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井原正巳「FW批判はやめてくれ」
勝ち点0、得点わずか1に終わった日本代表が帰国した29日、成田空港には1000人を超えるファンが詰めかけていた。嬌声、拍手に混じって、3敗の結果に罵声も飛んだ。すでに退任を明確にした岡田武史監督(41)がいないにもかかわらず激しい言葉が飛び交った。 「岡田腹切れ、土下座しろ」「城なんて辞めちまえ」 井原 3敗したのだから批判も、罵声を浴びることもすべて当然だと思っています。どんな批判でもこれからは甘んじて受けます。でもぼくらの中には、自分たちが善戦した、とか、よくやったなんて思っている選手は1人だっていない。それぞれ悔しくて悔しくて仕方ない。その悔しさをどこにどうやってぶつけるのか、これからのサッカー人生をかけて、それぞれが見つけなくてはならないんじゃないか。確かにFWに決定力はなかった。しかし、自分としては4点取られた。 今大会、日本が放ったシュートはアルゼンチン戦で13本、クロアチア戦で14本、ジャマイカ戦では実に29本ものシュートを放ちながら(予選中 位)1得点と、決定率では 位に転落する。日本選手のシュート練習を見ていれば分かることだが、GKが立っていてもいなくても、シュートは大概枠を外れる。「世界との壁」以前の、シュート練習からその状態では、ガムをかもうが噛むまいが、笑顔だろうがしかめっ面だろうが、厳しい試合で入るわけがない。ボールを大切にしていない「ツケ」はこんな所で回って来たことになる。 井原 自分が感じた世界の 壁とは、1センチとか、何ミリとか、0コンマ何秒、とかそういうものだった。DFは、いわば1秒の主導権争いで、今回は主導権を持っているのに、例えば、左右両方からパスもセンタリングもケアした、と思ったのに、ビシっとセンタリングが上がる。クロアチア戦でスーケル1点を入れられた時もそう。あの暑さの中かなりじらせて追い詰めたと思ったし、表情も相当いら立って疲労していた。なのに、入れられる。DFを崩された、完敗、という点ではなかったことが悔しいし、これからのことに強烈な闘争心が沸いた。 27日、選手が宿舎を出発する前、岡田監督が1人1人と会話をしながら握手を交わした。こんな場面もあった。 井原 結果が出なければ自分が辞めるというのは以前から聞いていましたし、そのことに誰も驚きはありませんでした。今回の22人枠のことについても、監督はこの8か月、常にプロとは何か、という根本的な問題を選手に身を持ってつきつけて来たんだと思う。22人枠に絞られた6月2日から1週間、自分にとっては一番辛い苦しい期間だった。どの選手でもいなくなるのは辛いけれど、カズさん、キーちゃん(北沢)は自分の支えでもあったから、呆然として中山の部屋に行って、2人で、どうやってこれからチームを引っ張ろう、と本当に辛かった。監督は今までの監督にはない、そういう考えをチームに徹底させてくれた。去年のカザフスタンから一番苦しかったのは岡田さんだったと思う。ぼくらを労ってくれたけれど、岡田さんこそ体を休めて、少しでもゆっくりしてもらいたい。 監督、家族にはカズ、北沢の落選帰国後、深刻な脅迫があったという。大仁強化委員長に退任の意向を伝える際、「平静を取り戻したい、普通の生活をしたい」と切り出したという。 (週刊文春・'98.7.9号より再録) |
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