『農業に関する一考察』   
──中山間地域の役割と農業──
                 
  政経学部経済学科3年  西田 潤一郎

目次
第1章 中山間地域とその現状
 第1節 中山間地域の定義
 第2節 中山間地域の現状
  (1)人口と耕地面積の推移
  (2)社会基盤
  (3)農業生産性
第2章 中山間地域の多面的役割
 第1節 環境保全の場として
 第2節 食料生産の場として
 第3節 生活の場として
第3章 地域支援政策
 第1節 日本の地域対策法
  (1)3法の概要
    a、山村振興法
    b、過疎地域活性化特別措置法
    c、特定農山村法 
  (2)3法の比較
 第2節 諸外国における支援策
  (1)アメリカ
  (2)EU
 第3節 これからの支援のあり方
おわりに
参考文献及び資料

  はじめに
 我々の生活のなかでまずなくてはならないものの1つに食料がある。日本においては飽食の時代と言われて久しいが、現実を見てみると食料の半分以上を諸外国に頼っている。(平成7年度カロリーベース自給率42%)食料安全保障の考え方からするとこの状況はまさに危機的であるといってよい。
 現代はまた環境保全への取り組みが盛んである。農業においても過剰農薬散布への疑問、科学肥料投入や畜産農家のし尿処理など様々な問題が提起されている。そこで今回は日本の総面積の68%を占め、38%の農業粗生産額を生み出している中山間地域について考えてみることにする。中山間地域とはどのような地域であるのか、現状はどうであるのかを踏まえたうえで、環境問題を含めた多面的役割と世界の同様な地域でどのようなことが行われているのかをみていきたいと思う。


 第1章 中山間地域とその現状

  第1節 中山間地域の定義
 平野の外縁部から山間地に至る地域が一般的に中山間地域と呼ばれている。この地域を決定する際の明確な定義は現在無い。農林水産省が92年に示した「新農政」(新しい食料・農業・農村政策の方向)で、「中山間地域などに対する取り組み」が一つの柱として盛り込まれた。ここで中山間地域という言葉が初めて用いられた。現在では、農業問題を語る上で重様なキーワードとなっている。
 中山間地域の指標としては、農林統計による区分が一般的である。農林統計では日本の地域を表のように4つに区分している。
 普通、中山間地域と呼ばれる地域は中間農業地域と山間農業地域を含めた地域のことを指す。中山間地域は、地域によってその置かれている条件が異なり、例えば中国地方の山間地農業地域では高齢化率、水田率が共に高いが関東・東山地域
では水田率が低い
(畑が多い)といったように相対的に比べて平地農業とではばらつきが大きい。また平坦な土地が少なく傾斜地が多いため、耕地が少なくかつ分散しており、集約的・効率的な農業経営が行えないことが特徴としてあげられる。
 ではこのような指標を用いて考えると、中山間地域とはどのような位置を占めているのかを考えてみる必要がある。ここでは農政審議会農村部会の資料に基づいて考えてみてみたいと思う。
 表2からもわかるように市町村数、総面積の割合に比べて人口割合が極端に少ない。また、高齢化の割合が非常に大きいことなどがある。では実際に中山間地域はどのような現実に置かれているのかを人口と耕地面積の推移、社会基盤、農業生産性の面からみてみたい。

