ODAに関する一考察
――ODAの現状と課題――

  政経学部経済学科 3年
  54087番 大宮 崇広

【目次】
はじめに
第1章 主要国のODAの特徴
第1節 アメリカ
第2節 フランス
第3節 イギリス
第4節 ドイツ
第2章 日本のODAの現状
第1節 ODAの特徴
第2節 ODAの現状
第3章 主要な課題と今後に向けて
第1節 アフリカへの国際支援
第2節 開発と環境問題
第3節 評価体制の再整備
おわりに


はじめに
 日本は現在世界最大の政府開発援助(ODA)の供与国である。ODA実績は1991年に世界第1位となって以来(図1)、1996年に至るまでその座を確保してきているが、実際のところ予算額は97年度で事実上の頭打ちとなり、98年度については97年度比マイナス10%の削減が閣議決定され、援助を更に効率的、効果的に実施するすることの必要性が今以上に望まれることとなり、ここに日本のODAは本格的に転換期を迎えようとしている。(図2)
 こうしたなかで、将来日本のODAがどう変貌を遂げていくかを考えていくに際し、まず、主要国のODAの特徴を捕らえながら比較し、現状と課題についても論じていきたいと思う。(表1)


第1章 主要国のODAの特徴

 第1節 アメリカ
 アメリカは第2次世界大戦後の西側自由主義諸国の経済復興に大きな援助を行い、その経験をいかして、途上国への援助にもリーダーシップを発揮しながら積極的に取り組んできている。
 アメリカの援助は経済開発援助(DA)、経済支援援助(EFS)、食糧援助(PL480)に区分される。日本のように有償、無償、技術協力と形態別には分類されていない。
 DAは開発途上国の中長期的な経済開発を目的として、特に貧困層の生活環境改善のための案件について主に技術協力を中心に実施するものあり、二国間援助の約30%を占める。ここが日本のODAに相当するものといってよいと思う。また、EFSの主たる対象国はイスラエルとエジプトであり、94年度で全体の37.9%を占めている。また、地理的近接性から中南米に18.6%、人道支援を目的にアフリカに24.9%が目立っており、つまり、政治および安全保障上の観点から供与される援助で、国際収支改善のための商品借款、無償資金の供与など、決定から支援まで短時間で行えるものである。
 このようにアメリカの援助は明確に外交的、戦略的に行われており、総じて方向性は日本と類似している。
 
 第2節 フランス
 特徴としては旧フランス領諸国、主にフランス語圏アフリカ向けが中心となっており、サハラ以南のアフリカのウエイトが1991年から1992年平均で全体の56.5%に達している。内容としては、伝統的に教育、文化協力等の社会インフラ、特にフランス語とフランス文化の普及を重視している。
 そして特に、後発途上国(LLDC)向けの援助量の増加および100%贈与化、サハラ以南のアフリカ地域の中所得国に対する公的債務の金利半減・上限5%の設定を打ち出し、サハラ以南のアフリカ諸国支援の姿勢を一段と強化している。 
 
 第3節 イギリス
 イギリスの援助は、アフリカ向けが1994年では36.6%と最も高い比重を占めている。これは、植民地時代からの経緯を色濃く反映しており、アジア地域へも24.6%を配分している。また、イギリス連邦に加盟していた40近くの発展途上国に優先的に配分する傾向が現在でも続いている。
 イギリスのODAの目的は発展途上国の「持続的経済・社会的発展」を達成するため、経済改革、生産性向上、貧困層支援、人口問題、教育を含む人的資源開発、女性の地位向上の7つを援助政策の優先順位にあげている。特に1990年以降は、経済成長は開発途上国の自助努力なしには達成困難であるとの考えにもとづき、「Good Government」という視点から、市場経済原理の導入、適切なレベルの軍事支出、複数政党主義・民主主義、人権を尊重しているかどうかを重要な援助の目安として活動を行っている。

 第4節 ドイツ
 特に日本と比較されることの多いドイツだが、日本よりは地域的偏りは見られない。しかし、近年サハラ以南のアフリカのウエイトを増し、南アジアのウエイトを減じる傾向にある。主な対象国としてエジプト、トルコ、中国、インドなど比較的大きな途上国が上位を占めていることが目立つ。
 ドイツのODA政策は西ドイツ時代から、基本的には国際的な規模での福祉政策という非政治的な傾向を持っていた。そして東西ドイツの統一後、新たな援助政策が発表され、そのなかで人権の尊重、政策決定過程への住民参加、法の支配、市場志向型経済の創出、貧困克服等を目指す被援助国政府の開発促進のための政策が、援助を実施する際の指標となることを明らかにした。これは、日本政府が最近強調している援助の重要項目とほとんど同じである。
 また、分野別においては教育、環境保全、貧困削減などを重点領域として活動している。


