1999年度4年大石ゼミ卒業論文


日本の高齢社会に関する一考察
  --介護保険制度は高齢者の
        生活をどう変えるのか--


政経学部 経済学科 64358番

田崎 弥穂


[目次]
はじめに
第1章 世界の高齢者福祉の現状
 第1節 スウェーデンの高齢者福祉制度
  第1項 公的政策
  第2項 公的年金制度
 第2節 デンマークの高齢者福祉制度
 第3節 イギリスの高齢者福祉制度
第4節 ドイツの高齢者福祉制度
 第5節 諸外国と比較して
第2章 日本の高齢社会の現状
 第1節 高齢者人口の推移
  第1項 高齢者の増加
  第2項 高齢化の要因
  第3項 家族形態の変化
 第2節 高齢者の生活
  第1項 高齢者の所得
  第2項 公的年金制度
    1.公的年金制度誕生の背景
    2.我が国の特徴
    3.公的年金の仕組み
  第3項 住宅、宅地資産
  第4項 高齢者の雇用問題
 第3節 福祉サービスの現状
  第1項 在宅福祉
  第2項 施設福祉

第3章 日本の公的介護保険制度
 第1節 公的介護保険の仕組み
  第1項 公的介護保険とはなにか
  第2項 要介護認定
第3項 サービスの給付
 第2節 公的介護保険制度の利点
 第3節 今後の展望
  第1項 行政側の展望
  第2項 民間業者側の展望
  第3項 利用者側の展望
第4章 日本の高齢者福祉の問題点
 第1章 介護サービスの問題点
 第2章 公的介護保険制度の問題点
 第3章 公的介護保険制度の成功の鍵
おわりに

はじめに
高齢化社会と言う言葉を当り前のように耳にするようになってどれくらいたつのだろうか。今は高齢化社会から高齢社会へと高齢者の比率が増える一方である。
私は、健康な22歳の大学生である。そんな私がどうして高齢社会に興味を持ったかと考えて見ると、老人ホームにいる親戚のおばさんと会ったことがきっかけであった。
初めて見た老人ホームに驚き、どうしてこのような環境で暮らしているのだろうかという単純な疑問から始まり、いつかはこれは自分の問題になると思うとひとごととは思えなくなった。そして、日本の高齢社会の福祉制度はどのようなものがあるのか知りたいと思い始め、また、世間で騒がれている公的介護保険制度とはどのようなものなのか知りたいと思い、テーマに選んだ。
福祉制度というものは、国が指示を出し、それに従っていくだけのものだと思っていたため、勉強をする意味がないと最初思っていたが、それは全くの間違いであった。
諸外国の福祉制度を勉強していくうちに日本の福祉制度がいかに遅れており今の状態のままの国に任せておいては何も変わらないと思い、何が問題であるかを考えるところから始めた。
本論文では、諸外国の福祉制度と比較をし、日本の福祉制度に足りない点が何であるのかを考え、介護保険制度を成功させるためにはどうすればよいのかを考えていきたい。
まず第1章で高齢者福祉で有名な諸外国の福祉制度を取り上げ、第2章では日本の高齢化の現状や福祉制度を取り上げ、現在の高齢者福祉社会全般がどうなっているかを取り上げる。
第3章では来年の平成12年(2000年)4月にスタートする介護保険制度とは一体どのようなものであるかを説明する。そして、第4章では第1〜3章で挙げてきた日本の高齢者福祉社会のどこがいけないのかを考えて問題点をあげた。
ますます厳しくなる高齢社会の中で普通の暮らしが出来るようにするにはどうすればいいのかを考えていきたいと思う。

第1章 世界の高齢者福祉の現状
本章では世界の福祉制度の現状を知り、第2章で取り上げている日本の福祉制度との違いを見つけていきたい。その際に、注意しなければならないのは、これらの国と日本とを比較して、簡単に世界の福祉制度はやはり素晴しいと思ってはいけない。
なぜなら、まず根本的に異なる条件に十分配慮して比較しなければならないからである。つまり、制度を比較するのではなく機能を比較するということを忘れてはいけない。
第1.2節では、世界最高水準とも言われる北欧の国スウェーデン、デンマークを取り上げ、第3節では世界で初めて社会保障制度を確立させたイギリスを取り上げ、第4節で日本より一足先に介護保険をスタートさせたドイツに焦点を絞ってみた。また、他にも福祉で有名な国が数多くある中から以下の4か国を取り上げたのは世界最高水準と言われる国々をクローズアップすることにより、日本の現在の福祉制度との比較がより分かりやすくなると考えたからである。そして、日本と似ていると言われる制度をすでにスタートしているドイツを取り上げ、成功点、失敗点を出し、これからの日本の高齢者福祉に失敗を出さないようにするためにどうすればよいかという点の解決の糸口になればと思い取り上げた。

 第1節 スウェーデンの高齢者福祉制度
 第1項 公的政策
福祉と言えば最も注目されているのは、制度、サービスの高水準と税金の高さで有名なスウェーデンであろう。高齢化率17.4%(平成9年、1997年)のこの国の福祉政策に与えられている理念は、「自立自助のために必要な支援」である。
それにより、国民間で富と所得を平準化させる方法のフィードバック方式により、高額の税金を使用している。この方式は個人所得の保障を軸に、生活に不足をきたさぬための社会賃金の生活を備えるのである。
老後を年金で生活している老人が多くいるスウェーデンでは、年金は労働賃金の延長に相当すると位置付けられ、賃金と比べてさほど変わりのない給付水準にあり、年金生活者も労働者とほぼ等しい課税を支払っている。働く階層にのみに社会政策費用の負担を強いるものではなく、社会全体で広く、浅く負担しあうものなのである。
政府の考え方は、保障の種類が広範にわたり、内容も充実するならば、財源となる税収が他国よりも大きくなるのは自然現象に等しいというものである。
実際、国民負担率は世界ナンバーワンであるが、国民はそれに対し不満を抱いていないのである。
なぜならば、それだけの保障が常にしっかり受けられるようになっているからである。だから、老後の生活費用の心配もなく、かといって、高い税金におわれる生活を送るわけでもなく、ゆとりをもった生活を送っているのである。
そんなスウェーデンも20年以上前、老人ホームに関しては日本と同じような状況であったと言われる。高齢者の社会的入院が多く、老人ホームは雑居で至れり尽せりの看護、介護三昧。その結果寝たきりや痴呆症の高齢者を増える一方であった。しかし、そこで政策の転換が行われ、「自立のための支援」を基本理念とし、在宅サービスを中心として進んでいった。
それにより、病院に入院していた高齢者を自宅やケア付き住宅等で生活できるようにさせた。
現在の福祉制度に関する問題点は、財源よりもケアのありかた、供給体制等の質的な問題が中心となっている。

 第2項 公的年金制度
公的政策によって形成された社会システムが生活安定をもたらすと、家計を切り詰めて貯金などの非常用の財産作りの意欲はおのずと減退する。
もともと、貯金するのが好きな人種と言われる日本人は家計貯蓄率12.6%(平成9年、1997年、日本銀行「国際比較統計」)と世界ナンバーワンになっている要因の1つに国や都道府県がしっかりとした公的政策を出していないためにそれに対する不安を感じた結果の行動ともいえるだろう。
スウェーデンでは定年退職となる65歳が、年金での生活がスタートする年である。
それまでは、働いて得られた賃金を生活費に充当してきたが、定年後はそれに変わる収入として公的年金がある。スウェーデンの公的年金制度は65歳以上全員に受給される基礎年金と64歳までに仕事をもっていた人のみに受給される付加年金の2階建方式である。
貯金や財産がなくても成り立つようになっており、年金が少額などで収入が少ない場合は住宅手当が加算される。これは、年金不足を補うというよりは、むしろ、居住水準の引き上げのためのものであり、安全な居住の確保や家事負担の軽減と同時に、外部からの在宅サービスに支障がないように配慮されている。
しかし、いくら年金や住宅手当金を一定額以上もらったところで税金や保険料が高くてはもともこうもないだろう。一見、そのように思われがちだが、公的な年金や医療保険はコミューン(日本で言う市町村)による在宅サービスが機能している以上は、民間の保険料を支払う必要もなく、貯金、医療、教育のために余計な出費は考えなくてよい。つまりその分、可処分所得が少なくて生活できないなどということはありえない。これらが誰でも普通の暮らしが出来るとスウェーデンが言われる由縁のひとつであろう。

