、技術的側面においては、高度情報通信基盤に対応できるよう見直しが
進められ、光ファイバーネットワークが重要視されており、台湾全土の光ファイバ
ーの敷設を計画している。

       第3節 東南アジア
   1997年から起こった東南アジア諸国の通貨価値下落の影響により、東南ア
ジアの経済活動の停滞化が叫ばれたが、同地域は、世界でも有数の人口密集
地域でもあり、また多くの経済未開発地域を有しているということを考慮すると、
アジア太平洋地域は今後も世界経済での重要な場所である。
     
     第1項 マレーシア

 インターネットを中心とした、マルチメディア化へ向けた動きを活発化している。
それを最も具体化している国の一つにマレーシアが挙げられる。2000年前半ま
でに、経済先進国への移行を目指し、国家的目標を具体化する手段としてイン
ターネットを情報化の重要基盤として位置付け、大型プロジェクトであるMSC(マ
ルチメディア・スーパー・コリドー)計画を推進している。
 同国に実験エリアを設定し、技術力、経済力のある外国企業や技術者を税制
面、法制面で優遇し、積極的に誘致活動を行い、欧米の情報通信事業者やわ
が国からもNTTなど、多くの関連企業が進出している。

     第2項 シンガポール

 小規模国家という特徴もあり、シンガポールではインターネットが急速に普及し
ており、政府も21世紀に向けてのアジア太平洋地域における金融・物流の媒介
としての地位を位置付けるために、情報基盤整備に着いては重要な国策と位置
付けている。例えば、教育環境についてはすべての学校機関についてインター
ネットの導入を積極的に推進し、将来の高度情報化に対応できる人材教育にも
取り組んでいる。

     第3項 二極分化による格差

 ここで考察した、マレーシア、シンガポールも含め、開発途上国における情報
基盤整備についてもいえるが、現在、これらの国々における情報基盤整備は二
極分化しているという特徴がある。
 マレーシアのような高度なインフラの壮大な実験を行っている途上国もあれば、
一般加入電話のような基本インフラが十分に整備されていないアジア地域もあり、
マレーシア国内においても、MSC実験区域のような都心部は計画が進行してい
るが、反面、地方に目を向けると基本インフラが未整備であるという現状など、イ
ンフラ格差が大きい部分がある。

  第4節 カナダ

 日本の約27倍の国土を有するカナダは、エリアをカバーする上で電気通信の
効用は大きく、電話普及率についても世界第3位であり、世界初の国内通信衛
星の打ち上げを行うなど、世界有数の情報先進国である。
 また、月々3000円程度でADSL等の高速回線が使えるインターネット環境が
整っており、日本の都市部に近いインフラ状況であるといえる。

  第5節 フィンランド

 北欧は世界レベルで見ても情報先進国であるが、米国を中心としたビジネス
の影になりがちである。しかし、ここで取り上げるフィンランドの場合、これまでの
第一次産業を中心とした産業から情報技術を用いたハイテク産業へと産業構造
の転換に成功した国である。
 フィンランドでは国営企業であるテレコムフィンランドが北欧で初めての商業ベ
ースによるパイロット・メディア・ネットワーク事業を1995年に開始している。この
ネットワークはTV等のマルチメディア事業をインターネット経由にして企業・家
庭などすべての人々に開放し、事業を行っている。
   現在ではインターネットにより、洗練された画像や音声、動画などがそれぞ
れのハードディスクで受容できるようになっている。その上、リアルタイムでの画
像、音声、映画、ニュース、音楽などの取り込みも可能となっている。
 このネットワークはテレコムフィンランドのネットワークの上に構築されており、主
要インフラとして光ファイバーネットワークを基軸としている。これにより、通信品
質の高度化が保証されているため、ユーザーがネットワークにアクセスしたときの
品質は、リアルタイムでのVHS画像と同等レベルである。
 世界の通信市場においては、画像や音声を単なる通信として捉えず、既存の
放送事業分野との相互乗り入れが世界規模で展開していく可能性がある。その
先駆者として、フィンランドの試みが新たな情報通信基盤構築のためのヒントに
なるかもしれない。

