[Jリーグ開幕速報1]
「やっと1勝」。
Nagoya Grampus-eight vs. Avispa Fukuoka


 ナゴヤノォ、チカラヲ、ミセテヤレェ!
 スタジアムは静まり返り、開幕という響きからはほど遠い北風に、試合も冷え切ろうとしている時だった。サポーター席から、ブーイングの代わりに送られた応援歌が鳴り響いた後半5分、突然その時がやってきた。
 いつもなら中盤右・岡山がいるはずのポジションに、「新人り」が突進して行く。それに連動してピクシーが猛ダッシュでゴール隅に走り込む。しかし呂比須は一瞬、宮崎キャンプで交わした一言を思い出したという。
「アッ、ピクシーはへディングが嫌い……」
 しかしそんなことは構っていられない。「GKの手がわずかに届かぬ地点を狙って」右足からセンタリングを上げる。ボールはかつての仲間・小島伸幸の右手を意地悪くかすめて妖精の元へ。ピクシーはそのボールをへディングでゴールにたたき込んだ。
「恐らく、小倉からのボールを決めて以来('95年10月、対市原戦)だと思う。そう確かに、ヘディングは嫌いだ」と、ストイコヴィツチは冗談めかしてゴールを振り返った。実に3年ぶりの開幕勝利を名古屋に呼び込んだのは、ピクシーが示したように、なりふり構わない姿勢と、「忍耐」というシンプルな武器だった。
 福岡の激しいプレーに警告が6枚も飛び交い、試合は荒れ、名古屋は自滅しかけた。田中監督はハーフタイムに、相手に合わせるな、と指示を出した。ピクシーは90分を「まるで我慢比べだった。心臓を頭でコントロールしたんだ」と表現する。
 開幕戦を前に「ここは自分の聖地だから」と、裸足でピッチを点検していた望月は、「開幕はただの一試合、とは少し違う。トーレスの離脱もあり本当に難しい試合だったが、我慢し切れたことだけは収穫にしたい」と、足を引きずりながら競技場を後にした。
 5日の最終練習ではDFの要トーレスがふくらはぎを痛めて急遽戦線離脱。少なからずチームに動揺が走った。しかし過去6年、リーグ開幕戦ではわずかに1敗という山口は冷静だった。「我慢をするこういう試合を落としては絶対にいけない。でもね、オレは、開幕には負けないんだ」と、家族に囲まれ、ほっとした笑みを浮かべていた。
 優勝を狙うならば課題は山積みだ。しかし新しい「何か」が、チームを変えそうな予感も同時に生まれた。そして、優勝候補さえ、もがき我慢しながら開幕戦を戦う姿に、実は、今年のJリーグそのものが象徴されていたのかもしれない。
 大リストラでクラブを離れた福岡の小島と呂比須(ともに前平塚)、経営の破綻からチームを失った楢崎(前横浜F)は試合後、センターライン上でお互いの肩を抱き、笑顔を浮かべながら小さな円陣を組んだ。
 スタジアムを離れる時、呂比須は笑った。
「また、今年もサッカーが始まったんだね、いろいろあったけど何とかここに立てて良かったよね、って。そう言ってたんです」

名古屋
(勝ち点3)
1 0 前半 0 0 福岡
(勝ち点0)
1 後半 0
楢崎正剛
GK
GK
小島伸幸
石川 康
DF
DF
ヴィジャマジョール
古賀正紘
小島光顕
大岩 剛
水筑優文
中谷勇介
MF
西田吉洋
岡山哲也
MF
中払大介
望月重良
(59分 山下芳輝)
山口素弘
フェルナンド
平野 孝
篠田善之
呂比須ワグナー
FW
野田 知
ストイコビッチ
(81分 久永辰徳)
   
FW
石丸清隆
上野優作
田中孝司
監督
監督
菊川凱夫
ストイコビッチ(51分)
 
得点
   
望月重良
 
警告
  フェルナンド
大岩 剛
ヴィジャマジョール
石川 康
小島光顕

Number 466号より再録)

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