第2節 デンマークの高齢者福祉制度
デンマークもスウェーデンに並び、世界最高水準の社会福祉と言われる。
やはり、そのためには所得税約50%、消費税25%と国民は高税を強いられるが、国の総支出額の4分の1以上が毎年、社会福祉関係費用に充てられている。
デンマークには高齢者福祉3原則がある。
 1.自己決定の尊重
他人ではなく自分で決定を下す。
2.継続性の尊重
 例えば、老人ホームに入居する際に、今まで使用していた家具を持ち込むなど、これまで通りの生活を続ける。
3.残存能力の活用
 生活援助はあるが、まずは自立を援助するので、出来ることは自分でやる。
これらの原則に基づいた福祉サービスを行い、寝かせきり老人がいない国と言われるようになった。デンマークの老人ホームは日本とは全く違うといってもいいほど整っている。
先ほどの3原則に基づいたもので、原則として20〜30平方メートルの個室の自分の好きな家具を持ち込み、自分の部屋のように使えるようになっている。
自分で出来る限りのことは行い、自立を援助する環境も整っている。
なぜ、日本のように寝かせきり老人がいないのかというと、予防を重視とした福祉のため、リハビリなどの継続的な介護体制がきちんと整っていたり、自宅で暮らすことができるように補助器具を無料で貸し出すなどを行い、結果的には入院費を削減し安上がりへつながっているのである。
 そのようなデンマークでの現在の福祉制度の問題点はスウェーデン同様、財政問題よりも与えられた財源と人材をいかに必要としているところに有効に配分するかということ等の質的問題である。
また、現在のような高負担、高サービスになったのは、今の高齢者の考え方の結果という意見もある。それは、今の高齢者は老後は家族がみてくれるものと考えて準備をしてこなかったためだと言うのである。
だが、増え続ける高齢者に素早くきちんと対応し、福祉社会の転換が出来たことは学ぶべきことであろう。

第3節 イギリスの高齢者福祉制度
イギリスの福祉制度は世界で最も早く社会保障制度が確立し、「ゆりかごから墓場まで」つまり生まれてから死ぬまで福祉制度がサポートしてくれると言われている。
しかし、それはもう過去のことであると言われることもある。なぜなら、昭和54年(1979年)に経済の競争力回復のため、高齢者福祉の切り詰めを行った。
では、高齢者福祉は日本と変わらないのかというとそんなことはない。イギリスは過去30年の福祉国家という蓄積があり、「高齢者を寝かせきりにせず、住み慣れた地域に最期まで住み続けることができる」という最低限の福祉をきちんと国が保障している。
そのしわ寄せが多少残っているものの現在、高齢化率15.7%(平成8年、1996年)であるイギリスは様々な政策を打ち出し、ゆりかごから墓場までの社会に近づいていっている。
イギリスの福祉制度は、国の運営する国民保健サービス(NHS)によって提供される医療サービスと地方公共団体による社会福祉サービスとに分けられる。
昭和23年(1948年)に創設された国民保健サービス(NHS)により、全ての住民に対して疾病予防やリハビリテーションを含めた包括的な医療サービスを、原則として無料で提供している。国民は、あらかじめ登録した一般家庭医の診察を受け、必要に応じ、受診するようになっている。
平成5年(1993年)以来、在宅福祉の対策の重視、効率的な福祉サービスの提供の観点からコミュニティケア改革を実施しており、何らかの理由で介護が必要になっても、出来る限り地域または家庭的な環境で生活を続けることが出来るように本格的に進められている。ホームヘルプサービス等の個々のサービスについて別々に需要を判定し、サービス実施の決定を行い、サービス供給団体を地方自治体が直接行う方式から、地方公共団体のケアマネージャーが総合的に対象者の需要を判定し、ケアプランを作成し、民間事業者、非営利団体等による外部サービスを購入する方式へと転換しつつある。


第3節 ドイツの高齢者福祉制度
日本の介護保険はドイツを見習って作ったものと言われるように日本の一足先に介護保険がスタートしているドイツの福祉制度はどのようになっているのだろうか。
高齢化率15.7%(平成8年、1996年)のドイツの介護保険の理念は「介護保険の給付は要介護者が援助を必要とするとはいえ、人間としてふさわしい、できるだけ自立した生活を送れるように援助するためのもの」となっているが、実際の生まれた背景には老人医療費特に病院での入院医療費の重圧から逃げようとした苦肉の策があると言われている。
まず、ドイツの介護保険の仕組みを考えていきたい。
被保険者は日本のように年齢制限はなく、高齢者、障害者を対象としている。要介護認定はまず、介護金庫(医療保険を運営している公的法人)に申請し、MDK(疾病金庫の共同審査機関)が直接訪問をし、アンケートを行い、5段階に分別をする。その結果に基づいて支給が行われる。(図1)
そして、保険料は所得の1.7%で、これを労使で折半する。年金受給者は、半分が本人が、残りを年金運営をしている公的法人が払う。
在宅介護に関しては、ヘルパーの派遣等のサービスの現物支給と現金支給のどちらかを選ぶことができるが、現金を選択した場合は現物の半額給付になってしまう。
また、介護をしている家族に対して社会保障が行われている。介護期間中は労災保険が適用され、年金の保険料を払ったことになる。
平成7年(1995年)にスタートした介護保険は全てがうまくいっているわけではない。
介護保険のみではサービスが限定されたり、サービス量が希望より少なく、介護保険導入以前より厳しい生活をしなければならない。それを補うために税金で賄っている社会扶助に頼っているのである。
では、ドイツの介護保険制度の問題点を6つ挙げてみようと思う。
1.要介護クラスが3つに限定されているため段階の分別が大ざっぱになっている。つまり、同じクラスでも格差が大きい。(表1)
2.現金給付されても、家族が使ってしまうことがあり、障害者が自立生活を送れない1つの理由になっている。
3.保険給付額が低いために、プロヘルパーを雇えずに、介護の質に問題はあるものの無資格の労働者を雇わざるを得なく、ヤミ労働の増加が防げない。
4.保険給付額が低いために、思うように雇用の創出が出来ず、労働者が集まりにくい。
5.保険給付額が低いために社会扶助に頼らざるを得ず一向に社会扶助が減らない。
6.最重度は、要介護クラスの3%以内と量的制限が決められているため、必要にも関わらず給付を受けられない人がいる。
介護保険以外にもドイツでは日本と共通する福祉制度がある。国民皆保険制度に始まり、アルテン・プラン、アルテン・フレーガー、エーバーフェルト制度はそれぞれ日本で言う老人保健福祉制度(新ゴールドプラン)、介護保健士、民生委員と同じである。
と言っても、全てドイツが先にスタートしたものと考えると日本がドイツの福祉制度をお手本として進めて来た事がわかる。
介護保険の導入により、介護における様々な状況が改善されたが、要介護者が必要とするサービスが受けられないという、介護の量と質的保障が今後国レベルで取り組まなければならない問題が残っている。