注1:【NII(全米情報基盤)】
   構想に必要な様々な政策をとりまとめたアメリカ政府のアジェンタ(行動予定
表)のこと。現在の大学や研究所を結んでいる通信ネットワーク、インターネットを
規範に、誰もがどこからでも必要な情報を入手できる情報基盤の作成が目標と
なっている。

   第3章 情報利用
   

       第1節 海外に対する日本の情報基盤整備

     第1項 情報スーパーハイウェー

   1991年、当時下院議員であった元アメリカ副大統領アル・ゴア氏は「サイエ
ンティフィック・アメリカン」という科学雑誌にある記事を載せた。「アメリカ経済の
再生を情報インフラの整備によって実現する」と訴え、コンピューターとネットワー
クによる社会情報基盤の整備、さらにそれを実現するための政治のあり方、社会
変革を謳いあげたこの論文は数ヵ月後「日経サイエンス」に翻訳転載されたが、
一議員の描いた壮大な夢にあまり大きな関心を払う日本人はいなかったという。
   しかし、この壮大な夢はその1年後急に現実のものとしての色彩を強めること
になる。ビル・クリントン氏の下で副大統領に就任したゴア氏は、「情報スーパー
ハイウェー構想」と呼ばれる2015年までに全米中のすべての家庭に光ファイバ
ーによる高速通信網を敷設しようというこの計画は、この時点でようやく日本の財
政会に大きな衝撃を与えた。
   アメリカは「情報スーパーハイウェー構想」を中核とした「全米情報通信イン
フラ構想=NII構想」によって、情報を武器に、経済活動において一挙に日本に
追いつき追い越すことを明言したわけである。
   これは明らかに日本を意識していると考えられる。ゴア氏の「スーパーハイウ
ェー構想」は1990年に日本のNTTが世界に先駆けて発表した、2015年までに
日本中をISDN網(複合デジタル通信網)によってつなぐ、という「VI&P(Visual, 
Intelligent and Personal Communications Service)構想」に触発されたものだった。
電気製品、車、半導体、そして通信まで日本に握られてはたまらないと考えた、
アル・ゴア氏が産んだ産物がこの「情報スーパーハイウェー構想」である。

     第2項 高度情報化の始まり

   皮肉なことに、「VI&P構想」発表に前後して日本はバブルの崩壊と言う経済
混乱に陥り、数千億円に及ぶ情報インフラ構築計画は一頓挫をきたした。明日
への投資よりも今日の利益を日本は選んだことになる。一方、アメリカはクリントン
‐ゴアの構想を受け入れ、積極的な情報インフラ整備に官民挙げて動き出した。
市内サービスの一部自由化、行政の情報化投資、通信周波数帯の自由競争化
政策によって政府が規制緩和を積極的に展開すれば、民間企業も企業合併や
海外展開、「情報スーパーハイウェー構想」への資金参加などを行って政府の
政策を後押しすると言う体制ができあがりつつある。
   彼らは情報インフラを構築する上で強力な武器、「インターネット」を持って
いた。幸運なことに、クリントン‐ゴア構想が発表される以前に網の目のようにアメ
リカ中に張り巡らされていた。
   ゴア氏はこのインターネットを「情報スーパーハイウェー構想」の中核に据え
ることを明言している。同時に、日本中から「インターネットとは何だ?インターネ
ットはどれだけすごいんだ?」という声が聞こえてくるようになった。当時のコンピ
ューター雑誌では、インターネットについての接続や、どのようなサービスがある
のかといった技術論に終わっていた。
   アメリカの大統領と日本の首相とではインターネットを包む政治的状況が違
い、ある程度基盤のできあがったアメリカと、ほとんどゼロからの出発を余儀なく
される日本とでは、スタートラインも違う。
   そこで「日本版スーパーハイウェー」ともいえる「情報通信基盤整備プログラ
ム」が1994年に発表された。2010年までに日本中のすべての家庭に光ファイバ
ーによる通信網を敷く、というものである。光ファイバーというのは直径0.1ミリ程
の細かいグラスファイバーの一種で、通常の公衆回線に使用されている銅線ケ
ーブルと比べ、中を通るデータの損失が少なく、一度に大量のデータを送れる
(銅線ケーブルの1000倍で2万5000回線分に相当する)という特質を持ってい
る。しかし、この構想が「情報スーパーハイウェー」のコピーだとしても、より便利
な通信網が使えるようになることには何の問題もないが、通信網を光ファイバー
化し、日本をこう変える、という明確なビジョンを持った上で練られた計画かどう
かが重要である。ただ単にアメリカの「情報スーパーハイウェー」を意識した対抗
上の計画であってはならない。

