『地球温暖化を考える』
──温暖化対策を中心として──

商学部貿易学科 52012
井田 智子

【目次】
はじめに
第1章 現在の温暖化状況
第2章 炭素税の有効性
 第1節 価格弾力性
 第2節 北西ヨーロッパにおける導入の現状
 第3節 経済に及ぼす影響
第3章 排出権取引
第4章 エネルギー対策
 第1節 エネルギー利用の効率化
 第2節 適切なエネルギー供給構造の構築
 第3節 エネルギー分野における交際協力の積極的な推進
おわりに


はじめに
 21世紀を目前にひかえ、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提としてきた、20世紀工業社会の見直しが迫られている。20世紀はイノベーション(技術革新)の世紀であり、イノベーションのおかげで地球的規模の経済が成長してきた。しかしそれにより、地球を汚染してきたことも事実である。今問われている地球温暖化も20世紀文明の生み出したものと言っても過言ではないと思う。「持続可能な発展」を基本とする、環境に配慮する資源循環型の社会への転換が必要である。
 1990年代に入ってから、世界の人々の関心が温暖化に向けられてきた。92年の地球サミットをはじめ、温暖化問題に関する会議が開かれている。1997年12月に開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議では、先進国における2010年の前後5年を期間とする、温室効果ガス排出削減率が決められるなど、大いに意義のあるものであった。
 これからは日本に課せられた削減率に向かって、どのような対策を講じていくかが問題になってくる。

第1章 現在の温暖化状況
 産業革命以後、温室効果ガスの大気中の濃度は著しく増加し、19世紀末からの100年間に地表の平均温度は0.3〜0.6℃、海面水位は10〜25 上昇している。このまま対策をとらなければ、2100年には1990年と比較して平均気温は約2℃、海面水位は約50 上昇するといわれている。海面上昇で、領土の大部分が水没してしまう恐れのあるモルディブなどの島しょ国では、大変大きな問題としてとらえている。
 地球温暖化は化石燃料の消費により排出される二酸化炭素など、温室効果ガスの濃度が濃くなることによって起こる。各温室効果ガスによる温室化への寄与の割合は、二酸化炭素63.7%、メタン19.2%、フロン10.2%、亜酸化窒素5.7%となる。二酸化炭素の濃度がここ200年間で、大幅な上昇をしている。1800年には約280ppmだったものが、1990年には25%増の353ppmになっている。メタンの温暖化効果は、二酸化炭素の20倍から60倍、またフロンガスの温暖化効果は二酸化炭素の数十倍から1万倍で、しかも大気中の寿命が100年をこえるわけだから、なおざりにはできない。
 京都会議では、削減対象温暖化ガスを二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素だけでなく、他3種を含む6種としている。
 温室効果ガスの排出量は国によってさまざまである。これは各国の経済活動の基盤が異なるからである。国別でみると、全体の22.4%がアメリカ、次いで中国13.4%、ロシア7.1%、そして日本は4.9%である。現在は先進国が途上国に比べより多く排出しているが、21世紀半ばには、途上国が先進国全体を上回ると予測されている。しかし、京都議定書には途上国に対しての削減義務はもちろん、自主的参加さえも盛り込まれてはいない。


第2章 炭素税の有効性

 第1節 価格弾力性
 どのような財、サービスに対する需要であっても、価格に対して多かれ少なかれ弾力的である。つまり価格が上がれば需要は減り、価格が下がれば需要は増える。炭素税の目的もそこにある。炭素含有量に応じて化石燃料に課税し、化石燃料の価格を人為的に引き上げることにより、炭素含有量の多い石炭や石油から、炭素含有量の相対的に少ない天然ガスへの燃料転換を促し、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの利用を促し、そしてガソリンや電力などの二次エネルギーの短期的かつ長期的な節約を促そうとするものである。
 炭素税が導入した場合、ガソリン価格が上昇するとはいえ、それが自動車の走行距離を短縮する効果、通勤手段を自動車から電車、バスに変更する効果などを含めた、ガソリン需要の短期の価格弾性値はさほど大きくない。しかし次に自動車を買い替えるとき、燃料効率の良い自動車を選ぶことを動機づける効果、すなわち中長期の価格弾性値は決して小さくはないであろう。
 もともと需要の価格弾性値とは絶対的に定まった数値などではなく、所与の制度的枠組みのもとでの、企業と家計の合理的行動の結果として決まる相対的な数値である。政府は炭素税の導入を図ると同時に、化石燃料の需要の価格弾性値を高めるための適切な制度改革をすべきである。