 第5節 諸外国と比較して
 以上の4か国の福祉制度はどの国もよい所を重点的に取り上げてみたために、どの国も日本とは比べようにならないほど素晴しい制度であると思ってしまう。
しかし、世界最高水準といわれるスウェーデンの福祉制度をそのまま日本で同じようなことを実行したらどうなるだろうか。
国の根本的な考え方、法律、政治、経済が全く違うのだからうまくいかないであろう。ということは、先ほど挙げた4か国の制度の機能をよく見極めて日本型福祉社会に取り入れていかなければならないだろう。
また、スウェーデンやデンマークの北欧は、高齢者に対してだけのケアが充実しているのではなく、誰に対しても普通の暮らしができるようにされていることを忘れてはいけない。

第2章 日本の高齢社会の現状
まず、自分で想像をして見た。もし仮に多少足腰が悪いとはいえ、大きな病気もない。にも関わらず1年中ベットの上で生活を送らなければいけないとなれば、何もやる気が起きなくなってしまうのではなかろうか。ベットの上にしか自分のプライベートな空間がないとしたらそれでも、人間らしく生活していると言えるのだろうか。
寮で生活している友人に1部屋に複数で生活をしていてプライバシーは確立されているのか聞いた事がある。その友人ははっきりと「ないに等しい」と答えた。ましてや、気のあわない人が同室にでもなったら気を使わなくてはならず大変だと言っていた。
それを考えると、老人ホームに1部屋4〜6人で生活をするなんて信じ難いことであろう。プライバシーはゼロに近く、また、長年過ごしてきた自分のライフスタイルを突然ホームの規則に合わせた生活にしなければならない。ゆとりのある生活とは程遠い。
家でゴロゴロしている時、眠くなくてもベットの上に横たわっていると、気付いたらウトウト眠ってしまった経験がある。それが続くと、昼と夜が逆転した生活に陥る。
ベットの上で生活を続けるとこのような状態に簡単になりやすいだろう。
これらを考えれば、日本の福祉制度がまだまだ非人間的であるということがわかるのではないだろうか。
第2章では、現在の高齢社会の現状並びに日本の福祉制度を取り上げる。
 
第1節 高齢者人口の推移
 
第1項 高齢者の増加
大正9年(1919年)に老年人口(総人口における65歳以上の高齢者人口)割合は、5.3%であり、老年人口が上昇し始めたのは、昭和40年代(1960年代後半)からであり、10%台に突入したのは昭和60年(1985年)になってからである。
そして、現在の老年人口は、2,051万人(平成10年10月1日現在、総務庁)となっており、割合は16.2%である。
まず、国際的定義として、老年人口が7%以上を高齢化社会、14%以上を高齢社会、20%以上を超高齢社会と呼ばれており、日本は昭和45年(1970年)に高齢化社会になり、平成6年(1994年)には、高齢社会の仲間入りをした。
その期間はたった24年であり、フランス114年、スウェーデン82年、イギリス46年と世界と比較すると我が国の高齢化が世界に例を見ない速度で進行している。
つまり、日本型高齢社会の特徴とは、高齢者が短期間に急激に増加したこととそのスピードの速さである。
今後も、出生率の低下、平均寿命の伸長などから老年人口は増加を続け、平成27年(2015年)には高齢化率は25%を超え、国民の4人に1人が65歳以上の高齢者という時代が到来するものと予測されている。
(図2)
また、高齢者を前期高齢者(65〜74歳)と後期高齢者(75歳以上)に分けると、前期高齢者は1,237万人、後期高齢者は814万人(平成10年10月1日現在、総務庁)となっている。今後、前期高齢者は平成28年(2016年)をピークにその後減少し、一方後期高齢者は増加を続け平成34年(2022年)には前期高齢者を上回るものと予測されている。(図3)

 第2項 高齢化の要因
高齢化が進む主な要因は、出生率の低下と死亡率の低下によるものである。
出生率の低下は人口ピラミッドの下層部分が少なくなることにより、老年人口割合を高める方向に働く。死亡率の低下は通常、まず乳幼児、青年など低年齢層人口の死亡率低下から始まるので死亡率低下が老年人口割合を高めるようになるのは、その効果が寿命の伸長など老年人口にまで及ぶように見通した場合である。
なぜ、出生率、死亡率が低下したかというと、出生率低下は、非婚化、晩婚化の増加や女性の高学歴化、社会進出、子供の養育費用がかかりすぎることや保育施設が不十分などが考えられる。
死亡率低下は、生活水準の上昇、生活環境の改善、医学・公衆衛生の改善などによるものである。
以上のことから少子高齢社会になっていったのがわかるだろう。

  第3項 家族形態の変化
  社会は様々な組織によって、構成されて生活をしているが、その中で最も重要で身近な組織といえば、家族であろう。
昔から家族は何ら変わってないと思いがちであるが、振り返ってみると家族の機能や形態が大きく変化してきたことに気付く。
戦後における家族形態の変化は、まず、子どもの減少により、核家族化が進んだ。そして、第1次産業から第3次産業へと産業の中心が変化するとともに、農村から都市へと人口が集中するようになった。また、都市への転入者が増え、単身化が増えた。
その中でも、一番注目したいのが高齢者の家族形態である。65歳以上の高齢者のうち、1人暮らしは220万人(12.6%)、夫婦のみは513万人(29.4%)、子どもと同居は948万人(54.3%)であり、ここ数年減少しつつあるといっても現在でも半数以上が子どもとの同居しているのがわかる。

 第2節 高齢者の生活
  第1項 高齢者の所得
高齢者ではなくても、生活をしていくためにはお金は必要である。高齢者世帯の平均所得は316.0万円(平成9年、1997年、厚生省)であり、そのうち公的年金・恩給による収入は58.7%を占めている。(表2)
公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち、それらが総所得に占める割合が100%である世帯は50.5%であり、高齢者の経済生活にとって公的年金の重要性は大きいのが分かる。
 高齢者は働きたくても職場が見つからない等で職場がなかなか見つからない。そうなると収入源は公的年金に頼らざるを得ないのが実情である。
 
 第2項 公的年金制度
20歳の誕生日を迎える前というのは、なんだかうきうきしたものである。そんな私に1か月も前に年金手帳というプレゼントが送られてきた事を今もはっきりと覚えている。その時から年金とはどういうものなのか真剣に考えるようになった。
 1.公的年金誕生の背景
公的年金制度が確立する以前は、老後の生活は、子供が親を扶養し生活するのが当たり前という考え方が主流であったが、1次産業の減少や核家族化、都市化などにより日本社会の構造変化によりそれは難しくなった。
また、高齢期に必要な貯蓄を行うことは難しく、貯蓄ができたとしてもインフレに弱いものである。
それの問題点を解消し、老後の生活を一定生活水準に維持できるように所得を保障する制度として公的年金(国民皆保険)体制が昭和37年(1961年)にできた。しかし、少子・高齢化の進展に伴い、生涯の保険料総額と年金給付総額との間に世代間の不均衡が生じるといった指摘がある。だが、そもそも公的年金制度は社会保障の1つであり、必要な者に給付を行う社会全体の助けあいの制度であるので、損得論のみで制度の是非を論じる性格のものではないと考えられる。世代間の公平性について論じる際には、今の年金受給者の多くはかつて私的に自分たちの両親を扶養してきた世代に属することや、高齢者世代から現役世代へ様々な所得移転があることなど、年金のみではなく幅広い見地から世代間の収支を考える必要がある。