 第2節 中山間地域の現状
  (1)人口と耕地面積の推移
 まず人口の推移に関して特徴的なのが全国平均に比べて高齢化が激しいということである。中山間地域も全国平均に比べて高いが、農家だけをみてみると26.4%とさらに高い比率で高齢化が進んでいることがわかる。また人口構成をみてみると40代を境に若年層が薄く、高齢層が厚いというこれから日本の人口構成の縮図のような形をしている。
 またこの地域は人口の減少も激しく特に人口の自然減少が起こっている市町村が都市的地域が14.0%なのに対して中山間地域ではおよそ8割の市町村で人口の自然減少が起こっている。現段階ではこれらの対策として農業所得の増大、労働条件の改善、農業基盤整備の推進等が課題として考えられている。
 このように人口減少が著しい中山間地域は耕地面積も減少傾向にある。図2が示すように、調査年度ごとに増加傾向にある。これを高齢化率と比較してみると高齢化人口比率が高ければ高いほど耕作放棄地の発生が多いという傾向がみられる。
  (2)社会基盤
 次に社会基盤と農業基盤についてみることにする。
 まず社会基盤であるが、DID地区(人口集中地区)へのアクセス時間が30分以上かかる地域が中間農業地域で36.8%、山間農業地域では約62%と多く交通条件はよいとは言えない。医療機関、公共機関等へのアクセスや通勤、通学などの面でも制約されてしまう。図4は中山間地域の市町村が多い高知県を例に中核都市である高知市から1時間圏内外の産業分布を表わしたものであるが、圏内に比べて圏外では農林水産業、建設業、政府サービスの地域経済におけるウエイトが高いことがわかる。逆に卸小売業やサービス業は相対的にウエイトが低い。また工業等の導入に関する調査でも都市的地域では1市町村当たり14.9の企業があるのに対して中山間地域では5.0、山間農業地域では2.8しか存在しない。
 生活に関する基盤整備の状況は全ての面において全国平均を下まわっており、特に汚水処理施設に関しては全国平均のおよそ4分の1である。
 また農業に関する基盤整備の状況も立地条件の悪さから遅れているのが実情である。全国水準と比較しても整備の割合は低く、集約的な農業が行うことが困難である。
  (3)農業生産性
 中山間地域では、先に示したように農業基盤整備や社会基盤の遅れもあり、一般的に農業生産性は低い。耕作地が点在していたり、面積が小さいなどの理由によって農業機会が導入できない。また斜面が多いため作業時間が平場の農業と比較しておよそ3倍かかるといった報告もある。所得の面においても農家1戸あたりの平均所得が平地農業地域ではおよそ842万円なのに対して中山間地域ではおよそ681万円と格差が大きい。
 このような現実を踏まえて、中山間地域にはどのような役割があるのかを考えてみたい。


第2章 中山間地域の多面的役割

 第1節 環境保全の場として
 中山間地域がなぜ環境保全の場であるのか、疑問を持たれるかもしれないがこのようなデータがある。1996年に野村総研が注)仮想条件調査法によって調べた農業、農村に関する農村の公的機能についての評価では1世帯当たりの年平均支払意思額は10万1000円で、全国では約4兆1千億円になる。また棚田の保全機能の調査では、新潟県牧村の場合、水田の耕作放棄地がない状態での土砂災害発生率が100年間で0.56回なのに対し、耕作放棄地が50%以上になると2.03回と約4倍になるという報告がある。(農水省調査1994年)
 このように土砂災害が増加するプロセスとしては降った雨が水田によって一時蓄えられたり水路によって流されていたものが、耕作放棄されると無秩序に地下に浸透し地滑りが起こりやすくなるといったものがよく聞かれる。
 このような洪水防止、災害防止機能をふまえて、千葉県市川市では水田が市内を流れる真間川の洪水調整池となりうるという考えから「保全水田」の実験が行われている。1F当たり水田には50円、転作と休耕田には45円という契約金を支払って農家と保全契約を結ぶ。真間川が流れる4市間の取り決めで市川市は12万トンの保水力を持たなければならないのであるが、この保全水田がこの働きを十分に果たしているそうである。もし調整池を建設するのであれば100億円以上の大工事になる。
 これは水田のもつ洪水防止機能がお金に換算された例である。この市川市の場合は市内の大半が平地であるが中山間地域であれば同等、あるいはそれ以上の効果があるのではないだろうか。全国の田畑が1年間に有する洪水防止機能は約2兆3000億円ともいわれている。単純計算ではおおよそ1兆5000億円もの公的機能が存在することになる。これらの他にも水資源保全機能、大気浄化機能など様々な機能が挙げられている。ではなぜこのような機能が存在するのにもかかわらず中山間地域の農村といわれる地域は減少しているのであろうか。
 端的に言えば生活のほぼ全ての面において都市的地域の方が優っており、そこに住み続けようという魅力がないからである。たしかに中山間地域、あるいはそこに存在する農村には測り知れないほどの公的機能があるかもしれないがそこに住んでいる人にとってはごく当り前のことなのである。その当り前のことが再認識され、重要性を持ち出してきた現在、我々は何をするべきなのであろうか。
 人間は環境を破壊することが出来るのと同様に環境を作り出すことが出来ると考えると農村が持っている公的機能はまさに人間が自然に働きかけることによって作り出された環境なのではないだろうか。

