高齢者問題−年金と就業−                
                  3年 遠藤 麻希

はじめに
 2025年が日本の高齢化のピークになる、といわれています。人口の高齢化という現象は、先進各国が抱える問題であり、その様な視点からみれば、日本の豊かさの象徴として歓迎こそすれ、悲観視すべきではない。という意見もあるようだが、他国と比較して日本の高齢化は驚くべき速さで進展している。年金、医療費などの経済的な面からも、また、介護・福祉問題のような社会的な面から見ても、いまだ不十分なところが目立ち、様々な政策なども出されてはいるが、いずれも事後処理的である。今後ますます進展する高齢化社会を正確に把握し、理解するために、現在の日本の人口構造の変化、最近不公平がうたわれている、年金制度。また、年金支給年齢が65歳に引き上げられることから必要となってくる高齢者の就業問題について、述べていきたいと思います。

目次
 第1章 人口構造
  1 少子化
  2 高齢化
 第2章 年金
 第3章 高齢者の就業
 

第1章 人口構造 
 日本の人口構造は、ピラミッド型からつぼ型へと移行してきている。これは人口が高齢化していることを、顕著に示している。人口の高齢化は、少子化、高年齢化によってもたらされるとされる。
   
 1 少子化について
 現在の合計特殊出生率(1人の女性が生涯で産む子供の数の推計値)は、1.43となっており、第一次ベビーブーム期間中の1947−8年の4.32と比較すると、いかに少子化が進んでいるかが、わかるであろう。ちなみに人口維持に必要な合計特殊出生率は2.1とされている。少子化の原因として以下、4つのことがあげられる。
 ^ 女性の社会進出
 1973年のオイル・ショックを機に始まったとされる。この年は第2次ベビーブームの年であり、これ以降、出生率は低下しはじめた。それまで高度成長を遂げてきた日本経済は停滞し始め、いわゆる就職難となった。その中で就職した女性は以前のように2・3年で結婚し退職する。ということをしなくなっていった。
 _ 晩婚化
 女性の社会進出が進展し、社会的地位を得、それに伴って高学歴化したためである。高学歴化が、初婚年齢を押し上げることはいうまでもないであろう。初婚年齢は1972年で、男性27.3歳、女性が24.1歳が、87年では男性29.7歳、女性26.3歳と、男女ともに2歳ほどあがっいる。初婚年齢の上昇は出産年齢の高齢化につながるのである。
 ` 教育費・機会費用の高騰
 高学歴化に依存しているように感じる。つまり、自らがそれなりの学歴を持っているのならば、その子供にも同程度、あるいはそれ以上の学歴を望むのではないであろうか。また、出生率の低下にみられるように、子供の数が少ないほど、教育費などにかけることができる。幼稚園から大学までを全て私立に通わせる場合と、公立に通わせる場合とでは、2倍以上の差が生じるのである。また、女性が、社会的地位を得たことによって、子育てのために犠牲となる時間や所得のコスト−機会費用−が増加した。
 a 住宅費の高騰
 オイル・ショックは住居費の高騰という形でも少子化・晩婚化に拍車をかけた。家賃は値上がりし、若い夫婦が安定した生活を望めば望むほど、共働きの期間は長期化し、出産年齢は高齢化したのである。出産年齢の高齢化は、出産の機会を減少させるので、これもまた、少子化の一要因となるのである。

 2 高齢化について 
 高齢化の原因として考えられるのは、死亡率の低下と、平均寿命の伸びである。死亡率は、1947年で人口1000人につき14.6人だったのが、93年では7.1人となっており、また、平均寿命は47年で男性50歳、女性53.9歳であったのが、95年では男性76.3歳、女性82.2歳となった。わずか30年たらずで平均寿命は30年も伸びたのである。高齢化が急速なスピードで進展してきたのも、うなずけるであろう。今後、平均寿命は年々伸びる傾向にあり、高齢化がピークになる2025年では男性78.3歳、女性85.1歳になるといわれている。
 人口構造の変化に伴い、労働人口においても高齢化が進展する。労働力人口における55歳以上の割合は、1990年の20.2%から、2010年には29.2%にまで増加する。しかも、増加するのは55歳以上の労働人口であり、15−19歳の若年労働人口、および、30−59歳までの中年労働人口はいずれも減少していくのである。高齢者に若年者と同じ仕事をさせるのは無理がある。高齢者にはその知識・経験などの能力を活かした、就業が今後必要となってくるであろう。