 2.我が国の特徴
我が国の特徴はまず、全ての国民が年金制度の対象となる国民皆保険体制であること(図4)、基礎年金と上乗せ部分が組み合わされた制度であること、物価スライド等の仕組みにより給付の実質的価値が維持された年金が終身にわたり給付されていること、財政方式として段階保険料方式をとり少なくとも5年に1度財政再計算を行って給付と負担の長期的安定を図っているがあげられる。
また、公的年金制度の財政方式である段階保険料方式は、個人の責任で対応が困難な物価の上昇や国民の生活水準の向上に対応した給付の改善などに必要な財源を後代の世代に求めるという、いわゆる世代間扶養の考えに基づいており、基本的には、賦課方式の要素を持っている。一方で、ある一定の積立金を保養することで運用収入を得て、将来の現役世代の保険料負担を抑制する積立方式の要素も合わせ持っている。
しかし、銀行も破綻するような昨日まで信じられなかったことが起きるこの時代に現在の年金制度に不安を抱いている人がたくさんいるのは事実である。年金破綻という言葉も聞こえるようになってきているなかで、今年が5年に1度の年金制度の改正の年であり政府は様々な意見が飛び交う中改正案を作成した。
それによると、将来の負担を過重なものとしないためにも将来の給付総額の伸びの抑制は避けられないこと、ただし、現在受給している年金額は引き下げないこと、将来にわたり確実な年金給付を履行することを基本的な考えとした。
そして、現行の2階建ての公的年金制度の枠組みを前提とし、将来にわたって持続可能な負担と確実な給付を約束することで長期的に安定した制度を維持することを基本とする。年金の保険料負担は、長期的には医療や介護を含めた全体の国民負担が増えることを考慮して、年収のおおむね20%(月収の26%程度)を限界と考え、短期的には現在の社会経済情勢に合わせ、当面、保険料の引き上げを凍結することとした。一方、給付については、そうした負担の範囲に収まるように将来に向けて給付総額を調整し、同時に現在の年金額は引き下げず、物価スライドは全ての受給者に保証するとした。
単純に考えても、給付額の抑制は避けられずに保険料は段階的に上げていくということは、私のようなこれから本格的に保険料を支払い、約40年後に年金を受け取る世代には二重の負担にしかならないであろうと考えてしまうのも無理もない。
 今後、そこの部分をどのようにしていくかが国に問われる大きな部分である。

 3.公的年金の仕組み
我が国の公的年金制度は国民全てが年金制度の対象となる仕組みである。
昭和60年(1985年)の年金改正により、現在の二階建年金という、一階部分に全国民共通の基礎年金を支給し、二階部分に厚生年金や共済年金を基礎年金に上乗せして支給する制度である。
一階部分の国民年金(基礎年金)の被保険者は20〜60歳未満を3つに区分する。
1.第1号被保険者
20〜60歳未満の自営業者等で保険料を個別に払う。農業者及び学生も含む。1959万人が加入している。保険料は1万3300円(平成11年、1999年)であるが、第1号被保険者の約3分の1は未加入者、保険料未納者、保険料免除者で、将来の低額年金者や無年金者の増大が懸念される。
2.第2号被保険者
民間サラリーマンや公務員等で厚生年金、共済年金の被保険者である。保険料は報酬額に比例する。3881万人が加入している。
3.第3号被保険者
第2号被保険者の扶養を受ける20〜60歳未満の配偶者で、市町村で適用を受ける。1195万人が加入している。
この被保険者は、いわゆる専業主婦と呼ばれる人で、単身者や共働きの者の保険料の一部が第3号被保険者の年金財源に充てられることから不公平であるなどという意見も少なくない。
次に、二階建年金の一、二階部分に当たる年金の説明をしたい。
1.基礎年金
全国民共通の国民年金であり、原則として資格期間25年を満たした者に65歳から支給される。ただし、本人の希望により60〜64歳の間繰り上げ減給支給を行っているが、60歳からの支給は65歳からの支給の58%とかなりの額が減給されてしまう。
また、66歳以降に繰り下げ増額支給も行っており70歳からの支給だと65歳からの支給の180%を支給されるようになっている。
2.厚生年金
民間企業の被用者が対象であり、報酬に応じて保険料を負担し、基礎年金に上乗せして、在職時の報酬と加入期間に応じた厚生年金を支給する。保険料率は報酬の17.35%である。
60歳から特別支給の厚生年金を支給し、65歳からは基礎年金に上乗せして支給される。60歳で定年する人が多い現状に見合っているが、60歳からの特別支給の開始年齢を男子は2001年度から13年度、女子は2006年度から18年度にかけて65歳支給に向けて段階的に引き上げられていく。
つまり、その頃までには65歳定年制とする企業が増えない限り、60歳で定年した後の空白の5年間の収入は年金からはゼロとなり、今以上に厳しい生活を強いられることになるであろう。
3.共済年金
公務員等の特殊職域の被用者が対象であり、各共済組合が運営の主体である。制度の仕組みは厚生年金とほぼ同じだが、年金額は厚生年金相当分+20%(職域年金相当分)となっている。

 第3項 住宅、宅地資産
高齢者世帯のうち、所得や貯蓄にあまり余裕はなくとも住宅、宅地資産を所有している割合が高い。高齢者世帯のうち住宅、宅地資産を所有しているのは90.7%である。
そこに目をつけたリバースモゲージ制度がある。これは、住宅、宅地などの資産を担保にして、そこに住み続けながら高齢期の生活に必要な資金の融資を受け、死後にその住宅、宅地などを売却して融資の返済に充てる制度である。
不動産は子供に継がせるべきという考えが64.7%(平成8年、1996年、総務庁)と半数以上であるが、リバースモゲージ制度を利用したい、関心があるという意見が27.2%(平成10年、1998年、総務庁)であった。
東京都武蔵野市が昭和55年(1980年)からすでにこの制度を行っているが、担保物件の価値が下がること、利用者が予想以上に長生きをすることなどの大きなリスクを抱えている。
発想は高齢者向けにお金を作るという今までにないような制度であったが、財産や親子関係を重視する日本人の価値観が変わらない限りこの制度の全国普及は厳しいものであろう。
また、家庭内での事故死のうち72.2%(平成8年、1996年)は65歳以上の高齢者であり、そのうち住宅事情にかかわる事故死の77.1%が高齢者である。これは、高齢者の心身機能に見合った構造になっていない住宅に住んでいることが大きな原因とされている。
このことからも、高齢者が安全に生活できるような設備、構造を備えた住環境の整備も進めていかなければならない。