注)仮想条件調査法(Cntigent Valuetion Method)
    全国の農業、農村がもたらす公益的機能が全く失われ  
   てしまうような仮想的状況を想定し、そのような事態を
   避けるために受益者である一般国民が支払ってもよいと
   いう金額をアンケート調査により直接尋ねる方法

 第2節 食料生産の場として
 農業とはもともと生きるために始められたものである。確かに歴史上農作業をすることで社会が形成されたのであるが、現在我々が人間らしく生きるためには食料の他に必要な物があり、それは貨幣を媒体として我々に供給されているのである。しかし、現状では専業農家の平均的農業収入は約400万円前後であり、現状では農業を経済活動として考えると製造業とは格差が大きいのである。
 けれども農業は経済活動だけで割り切れるものではない。農業は食料を生産するのであるが、食料は我々にとってなくてはならないものである。そこで考えなければならないのが農産物の価格弾力性である。農産物は一般的に作り置きが出来ない。米に関してもどんなに保存状況がよくても1年たってしまうと品質が低下してしまう。旧食管法の在庫米が処理できないのは過剰供給が最も大きな原因であるがこのように価格弾力性が小さく、作れば作るほど安くなってしまうという現状がある。特に野菜は顕著であり、よく畑に捨てられ、せっかくの生産物が畑の肥料としてしか使い道がなくなってしまうといったことをよく耳にする。
 ではこのような農業を取り巻く事情を前提に中山間地域は食料生産の場としてどのような役割があるのであろうか。
 中山間地域は地域によって生産品目にばらつきが大きい。関東では水田率が約40%であるのに対して北陸では90%以上である。また農業生産性をみても労働生産性、土地生産性、資本生産性とどれをとってみても平地農業地域や都市的地域との格差が大きい。また、生産物を消費地へ輸送する際のアクセス条件が基盤整備の遅れもあり、良いとは言えない状況である。
 これらのことを考えると中山間地域を食料生産の場として考えた場合、多くの制約があることがわかる。環境としては優れたこの地域も食料生産、大きく考えて経済活動を行う場合にはマイナス要因が多いことがわかる。
農業を日本の経済史と照らし合わせて考えた時に、高度経済成長時代には都市の需要を充足すべく農業生産が拡大されてた。しかしその時代は同時に農家の労働力が都市へ流入し、農業生産人口が製造業へシフトした時代でもある。経済成長と同様に労働単価も上昇したが、経済活動のボトム産業である農業は旧食管法の価格規制等により市場経済への参入が遅れた。現在の「保護農業政策」などといわれる政策の多くはこのような時期に、つまりこれから先の農業の位置付けがみえてこない時期に出されたものが多い。農業を1つの産業としてみた場合、淘汰されてしかるべきという現状がある。これからの農業を考える上で最も重要な課題の1つに食料、農業生産で生活出来る土台をつくり、産業としても農業を想像していかなければならないであろう。

