[ビッグ対談]
Jリーグ未来形
これからの10年を作るために

三浦知良 × 井原正巳
ヴィッセル神戸 FW  
元日本代表 DF


    “キング”三浦知良と、“キャプテン”井原正巳。
    Jリーグの最初の10年を支えてきた2人が、次の10年、
    その先の100年へ向けての課題を語り尽くした。
    Jリーグはこれから、何を目指すべきなのか。
    2人が示す“3つの提言”。

三浦 井原にこうして取材されるなんて、何だか信じられないよ。身体、なまるでしょ、トレーニングはしているの?

井原 走ってはいますけれど、あくまで健康のためで、ボールを触ることがほとんどなくなってしまいました。追い込まないレーニングには今も違和感がありますね。

──井原をはじめ、福田(正博、浦和)、北澤(豪、東京V)と、同志が続々と引退する状況はどう受け止めたんでしょう。

三浦 他人がとうこう言えることではない抒けれど、やはり現役でいでほしいと願っていました。まだ一線でやれることは分り切っているわけだから。ただ高いレベルを維持し続ける苦しさがどれほどのものかも理解できるよね。怪我ひとつ取っても、10年以上酷使した結果の金属疲労は簡単には治らない、挫捻挫や突発的なな怪我なら若い頃と治療期間も変わらないけれど、金属疲労は言ってみれば「寝ている子供」のようなもので、疲労が溜まればすぐに起き出して騒ぎ出すんだ。いかに起こさないか、もし起きたらどうやってあやすか、そんな感じになる。

井原 残念ながらそれは決して治ることはないんですよ。カズさんもオペ(手術)はしていませんよね。メスを入れたのは顔面の手術だけというのは選手として非常に幸運でしたが、現役の終盤、今カズさんが言った金属疲労のほうですね、これが治れば来年はどれほどいいプレーができるのかと期待していたんですが、結局最後まで治ることはなかりた。ベテランと呼ぼれる中で疲労、休養、トレーニングといったバランスを取るのは本当に難しくなってきますよね。

三浦 若い頃なら追いついたボールにたまたま追いつけないと、歳のせいかと周囲に思われ、何よりも自分が、ああ、俺も歳かなと自信を失りてしまう。

井原 30歳でベテランと言われる現状には、正直、反発を覚えていました。

三浦 本当は若い時にも追いつけなかったボールなんだけどね。そう見られてしまう。僕も34歳くらいまでは、ベテランなんて呼ばれることに違和感があった。今ではそやれを楽しんでいるけれど、神戸のオフの合宿でも面白いことがあったね。コンディションに問題があれば自已申告してノートにチェックするんだけれど、チームに5人いる30代はこぞって申告なしの真っ白。ベテラン勢はさすがと思うところなんだけれど本当はみんなボロボロでね。痛いと言えば「やっぱり歳か」と言われるもんだから、見栄張ってグッとやせ我慢しているだけ。

井原 ハハハ。でもカズさんは今も練習ではグワーっと先頭切って走りますよぬ。疲れは感じませんか?

三浦 10年前に比べれば違うんだろうけれど、ここ5年は変わらないと思う。少なくとも練習中は全く問題ないし、年齢とともに体の重さというのが正確に把握できる。ただし合宿中は、もうほとんど寝たきり。サッカーの品質を維持するために、余計なことは一切したくないからね。

──今までの話は、最初の提言として大きなテーマですね。練習も試合も十分できるのに、Jリーグでは実体よりもベテランというレッテルのほうが問題にされる。実績よりも若さがむやみに尊重される傾向がありませんか。競技は違いますが、NBAでも、MLBでも30代からパフォーマンスをあげていくし、経営でも、投資分を回収できると言われますね。

三浦 ベテランの起用は、クラブの個性や、リーグ自体の成熟度を示す重要な材料でもあると思う。でも同じ現象は実はブラジルでも起きていて、18歳くらいの選手なら当然30代の選手よりも安く雇用できるから、経営を考えればクラブはどうしても若くて将来性のある選手を抱えようと躍起になるんだ。でも、35歳はダメだとか18歳はいいという話ではなくて、クラブは選手を正当に評価するプロの「見る目」を持って、さらに磨いてほしい。野球の影響ですが、日本ではやはり何か説明する時に必ず数値目標みたいなものを設定する。何分出場したか、何点入れたかなど、プレーそのものの価値や、キャリアを正当に評価できないから、数値化に頼る。僕は反対。