       第2節 IT化によるインターネットの利用

     第1項 商用利用による成功例
       

   インターネット技術は情報の収集、検索、伝達などに要する時間を短縮する。
そして、インターネット技術そのものも、進歩が急速だ。また、パソコン関連の部
品も非常に目覚しい速さで進歩し、コストが低下する。このような目覚しい変化は、
経済的な仕組みにも影響を与える。
   パソコンの生産におけるBTO(Built to Order)方式は、その典型である。これ
は、インターネットを通じて寄せられる顧客からの注文に応じて、生産を開始す
る方式である。従来のような見込み生産方式だと、新しい技術が登場した時、古
い技術を用いた製品は、値崩れしてしまう。(販売店でワンシーズン古いパソコン
を『型落ち、処分品』と呼び、原価に近い安値で売っているが、ほとんど利益が
ないため、型落ちは販売のデメリットとなっている)。
   BTOでは、そのような危険を回避できる。したがって技術変化が激しい産業
に適合した生産システムであると評価されている(在庫がないこともメリットである。
この生産方式を始めたデル・コンピュータというパソコンメーカーは、短期間で、
1999年の秋にコンパックを抜いて第一位になった)。

     第2項 ネットワークでの情報提供の無料化
     
   インターネットの普及により、ビジネスが発展する反面、情報提供の無料化
が広まり、この側面で知的財産の価値が低下している。このことを象徴的に示し
たのは、ブリタニカ百科事典が、全23巻のすべての内容(印刷物では約13万
円)をインターネットで無料提供すると発表したことである(1999年10月18日)。
1993年にマイクロソフトがCD-ROM百科事典「エンカルタ」を発売して以来、ブ
リタニカの売り上げは急速に落ち込んだ。内容からいえば、ブリタニカの方が優
れていたにもかかわらず、こうした事態が生じたのである。追い詰められたブリタ
ニカは、CD-ROMへの転換を図ったが内容が多かった為、失敗した。次に行っ
たのがインターネット上に百科事典を掲載し、有料の会員制で運営しようとした。
だが、これも成功しなかった。無料開放に踏み切ったのは、会員数を増やせな
かったことであると考えられる。この背後には、「インターネットで提供される情報
は無料」という観念が一般化していることがある。
   このように、インターネットを通じる情報の提供に関して、有料制を維持する
のは、非常に難しいことがわかる。
   もちろん、利用者の立場からすれば、無料で利用できるのは、たいへんあり
がたい。しかし、長期的な観点からすれば、知的財産が無料で開放されるのが
必ずしも良いわけではない。質の高い情報や知識の供給にはそれだけのコスト
がかかるのだから、料金徴収ができないと、長期的には供給ができなくなってし
まうからだ。
   産業技術に対して「特許」が認められているのは、知識の生産に対してイン
センティブを与えるためである。ネットワーク上の情報提供について、合理的な
課金システムが確立されなければ、情報産業の未来には困難が発生すると思わ
れる。