 第3節 生活の場として
 ここでは、実際に生活の場としてはどのような役割があるのかをみてみたい。
 1章でも触れたように中山間地域は一般的に都市的地域に比べて不便である。また現在混住化(都市近郊を中心として都市住民が農村居住を行うこと)を推進し中山間地域の人口減少に歯止めをかけようという試みが行われているが、このような地域は生活のなかにその地域独特の慣習があり、それは農業を念頭に置いたものがほとんどである。このようなこともあり、中山間地域あるいは農村に対するイメージはあまりよくない。また逆に、混住化によって農業生産がやりにくくなったり、ゴミ投棄などによる環境の悪化、土地利用の混乱などの弊害も指摘されている。このようなギャップはなぜ起こるのであろうか。 都市的地域と多くの農村が存在する中山間地域ではライフスタイルが全くといってよいほど異なっている。ここでいくつかエピソードを紹介する。
  『田舎から母を呼び寄せ都会で一緒に暮らすようになった
   が出てきて3日目に「都会の生活に飽きた。帰りた   
   い。」と言い出した。高齢で一人暮しは心配で連れてき    
   たが、車が多いので散歩できず、1日中テレビをみて過
   ごすしかない。』
  『都会に呼んだ親が田舎に帰りたいと言っても、孫も親類
   も田舎にいないので我慢して都会に住んでもらったが、
   すぐに病気がちになったり、体調を崩してしまう。運動
   不足になる上に話し相手がいないからだと思う。』

 これは雑誌「現代農業」(農文協)から引用したものである。このエピソードから生活のギャップを読み取れるがでは何故このようなギャプが生まれてくるのであろうか。
 その原因の1つとして中山間地域に多くみられる農村に住む人々の多くがプロシューマー(生産する消費者)だからなのではないだろうか。特に高齢者は「生涯現役」であると考えている。実際、農村の運営は高齢者の働きによるところが大きい。これがこれから日本が迎えようとしている「超高齢化社会」に対する1つの解答になりうるのではないだろうか。事実、農水省の事業として始められた就農準備校には定員の倍近い応募があるそうだ。また市町村が耕作放棄地や休耕田を借りて、安価で市民に貸し出す市民農園も人気が高い。これらの理由として、自分でたべものを作ってみたい。定年後には農業をやりたい。といったものが多い。現在まで置き去りにされた感のある中山間地域であるが、生活の場としても再評価されてもよいのではないだろうか。

第3章 地域支援政策
 中山間地域の多面的役割を念頭に置いた場合、いかに中山間地域を守り、発展させるかが重要な課題となるであろう。もっとも大きな課題としてなぜ中山間地域がこのように衰退してしまったのかを考える必要があるが、その間にも中山間地域が消滅してしまう可能性が大きい。
 そこで現在日本における地域支援法、海外における同様な地域の支援の状況とをみたうえで今後どのような支援を行っていけばよいのかを考えてみたいと思う。

 第1節 日本の地域対策法
 現段階で、日本においては3つの法律が制定されている。それらの概要を簡単にまとめてみる。(表4参照)
  (1)3法の概要
  a、山村振興法
 国土の保全、水源のかん養など自然環境の保全等に重要な役割を持つ山村地域の経済力の培養などを目的として制定されている。指定要件としては林野率が75.0%以上で人口密度1.16人/1町歩未満等が設定されている。

  b、過疎地域活性化特別措置法
 人口の著しい減少によって地域社会の活力が低下してしている地域の住民福祉の向上、地域格差の是正などを目的として制定されている。指定要件としては直近25年間において人口減少率が25.0%以上、財政力指数の平均地が0.44以下等が挙げられている。

  c、特定農山村法
    (特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律)
 この法律では地理的な制約等から農林業生産条件が不利な地域についてそれらの活性化を促す基盤整備をする目的のために制定され指定要件としては耕地面積に占める急傾斜地の割合が大きいこと、農林業従事者の割合が10%以上などをあげている。