 第4項 高齢者の雇用問題
60〜64歳の労働力率は、男性78.9%、女性38.8%であり、男性で見てもドイツ29.5%、フランス16.5%と外国に比べると非常に高い。
なぜならば、日本人は趣味や生きがいを持ってない人が多いとよく言われる。それに比べ、外国人は定年後は、趣味や生きがいのために時間を費やしたいと考える割合が高いのであろう。
また、働ける限りは働いておかないと福祉制度が外国に比べて整ってないため自分で少しでも多くお金を手に入れようと考えるためであろう。
平成10年(1998年)の労働人口総数6793万人のうち、60歳以上は924万人で、全体の13.6%を占めており、労働力人口の高齢化は進んでいる。
しかし、全年齢平均の有効求人倍率0.45倍、完全失業率4.1%に対し、60〜64歳の者の有効求人倍率は0.06倍(平成10年.1998年10月、労働省)完全失業率は7.5%と雇用環境が非常に厳しいのが現状である。60〜64歳の不就業者のうち6割以上が就業を希望しているところをみると定年後も何らかの形で社会と関わっていたいと感じているようである。
国では、高年齢者雇用安定法を制定し、「事業者が労働者の定年を定める場合当該定年は60歳を下回ることはできない」と60歳定年を根付けようとしている。また、定年後の継続雇用は努力義務化として規定され、それらの指導や相談援助を行って高齢者の雇用をサポートしている。(表3)しかし、60歳以上の希望者が65歳まで何らかの形で雇用する企業(65歳以上定年制、勤務延長制度、再雇用制度)は20.3%(平成10年.1998年、労働省)とこれから益々60歳以上の労働者が増えるなかでまだ少ない割合である。
長引く不況のため新卒者の就職率でさえ過去最低となった現在、高齢者の雇用環境を整えるのは厳しいものである。
しかし、高度経済成長期に趣味も持たずに家族にも振り向かず一生懸命仕事をしてきた人が突然仕事がなくなったらどうなるのだろうか。その様な人にとって仕事は生活費を賄うだけではなく、趣味であり、生きがいであり、生活の全てだと思う。人間は生きがいを失った瞬間から急激に痴呆が進むと言われている。
簡単に新しい生きがいや趣味が見つかるのなら悩むこともない。
今後、少子化により生産年齢人口(15〜64歳)は減少していく。従来の雇用システムを見直すと同時に高齢者の高い勤労意欲を踏まえ、長年培った知識、経験、能力が生かされるような就業機会の確保が必要である。

 第3節 福祉サービスの現状
高齢者福祉の特集のテレビを見ていると、たまに、高齢者の方に向かって「おじいちゃん、おばあちゃん」と声をかけていることがある。確かに65歳を過ぎればおじいちゃん、おばあちゃんかもしれないが、みんな1人ひとりきちんと名前があるのである。
名前をきちんと読んであげられる人がいないような状況で福祉サービスのレベルの低さは半分わかったも当然であろう。高齢者1人ひとりをきちんと1人の人格として扱ってないということになるであろう。
そして、今までの常識であった家族の力に頼る日本型福祉社会という福祉抑制的な1980年代を通して、高齢者介護が社会問題化してきた。現在の福祉は、マンパワー不足、施設不足、サービス不足と言われている。
 これから要介護者がますます増加していくなかで、在宅・施設福祉の充実度が平成12年(2000年)4月にスタートする公的介護保険制度のかなめにもなってくるであろう。

  第1節 在宅福祉
65歳以上の在宅要介護者は、86万人(平成7年、1995年、厚生省)であり、日本の全世帯の2.1%にあたる。このうち、単独世帯12.6%、夫婦のみ世帯29.4%、三世代世帯54.3%(平成8年、1996年、厚生省)である。介護者の平均年齢は60.4歳であり、介護者は妻が31.6%、長男の嫁が27.6%となっている。
介護者の中で仕事をしていた者のうち約3割が介護のために仕事を辞めたり、休職している。また、介護は24時間365日休みと全く関係ないものなので、介護者にとってストレスや精神的負担が悩みの種の一つになっている。
現行の民法では、扶養義務者は直系血族と兄弟姉妹、特別な事情があるときのみ例外的に家庭裁判所の審判により扶養義務を負わされる。つまり、長男の嫁には扶養義務は負わされてはいなく、現行法の規定は現実的ではない。
高齢者が介護が必要とする状態になっても家庭で生活し続けることができるように、また、介護に伴う家族の負担を軽減するために様々な在宅サービスがある。
しかし、新ゴールドプラン(新高齢者保健福祉推進10か年戦略)により、それらの施設は目標数達成はクリアできそうであるが、施設を支えるマンパワーが追い付いていない。
厚生省はケアハウスを除いてほぼ目標達成すると見込んでいるが、自治体レベルでは需要不足の声が聞こえてきている。
しかし、現在はノーマライゼーションやQOR(生活の質)等の理念の強調に伴い、在宅福祉サービスが重用視されている。自立性、社会性の維持、向上には望ましいと考えられているが、対応仕切れていないのが現状である。
1.訪問介護(ホームヘルプサービス)
寝たきり老人等の身体上又は精神上の障害があるため日常生活に支障のある高齢者がいる家庭を訪問介護員(ホームヘルパー)が訪問して、介護・家事サービスを提供する。新ゴールドプランでは平成11年度(1999年)までに17万人の確保が目標のため平成10年度(1998年)までに16万7,908人分の予算措置を講じた。
2.短期入所生活介護(ショートステイ)
寝たきりの高齢者等を特別養護老人ホーム等に短期入所させ、介護家庭等の負担の軽減を図り、要援護高齢者及び家族の福祉の向上を図るものである。
3.日帰り介護(デイサービス)
要援護高齢者を日帰り介護施設(デイサービスセンター)等にバスで送迎したり、家庭を訪問して、入浴、食事、健康チェック、日常動作訓練等のサービスを提供するものである。
4.老人訪問看護事業
かかりつけの医師の指示に基づき、看護婦などが、老人訪問看護事業所(老人看護ステーション)から在宅の寝たきり老人等を訪問し、介護に重点をおいた看護サービスを提供するものである。

  第2項 施設福祉サービス
在宅の看護・介護が困難な場合には、高齢者の身体の状況やニーズに応じたサービスを受けることができるように各種施設サービスがある。しかし、実際ニーズに応じたサービスを充分に行っている施設が少ないのが現状である。
1.特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
重い心身障害があり、常時介護を必要とするが居宅でそれが受けれれない65歳以上に提供する施設。あくまで、介護を必要とする人が生活する場所であるため、医者は常駐していない。一人当たり10.65平方メートル以上の広さがある。ホーム不足状態が深刻で待機者が多く1〜2年待ちとなる。
入居者本人及び扶養義務者から所得に応じた費用が徴収される。平成10年(1998年)現在で28万人分があり、平成11年(1999年)には29万人分を目標としている。
2.養護老人ホーム
 心身の障害または環境上の理由によって、居宅で養護を受けることが困難な65歳以上が利用する施設。ただし、低所得という経済的条件が含まれる。
3.介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)
入居用件は低所得層に属する老人であり、家庭環境、住宅事情などから居宅で生活することが困難な者の施設。
平成元年(1989年)から整備が開始されたケアハウスは、車イスやホームヘルパー等を活用し、個人の自主性を一層尊重し、自立した生活を継続できるように、入浴サービス、緊急時の対応、介護サービスを導入することを基本としたものである。
平成10年(1998年)現在で、7万人分のホームがあり、平成11年(1999年)には10万人分を目標としている。
4.有料老人ホーム
65歳以上の健康な老人が入居し、食事や日常サービスが受けられる純民間経営の施設。入居時に一定額(約1,200万円以上)を払う。近年は入居者の高齢、病弱化に対処するために看護、介護部門を設けて終身ケアを目指す施設が増えている。
5.老人保健施設(介護保健施設)
入院治療は必要ないが、病状安定期にあり、家庭に復帰するために機能訓練や看護・介護が必要な老人の為の施設である。1人当たり8平方メートルの広さがある。
平成10年現在(1998年)24万人分の施設があり、平成11年(1999年)には28万人分が目標である。
6.高齢者福祉センター
過疎地域の高齢者向けに介護支援、安心できる住まい、地域住民との交流の機能を備えた小規模の施設である。
7.療養型病床群(介護療養型医療施設)
慢性疾患があり、療養、治療が必要な老人なための施設。生活する場というよりは治療する場のため1人当たりの面積が6.4平方メートルとかなり狭い。


 