     第3項 ITに踊る日本のマスコミ

   ITの評価に対するポイントのひとつとして、「日本ではどうか?」という問題で
ある。つまり、米国の場合と同じ評価を、日本のIT関連株に適用して良いかどう
か、である。
   日本のIT関連株をめぐる状況は、近年の間に、急速に変化した。株式公開
制度が整備されたことなどを背景に、IT関連企業の株価が大幅に上昇している。
とくに、新規に株を公開したベンチャー企業の株価が、非常に高く評価される場
合が生じている。
   こうした自体の進展を背景に、これまではインターネットやパソコンにあまり
関心を持たなかった経済評論家が「IT革命来る!」と叫びはじめ、多くの経済雑
誌が、様変わりしたように「IT特集」の記事を掲載し始めた。
   しかし、これは、米国におけるような実態面の変化を反映したものであろうか。
これについては、すこし信頼性に欠ける。日本におけるITの利用度は、米国と
比べれば、まだ問題にならないほど立ち遅れているといわれる。それは、インタ
ーネットに対する政府の情報公開の度合いや、マスコミ各社のウェブサイトの充
実度を米国の場合と比較すれば、一目瞭然だ。米国の情報がインターネットを
通じて簡単に入手できるにもかかわらず、日本の情報が入手しにくいのである。
   しかし、IT革命の進展を阻んでいる要因は、パソコンの配備率やインターネ
ットの利用者数、あるいは回線の利用料金といった技術的問題ではなく、より深
い社会的・制度的要因であると考えられるのである。
   例えば、再販制という規制がオンライン書籍購入の障害になっており、また、
税制がバーチャル経済活動の障害要因になっている。こうした要因の克服は、
不可能ではないとしても、決して容易な課題ではない。

     第4項 インターネットにおける言語

   インターネットを用いる環境では、さまざまな面で「一人勝ち」現象が起こる。
書店がその好例である。いままで多数の書店が並存してきたのは生活圏の近く
にある書店で買うのが便利だからだ。しかし、オンライン(インターネット上)で書
籍を買うようになれば、地域制限はなくなる。したがって、もっとも便利なサイト(イ
ンターネット上の店)が一つ(あるいは、競争条件を維持するために、いくつか)あ
れば良いといえることになる。
   同じような現象が、言語でも起こりうる。これまで世界にさまざまな言語が存
在したのは、地域的な理由による。われわれは、隣の人が日本語を使うので日
本語を使ってきたのであって、もし、通信回線で全世界が結ばれ簡単に通信で
きるようになれば、だれもが隣の人になる。そうなれば、同じ言語を用いることが
便利なことは明白である。
   そこで、インターネットの世界で採択される言語は何であるか。それが英語
になるのは逃れられないであろう。
   以前、ドイツ人の人と「チャット」という、パソコン上で、文字での会話をした時、
使用した言語は、英語だった。こちらはドイツ語を知らないし、相手も日本語は
わからない。あまり上手ではないが、共通の言語、英語が意識せずに使われて
いたのである。世界共通の言語はインターネットでも英語なのだ。

第4章 情報化社会のアキレス腱 −高度情報化社会に向けての課題―
   

       第1節 情報通信システムの脆弱性と社会・経済的影響

     第1項 IT化の困難性
     
   便利な反面、発展のスピードが速すぎて追いつけない部分も生じている。イ
ンターネットにおけるインフラやセキュリティ問題(個人の情報漏洩など)やインタ
ーネットで買い物をする際の詐欺の危険性、発展スピードの速さによるコンピュ
ーターの早期陳腐化、などが挙げられる。また、無限の可能性を秘めているが、
ひとつ間違えると犯罪になってしまいかねないという危険性も秘めている。
   本章では、情報化の難点について提起していきたい。

     第2項 情報システムの途絶により発生する社会の混乱

   情報化が進展するということは、社会全体がインフラストラクチャーとしての
情報通信システムに依存する度合いが大きい社会ほど、一旦、情報通信システ
ムが、事故や災害、あるいはテロなどにより機能マヒに陥った場合、社会全体が
深刻な影響を受けることになる。
     
     第3項 情報化と雇用 ―失業への不安―

 OA(Office Automation)化やFA(Factory Automation)化による、コンピュータ
ーによる仕事の代替が行われ、雇用の減少に影響してしまう恐れがある。
 