表4 山村法、過疎法、特定農山村法の概要

┌─────────────┬──────────────┬───────────────┐
│             │              │特定農山村地域における農林業 │
│  山 村 振 興 法  │ 過疎地域活性化特別措置法 │等の活性化のための基盤整備の │
│             │              │促進に関する法律       │
├─────────────┼──────────────┼───────────────┤
│【地域指定要件】     │【地域指定要件】      │【地域指定要件】       │
│・林野率75%以上    │・直近25年間において下記 │・全耕地面積に占める急傾斜耕地│
│・人口密度1.16人/1町│ のいずれかに該当     │ 面積の比率が高い      │
│ 歩未満         │ a)人口減少率25%以上 │・林野率75%以上      │
│等            │ b)人口減少率20%以上 │・農林業従事者割合が10%以上│
│             │   かつ高齢者比率16% │等              │
│             │   以上         │               │
│             │ c)人口減少率20%以上 │               │
│             │   かつ若年者比率16% │               │
│             │   以下         │               │
│             │・財政力指数の平均値    │               │
│             │   0.44以下     │               │
│【目的】         │【目的】          │【目的】           │
│ 国土の保全、水源のかん養│ 人口の著しい減少によって地│ 地理的条件が悪く、農業の生産│
│、自然環境の保全等に重要な│域社会の活力が低下し、生産機│条件が不利な地域について、農林│
│役割を担っている山村地域の│能及び生活機能が低位にある地│業その他の事業の活性化のための│
│経済力の培養と住民の福祉の│域の住民福祉の向上、雇用の増│基盤整備を促進        │
│向上           │大及び地域格差の是正    │               │
│             │              │               │
│【地域指定(旧市町村)数】│【地域指定(新市町村)数】 │【地域指定(新・旧市町村)数】│
│  2,104      │  1,231       │  1,730        │
│(新市町村数1,195) │              │(新市町村数 1,239、  │
│             │              │ 旧市町村数 491)    │
│【支援内容】       │【支援内容】        │【支援内容】         │
│ハード面の基盤整備が中心 │ハード面の基盤整備が中心  │ソフト面の基盤整備を重視   │
│・小中学校、農業基盤等の整│・農林道、漁港、観光施設、小│・新規作物の導入等の促進   │
│ 備の促進        │ 中学校等の整備の促進   │(融資制度等)        │
│(国の補助率の引き上げ、融│(地方財政措置、国の補助率の│・農林地の適正利用の確保   │
│ 資制度等)       │ 引き上げ)        │(農地法の特例)       │
│・基幹道路の都道府県代行整│・産業振興(融資制度)   │・第3セクターによる基盤施設 │
│ 備           │              │ 整備等への支援       │
│・第3セクターによる森林保│・基幹道路、公共下水道の都道│ (地方財政措置、税制特例) │
│ 全等への支援      │ 府県代行整備       │               │
│(地方財政措置、税制特例)│・医療確保のための補助   │               │
└─────────────┴──────────────┴───────────────┘
出典:農政審議会第4回農村部会提出資料

  (2)3法の比較
 上にあげた3つの法律を比較してみると基本的な考え方としては地理的条件による地域格差の是正とそれに付随する形で起こっている過疎化等への配慮である。しかし山振法、過疎法ともにハード面での支援が主に考えられている。保護農業など言われる理由としてはこのようにハードはあるが、そこにあるだけという状態もあげられるのではないだろうか。そのような声を反映したのが特定農山村法である。しかしながらこれらの政策も1章でもみたように依然として人口減少、高齢化や担い手の減少、そして地域活力の低下などが続いている。
 中山間地域の市町村に対するアンケートによると、緊急の課題として交通網の整備、医療施設の整備、上下水道の整備等があげられている。これらは地域対策法の外にあるが、生活基盤としては最も重要なものである。新たな地域対策法が望まれる。
 では諸外国においてはどのような対策が行われているのか。ここではアメリカとEUの地域対策についてみてみたいと思う。