第2章 日本のODAの現状

 第1節 ODAの特徴
 日本のODAは歴史的な経緯もあり、アジア向けのシェアが高く、1980年代初頭までは圧倒的といってよいほど二国間援助はアジア向けであった。しかし、近年着実にアジア向けの比率は低下し、1970年代は支出純額ベースで全体の98.2%であったが、1996年では49.6%にとどまっている。また、後発途上国の多いアフリカへの支援は無償資金協力を中心として多く、1990年以降10%以上を確保し、1996年には12。8%であった。(図3)
 また、日本の援助においては円借款の割合が高く、そのために二国間ODA実績でも道路、空港、港湾、ダム、発電所など運輸関係、エネルギー関係など経済インフラの占める割合は全体の44.5%に達している。(表2)そして、医療などの社会開発分野が過去5年間に急増し、1995年には26.7%に達した。こうした傾向は、1995年にコペンハーゲンで開かれた社会開発サミットで先進国がODAの20%を、途上国は国家予算の20%を基礎的社会プログラムに配分することで合意したことを考えれば、今後もこの形は続いていくと思う。(表3)

 第2節 ODAの現状
 1996年5月に経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が、「21世紀へのパートナーシップ」として新たな援助戦略を打ち出し、2015年までに、現在10億人以上いる極貧人口を半分にするという数値目標などを掲げた。このことにより、援助を行っている日本をはじめとする先進国は、協力して発展途上国への開発支援、福祉向上へのいっそうの努力を再確認するきっかけをつくった。
 しかし、これらの援助の必要性とは裏腹に、日本のODAは「いよいよ援助疲れが本格化した」とみられている。日本のODA実績は1991年以来、今日まで世界第1位を確保しているが、既に98年度政府開発援助予算については、対97年度比10%マイナスの額を上回らないとすることが閣議決定されており、いよいよをもって、ODAの冬の時代を迎えてしまったといってよいと思う。
 またこれに伴い、ODAの関係諸機関が相次いでODAの改革案を発表した。今までにも改革案は出されていたが、今回は特に、現在橋本内閣が行政改革会議を1996年11月に発足させ、2001年をめどに中央省庁の再編成を試みようとしているから訳が違う。なぜなら、ODAについて一元化した組織を誕生させられるかどうかがかかっているからである。
 しかし、実際のところODAの論議は奥が深く、論点が多いだけにつかみどころの無いところがある。だが、そこで強調しなければならないのは、ODAにはそれぞれ異なる角度からみている専門家が存在するという事である。ODAの現場に精通した開発経済学者、国際法の専門家、環境保護・人権などの非政府組織(NGO)など(表4)、まだ多数の関係各機関はあるが、それぞれの関係者がODAについての考えを持ち、あるべきODAの姿を考えているわけで、これらの様々な意見を一本化することはかなり難しい。だが、将来の日本のODAのために、これら専門家とNGO関係者など力を合わせてこの正念場を乗り越えてほしい。


第3章 主要な課題と今後に向けて

 第1節 アフリカへの国際支援
 第1章でも述べたように、近年のDAC加盟主要国のの重点配分地域はアフリカである。これは貧困ライン以下の人口の割合が、南アジアとサハラ以南のアフリカで最も高い現状(90年度でそれぞれ全体の49%と47.8%)を考えれば当然と思える。一方、日本がこれまで重点的に援助してきた東アジアの貧困ラインの人口比率は11.3%である。(表5)
 また、国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書・1996』を見ればわかるように、発展途上国への先進国からの膨大な援助にもかかわらず、貧しき者はますます貧しく、豊かな者はますます豊かになってきたというのが、この30年間の状況である。
 アフリカはこれまでにもイギリス、フランス、ドイツを中心に重点的に援助が行われてきているが、貧困ライン人口の比率がいこうに低下しないのは、今までの援助が思ったほど効果をあげていなかったと思わざるをえない。
 その原因には様々なものがあり、援助国と被援助国の双方にあると私は思う。特に、被援助国における問題は、人口の爆発的な増加もあるが、最大の問題は国民の援助慣れと自助努力の不足にあると思う。アフリカで干ばつが起きても、アメリカやヨーロッパ諸国などの天候がよければ、食糧援助がたくさん来るから良いという考えが続く限り、援助は成功し得ないし、効果はあがらないと思う。そのためにも援助国は、人造りを通して自助努力意識を確立させ、良きGovernanceの創設が不可欠ではないかと思う。とりわけアフリカにおいては、市場の未成熟、インフラの未整備、人材不足等の構造的要因から、経済は教科書どおりには動かないことを十分認識し、各国ごとの市場の発展の度合いに応じた構造調整プログラムを策定・実施することが必要であると思う。