     第4項 法的な障害

   「情報通信基盤プログラム」の中には光ファイバー網が敷かれれば、これだ
けの効果を生むはずだ、という展望だけはされている。しかし、現実を見る限り、
それは「光ファイバーさえ敷いてしまえば、高度情報社会化は達成できる」という
楽観論、理想論でしか考えられていないように思える。
   具体的な問題点として「情報通信基盤整備プログラム」では高度情報化社
会の到来によって各分野において次のような効果が現れることが期待されるとし
ている。
   ・行政分野−行政手続のオンライン化、オンライン映像による本人確認
   ・司法分野−民事訴訟手続きのオンライン化
   ・医療分野−遠隔医療の実現、治療支援情報の遠隔地からの提供、オンラ
インデータによる処方箋の交付
   ・教育分野−遠隔教育の実現
   ・商取引分野−ホームショッピング、ホームバンキングの普及、電子取引の
普及、商取引における本人確認
   ・企業内利用−在宅勤務の普及、テレビ会議の活用、企業内文書等の情報
通信システムへの統合化による企業活動の効率化
   以上に挙げたことが本当に実現されるなら、私達の暮らしはより便利になると
思う。
   ビジネスマンにとって在宅勤務が普及すれば毎日のラッシュアワーから開放
され、住み難い地域にしがみついている理由もなくなる。教育環境も変わるはず
である。在宅学習が発達すれば、高齢者が利用する機会が増え、余暇を持て余
すことはなくなるだろう。実際、アメリカのシカゴ大学ではインターネットを通じて
講義を全米中に流し、受講者が一定の単位を取得すれば一般の学生と同じよう
に卒業証書を発行している。
こうしたことは確かに可能であるが、前提として社会にそれを受け入れる準備が
できていなければならない。
   例として、現在、パソコンを使ってオンラインで買い物ができ、洋服や電化製
品、家具などを購入する場合は問題ない。しかし、売買する場合に法律の制限
が課せられているものもある。米や薬品などである。これらの品物は販売区域が
制限されていたり(米)、あるいは店舗での販売を義務付けられていたりする(薬
品)。
   また、実際に「情報通信基盤整備プログラム」の効果を社会にもたらすため
には、どの法律を見直していかなければならないのか、分野別に具体的に挙げ
てみる。
   ・行政分野−自治省行政局振興課長通知
   ・司法分野−民事訴訟法
   ・医療分野−医師法、健康保険法
   ・教育分野−学校教育法
   ・商取引分野−民法、商法、会計法、予算決算・会計令、食糧管理法、宅
地建物取引事業法、薬事法、訪問販売等に関する法律、割賦販売法、証券取
引法、旅券取引法、旅行業法、大蔵省金融機械化関連通達
   ・企業内利用−商法、労働基準法
(遠田 Y彦『インターネットの落とし穴』テクノ、1995年、48頁より)

   以上に挙げただけでも、20近くの法律、法令、通達等の改正しなければな
らないことがわかる。
 これ以外にも、近年、音や映像の伝送も簡単に行えるようになってきている。
「マルチメディア」で騒がれているように、映画やゲーム、音楽のオンラインによる
配信が行われている。すでにセガや任天堂といったゲームメーカーがオンライン
でのゲームの配給を始めており、映像の分野でも、映画の配信は現実のものに
なっている。これらの映像やゲーム、音楽などをめぐる2次利用についても見直
さなくてはならない。
 映画を例にとると、映画館で上映された後、ビデオとなり、テレビ局に映像健を
売るところまでが2次利用範囲だった。しかし、これがオンライン配信になると著
作権の問題は複雑になり、当然現状の著作権法を改正しなければならなくなる。
また、パソコン等を介してデータの形で作品を提供すればコピーが容易になる
ため、悪質な海賊版の販売等にも対処して適宜法律を変えていく等の考慮が必
要である。

       第2節 心身への悪影響、プライバシーの侵害、情報格差
       

   OA機器導入に伴う、悪影響については、1980年代当初はVDT(Visual 
Display Terminal)障害に関するものが中心であった。長時間ディスプレイを見る
ことにより、目の疲れや肩こりなどの心身への悪影響(テクノストレス)が起きてしま
う。
   また、情報化が速く進むことによる一定レベルの技術=情報リテラシーを身
に付けていないと、必要な情報が得られず、情報貧困の状態に陥ることになる。
情報化が遅れた地域に住んでいることでのハンディキャップが生じる可能性が
あり、これと同様に、技術革新のスピードが速ければ速いほど、職場間、年齢間
格差が拡大する傾向が顕著になり、乗り遅れた人は労働の現場から排除される
ことになり、社会から排除される恐れのある「下層民」が急激に増加することが危
惧されている。
   情報通信技術やシステムの悪用の問題については、コンピュータ・ウイルス、
ハッカー、コピー機器の高度化による著作権侵害や愉快犯の発生、など管理す
る者がいないインターネット世界では犯罪の要素が生まれやすい。これらを抑制
する機関も存在はするが、インターネットの匿名性が強いという特性上、抑制、
摘発するのはきわめて難しいとされる。一人一人の対処の仕方が問題となる。