 第2節 北西ヨーロッパ諸国における導入の現状
 スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、オランダの5カ国が、1990年から92年にかけて炭素税を相次いで導入した。税率、免税業種、税金の使途等において、各国には微妙な差がある。税率が最も低いのはオランダの約1250円/Cトン、最も高いのはスウェーデンの約22400円/Cトンである。いずれの国も税収中立、増減税同額を原則としていて、炭素税導入と同時に法人、個人の所得税減税が施行され、炭素税収は一般会計に繰り入られる。
 日本では所得税減税は行わず、増税分を温暖化対策や新エネルギー開発のための補助金とする目的税的に使うとする考えが強いように思う。
 税率の最も高いスウェーデンの炭素税制度が、施行3年後の1993年に多少の修正がなされている。これは炭素税制度が、国際間の競争という観点からスウェーデンの産業に過重な負担をかけている、という理由からであった。修正後、産業用と民生用によって区別されることになり、産業用は引き下げられ、民生用は引き上げられた。

 第3節 経済に及ぼす影響
 炭素税導入による化石燃料の値上がりを1973年のオイルショックの時と同一視する見解がある。確かにオイルショックの際原油価格は4倍高になり、経済成長率が激減した。しかし、やや長い目で見れば日本経済にとって有利に作用した。燃費効率の良い小型車の製造で、日本の自動車メーカーの比較優位性が高まり、輸出が急増。また省電力の日本製電化製品の輸出も急増した。さらにオイルマネーの還流(巨額の外貨を勝ち得た産油国による工業製品の輸入)という現象も生じた。このような点から、オイルショックは日本経済に幸いしたと言ってもよいだろう。
 炭素税制の導入を、消費者と企業から政府への強制的所得移転と見なすことができる。炭素税収がなんらかの形でリサイクルされるのであれば、炭素税が全体としての経済活動水準を低下させる必然性は全く見当たらない。 閉鎖経済における炭素税の影響は、税導入により損失を被る業界と、利益を得る業界とが併存するという点である。炭素集約度の高い産業は全体として損失を被り、反対に省エネルギーに関する設備や機械、再生可能エネルギー利用設備等を製造する産業は全体として利益を得る。それらを総合したマクロ経済への影響は一概に評価できないが、プラスの効果とマイナスの効果が相殺し合う結果はゼロに近い値になる。

第3章 排出権取引
 地球温暖化京都会議において、条件付きで排出権取引制度が認められた。しかし仕組み、ルール、ガイドライン等詳細は1998年11月にアルゼンチンで開かれる締約国会議で決められる。
 排出権取引とは、各国の二酸化炭素の余剰削減達成値の増減分を売買するもので、世界的な規模での効率性をかなえるという点で、また総量規制がやりやすいという点で、極めて有効な二酸化炭素排出削減策である。つまり世界の総排出量を、所与の値にコントロールすることが簡単にできるのである。
 しかし排出枠を売る国(発展途上国)の限界費用は増すだろうから、排出権の価格が年々値上がりする。また、途上国の排出量は経済発展に伴い増加するだろうから、市場に提供される排出権の量は次第に減少する可能性が高い。
 排出権取引が制度化されるに当たり、効率と公正が損なわれないよう、入念な設計が施されなければならない。