第3章 日本の公的介護保険制度
平成12年(2000年)4月にスタートする公的介護保険は高齢者介護の新しい幕明けと言われるほど日本では今までにない全く新しい制度である。
それが成功するか失敗するかによって高齢者の福祉問題も決まるようなものである。
だから、本章では公的介護保険サービスとはどのような制度なのかを取り上げていきたい。

第1節 公的介護保険制度の仕組み
 第1項 公的介護保険制度とは
公的介護保険制度とは、平成12年(2000年)4月にスタートするもので、介護を必要となったときに65歳以上の高齢者は介護サービスを一割の自己負担で受けられるものである。
この制度ができた背景には、現在、要介護者数は280万人いるが、平成37年(2025年)には520万人に達すると予想され、このような介護を必要とする高齢者の急速な増加や、寝たきりや痴呆で介護が必要になったときの不安や、これまで介護をしてきた家族の大きな負担や、介護する人の高齢化が進み、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」が増えることといった介護をとりまく状況が深刻化する中で、介護が必要になったときに出来る限り住み慣れた自宅や地域で安心して暮らして行けるように介護を社会全体で受け止め、支えようというものだ。
 保険の経営主体は市町村である。介護保険は地域に根差した事業で、住民がその水準や負担を自主的に決定することが望ましいが、同時に、ある程度の規模がないと専門的なサービスの確保は難しい。
小規模な自治体が多いため、複数の自治体が介護保険の運営を一緒に行う広域化を目指す傾向がみられる。しかし、無難な横並びが優先されて、地域でよりよい福祉を工夫する介護保険の意義が損なわれるのは望ましくない。
財源は、社会保険方式であるが公費である国25%、都道府県と市町村12.5%、それに保険料50%である。
誰もが負担しやすいように保険料を抑える一方で保険料を払うことにより誰にでも抵抗なくサービスを受けられるようにするものである。サービスを必要とする人全てが必要に応じて自分でサービスを選択できるようになっている。(図5)
 保険料の対象は65歳以上を第1号被保険者2200万人(平成12年、2000年)、40〜65歳未満を第2号保険者4300万人(平成12年、2000年)として、40歳以上の国民が平等に払う形式である。
徴収方法は、第2号保険者は加入している医療保険を通じて支払う。値段の設定も各市町村に委ねられているわけであるが、全国平均値段は2,900円程度である。しかし、最高金額は5,219円、最低金額は1,630円と3倍もの市町村格差が生まれる。値段と比例して介護保険サービスも充実するなら納得いくだろう。しかし、保険料が4000円以上の市町村はほとんどが住民1万人以下のところが多く、最低限のサービスを提供するためにそんなに高額な保険料になってしまう。第1号保険者は年金から天引きされると発表当初は言われていたが、平成12年(2000年)4月から半年間徴収せず、その後1年間は半額の保険料となった。発表当初は、そのようなことは一言も言ってなかったし、突然のことであったので、主体であるはずの市町村の了承も得ずに保険料半年間徴収しないことが決定し、国民はどれを信じていいのかわからなくなっているのは確かであろう。
公的年金から保険料を天引きされサービスを受ける際にはサービス料の1割を自己負担となると公的年金が所得の全てである高齢者が半数以上の世の中なのに保険料の支払いをするだけで生活苦に陥りそうである。しかし、それは保険料を設定し、発表する以前から明らかに分かっていたことにも関わらず突然の変更は市町村だけではなく、国民が不安に感じ、混乱をしてしまう。
そして、保険であるにも関わらず第1号被保険者の保険料を徴収しないということは、結局は赤字国債という形で国民に返ってくる。政府は新しい制度、新しい負担に慣れてもらうためと言っているが何の解決策にもなっていない。

第2項 要介護認定
まず、要介護認定を受けなければ、この保険のサービスは受けることができない。
今年平成11年(1999年)の10月にスタートした要介護認定とは、申請をした原則65歳以上の被保険者がどの程度の介護、支援を必要とするかを認定するものである。全国一律の客観的な基準を用いて、心身状態73項目、医療行為12項目の合計85項目のアンケートを直接訪問調査によって行いその後、コンピューターで1次審査をし、その結果と主治医の意見に基づき、2次審査を介護認定審査会(保健・医療・福祉に関わる学識経験者の合議体)で行う。認定区分は自立、要支援、要介護(5段階)の7区分に分かれている。その区分により、受けられる介護保険サービス量が決定する仕組みである。
サービスを受けられる量を値段で換算すると、要支援が6.4万円、要介護1が17万円、要介護2が20.1万円、要介護3が27.4万円、要介護4が31.3万円、要介護5が36.8万円となっている。(図6)このうちの1割を本人が自己負担する。しかし、現在の福祉制度で無料で受けていたサービスも介護保険がスタートした後は原則有料になる。
また、訪問介護を受けていたり、特別養護老人ホームに入居しているにも関わらず、要介護認定を受けた結果「自立」と判定の出る人も少なくなく、そのような人は4月以降は自費で料金を払ったり、老人ホームに関しては5年間の猶予期間の間に新しい住居を捜さなくてはいけない。

第3項 サービスの給付
要介護認定の結果、サービスを受けられると通知をもらった人は介護サービスプランの作成を本人または、介護支援相談員と話し合い自分にあったサービスを給付範囲内で選ぶ。
給付は、在宅サービスと施設サービスに分けられる。在宅サービスがメインになっており、12項目に分かれている。そのうち、1〜3が在宅サービスの三本柱である。
1.訪問介護(ホームヘルプサービス)
家庭での介護や身の回りの世話をホームヘルパーが行う。
2. 日帰り介護(デイサービス)
デイケアサービスセンター等での趣味生きがい活動や入浴の介護。
3.日帰りリハビリステーション(デイケア)
老人保健施設、医療機関等での入浴、食事等の介護や機能訓練。
4.訪問入浴介護
巡回入浴車で家庭を訪問しての入浴介護。
5.訪問看護
看護婦や保健婦による、家庭を訪問しての看護支援。
6.訪問リハビリステーション
訪問看護ステーションや医療機関の看護婦等が、家庭を訪問して機能訓練を行う。
7.短期入所療養介護管理指導(ショートステイ)
家族が一時的に介護できなくなり、医療的管理を要する場合に医療機関に短期入所。
8.居宅療養管理指導
医師・歯科医などが訪問をして行う療養上の管理。
9. 痴呆対応型共同生活介護
 (痴呆高齢者グループホーム)
共同生活を送る痴呆性高齢者に対する介護。
10.有料老人ホーム等での介護
有料老人ホーム等での在宅サービスの利用。
11.福祉用具の貸与、購入費の支給
特殊ベットや車椅子東野貸与や購入。
12.住宅改修費支給
家庭での手すりの取り付け、段差の解消など小規模な改修
以上が在宅サービスである。
施設サービスは3項目になっている。
1. 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
常時介護が必要で家庭での生活が困難な場合に入所する。生活介護がメインであるので、医者は常駐しない。1人当たり10.65平方メートル(6帖強)以上の広さが最低限必要とされる。
2. 介護老人保健施設(老人保健施設)
病状が安定し、リハビリを中心とする医療ケアと介護を必要とする場合に入所する。いわゆる居宅復帰のための施設である。1人当たり8平方メートル以上の広さが必要である。
3. 介護療養型医療施設(療養型病床群)
慢性疾患等で比較的長期にわたって療養を必要とする場合に入院する施設である。看護婦が中心となっている。1人当たり6.4平方メートル以上の広さが必要とされる。
 サービスの種類並びに内容は以上であるが、現在行われている福祉サービスと同じものがほとんどであるが、上に書かれている在宅サービスが全て行われれば、在宅介護は大きい進歩をするであろう。
また、ドイツでは家族介護には半額程度ではあるが、現金給付が認められている。
我が国では、サービスを給付対象としているが、条件つきで給付する市町村も出てきている。