   おわりに

   「情報通信基盤整備プログラム」が実現すれば私達の生活に大きな変化を
もたらし、より良い暮らしにつながるかもしれない。もうすぐ光ファイバーの敷設は
達成できるであろう。しかし、インフラストラクチャーのような社会資本以外に法律、
法令、通達などの問題をもっと突っ込んで考え、解消できるのかどうかが課題で
ある。これには、利用者の問題意識を高め、問題点の自覚が必要である。本質
的な成長を期待したい。
   アジア諸国でも日本だけが急速に成長しているわけではなく、「IT革命」や
「ブロードバンド」のフレーズが語られる今日の日本での高度情報化はまだ始ま
ったばかりだと感じた。

   また、今回、執筆するにあたって、大学で八王子市民を招いてのIT(パソコ
ン)講習会のアシスタントとして参加した経験が活かされたと思う。集まった講習
生は40歳後半から60代の方々で、1クラス約40名程度で、工学部の大学院生
を講師として講習を行った。
   私を含め、アシスタントは他に2人いたのだが、パソコンに触れたことがない
方がほとんどだったので、質問が絶えず、忙しかった。そこで思ったのが、高齢
者から見たパソコンの操作の難しさだ。講習会で使用したパソコンはWindowsで
あったが「文字が小さい」という意見が多く寄せられたので急遽表示される文字
を大きくするように設定した。
   次に、理解しづらいのが、画面上のボタンやメッセージで、これらは若い人
ならば読み飛ばしてそのつぎの作業を行うことができるが、高齢者の場合、よく
わからなくなったとたん、作業をやめてしまい、どうすれば良いかわからず、怖く
てパソコンの電源を切ってしまうのが多く見受けられた。昔、職場では「パソコン
がわかる人」であった人が、パソコンが数年で陳腐化してし、すぐに新しいものが
出てしまい、「現在のパソコンには、ついていけない」とパソコンから離れてしまっ
た人もいる。インターネットを利用する前に、パソコンを使えないとついていけな
いという情報格差がここで見受けられた。
   これら以外にも、問題点は多くあり、ひとつでも多く解決しなければ、真のIT
革命は達成できたとは言えないと思う。
   

   これまでに、情報化からインターネットへと展開させてその可能性や欠点を
調べ、できる限り執筆したつもりだが、これで終わりにせず今後も研究を続けた
い。

   最後に、この論文を執筆するにあたって、支えてくれたゼミナールの同期の
仲間をはじめ、先輩方には大変世話になっていることを記しておきたい。
   また、筆者の学習・研究に対し、きっかけを与えていただき、惜しみなく助言、
勉学に励むことができる環境を与えてくださり、1年間ご指導していただいた大
石高久教授に感謝の意を表したい。

【参考文献】
   1.遠田 Y彦『インターネットの落とし穴』テクノ、1995年。
   2.小尾 敏夫『NTT 最後の選択』講談社、1996年。
   3.佐賀 健二『実践情報通信政策論-アジア太平洋における情報通信イン
フラの構築-』亜細亜大学国際関係研究所、2000年。
   4.総務庁行政監察局『NTTの現状と課題』大蔵省印刷局、1990年。
   5.永松 利文『情報通信政策の国際比較-高度情報社会と電気通信-』学術
図書出版、2000年。
   6.野口 悠紀夫『IT時代の社会のスピード』ダイアモンド社、2000年。
   7.山郡 哲、伊藤 元喜『間違いだらけのマルチメディア』日刊書房、1994
年。
   8.吉井 博明『情報化と現代社会』北樹出版、1996年。
   9.各種インターネット記事
  ・NHK Webサイト
  ・NTT Webサイト
  ・総務省 Webサイト
  ・日本経済新聞 Webサイト
  ・日経デジタルコア Webサイト