 第2節 開発と環境問題
 ODAにおいて、貧困の緩和とともに近年重視されているのは開発と環境問題の関係である。開発と環境は必ずしも相反するものではないが、開発の結果によって環境が破壊されてしまったのではどうにもならない。しかし、だからといって環境を保護するために貧しい人々が飢え死にしても良いという事にはならない。要するに開発と環境のバランスをどうするかである。この点において一部の環境保護団体のような環境至上主義のようなものは受け入れられない。環境に関して近年関心を呼んでいるものに地球環境問題がある。温室効果ガスの放出、オゾン層の破壊、国際水域の汚染等は地球全体に悪影響を及ぼすので、これを防止することは単に途上国だけでなく先進国にとっても不可欠である。
 こうした問題は、とりわけ途上国が今後開発を行っていく過程で多発するものと考えられているが、その背景には、途上国において、かつては環境と開発を対立するもとして捉え、途上国の最大の問題である貧困からの脱却のためには、開発を優先せざるをえないという認識が大半を占めていた経緯がある。しかし、現在では、経済発展の段階や政治的・社会的状況によって差はあるものの、大都市における公害や熱帯雨林の破壊といった問題が深刻に受け止められ、開発にあたっての環境的配慮の必要性が理解されるようになってきており、環境法制度・組織の拡充等の努力が払われるようになったと思う。
 しかし、こうしたうえで一国だけの努力だけでは防止し得ないものであり、この問題については国という枠を超えた地球的規模の問題としてとらえ、国際社会全体でその解決に取り組まなければならないと思う。

 第3節 評価体制の再整備
 最近、日本の評価体制が不十分であるとの指摘の声が数多くある。実際、DACの対日審査は誉めすぎであると思う。確かに個々の案件に属する問題点をフォローアップする点では評価できるとしても、繰り返し指摘されてきた課題、例えば、有償と無償の連携、NGOとの連携、セクターの分析・調査の必要性、要請主義からの脱却、相手国側の管理体制の不備・予算不足などについては十分に政策に反映されていないと思う。
 実施案件が年間4000件を超える状況の下で、どの地域、どの国から、どの分野で、どのくらいの案件数を取り上げ、評価するのか。どの程度の内容を調査するのか。誰が評価を担当するのか。更にどの程度のコストがかかるのか。重複する評価システムをどう整理するのかを含めて、最も効果的な評価システムは何かを抜本的に再検討するべきだと思う。
 また、これからの日本のODAの重点1つでもある人材育成のためにも、今まで手付かずであった専門家派遣などの技術協力の評価にも着手してもらいたいと思う。


おわりに
 日本の国際協力の柱であるODAは様々な意味で注目されていると思う。
 第1に、橋本内閣の財政構造改革によるODAに対しての厳しい仕打ち、ODA予算の前年度比10%の削減の決定である。このことが日本のODAの将来にとって良いことなのだろうか、十分に議論されなければならないと思う。(図3)
 第2に、日本の援助は量的には世界1位であるが、中身、すなわち質的にはどうなのであろうという問題である。これは、しばしばマスメディアなどによって指摘されている。すべてがそうであるとは思わないが、予算削減が決まった今こそ、これまで以上に援助の質の向上を望みたい。
 このように、マイナス面をあげればきりがない。日本のODAに対しては、国際的な批判の声がますます高まりつつある。現状に抜本的な改革を加えない限り、近い将来において、国際的な非難の嵐の到来は避けられないと思う。それを考える意味では、90年代末から21世紀はじめにかけて、日本のODAは転換期を迎えるのと同時に、まさに正念場であると思う。これからの日本と世界のために、より良い国際支援を行ってもらいたい。

【参考文献】
外務省経済協力局編『我が国の政府開発援助──ODA白書概要版──』財団法人国際協力推進協会、1996年。
国際協力事業団 国際協力総合研究所『国際協力概論──地球規模の課題──』、1995年。
鷲見一夫『ODA援助の現実』岩波新書、1989年。
佐藤寛編『援助研究入門』アジア経済研究所、1996年。
白鳥正喜『ODAフロンティア』大蔵省印刷局、1995年。
草野厚『ODA1兆2千億円のゆくえ』東洋経済新報社、1996年。
草野厚『ODAの正しい見方』ちくま新書、1997年。
多谷知香子『ODAと環境・人権』有斐閣、1994年。
絵所秀起『開発と援助』同文館、1994年。
外務省ホームページ「21世紀にむけてのODA改革懇談会」、「第15回経済協力評価報告書(概要版)の公表に際して」、「ODA事後評価の意義と今後の課題」
毎日新聞
日本経済新聞