第4章 エネルギー対策

 第1節 エネルギー利用の効率化(需要サイド)
 エネルギー利用の効率化、つまり省エネルギーの推進は、20世紀工業社会におけるエネルギー多消費行動を見直すことにより、地球温暖化問題の解決に極めて有効な対策となる。また、海外からのエネルギー資源の輸入量抑制を通じて、日本の安定供給を確保するにも有効な対策といえる。 
 エネルギー利用の効率化を推進するためには、その対象をエネルギーの供給段階から最終消費段階に至るエネルギーシステム全体、さらには社会システムにまで拡大することが必要である。すなわち、各部門、部門相互間において、いわば「システム化」による利用効率化を進めることなどにより、省エネルギーを抜本的に強化することが不可欠である。 高性能ヒートポンプを用いた給湯機、断熱材使用の住宅、燃料電池などを活用した熱電併給システムなどの導入によりエネルギー供給の効率化を図ることが必要である。また、運輸部門でここ最近注目されているハイブリットカー、GDIエンジンによる車などの、さらに一層の開発が期待される。
 
 第2節 適切なエネルギー供給構造の構築(供給サイド)
 日本はエネルギー資源をほとんど有していないのだから、エネルギーの安定的な供給を確保しなければならない。現在日本はほとんどを火力、原子力、水力の発電によって電力供給している。今後二酸化炭素を削減していく上で、火力発電による供給を減らしていかなければならない。そこで考えられるのが太陽、風力などの新エネルギーによる電力供給である。
 以前は小規模分散型の電力供給システムは非効率とみなされてきたが、太陽電池の価格が近年下がってきたり、余った電力を電力会社に買電することができるようになり、多少見直されてきている。しかし、現実的には太陽電池の価格は、経済的に採算がとれるレベルに程遠い状況にある。
 多くの製品や機器について言えることだが「量産効果」で価格は下がる。太陽電池についてもあてはまる。そこで普及するのには、より一層の政府の補助が必要になるだろう。

 第3節 エネルギー分野における国際協力の積極的な推進
 地球環境問題は地球規模の問題であることを考えれば、エネルギー面における国際的な協力が重要になってくる。エネルギーの安定供給確保に向けての協力の促進、ソ連・東欧諸国に対する原子力発電安全技術協力の促進、開発途上国に対する省エネルギー、環境技術などの技術移転の促進によるエネルギー問題克服への国際社会の積極的貢献が必要である。


おわりに
 今年12月に開かれた気候変動枠組み条約第3回締約国会議では、先進国における2008〜2012年の1990年比での温室効果ガス削減率などが決まった。削減率については10月の事前交渉でも各国の意見が合わなく、まとまるかが不安であったが、各国歩み寄り日本6%、アメリカ7%、EU8%ということで会議が終わった。京都会議は各国があらためて私たちの地球を見つめ直さなければならないと考える会議であったと思う。
 地球温暖化問題は各国政府だけではなく、私たち国民一人一人が問題発生の原因者であり、それゆえに課題克服の担い手でなければならないとの自覚に立って、行動しなければならない。使わない電気を消すなど小さいことだが、これからの美しい地球を守るうえで大切なことである。 


〈参考文献〉

・ 米本昌平『地球環境問題とは何か』岩波新書、1994年。
・ 総理府『美しい地球を将来の世代に』、1993年。
・ 佐和隆光『地球温暖化を防ぐ』岩波新書、1997年。
・ 宇沢弘文『地球温暖化を考える』岩波新書、1995年。
・ 黒岩俊郎『環境技術論』東洋経済新報社、1991年。
・ 地球環境経済研究会『環境保全型企業論』、1994年。
・ 藤崎成昭『地球環境問題と発展途上国』アジア経済研究所、1993年。
・ 『季刊 環境研究』No. 107、1997年。         
・ 天野明弘『地球温暖化の経済学』日本経済新聞社、1997年。