井原 こんな時勢ですから数値化は経営上仕方ない部分もあるけれど、サッカーをやってきたOBが経営に係わるようになれば、評価の指標は変わるかもしれませんね。

三浦 南米も欧州も上の人間が選手の価値をわかっているし、起用はあくまで監督の意向だから、試合数で給料は変動しない。次の10年は、ビッグクラブへ移籍したら給料が上がるような仕組みになればと思う。

井原 実際には毎年100人以上がユニホームを脱ぐのですから、選手側に立っても人材をフルに活用すること、セカンドキャリアの前に、選手の選択肢を増やすことがこれからの大きな課題になるでしょうね。現状では、J1、J2のみですから。

三浦 僕は次の10年に、EU(欧州連合)に対抗すゐように、AU、つまりアジア連合リーグ構想を提案したいぬ。アジアの中でも、日中韓の3か国の選手に関しては、ひとつの連合として外国人とはみなさない。例えば今年からA3が姶まったけれど、城南一和の選手が、来季からJリーグでプレーしてもいいし、ジュビロの選手が中国でプレーをするのもいい。とにかくこの3か国の間では移籍は自由にできるシステムを作ってほしいと思う。

井原 それは面白いですね。選手だけではなくて、あらゆる仕事について選択肢が広がるだけではなくて、ヨーロッパに比較すると軽視されがちなアジアのクラブを、もっと盛り上げて行くことが可能になる。一方で国内のクラブでも、隣国のサッカーの特色や選手の個性をどう活かしていくかなど、Jのサッカーの差別化を促す効果もあるかもしれませんね。その意味でも、前園(真聖)がKリーグの安養へ行ったことは、大きな一歩だと言えますね。

三浦 そう。今は欧州か南米へ移籍というのが主流だけれど、今後10年の成功のためには自分達の足元、つまりアジアを大切に見直すことが重要になるはずなんだ。欧州では、これはボスマン判決があってちょっと事情が違うけれども、EU内での多籍は自由になっている。アジア内も自由移籍によって中国や韓国のサッカー情報が日本にもっと入るようになれば強化につながるし、そこへシンガポールが入りたりと言うかもしれない。そうなれば、今はJ1、J2しか選べない選手の選択肢が増えるし、ほかの国、違った環境の中で蘇る可能性だってある。先ほどから出ているベテランの、ある意味での再生や、若手へのチャンスといった面からも、アジアの中でインターナショナルな発展を生む試みになるでしょう。

井原 10年前にはエージェントなどという役割は聞いたこともありませんでしたけれど、カズさんの言うAUリーグが実現できれば、選手や監督の雇用機会が広がるだけではなくて、エージェント、トレーナー、用具担当、メディアまで、サッカーに関連する仕事にも大きな変化が出ることにつながるでしょうぬ。次の10年にもたらすものはとても大きい夢になりますぬ。

三浦 そのことこそ、僕が10年前に提言し、おそらくこの10年で成功した点だからね。選手がプロになればいいというだけではなくて、メディア、サッカーに関わる職業が増え、全員がそこで生活を成立たせることが成功への提言だった。

──ベテラン、まだ芽の出ていない選手を大きな市場で活用する点、選手のみならず多くのジャンルでの雇用を拡大することは──機構、クラブと提言を出してもらいましたが、最後にやはりピッチで、となると思います。今季は、引き分けが導入され、試合運びから運営まで大きなインパクトが予想されます。引き分けによって守りのサッカーが色濃くなり、さらにゴールは減るのではないかと。

井原 Jリーグは、ホームとアウエーの区別がそれほど大きくないはずです。海外は全然違いますよね、ホームとアウエーが。

三浦 イタリアもブラジルも戦い方は全く違うからね。引き分けのサッカーと勝つサッカーでは全く違うわけで、日本の選手もそうした中で真の意味で、戦術的な賢さを考えていかないと、アウエー、ホームを戦い抜けないんじゃないかな。

井原 点はVゴールがなくなって減ることが予想されますがホームとアウエーの戦い方は明確に出る、ホームは絶対に勝とうとするし、アウエーは引き分けで良しとする、そういった戦術的な変化は際立ってくるかもしれませんね。テレビ的にも、メディアのみなさんも多少は楽になるんではないですか。テレビも延長が入らなかった、なとという苦情は減るでしょうしね。