第2章 年金
 増加していく高齢者と減少していく若年者、という構図により、世代間再分配システムをとってきた年金制度の根本的な見直しが不可欠なものとなってくるであろう。
 今後保険料率の負担が増加していくことを考えると、年金支給年齢の引き上げは必須なのである。平成6年度の年金財政を見てみると、60歳支給ならば、負担率が34.8%.65歳ならば、29.6%となり、65歳支給制への移行により、保険料率は5%程抑制できると考えられている。
 以上のようなことを踏まえ、1994年に年金改正法が成立した。以下、3点にその主旨をまとめてみる。
 ^ 厚生年金支給開始年齢の眼界的な引き上げ。
 これまでの60歳支給を改め、1941年4月2日以降生まれの男性と、1946年4月2日以降生まれの女性から段階的に支給開始年齢を引き上げ、最終的には65歳支給とする。
 _ 保険料率の段階的引き上げ。
 2025年度時点の保険料率を29.6%に抑え、勤労者の負担を減らすために、96年10月までに保険料率を17.35%まで引き上げ、以後5年ごとに2.5%づつ引き上げる。
 ` ネット・スライド制の導入。
 従来の制度では年金額の改定が、税・社会保険料込みの賃金を基準としていたので、将来的に高齢者の年金額が現役世代の手取り給料を上回る可能性があったため、今後は年金額の改定基準を税・保険料抜きの賃金へと変更し、世代間の不公平がないように努める。
 現在サラリーマンは給料の16.5%を保険料として負担しているが、2025年には29.6%にまで上昇する見込みである。現行の年金制度は世代間相互扶助システムをとっているが、世代間によって、受給額には大きな差が生じる。例えば、1930年生まれは支払額の4ばい近くを受け取ることができるが、50年生まれでは1.46倍。70年生まれでは0.89倍。80年生まれでは0.72倍。となっている。お金の価値が変化しているので一概に比較をするのは安易であるが、支払額よりも受給額が少ない。というのはやはりいただけない。また、世代内の不公平も存在する。現役時代の収入額によっても受給額に差は生じるし、国民年金においては保険を免除されるサラリーマンの妻は年金を支払わずに、年金を受給できる。仕事を待たない学生にも支払い義務はあるのに、なぜ、サラリーマンの妻だけが免除されるのか。
 年金における不公平は国民に不信感をもたらす。年金の未加入者数は約193万人もいるという。このままの状態で高齢化社会が進展し、果たして年金システムはきちんと機能するのであろうか。現状でも決して順調な運営ができているとは言い難いようにかんじる。年金システムの見直しをはかり、不公平をなくすことが早急に必要だと感じる。

第3章 高齢者の就業
 日本の高齢者の就業意欲は、諸外国と比較するときわめて高い。日本の高齢者(60歳−64歳)の就業意欲を100とすると、米国では79。にしか満たない。が、実際に雇用・就業となると、その現状は厳しいものである。
 年金支給開始年齢が65歳になることを踏まえ、高齢者の雇用・就業機会の確保は、今後ますます必要となってくる。現在の日本社会では60歳定年がほぼ定着してきたといってもよいであろう。しかし、60歳以上の雇用、また、65歳までの継続雇用などとなると話は別になり、現段階ではほとんど行われていない。というのが実状である。60歳から、64歳までの男子就業状況を見てみると、全体の71.6%は何らかの形で就業を行っているが、普通就業者はそのうちの4割にすぎない。これが65歳以上となると、就業をおこなっているのは、全体の58.6%うち、普通就業者は24.1%である。他の勤務形態としては自営業者の率が最も高く、会社役員・短時間勤務者となってくる。
 ここで求人について見てみると、60歳以上の求人倍率は0.08倍である。これは100人の求職者に対して、8人の求人しかない。ということである。ちなみに54歳までは0.9倍、55−59歳では0.24倍となっているので、いかに高齢者の就業が厳しいものであるかがうかがえるであろう。そして求職があっても、月給制は3割ほどであり、あとは日給と時給で、不安定な雇用であるといえる。また、女性はすべての面において男性よりも条件が悪い。という事をもほそくしておく。
 企業が高年齢労働者の雇用・就業を積極的に行わない理由として、問題となってくるのが、年功序列という制度であろう。この制度の下で人員が高齢化すると企業内では賃金コストの上昇・ポスト不足といった問題が発生する。これに対する対策として、社外への出向・早期退職者優遇措置などがとられているようだが、若年人口が今後減少するということを踏まえておくのであれば、今後は中高年齢者層が活躍できるような組織、制度を考えていくべきであろう。
  
おわりに
 高齢者の就業機会の確保は今後必ず必要になってくる。高齢者の生活費のうち年金の占める割合は50%ほどであり、他は自らの貯蓄取り崩したり、子供などに頼っているケースが見受けられる。
 完全な雇用、一番安定しており、最も望ましいのであるが、実際、高齢者雇用は不安定であるためそれも難しいであろう。そこで、高齢者に選択肢のある、多様な雇用形態−契約型・登録型・出向型・派遣型・パートタイム型・臨時・日雇いなど−を考えていくことが今後の課題であろう。

参考文献
丹下 博文『検証 超高齢化の潮流』同文舘出版
米田 匠滋『人口波動と日本の進路』広済堂
島田 とみこ『新版 年金入門』岩波新書          
宮脇 淳『財政システム改革』日本経済新聞社
小池 和男編『日本の雇用システム──その普遍と強み──』東洋経済新報社
古川 俊之編『高齢化社会の設計』中央公論社
日本労働研究会『図説労働白書』至誠堂
労働省編『労働白書』   
総務庁編『高齢社会白書』
経済企画庁編『経済白書』
AERA 臨時増刊『定年に負けるな』朝日新聞社
朝日新聞
日本経済新聞