第2節 公的介護保険制度の利点
新聞やマスコミでも大きく取り上げられている介護保険制度であるが、それらのほとんどは先行きの不安や問題点ばかりを挙げている。しかし、介護保険制度が始まる秒読み段階まで来ている今、100%デメリットというわけではない。
では、介護保険が始まると今までとどのように変わっていくのかを考えていきたい。
まず、今までの福祉制度はお国にやってもらっているという意識が強かったと思うが、これからは保険料を払っているのだから、権利として当り前のようにサービスを使えるということである。
そして、今までの福祉制度は措置制度であったため、自分の好きなようにサービスを選ぶのは難しかったが、これからは利用者本人の自由意思で選択できるようになる。
現在、福祉といえばほとんどが行政が行っているが、介護保険がスタートすると、民間業者も参入し、福祉関係の企業の活性化につながっていくだろう。
現在、6か月以上入院をしている高齢者は30万人おり、そのうち、退院可能な高齢者は13万6千人である。きちんとした訪問看護があれば、在宅療養が可能と思われる高齢者は49.9%とされている。このような社会的入院が、サービスがスタートすることで少なくなり、結果として医療費の削減につながるであろう。

第3節 今後の展望
 第1項 行政側の展望
中央集権国家の日本がこんなに大きなプロジェクトを地方でおこなわさせるのは、
初めてに近いことなのではないだろうか。
今回の公的介護保険は市町村が計画、実施していくものなので市町村ごとに様々な格差が出るであろうとスタート前から騒がれている。
市町村が進めて行くことには、メリットデメリットの両方を持ち合わせているものの、メリットを全面に出して行けるようにするにはどうすればよいのだろうか。
まず、市町村が決定出来ることは、提供できるサービスの種類、回数と保険料である。  
市町村という住民とより近い視点から見れる事により都道府県、国が行う一律のサービスではなくそれぞれの市町村に合わせたサービスを作ることが出来る。
しかし、小さな町村ではデメリットが大きい場合もある。
予算も少なく、最低限のサービスを提供するにしても施設や設備が揃っていない為に保険料が高くなってしまう。
そこで、九州のある町長は複数の近隣町村と連合した広域連合を作り、近隣町村は同じ保険料に同じサービスを提供できるよう目指して動きはじめた。
それに対し、格差がでて当然であるという考えの市町村もある。格差が生まれることにより、今までなかった競争の原理が発生し近隣の市町村がお互い向上していくという。どちらの考えも間違っていないが、スタート4か月前にも関わらずこんなにも足並みがバラバラで成功するのだろうか。
同じ行政と言っても東京都武蔵野市では大きな提言をしている。それは、消費税の2%を介護保険の費用に回せば保険料を収集する必要がないというのだ。そのような計算はほかのところでもされているが、市町村は常に国や都道府県の下に位置付けし、自らなにかを提言する機会が少ないにも関わらず東京都武蔵野市はホームページにしっかりとなえている。それを国はどこまで受け止めるのだろうか。
市町村は、今後住民に対してきちんと情報公開をするとともに、住民の意見、要望が反映するように保障し、福祉の推進のためにも自発的な住民参加を啓発する必要があるだろう。

第2項 民間業者の展望
公的介護保険は在宅サービス事業が民間業者に全面開放され、スタート時で8兆円、10年後には10兆円超の巨大ビジネス市場が誕生すると言われる。多様な事業者の参入により、その間の競争を通じてサービスの質の向上が期待されている。しかしその一方で、営利追及が優先されて、サービスの質が後回しになる危険性もある。
民間業者の参入が見込まれているのが、在宅介護支援事業者、在宅サービス事業者である。
これまで、介護業界をほぼ独占してきた社会福祉協議会や福祉公社は、採算性などから撤退を含めた選択を迫られることになる。
しかし、現在の福祉公社等の体制で需要には対応可能なところもあり、また、行政や公社が安心であるという高齢者の意識が強いのも今後どうなるのか気になるところである。
民間業者の新規参入は公的介護保険の成否を決める重要な要素であると言われている。
利用者のニーズに合うサービスが供給できるようにしていかなければならない。
 
  第3項 利用者側の展望
半数以上が介護保険に不安を感じている(平成11年、1999年、朝日新聞)にもかかわらず平成12年(2000年)4月にスタートする公的介護保険。
今まで措置的であったサービスが利用者に合ったように選択的なサービスになることが利用者からのまず最初の希望であろう。
利用者の一番の不安は今受給されているサービスを受けられなくことと保険料、利用料のことであろう。最初の問題はいまだ解決していない。それでも社会的に介護していると言えるのだろうか。現在は豊かさの中の不安の時代とも言われる。自分が高齢者となり寝たきりになったときいったい誰が介護をしてくれるのだろうか。4月にスタートすることによって見えてくる問題点はたくさんあるだろう。それをいかに解決していくかがポイントになっていくのだろう。
現時点のアンケートによると、介護保険を実施する主体は都道府県が良いという自治体が41%、国が良いが27%、市町村が良いが24%(平成11年、1999年、NHK)となっており市町村が実施することに対して不安を隠せないのが現状である。
また、4月からのサービス提供の見通しは一部不足するが71%、不足が4%と7割以上の自治体が不足すると見通しをたてている。しかし、それは、4月にサービスの提供は嫌がおうにも始まるのだから充分なサービスを受けられない利用者がたくさん出てくるのは分かりきったことであろう。
利用者は、常に行政に任せ切りでよいのか。
まずは、1人ひとりが介護保険に興味をもち、介護保険によりどうなるのかをよく考え、もし、介護保険だけではサービスが不足しているなら、老人福祉法に基づく市町村特別給付などによるサービスを要望するなど、まずは正しい知識を手に入れるところから始めなければ、より良くなっていかないだろう。


第4章 日本の高齢者福祉の問題点
今の今までと言っていいほど日本では高齢者の問題は、家庭で解決するのが当り前とされていた。
国が高齢者福祉に対してどれくらいお金を払ってきたかを見ると福祉のレベルの低さに納得できるかもしれない。社会保障費の内訳をみると、医療、年金、その他の3項目に分けられ、高齢者福祉という項目はない。高齢者福祉は全体の26.1%の「その他」の中に含まれている。
社会保障費をスウェーデンと比べると日本の3倍程度を使っていることが分かる。
そして、国内の経済や文化が変わって行くように家庭も大きく変化している。
老年人口のうち、約11%が1人暮らしをしていたり、女性が社会進出を果たしたりと様々なことが変わってきている。
本章では、これからの日本の高齢社会をより過ごしやすくするためにはどうすればよいのかを考えていきたい。まだスタートしていない公的介護保険ではあるが、現時点でも様々な問題が発生している。それがどのような問題点であるのかを取り上げ、それを解決するにはどのようにすればよいかを考えていきたい。