三浦 いいことはあるよね。夏場に100分以上戦うと、精神的にも肉体的にもかなり辛いからね。子供たちや、メディアのみなさんも試合によって帰る電車を心配しなくてもいいわけですし、僕も、待ち合わせがしっかりできる。まあ冗談はともかく、1試合のクオリティはあがると思う。90分で終わることが意識されるわけですし、特に85分を過ぎてからの戦略はかなり変わると思うね。ただし、やはり気になるのはFWの力だろうか。若手には、貧欲に、貪欲に行っでほしいし、試合数はもっと若手登用に増やして、競争していくべきだと思う。ある意味では引き分けが見えていると、むしろFWは積極的になるのかもしれない。ホームの声援が一気に背中を押すケースがあるでしょうし、反対にアウエーが逃げ切ろうとするとき、俺が決めてやるんだといったモチベーションは高まるはずだからね。

井原 高原(直泰、ハンブルグ)は素晴らしい活躍をしていますね。鈴木(隆行、ゲンク)もいるし、いい選手がFWには育っているとは思うけれど、まだまだ足りませんね。国際舞台での勝負強さや安定性、らしさといった、ファンを引きつける部分においては、カズさん、それから頑張っているゴン(中山雅史、磐田)の力を見ると、よく言われるFW育成の難しさを感じますね。中盤のタレントがあれほど豊富なことに比較しても、FW、DF、GKとほかのポジションはなかなか難しい状況ですよね。

三浦 FWは作れるものではないから。たくさんのタレントがひつきりなしに出ているような印象があるブラジルでさえ、実はロマーリオの後にはロナウドだけで、その後となると出てない。組織的に育成プログラムを作ることは良いけれど、技術面と精神面両方の適性を見いだしで、うまく育てるとなるとこれは本当に大変だろうね。技術、メンタルと、これは教えてどうなるものでもないんですけど、存在感という不可欠な要素もある。とにかく、ゴールに向かっていくこと、あの選手にボールが渡れば、何かをやってくれるんではないかという期待や、人を引きつける魅力とは何なのか、こういうことを常に考えプレーしていくべきだと思うね。

井原 中盤と、FWが昨年2人海外へ出て、僕としては、何と言っても今年から始まる新しい10年で、DFに海外に出ていって欲しいと願っています。信頼を勝ち取ることは簡単ではないですが、でも日本のDFの良さは必ずあると思うんですね、基本の正確さや、組織としての役割を果たす部分、忍耐など。僕が昨年までプレーをしていて、中盤の選手に驚きを感じたように、DFにも、へーこんなプレーするんだ、とかこういうスタイルも出てきたんだと、はっとする選手は事実いますから。京蔀の角田(誠)とか、柏のユースから上がった永田(充)など、非常に面白いDFで将来を期待できると思うんです。

──2人それぞれに今季への期待を。

井原 カズさんには、去年怪我で出られなかったぶん、まだまだ見せてほしい。去年は3点ですよね。では今年は2試合に1得点の15点で二桁を目指してください。

三浦 厳しいなあ。二析行ければいいよね。そういえば井原がこの前テレビに出ていて、やっぱりみんなに気を遣っている。もっと意見をどんどん言ってほしい。井原は選手の痛みをわかっているから言いにくいよね。でも遠慮しなくていいんだよ。それに、解説は重要だよ。今のはオフサイドでした、誤審です、と言い切って、絶対に当り障りのない所へ逃げないでほしい。自分の言葉で話すのは勉強にはいいけれど、結局は中途半端になりがちでしょう。僕は井原には現場にいてほしいし、今だって、すぐにジーコの隣に座っていてもらいたいくらいなんだ。指導ライセンスは確かに必要だろうけれど、世界でも20傑に入るようなAマッチ123試合の経験とはそういうものでしょう。川淵会長には、井原、いいからそこに座ってろ、というくらいで見てほしいですね。

井原 引退したらね、これまで我慢したぶんガンガン言うぞと思ったはずが、今度は立場が違うから言いにくいなあと。ただ、すべては指導のためにあるんだと、軸足の部分はしっかりと固めたいと思ってます。

三浦 ダメダメ、いい人はもう返上して。自分としては責任を果たすことを今年の課題にしたい。ポルトガル語だとコブランサというんだけれど、FWにもそういう部分が欠けていると思う。選手、レフリー、リーグ、見る人だって、責任をあやふやにしないで果たす、これが新たな10年、次に渡す10年にとても重要になってくると思っている。

 ◆Jリーグへ3つの提言◆

 1. 地域に愛されるクラブ作りでレアル・マドリッドを作ろう!
 2. AU(アジアユニオン)を結成し、人材のフル活用を!
 3. DFこそ海外を目指せ、FWは常に魅せるプレーを!

(「SPORTS Yeah!」No.062・2003.3.6より再録)

 
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