 第2節 諸外国における支援策
  (1)アメリカ
 アメリカでは耕作地の大半が平地であるのでこの支援策はない。また各自治体がマスタープランの作成を行っているが、基本的に農村部では土地利用等の計画は策定されていないのが現状である。
  (2)EU
 EUでは現在条件不利地域の農業に対する助成が行われている。この制度は1973年にECに加盟したイギリスが加盟交渉のさいに自国で行ってきた丘陵地域農業に対する助成を継続することを主張したこと、オイルショックを契機とした高失業率で都市の雇用吸収が減少したこと、従来の選別的な農業政策に限界が生じたことなどを理由に、1975年に導入された。
 この制度の仕組としては山岳地域等の条件不利地域(EUの承認を受けた各国語との基準により地域を指定)において3ha以上の農用地を保有し、最低5年間農業に従事することを約束した農家に対して一定の補償金を支給するものである。
 総支給額は約1,870億円(1993年現在)で、このうち25%までをEUが補助している。日本と比較してEUは自然、国土条件、社会、経済条件等様々な面で事情が異なり一概に比較は出来ないが、土地利用や農業経営、農村社会の実態など多くの面で事情が異なっている。

 第3節 これからの支援のあり方
 EU、アメリカと日本で最も大きく異なる支援のあり方の違いは、直接所得補償と間接的支援である。日本の場合、社会基盤や農業施設に対して支援、援助を行ったり所得税に対し行われているが、EUやアメリカの場合、所得補償を行うことで農家を支援している。EUでは先ほど示したように条件不利地域に対しての他に、アメリカでは作物に対して単位価格を背設定し、市場価格が単位価格を下回った場合はその差を補償するという直接固定支払制度を採用している。
 日本でもしこの直接所得補償をした場合、零細農業経営の温存や国民からのいわゆる「ばらまき」批判を受けるとして導入に対して現在は慎重な姿勢をとっている。しかしながら中山間地域においては地域対策法が一定の効果しかあげられず、現在でも人口等の減少が進んでいること、平地農業に比べ労働生産性が低いこと、環境等国土保全機能が高いことや食料生産の場として、生活の場として、そしてレクリエーションの場としての重要性があげられることなどを考えると導入する必要があるのではないかと考える。
 確かに、現在の日本農業は他産業に比べて税制面等での保護が手厚い。しかし、自給率をみれば半分以下で大豆に至ってはわずか2%であり、また勤労者との所得格差は広がる一方である。このような現状を考えると早急に導入すべきではないかと考えている。水田に関しては基盤整備の現状をみてみると基盤整備後の規定要件を満たすとその多くが駐車場や住宅になってしまうという矛盾が多く見受けられる。基盤整備を行っているのと同時に減反政策も実施されている。このような矛盾が存在する農業政策には不安を覚えてしまう。はたしてこれから先の農業、そして中山間地域はどのような道を進むべきなのであろうか。


  おわりに
 現在の農業事情、食料事情に僕は危機感を覚える。基礎的食料であるコメの需給不一致、自給率の低推移と輸入農産物の増加、農業人口や耕地面積の減少、農薬や食品添加物に関する疑問、遺伝子組替農産物についての疑問などである。このような多くの問題点のなかから今回は中山間地域を取り上げてみた。これから日本は経済界の再構築、超高齢化時代に向けた対応など様々な難問を抱えている。工業立国である日本にとってこれらは重要な問題であるがそれらは全て人間の作り出したものであり人間は食べることによってその命を保っている。現在の状況ではその土台が失われつつある。この論文がそうしたことに少しでも歯止めをあたえられればと考えている。


参考文献及び資料

・渡部忠世『農業を考える時代』農山漁村文化協会、1995年。
・農林統計協会『中山間地域対策』農林統計協会。1993年。
・農林水産省  
  農政審議会「農村部会資料及び議事録」(第1回〜第5回)
       「食品部会資料及び議事録」(第1回〜第5回)
       「EUにおける条件不利地域対策」
       「先進国の土地利用制度」
  林野庁  「中山間地域の森林・林業の現状と問題点」
・JA全中 「環境保全型農業推進の取り組みについて」
     「みんなで語ろう食料・農業・農村地域に関する新たな基本法」
     「みんなで語ろう新たな基本法──大切な農地を子供たちの時代へ──」