 第1節 介護サービスの問題点
公的介護保険制度がスタートするに当たって制度自体にも問題点は多々あるが、現在の介護サービスの内容の問題点を解決しなければ、結果的に公的介護保険制度もうまくいかないことになるであろう。
そこで、現時点での介護サービスの大きな問題点を6個挙げてみようと思う。
 1.施設を一層整備、拡充することが必要である。
 老人ホーム等の福祉施設において入居者一人ひとりの人権を保障すべく、今の雑居制から個室制へと転換すべきであろう。
2.介護サービスにかかわる財源とマンパワーを十分確保することである。
必要な財源をきちんと市町村に対して保障し、また、マンパワーの社会的地位の向上や身分保障、雇用環境の改善等に努めることである。
3.施設と在宅サービスを始め、保健、医療との連携を努めることが必要である。
介護が必要となっている寝たきりや痴呆等の高齢者の疾病の予防、治療、リハビリテーションを行うことが出来るように保健、医療の体制を整備することである。
4.要介護高齢者が安心して生活できる住環境の整備を図ることが必要である。
介護保険の基本である在宅サービスを重点的に進める為には、要介護高齢者に配慮した住宅等の整備を行うことである。
5.要介護高齢者一人一人に対する介護サービスのための計画を策定し、その進行管理を図ることが必要である。
要介護高齢者の介護サービスをきちんと行うためには、要介護高齢者のケアマネジメントを行い、サービスを実際に行うことである。
6.終末期における介護サービスに対応することが必要である。
人間は誰でも人生の最期を迎えるものであり、その際、人間としての尊厳を重視することである。

第2項 公的介護保険制度の問題点
では、介護保険制度が始まるにあたって、デメリットと言われる部分や改善すべき点を考えていきたい。
一番の問題点はやはり、保険料、サービスの一割の自己負担といった金銭面とそれに対応しきれないサービス面であろう。
65歳以上の高齢者にとって毎日の生活を少しでも良くするためにあるはずの制度なのに、公的年金のみの高齢者などには一割の自己負担や平成12年10月以降からの保険料徴収、そして、サービス限度額を超えたサービスを希望した部分の全額自己負担というのは、非常に厳しいものであり、自分が希望するサービスでも金銭面の理由からサービスを申請することができないという状況は必ず生まれてくるだろう。
そのような高齢者にとっては、高負担低サービスであり、介護保険がスタートして何が変わるのかわからないと感じる人もいるであろう。もし、サービスのレベルが上がり、それに伴い、保険料等の自己負担が今以上に上がったとしてもいわゆる北欧で言われる高サービス、高負担は日本では理解されるのか。
そして、これからは、福祉サービスを利用者本人が選択できるようになるといっているが、選択できるということはサービスの量が充実しなければいつでも自分が好きなときに自分に合ったサービスの選択は出来ないであろう。
突然、自分のことで恐縮であるが、私は常に健康であるが、なぜか歯だけは非常に弱いのである。確かに甘いものが好きなのでしょうがないのかもしれない。年に1回は必ず虫歯が出来て歯医者に通っている。定期的に歯科検診を行うなどでチェックをすれば虫歯が進行する前に治療をすることが出来る。しかし、虫歯が出来、痛いと感じてから歯医者に来た時にはかなり虫歯が進行しているそうだ。進行してからでは治療に時間がかかり、お金もかかってしまう。
その際に思ったのは、当り前のことではあるが、虫歯に気付く前に歯医者に検診してもらえば、そんな無駄な時間もお金も必要ないのだ。
つまり、これは高齢者の福祉サービスにもそのまま置き換えることが出来るだろう。   
病気にかかってからの治療は時間もお金もかかる。それ以前に検診などを定期的にきちんと行えば防げる病気はたくさんあるはずである。治療から予防への転換をすることにより、病気の高齢者を減らし、医療費も下げることへとつながって行くのではなかろうか。
介護サービスを受けられる対象は65歳以上である。特例として、40歳から64歳まででも、脳卒中、初老期痴呆などの老化に伴った場合にのみサービスが受けられるようになっている。
では、65歳以下のその他の要介護者どうすればよいのだろうか。日本ではそのような人に向けての介護サービスは介護保険制度には含まれていない。
などと挙げればきりがないほど問題点が出てくるが、まだ実際にスタートしていない制度のために、未だ予想もつかない問題点は他にも必ずあるだろう。

第3項 公的介護保険制度の成功の鍵
では、これらを踏まえて介護保険制度を成功するためにはどのような事が必要なのか、ドイツの介護保険制度の反省点を踏まえて考えて行こうと思う。
 1.サービスの給付の上限を高くし、安易                 に給付の上限を作らないことである。
 給付の上限が低いと、サービスが受けたくても、上限を超えた分のサービスが受けられない事態が起こってしまう。
 2.サービスの給付を障害や年齢で区切らないこと。
 先ほども書いたのだが、介護保険制度は、通常65歳以上を対象としており、あくまで老化による病気や怪我等しかバックアップされていない。
 3.医療はあくまでも裏方になるようにする。
 今までは、介護は医療の一部として扱われてきたが、今度からは介護は一つの部門で扱うので、今までのようにならないようにすることである。
4.貧しい高齢者に重い自己負担を求めない。
社会全体で高齢者を支えようという理念で作れられたはずの介護保険なのに、貧しい高齢者にとっては保険料や自己負担は今までの生活さえ送れなくなるほどの厳しい場合もあるので、そのためにサービスを受けられないのではなんの意味もなくなってしまう。だから、そのような高齢者にもすごしやすい生活を送れるようにしなければならない。

おわりに
高齢社会の問題点をいくら挙げても解決方法を見つけない限り意味のないものになってしまうだろう。かといって一市民の私に出来ることは非常に限られている。だがそういって、何も始めなければ何も変わらない。
始めの一歩として、高齢者福祉とは何かという事を知り、それらの問題点を挙げることが重要であろう。
 今までの日本型福祉と言われた家庭内介護で全てが解決するような時代はもう終わったのである。
来年4月からの介護保険が導入されても、「保険あって介護なし」にならぬようにしなければならない。
そのためにはどうしたらよいのだろうか。
行政、民間業者、利用者の3者がそれぞれきちんとした考えを持ち、福祉と言う本来の意味である幸福に社会全体がなれるように3者が頑張っていかなければ介護保険制度は高齢者の生活を圧迫するものになるだろう。


[参考文献]

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佐藤義夫 『そこが知りたい介護保険法の
  全容と実務』    日本令法1997年
沢田信子 『今、あなたに求められる介護』
         中央法規出版 1998年
芝田英昭 『幸齢社会の挑戦』
         かもがわ出版 1996年
白沢政和 『介護保険とケアマネジメント』
         中央法規出版 1998年
高橋信幸 『市町村から描く介護保険』
         日本加除出版 1998年
竹崎務 『スウェーデンはなぜ生活
     大国になったのか』
     あけび書房 1999年
栃本一三郎 『介護保険』
      家の光協会 1997年
長谷憲明 『よくわかる実用介護保険』
     環境新聞社 1998年
樋口恵子 『みんなで創る一人ひとりが支える
     高齢社会』 ミネルヴァ書房 1998年
樋口恵子 『介護保険の利用法がわかる本』
     (株)法研 1998年
樋口恵子 『介護が変われば老後も変わる』
     ミネルヴァ書房 1997年
宮内博一 『あなたの老後は安心ですか』
     海竜社 1997年
宮武剛 『「介護保険」とはなにか』
    保健同人社 1995年
朝日新聞社 『朝日キーワード1999』
厚生省 『厚生白書平成11年度』1999年
    厚生省年金局 『年金白書平成10年度』
厚生省老人保健福祉局 『介護保険関係法令
    通知集』 第一法規 1998
厚生省老人保健福祉局 『介護保険制度の
    手引き』 中央法規 1998
国民生活センター 『消費者からみた
    介護保険Q&A』 中央法規 1998年
社会福祉法人 東京と社会福祉協議会 
    『公的介護保険の可能性』 1995年
集英社 『イミダス 2000』 1999年
総務庁 『高齢社会白書』1999年
東京市町村自治調査会 
    『介護保険と市町村の役割』
             中央法規 1998年
朝日新聞
毎日新聞